『良心』作者:コー / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
全角1694文字
容量3388 bytes
原稿用紙約4.24枚



『よって、被告人に無期懲役を言い渡す』

 法廷はざわめきに包まれた。被害者の親は、不当な判決だと泣き叫んだ。
 裁判官は「閉廷します」とだけ言い残し、その法廷をあとにした。



 夜中2時、家のガレージに車を止め、そしていつものようにズボンの左ポケットから家の鍵を出した。それからドアを開けて、ただいまと小さく言った。

 こんな時間に妻は玄関まで迎えに来た。その理由は大体予想ができていた。
 案の定、今日、いや昨日の裁判がニュースで話題になっているということを、妻は私に話した。
「なぁ」
 私は妻の話をさえぎりそう言った。
「急にどうしたの?あなた」
 妻は心配そうに私に尋ねた。
「今日の裁判は、あれで本当に良かったのかな」
「あら、やっぱり気にしているのね。何言ってるの!裁判官であるあなたが決めたことなんだから、ちゃんと自信を持ちなさい」
 そういえば私は、自分の職について妻に話したことはほとんどなかった。妻は以外に良いことを私に言ってくれていた。しかし……。
「何を悩んでいるの?話してみなさい。私たちは夫婦なんだから」
 私の表情を察してか、妻は私にそういってくれた。話すだけ話してみよう、そう思った。
「そのとおりだな……。私が裁判官になって20年。殺人による遺族の悲しみをいっぱい見てきた。それで私はできる限り遺族の人のことを考え、被告人を死刑にしてきた。それはもちろん法律や証拠に基づいて、死刑となる論理的な説明ができると判断したときだ。だから私は法律にはきちんと敬意を示している。しかし、法律でもおかしなところはある」
 妻は、初めて心の内を話す夫の顔を真剣な表情で見つめ、それは何かと聞いた。
「未成年者の犯罪が、重大な罪とならないことだ」
 夫は息を荒くしながら話した。
「時代は変わるものだ!今では子供が親を殺す時代になっている。しかし昨日、私が扱った裁判では、金がほしかったからという理由だけで、少年が赤の他人を殺した事件だった。ただの自分の欲望のために、今までその人が培ってきた貴重な命をあいつは奪ったんだ。私は死刑にしたかった。遺族の人もそれを望んでいた。しかし少年は法廷でこう言ったんだ。『とても悪いことをしました。今は反省しています』、と。今まで弁護士にも言ったことの無かった謝罪を、聴衆の前であいつは言いやがった。法律上では、未成年者が罪を犯したとき、更正の可能性があると判断された場合は刑が軽くなる。それによって周りの人が見ている中、反省を述べた少年に公正の可能性が無いという論理的な説明はできなくなる。それで私は仕方なく、無期懲役を言い渡すことにしたんだ……」
 私は今までの不満を全部妻にぶちまけたようだ。妻は関係ないのに……。しかし、今回だけは許してくれるだろう、そんな思いが心のうちにあった。
「そう。でも少年に無期懲役は重過ぎない?」
 妻はそう言った。しかし私はすぐ反論した。
「よく考えてみろ。失われた命は、大人が殺そうが子供が殺そうが同じなんだ!ほかの裁判官も本当は死刑にしたいと思っているに違いないさ。だが法律という、見えないプレッシャーにより彼らは言えないだけだ」
 彼の意思はとても強かった。
「そう……。よく分かったわ。でも、もう答えは出てるじゃない?」
「答え……?」
 私は少し考えた。この疑問に答えがあるというのか?

 ――あった。

 ≫

『……ら裁判所の前です。少年犯罪の改正をするため立ち上がった運動によって、法律が改正された後、初めての少年による殺害の裁判ですが少年には懲役25年が言い渡されました。この判決による理由は、まだ少年には未来があり、反省の意思も述べているということで少年に死刑や無期懲役を言い渡すには重過ぎると、裁判官が判断したためです。しかし、一年前にも同じような事件があり、そのときの裁判では無期懲役という判決が下っており、法律の改正前よりも軽い罪という状況に――』




2006-08-30 00:41:03公開 / 作者:コー
■この作品の著作権はコーさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
始めまして、コーと申します。

初作品です……。
コンパクトに分かりやすくまとめていったら、とても短くなってしまいました。
本格的に小説活動をしていきたいと思っています。ですので、ぎこちないとこばかりですがご指摘いただけるととても助かります。よろしくお願いします。

では!
この作品に対する感想 - 昇順
はじめまして無関心ネコです。
エンディングが難解で、感慨深いようなどうとでもとれるような印象でした。少年法の改正っていうのは随分前からうたわれていて、古くはサカキバラ事件ですね。確かにそういう時、裁判官の立場は苦しいでしょう……うまい飯食って豪遊できるのは無知な聴衆だけなんですね。
未だに問題になるくらいだから悩み続けている裁判官もいるでしょうが、まぁしかし話の中の主人公はだいぶん初期の段階で悩みまくってるなぁ(笑
ただ、もうちょっと心理描写があれば、アイディアが生きると思います。主張ばかりが目立つと読者ははなれていってしまいますし。
では次回作も期待しています(^-^)


2006-08-30 09:18:16【☆☆☆☆☆】無関心ネコ
無関心ネコさん。始めまして。
感想ありがとうございます(^▽^)

ちょっと、裁判官が言いたいことを書き過ぎたかもしれません……。
でもこの作品の本当の言いたいところは少し違うんです。
というのは、この物語の主人公である裁判官は、ほかの裁判官も法律による見えないプレッシャーによって、自分がくだしたい判決にできない、と言っていることから、この裁判官は勝手に、自分の思いとほかの人の思いは同じだと思っているんです。
でも最後のニュースでは、少し分かりにくかったかもしれませんが、主人公の裁判官は運動によって、見事未成年法の改正に成功したんです。でも、その後の初めての未成年による殺害の裁判ではほかの裁判官が扱ったんですが、無期懲役より軽い罪の判決を下したということで、一人一人の良心は違う、ということを伝えたかったんです(説明がわかりにくすぎてすみません)。
だから、ちょっと大げさに書きすぎた感がありました……。

長々と書いてしまいましたが、これからも見てくださればうれしいです。ありがとうございました!
では!
2006-08-30 19:31:45【☆☆☆☆☆】コー
だとしたらそれはここで説明するべきではなく、正しくは作中で描くべきでしょう。失礼ですが、作中では全くコーさんの意思は通じていません。おそらくは僕だけではないはずです。詰め込み過ぎというのは繊細な文章構成さえできれば関係ないはず……補填してみるのをお勧めします。頑張ってみましょう。

しかしこのサイトの利用者は読み返しという礼儀がまったくないらしい……こういう良心への追及はないのだろうか(-"-;)
2006-08-30 22:32:26【☆☆☆☆☆】無関心ネコ
は、ども。もろQとか言います。

詰め込みすぎというより、個人的にはストーリーの展開がなく、こちら側の興味をそそられる前に終わってしまった、という感じがしました。例えば他の裁判官との場面を組み込むなど、もう少し物語を広げてみるとよい作品になるかと思いました。では失礼。
2006-08-31 01:34:44【☆☆☆☆☆】もろQ
計:0点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。