『破壊の引き金、狂った人生の駅で』作者:七海 聖歌 / AE - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
全角2349.5文字
容量4699 bytes
原稿用紙約5.87枚
プロローグ「狂った始まりの場所で」

何もかも腐っていた。自分の頭でさえも、この世界でさえも。自分は何も知らなかった。こんなにも世界が腐っていたとは。
「希望ってなんですか?」
 先生に聞けばさぞかし美しい答えが返ってくるだろう。着飾って曇り一つ無い綺麗事。聞いているだけで吐き気がする。でも純粋な子供はそれをただ受け取り、それが正しいのだと誤解する。希望は綺麗で、自分にもあるんだと大いなる誤解をする。それはなんとも滑稽で、薄ら笑いを顔に表してしまうほど。あぁ、なんて腐っているんだろう。まるで人生のレールを大人に綺麗にひかれているよう。錆びも無い。真っ直ぐ、ただ真っ直ぐ終わりまで伸びている。標識は全部大人たちの理想の言葉。完全に作られた人生だ。
 ――それが嫌で嫌でたまらなかった。
 両親は勝手に大学を薦め、無理やり入れようと塾に通わせる。なんてくだらない、なんて醜いんだ。しかし、両親も綺麗事だけじゃ生きれなかったようだ。
 あいつらは、僕を捨てた。そう、捨てた。まるで飼っていたペットをダンボールに入れてそこら辺においていくように。あれに比べ、随分賢い。次の飼い主なんて探しもしていない。
「拾ってください」
 その一言すら、僕には掛かっていなかった。めんどうだったのか、それとも手間がかかるのが嫌だったのか。どちらにせよ、僕の事はどうでも良かったんだ。まだ10代なかば。夢だってあった、そんな時に……
 僕は家族を失った。居場所もその時無くなってしまった。
 でもその時決めたんだ。自分は絶対生きてやるって。この身がどんなになろうとも生きてやるって。僕の人生は僕が決める。
 人生のレールは、いくつにも枝分かれしているから。

*****

「ごめんねー、僕はそんなに優しくないんだ」
 乾いて、感情の失った声。薄ら笑ったような口が淡々とそう言葉を吐いた。きつく握られた短銃。短距離で撃ったのか、返り血で少年の手まで薄く汚されていた。だがそんなの気にしない。気にしている時間も無かった。
「お願いだ!どうか助けてくれ、頼む!!」
 すっかり怯えた殺しの対象。銃口を顔に近づけるだけで、高い悲鳴が上がる。実に滑稽だ。しかし、命乞いを聞く趣味なんて少年には無い。あるのは無の心。そして引き金を引く指だけ。
「死ぬ前の言葉、それだけでいい?家族に言いたい言葉とか無いの?最も、伝えはしないけど」
 鼻で笑い、再度銃を強く握る。怯えていた目の前の男性は、静かに口を開けてただこちらを睨んでいた。聞き取れやしない小声。何が言いたいのかさえわからない。ただ、怯えながらにその瞳は鋭かった。
「――はーい時間切れ。じゃあね、オジサン」
「……悪魔め」
「はっ?」
 微かに聞こえた声。思わず、手が止まる。
傷だらけで弱った体を無理に起こし、憎しみだらけの瞳で強く睨む。黙っていてもわかる。何を言いたいかも、何がしたいのかも。もう、何人も殺してきたのだから。
 男性は血だらけの手で、少年の黒い服の裾を掴んだ。無地の布に、べったりと男性の血がこびり付いた。
「悪魔め……お前は神に見離された醜い悪魔だ!!」
 裾にこめた力。もうすぐ死にそうだと言うのに、通常時と大して変わらないその力。いや、むしろ何時もより強かった。憎しみと執念がこもっているからだろう。
 少年はただしがみつくその男性に、銃を向け黙って見つめていた。
 息をするのも苦しそうだと言うのに、何故ここまで自分にしがみ付いてくるのか。そこまでして生きていたかったのだろう。だからと言って情けをかける事などしない。こいつが言っているように、自分は「悪魔」なのだから。
「……人間なんてほとんどが悪魔だよ」
 言葉はそれだけ。後は、勝手に指が動いた。もう、何も感じない……。

「うぁぁぁぁ!!!」
 ドン、っと低い銃声に混ざり高い悲鳴。目を閉じ、何も見えない状態で少年は撃ち続けた。銃の中に入っている弾全てを撃って、そして殺す。声が聞こえなくなっても指は止まろうとしない。露出した肌にかかる液体、目をつぶっていても頭の中にまで光景が浮かんできそうだ。赤く、少し黒味がかった血液。ぶちまけられて、色んな物を赤く犯した。
 カチリ、引き金を引いても弾が出ない。どうやら全部無くなったようだ。少年はそれに合わせて目を開ける。銃を握っていた手から滴り落ちる血。思ったより、返り血は浴びていなかった。ふと、目に入り込んだ無残な死体。いたるところに銃弾の跡が残っていた。
「……バイバイ、あの世で呪って貰って結構だよ」
 ズルリと腕であった物が地面に力なく落ちた。バラバラになった四肢は、投げ出されいたる所から血を流している。顔も、それが顔であったとはわからない。耳も口も鼻も目も、どれも形は残っていなかった。これが人間だと言って、どのくらいの者が信じただろうか。わからぬまま、ただ声を無くすだろう。
 少年は死体に背を向けた。そして無言のまま歩き出す。弾の無くなった銃の引き金を何度も引き、カチリと音を鳴らした。硬い地面を叩く靴の音、カチリと鳴る引き金の音。哀しく、その場所に響いた。
 一体何人目だったろうか?
 考えて苦笑する。何て悪魔みたいな事を考えているのか、少年もわからなくなっていた。あびた返り血をこすり、手に付いた他人の血を少し舐める。鉄臭くて味は何とも言えない。すぐに口から吐き出し、また笑って見せる。まだ成長期の身長、少し高い物のやはり幼さが残っていた。
 京橋 白夜、16歳。彼もまた腐った世界に終止符を撃ちたいと思う少年だった。


2006-09-25 22:12:04公開 / 作者:七海 聖歌
■この作品の著作権は七海 聖歌さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
この作品に対する感想 - 昇順
腐った世界に終止符をうちたいなら、もうほんとごく普通に自殺してください。……と、思いました(笑)
2006-09-25 22:21:09【☆☆☆☆☆】ゅぇ
え、あ、そうですか(苦笑)ですがそれじゃあ話が続かないんですが…
自殺だけが終止符だとは限らないと私は思うんですが、それじゃあただの逃げになるような…なんでもありません。気にしないでください。
うーん…じゃあまた考え直します!
2006-09-25 22:30:52【☆☆☆☆☆】七海 聖歌
 はじめまして。御作を拝見しました
 何が腐ってるのかわからないのが問題ではないでしょうか。
 単にニヒリズムと無意味な暴力ネタをぶちまけるなら、それこそただの思考からの逃亡で、小説とはいえません。
 「何が腐っているのか」を本気で考えた事はありますか。
 大学に行く金を稼ぐのに、塾に入れる金を稼ぐのに、その食事代を稼ぐのに、どれだけ汗を流すか、想像したことはありますか?
 先生達の苦労は? 自分という存在はそんなに価値がありますか?
 この小説には想像力が欠けています。
 残念ながら、私には満たされた子供の我がままにしか見えませんでした。
 辛らつなことを書いて申し訳ありません。では。
2006-09-26 00:32:48【☆☆☆☆☆】上野文
はじめまして。興味深く読ませて頂きました。人が簡単に殺されたり、血が出るのは正直好きではないんですが、主人公の動機の曖昧さが、ものすごい負のエネルギーに変換されているところに引き込まれました。自殺するとか、前向き思考で頑張るとか、耐え忍ぶとか、16歳の少年には、選択肢がたくさんあるはずなんです。残り少ない人生にしがみついて生きているような大人の目から見ると。でも、その中から選ぼうなんてしないし、誰の言うことにも耳を貸さないで、激しく思い込み、その思い込みに囚われたまま、もがいて見も心も傷だらけになっていく。そして、「腐っている」という理由ひとつで世界にまで戦いを挑んでしまう。天に向かって唾を吐くようなものなのに。この少年が今後成長して大人になるのか、それとも世界を巻き込んで破滅していくのか、まったく違う結末が待ち受けているのか、なんにせよ、続きを期待しております。
2006-09-26 05:18:35【★★★★☆】碧
いえいえ、これは私の「少年」に対する感想であって、別にこの作品における「少年」が自殺するべきだとか、そういった意味合いではございませんので。お好きに書かれれば良いとおもいます。
2006-09-26 11:38:32【☆☆☆☆☆】ゅぇ
初めまして。拝見させていただきました。
私のなんかよりも全然うまくて感動です!(笑"
血は正直嫌いなんですが、人が殺されたりするのは結構興味ありです。?ヾ(`∀´*)ォィ
この後の彼の行動も、勝手に期待させてもらいます。(笑"
2006-09-29 18:15:18【★★★★☆】天和
 まだまだ作品世界の一端なので、何ともいえない部分があるのですが、やるせないようなフラストレーションを漂わせつつ人物を造形していくというのに心惹かれますね。情念、というと書き手に対して非礼かもしれませんが、こういうものをぶつけて文章を書いていくというのもひとつの重要な方法で、何もスタティックなポジション、書き手の自分自身というものに飛び火してこない特等席から見つめてばかりが書くということではない。情動の渦の中に自分自身を叩き込んで表現していくというのは、表現者としては勇気のあることですね。
 もちろん読む側は、それぞれの感じ方があって当然ですが、書き手は表現方法や局地的な技巧の問題はさて置くとしても、自分自身の作品世界についてはとにかく怯まず表明し続けることが大切だと思います。その世界が是か非かは、僕は読み手としてはまだちょっと判断がつかないけれど、その世界を表出しようとしている表現の渦中の書き手の心境は、同業者として同感します。過剰でさえあるだろう作品世界、書き手として描きたいもの、それを、どうぞ描き切ってください。それを楽しみにしています。
2006-09-30 13:58:16【☆☆☆☆☆】タカハシジュン
作品を読ませて頂きました。まだ序盤なのでしょうがないのかもしれませんが、少年が抱えているだろう怒り、悲しみ、他者への虚無感など心情をもう少しえがいて欲しかったです。少年が「腐っている世界」から、どのような世界へ行こうとしているのか、その片鱗でも触れて頂けると感情移入がしやすくなると思います。では、次回更新を期待しています。
2006-10-01 11:56:20【☆☆☆☆☆】甘木
計:8点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。