『あの図書館のアウフヘーベン』作者:無関心ネコ / AE - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
皆さんに謝らなくてはいけなせん……当方の勘違いの為、小説の更新ができなくなってしまいました(携帯による書き込みだった為)話はもう全て出来上がっているだけに残念です……機会があれば更新したいですが、非常に難しいでしょう。もう更新はないものと考えて頂きたいです。感想まで書いていただけたのに、本当に身勝手で、申し訳ありませんでした。今後は一読者として、皆様の作品に携わって行きたいと思っています。
全角8302文字
容量16604 bytes
原稿用紙約20.76枚
   
  
  
 
 そういうわけで、俺はスケジュール帳に「失敗」を書き込んだ
 
 
 
 受験生にして往々に言える事は「スイッチの入れ時が勝負をわける」ということだろう。高校三年の八月に頑張り始める奴が四月に頑張り始めている奴に勝てるわけが無く、一年生の頃から受験を見越している奴に四月から頑張り始めた奴が勝てるわけが無い。
 俺が世の中のそういうカラクリに気付いた時、高校三年の八月は爽やかかつ軽やかに去ろうとしている間際だった。先程の公式に当てはめるとなるほど、俺はだいぶんいろいろな人達に勝てそうもない。はっはっはっ。道理で「志望校変えろ」とか言われるわけだ。はっはっはっ「事態は思ってるより深刻だぞ」ってこういうことかあっはっはっはっ
  
 俺はすぐさまカバンを持って図書館に行った。
 
 ケツに火が付いたとはまさにこの事で、俺はわき目もふらず猛勉強を開始した。なんと言っても俺の英語能力ときたら「BOOK」の読みを「ボッ……なんだコレ? 最後のKってどう読むんだ? ボッケ?」とかボケはお前だよ的な致命傷を負っていたし、数学の授業中「ココ解いて見ろ」と言われテンパった挙句、周りの友人達に聞きあさり結果友人達は「答え1だな」派と「−1だろ」派に分かれ、仕方なく俺は山勘で「1です」と答えたところ「……ようし皆、今アイツが解いたところの答えは――そう、『ア』だな。『イ』と『エ』は引っ掛けだからな、気をつけろよ」と流されたりしたし(周りの連中は最高の笑顔でナイスなガッツポーズ)、ついでに古文の授業中に二年半ずっと使っていた教科書はどうやら『漢文』の教科書だったらしいということをこないだ悟り、他の教科に至っては教科書の包装も解いておらず、というかそもそも俺は学校に筆箱を持っていっていない。 
 税金以上に無駄使いだらけの我が人生に一片の悔いなし! ウソ!
 とはいえ毎日図書館に通う事でなんとか受験生らしさ(根本的に学生らしさとか十八歳らしさとかでもいい)を取り戻した俺は、しかし学習室の机に広げていた参考書をカバンに押し込めながら、こんな思いに囚われていた
 
 
こんな事がしたかったのか?
 
 
 割と田舎の方にあるこの図書館にはしかし意外なほど利用者がたくさんいる。理由は多々あろうが、最大の要因は、図書館二階のワンフロア全てを使いきった、広大な面積を誇るこの「学習室」だろう。冷暖房完備、机は個別にあるし、イスもパイプイスなんかじゃない上等のもの(なんと手摺がある!)。経済力低下により国家体制が揺らぎつつあるこのご時世になんという赤字経営万歳! 利用者も高齢者や非課税者など経済圧迫因子ばかり! 二十四時間経営郵便局作ってる場合じゃないぜ! 
 まぁだが、そんなことはどうでもいいのだ。なぜなら今この図書館は閉館の時間を迎えたからだ。ずらりとならんだ数十人が静かに帰り支度をしている中で、ホラ、「蛍の光」が流れてる。
 その音に急かされるようにして俺は出口に向かった。朝から九時間はここにいる。おかげで「visit」を「ぅびじっと!」と読めるようになったし、全教科の目次全てを見る事ができたのだ。すさまじい成長、すさまじい吸収力。俺の急激な成長にNASAが目をつけたらどうしよう。
 俺は自らの才能に恐れおののきながら、部屋の広さに似合わない、割と小さな扉のドアノブに手を掛けようとした。
 と、
 
「はひっ」
 
 唐突に俺の手と同時にドアノブに手を掛けようとした手があった。でもそれはピクリと戸惑うように震えて空中で一時停止してしまった。子供っぽくて、でもその割にきめが細かそうな手だ。
 俺はひょいと視線を上げて、手の持ち主を見上げた。
「ふぁ……す、すいま、すせんっ」
 セミロングの髪をした女の子……セーラー服と身長から察するに女子高生だろう……がなぜか泣きそうな顔をしながらバッと頭を深々と下げていた。
 ここで一つ説明をしなければならない。だがこの説明はとても面白くないと思う。面白い話というのは何かしらいろいろ問題はあるにせよ最後に必ず成功するはずなのだ。この話は何かしらいろいろ問題があるのだが未だ成功の指の先すら見えていないどこまでも残念な話のだ。
 俺というのはクラスに一人はいる『あぁ、俺はこんな所で皆と同じように皆と同じ事をしていていいのかなぁ』とか、そういう悩みを持っている奴だ。そういう奴が将来的にはニートとかの類いになると知っているのに、『そういう考えこそ逃げなんじゃないか』とわかっているのに、それでも俺はうろんうろんと考えてしまう。
これでいいのか?
 その反動がこの真っ白にブリーチされた髪だ。俺は皆と違う考えを持っている→だから皆と違う格好をするのは別段間違ったことじゃない、という単純思考の末にたどり着いた究極の選択だ。
 だがしかし、こいつは失敗だったのだ。
 当初好評だったのは俺自身と数名の男友達、小さな子供や親父(血筋だろうか。あの喜びようから察するに父親も同じ病にかかっていたと見える。リーマンのくせに。脱サラとかしないだろうな)だけで、あと他の……母親、同じクラスの女の子、ネコ、近所のおばちゃんなどなどの、およそ大多数の人(ネコ)は顔をしかめるか背けるかという嫌な感じの二択でしか俺と接しなくなった。
 しょうがねぇじゃん。メンズ雑誌のファッションのコピーとかは絶対嫌だし、俺はこの髪色が好きなんだから……でも眉毛の剃り込みとピアスはやりすぎたかなぁとか反省もしていた。
 そういうわけで目の前の女の子が怯えている気持ちがよくわかったし、同時に落ち込みもした。
 
 
俺がしたいことはこういう事じゃないのになぁ
 
 
「先、行っていいよ」俺はだいぶん気を使いながらそう言ってみた。だが、ままならないもので
「いぃ、い、いいんですっ! どうぞ、先に行って下さい!」と女の子はさらに身を固めてしまった。突き出してぶんぶん振る手は「遠慮」に加えて「怯え」の意味も多分に含有しているようだった。結構かわいくて整っている顔が真っ赤になっていて、次いでくりくりした目がさらに大きく開かれている。それはどうやら俺の見掛けが怖いからであるらしかった。実に申し訳ない気持ちで一杯になり、さらに言い募ろうとすると
「あの」
 後ろからむやみに鋭く削り上げられたような凛とした声が突き刺さった。いや、比喩ではなく、その声には人を咎める刺々しい声色が混ざっていたのだ。
「外、出られないんですけど」
 振り替えるとそこには「雪の中に一人咲くエーデルワイス」みたいな女の子がいた。割と大きくて可愛げがあるのだけど形のよい眉のせいか睨んでいるかのような目、実用的なショートの髪、細フレームのメガネにムッと結ばれているけどそのくせ柔らかそうな唇
「あの」
 その唇がムッとさらにつんけんした感じになり
「じろじろ見ないでもらえますか」
 
 俺の脳裏にスケジュール帳の「失敗」の文字がフラッシュバックしてチカチカした。
 
 だが俺はどうにか耐えて、膝から崩れ落ちる事なく道を譲った。
エーデルワイスは「ツンッ」と少し上向きになりながら出て行った。気の強い女だなぁ……。
「ぅあ、ぁぁあの、あのっ 失礼しますっ」
 そう言い残して気の弱そうな女の子も、逃げるようにして――というかドアを強引に押し開けてまさに「逃げて」行ってしまった。ヒラヒラと揺れる短くて鮮やかなブルーのスカートが、アメリカの子供がよくする(らしい)「鼻の下に手をやってヒラヒラしてバカにする仕草」に見えて、俺は小さく溜め息をついた。やれやれ。
 
 
 

  
 
 
 世の中不思議なもので嫌な事というのはあたかも帰省ラッシュ時の玉突き事故のように連なっておこり大惨事を招くものだ。ここで問題なのはそれが「事故」であり故意など微塵も介在していないという点だ。
 だからポケットの中に絶対入れたはずの自転車の鍵がなくなっていたのも、外が知らぬ間にここ二、三年見たことが無いような豪雨なのも、そこに誰かの意思が介在しているわけじゃないのだ。ないはずなのだ。もし「これは偶然ではない、全て私が起こした奇跡なのだフハハハハハハ」という神、仏、アッラーの類いがいたら今すぐ俺は天国でも天竺でもゴルゴダの丘にでもバラバラにして埋めてやりたい。なんなら天国とゴルゴダの丘を取り替えて埋めてやっても良い。その方が世界の為だ。
「……んなこと考えてる場合じゃねぇよ」
 左右に開くガラススライドの出口付近には、年も性別も違う人の群れが三十人程連なっていた。
 それを二階から手摺にもたれて見下ろして、俺は深々と溜め息をついた。
「帰れねぇなぁ……はは」
 二階は一階エントランスを囲むように渡り廊下が作られていて、ほとんどの利用者はもう下に降りているのだが、俺は最後まで学習室で鍵を探していたために出遅れてしまった。その為に上から見下ろしているのだが、お陰で出口までの距離がやたらとはっきりと認知できて、だいぶんうんざりしてしまった。最初に出て行ったあのエーデルワイスや気弱な女子高生ならなんとか出口付近には行けただろうが、いまごろこんな所にいる俺がスライドドアの向こうに行くのは至難の技だし、できたとしても外は当たるだけで痛そうな豪雨、おまけに帰る為の足(自転車)は使えない。
「最悪じゃねぇか」
 これはもしかしてアレだろうか。やっぱりNASAの陰謀――
 
 
 
 一瞬で、全ての物がフラッシュバックした
 
 
 
「ひ、ひぇぇぇ――!」
 続いて訪れた雷鳴は、古代の人々が龍の存在を信じた気持ちがよくわかるくらい強烈な一撃だった。おー雷だ雷。
 ところで今のかわいい嬌声は? と思い眼下を見渡すと――ってオイありゃさっきの気弱な女子高生じゃねぇか。なんであんな後ろの方にいるんだよ。
 と思ったが彼女の行動を見ているとそこに至る経緯はすぐに想像だについた。つまり
『一番に出口についたけど雨が降ってる、どうしようかなぁ……ふぁ? え、な、ちょ、ひん! ひ、引っ張らないでくださぁい――なんですかぁーなんで押すんですかぁ……い、痛いですぅ、後ろに引っ張らないでくださぁい(泣』
 と、いうような経緯が紆余曲折の末にあったに違いない。現代社会の教科書にあった『社会的弱者』とは彼女のような人の事を指すのだろう。勉強になるなぁ。ここは人生の縮図か?
 ふと、彼女は階上にいる俺に気がついたらしい。バッチリ目が合い、しばらくなんの気なしに見つめ合う。流れる空白の時に押されて、手を振るべきか声を掛けるべきか迷っていると
「ひ、ひぇぇぇ――!」
 と突如として先程と寸分違わぬ悲鳴を上げた。俺は雷級か。
 さて、再び鳴り響いた雷に彼女が両肘・両手を合わせて「ふひやぁぁぁ――」とやっている隣りでは、小学校低学年位の子供……児童が
「兄ちゃん見た!? 今の見た? スッゴイねぇ、雷さんだよ!」
 と、如何に雷が素晴らしいかを説いていた。児童は……おーなかなかの顔立ち。将来的にはどこぞのアイドルグループのバックダンサーでもして大いに人心を惑わしそうだ……子供特有の甲高い声でやたらと目立っていた。対してその児童に袖口を引っ張られたりピョンピョンされたりしている中学二年生位の少年……お、こっちはもう完全にアイドル級の顔立ちじゃないか……はそんな児童に少しの気もかけずにひたすら携帯に向かって
「だから母さん、何度も言ってるじゃん。八時になってドラマが始まったら、リモコンで録画ボタン押すだけだって……えぇ? うん……うん……リモコンはアニメのキャラクターじゃないって! 機械だよッ!」
 とままならない会話の怒りをぶつけていた。可哀想に……往々にしてオカンという人種は機械に脆弱なんだよ……
 察するに二人は兄弟のようだ。美少年二人を息子に持つ母さんとやらはさぞかし美人かつ幸せ者なんだろう。兄の方は性格ひねてそうだが。
 とかそんな人間観察の内に、雨足はさらに強くなる一方だった。
 三十分もすると雨宿り人達は四種に分割することができるようになったすなわち
1.親に迎えにきてもらう
2.車を持っている友人・兄弟に来てもらう
3.雨の中ダッシュで帰る
4.彼氏・彼女に迎えにきてもらう
 の四種である。こと、4については特定の非既婚者達に凶烈な感情を抱かせる程過多な割合を誇っており、ここ数年間常に特定の非既婚者である俺などは殺意をオーラとして発してもおかしくない程である。ファックカップル共。この世のカップル全員に累進課税をかけたいくらいだぜ。無論、AからB、そしてCの順に高くなるという寸法だ。わからない奴はオカンに聞け。ウソ、やっぱ聞くな。
 だがそんなことを言っていられたのも後の十五分程で、次々と消えていく雨宿り人達は見る見るうちに矮小なコロニーになっていき、気付いた時には俺を含めてたったの六人になってしまっていた。
 中でも特に異彩を放っていたのは、まるで電車の連結部のように二列のスライドドアに挟まれた割と豪奢な玄関口の中で、じっと空を睨み付ける女が……
「…………おい」
なんでアイツまでいるんだよ
 エーデルワイスだった。
 その目は真っ暗闇に包まれた空に穴でも空けるかのように力強く細められていた。なんだあのガン飛ばしは……アイツもNASAに追われているのか?
 いずれにせよあの視線上にあってはスパイ衛星も撃墜されてしまうだろう。恐るべしデブリも生み出すエーデルワイス。西暦20xx年、新しきスタウォーズ作戦の幕開けである。ウソ。
「だから時間になったら丸のついたボタンを……それはチャンネルの0ボタンだって! 赤い丸だよ!……なんで電源消すのさぁ!? 赤いだけで全然丸くないじゃないかあ!」
「うわっはぁ……また光ったよ兄ちゃん! すっごぉい!」
 しかしあの兄弟もさすが血の繋がりと言うべきか見事なくらいそろって迷走しているな……というかオカンも機械弱過ぎだろ。一回電源消すと、再設定しなおすの大変なんだぞ? 機械に弱い美人の人妻って凄くそそられるものがあるけど。
 と、俺がまだ見ぬ母親へ思慕の思いを連ねていると。
「むぉぉ――なんと、雨か!?」
 実は一階に降りていた俺の頭上からしわがれた、だが不自然に気合いたっぷりな怒鳴り声が突然降り懸かってきやがった。
 なんだなんだと見上げると、サイドに引っ掛けてあるかのように白髪が生えた爺さんが、杖をぷるぷるさせながらしわっくちゃな顔にあるむやみにギョロリとした目を扉の外に投げ掛けていた。
 しばらくそのまま固まっているので、この微妙な空気にいったいどう収集つけるのかと唖然としながら見守っていると
「吉沢ぁぁぁ中尉ィィィィ――――!! 私はぁぁ朝天気予報を見逃すという愚(っ)行をおこしましたぁぁぁぁぁ!!」
クワッ
 と目ん玉がくりだしてとんでもない声で叫び出しやがった。対して俺はあまりの出来事にビクゥッとなることぐらいしかできない。
 しかし爺さんは俺達の事などどうでもいいのかいきなりぷるぷるさせていた杖を投げ捨てて
「よってぇこれよりぃぃぃ――反省の為の腕たて四十をおこないまぁぁす!! あ1!! 2! 3! 4! あ5ぉ! 6! 7! はぁ8ぃ! あ9ぅぅぅ!! ……」
「(怖ッ……!)」
 目前で繰り広げられるシュールなショウに俺の大脳皮質あたりが「これを記憶に内蔵してよいか否か」と否か」という人生初の質問をぶつけてきた。否だよ否。こんなのが夢に出て来たらどうする。久方振りの悪夢だぞ。
「ひひぇぇぇ――」
 扉付近でまた気弱そうな女子高生が柱につかまって涙を貯めていた。よくわかる。物凄くよくわかる。公共の場でいきなり腕たて伏せする爺さんを見るくらいなら突如死なれた方がマシだ。同情と同感の気持ちを込めて気弱女子高生を見ると
「わわひぃぃぃ――!」
ってまたかよ! 
「あのぉぉぉ……」
 声がしたのは図書館の奥からだった。頭上の奇行から目を移すと、そこには実に押しが弱そうな……生徒にいじめられる非常勤講師っぽい……三十代後半の男が近年稀に見る超低姿勢で近寄って来ていた。
「も、もう閉館のお時間もすぎておりますし、御退館お願いできますか……?」
 え、と携帯を覗くとなるほどたしかにサブディスプレイには「もう七時です」と表示してあった。付け加えるなら「閉館時間から三十分もたってます」といったところか。
 やれやれ、と俺は参考書をいれたプラスチックケースを手にし、不本意ながら豪雨の中に出る準備を始めた。あ、そういえば鍵もないんだった。いったいどうしたものか……
 件の爺さんも自分への罰腕立て四十回を終えると「退館! 退かぁぁん!」と叫びながら再び杖をぷるぷるさせ(普段からこんなんなのか? 行政はなんらかの対策を講じるべきなんじゃないのか?)、その爺さんの奇行にも一切感知せずに携帯と雷キャッキャを続けていた兄弟も、それぞれ舌打ちと「えーもぅ?」とそれぞれの方法で文句をつけながらも素直に荷物を手にし、気弱女子高生はセミロングの髪が雨に濡れるのに凄く残念そうな濃い溜息をもらし(かわいかった)、これまたかわいいトートバックを手にして駆け出す準備を始めた。各々「仕方がない」というあきらめの色が背景色に濃く塗り付けられているようだった。無論、中でも俺の背景色はより暗色系に限り無く近かった事は論じるまでもないだろ。

「どうしてですか」
 しかし、そんな俺の背景色などからも群抜いて、他とは全っ然違う異彩を一際塗りたくっている奴がいた。
「どうしてこんな雨の中に私達が出なくちゃいけないんですか。普通の感情を持ち合わせている人なら、規則に縛られて人が困るような事はしないはずです」
 
 
エーデルワイスだった
 
 
 さっきまで虚空にまで穴を空けていたであろう凶器(狂気)くさい目付きを今は司書さんに向け、哀れ司書さんは手を突き出して自己防衛していた。
 声を震わせながら
「でで、ですが皆さん納得しておられますし……」
「そうなんですか」
チャキィィィ――ン
 目がむけられた瞬間、そんな音が聞こえた気がした。というかたぶん、したね。これホント。
 エーデルワイスの目は米特殊部隊員の持つアサルトライフル銃口下についてるレーザーサイトを彷彿とさせたんだが、そうなるとこいつはもしかして銃弾が飛んで来る流れになるんじゃないだろうな。
「は、はひぃぃぃぃ――」
 真っ先にトートバックをポトリと落として両手を上げたのは気弱女子高生だった。「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ」と彼女は今日何度目かの涙をこれでもかといっぱいに溜め込みながら身を縮こませてしまった。過去にDV経験でもありそうなリアクションだが、俺が女であってもあの目にかかったらそうすると思う。とか考えつつ既に俺は首をぶんぶん振り回していた。おいおい。
 ま、いくらかわいいとはいえ目で殺されたりしたらシャレにならんしな。ほら見ろ、爺さんなんか「自分は吉沢中尉殿にどこまでもついて行きます!!」って吉沢誰だよ。
 兄弟・兄は「……外には、まぁ、出たくない、と思う」となんか片言で話し、弟なんかは楽しそうにはしゃぎながら「そーだそーだぁ、まだここにいたいぞぉ!」とまぁ、それぞれ色んな方法で屈服していた。うーん……
「あ、あのですね、ですが私の退館時間も非常に遅れていましてですね……」
「公務員だからって七時に帰るなんて今のご時世で甘いです。サービスの点で他を抜きんでないと、この時代を勝ち抜く事はできないのです」
 弟が「そーだそーだぁ! かちぬけないぞぉ」とキャイキャイ騒いだ。それだけだった。 誰も否定できなかった。
 
 
 時間は午後七時十分を回る
 
 
 
  
2006-09-04 23:36:01公開 / 作者:無関心ネコ
■この作品の著作権は無関心ネコさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
コメディは完全に専門外なんですがなぜか手を出してしまいました。ちょっとした実験的な要素も多分に含んでいまして……といってもなんとかかんとかしながらもプロットは完璧に作り上げたつもりです。最後は「へへへ」と笑えるような作品にするつも……します! 面白いつまらないの二択に重点を置いて、感想を書いて頂けるととてもうれしいです。
最後に(ホントは最初に言うものですね)お読み頂き、ありがとうございましたm(_ _)m
(携帯から書き込んでいますので多々おかしな点――特に二点リーダー――がありますでしょうが、そこに対するキツい突っ込みは勘弁して下さい)
誤字脱字修正・八月三十一日
この作品に対する感想 - 昇順
 二択で選べといわれると、意地でも二択から選ばない私が二重に捻くれて二択から選ぶことにする。『面白い』。
2006-08-28 23:29:24【★★★★☆】模造の冠を被ったお犬さま
読ませて頂きました。主人公の思考がとても面白かった。
最初の志望校変えろ〜の部分で軽くはははっと笑い
吉沢誰だよで吹きました。吉沢って誰だよ、じゃなくて吉沢誰だよという
テンポにやられました。全体的にテンポ良くて面白かったです。起伏があればもっと面白くなると思いました。
2006-08-29 10:54:41【☆☆☆☆☆】猫舌ソーセージ
模造の冠をかぶったお犬様さん……なんか敬称がおかしいですね(笑+ストレートな感想が心に染みました。いかんせん書いておきながら不安だったんですよね、こういう話は面白くなければ完全に駄作ですから……怖かったなぁ(汗
感想ありがとうございました。もしよろしければ、次回もお付き合い下さいm(_+_)m


猫舌ソーセージさん……感想ありがとうございます。そうですね、主人公は物凄い変わり者の設定なので、常に常識に対して斜に構える体勢で話をしてるんですね。ただ、周囲の人間もだいぶ斜めっていて困ってしまってるんだけど(笑
起伏についてはこれよりストーリーがやっと始まるので、一応解消される……かな? ダメだったらもう一度突っ込んで下さいm(_+_)m


お二人共、とても助かりました。感謝してもしきれないですね……よろしければ、次回もお付き合い下されば幸いですm(_+_)m


2006-08-29 12:33:22【☆☆☆☆☆】無関心ネコ

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