『ダイアリー』作者:大哲 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約10.53枚
八月一日
 今日から日記をつけようと思う。昨日の今日までのニート生活とはおさらばするための儀式みたいなものだ。
 今日は苦手の数学と英語を勉強した。昔使っていた参考書を引っ張り出したものだったので、最初こそ苦戦したが、思い出してくると結構すらすらと解けていった。この爽快感があると勉強も悪いものではないと思う。いや、一種の錯覚とは思うんだけれど(笑)。
 押入れから出すと思っていた以上の本が出てきて驚いた。それもほとんど新品同様の参考書ばかりだったからもっと驚いた(笑)。こいつらをボロボロになるまで使ってやれば、目標の学校までも容易いはずだ。
 初日ということで張り切ったつもりだっけど、そこまで書いていない。ま、そこも自分らしいということで今日は終わりである!

八月二日
 日記二日目。
 今日は倫理と国語。どちらも好きな教科なので、昨日とは比べ物にならないぐらい進んだ。こんなのばかりならテストも容易いのに。
 昼からは暑くて勉強どころではなくなり、少し納涼ということでコンビニに出かけた。チャリで行くから汗をかいたので本末転倒だったけど(笑)。でも汗をかいたついでに求人誌も購入した。やはり働かないと学費も払えないのだから、致し方ないだろう。
 夜は黒くてワサワサした恐ろしい怪物が出現した。もう怖くて飛び上がった。
 ほんと勘弁して欲しい。

八月三日
 日記三日目。
 今日は勉強もそこそこに出かけることになっている。この日記も昼に書いているものだ。高校時代の友達と遊びに行く約束をしているのだ。
 昨日買った求人誌にはあまりいい場所は無かった。もう一度良く見よう。
 じゃ、出かけます。

八月四日
 白紙

八月五日
 一日サボってしまった。二日酔いが抜けなかったので書く気力もなかったのだ。酒は飲むもの、飲まれるものではないとはよく言ったものだよ(笑)。
 今日もまだ頭がクラクラしたので勉強などはせず。
 そういえば、この前遊んだSとKが仕事を辞めてニートをはじめたらしい。時間が余ると言っていたが、わからんでもない(笑)。少し安心した。
 
八月六日
 勉強をした。少しだったが、集中できていたと思う。
 起きる時間が遅くなってきている。もう少し早寝早起きをしないといけないと思う。思うだけじゃいけないとは思うけど。
 そういえば、ハロの日だ。

八月七日
 白紙

八月八日
 昨日はこれといったこともなかった。
 今日もいつもと変わらない一日だった。

 日記はその日で終わった。

 遮光カーテンを使うと、光の浸入経路は限りなく限られる。
 いい加減に閉めたときに出来た隙間か、何があればそうなるのか、穴が開いた場所だ。
 部屋の住人は、前者の隙間から刺す様な光量を目に感じて、一度目を開けた。
「まぶっ!」
 目を開けると、胡乱な目にカメラのフラッシュをずっと浴びせるような強烈な光が入り込む。
 思わずきつく目を閉じて、一つ寝返りを打ち、その光撃から逃げる。
 ゴロリ、ゴロリ。
 二度、三度と寝返りを打った後、少しはショックから立ち直った目を開いてみる。
 物が散乱した部屋。ゴミ袋も四つ。台所に目をやれば洗っていない皿が数枚。机の上にはこの頃あまり使わない参考書が数冊。
 オーケー。ここは彼自身の部屋で、網膜は焼ききれていない。正常、正常。
 そう、自分に言い聞かせて、もう一度寝ようかと横になる彼。
 が、その時視界に入った時計を見て、体だけ上げる。
『一時二十二分』
 時計というものは残酷なもので、電池(えいよう)がある限り動き続ける。ちなみに食わせたのは三ヶ月前。どんな大食漢でも、そうは食い尽くせないはずで、間違いが起こるはずもない。
 光で攻撃してきたインベーダーを見るべく、意を決して黒いカーテンを開く青年。
 レールを走る金具が、無意識にどこか涼しげな音を出す。
  カーテンを開けると、そこからは無限とも思われる終わりの知れぬ光の奔流。
 ああ宇宙人。こんなどうでもいい人なんて襲わないで、もっと有意義な人を襲いなさい。隣のねーちゃんとか、プリプリして喰い頃だとオモイマスヨ?
 そんな馬鹿なことを考えながら眩しさに細めていた目を少しずつ開けて行く。
 そこにはやっぱり宇宙船も、宇宙人も、箒に乗った魔法少女も、そんな非現実はカケラも無く、ただ市の意向で均等な間隔をもって植えられた木と、それなりに綺麗に舗装された道路。そしてそこを走る普通車。
 何も、何も変わらない。つまらない、変わることの無い普遍の日常が転がっていた。
 それが現実。

 日に照らされた道路に虚ろな双眸を向け、シャッ! と激しくカーテンを閉める。
 六畳一間の部屋。ベッドがあって、机がある。
 そこを歩いて、冷蔵庫へ歩く。開く。パックの牛乳を取る。
 パックの口を開け、右手に握り、慣れた様子で自らの口と注ぎ口をキスさせる。
 ゴク、ゴク。喉が液体を嚥下する間、左手は腰に当てられている。
 無意識の性であろうか。
 その一連の動作に迷いは無く、かといって確固たる信念があるわけでもない。
 気が済むまで飲むと、それを戻し、丁寧とはいえない調子でドアを閉める。

 部屋に戻り、テレビをつける。
 独特のなんとも言えぬ耳鳴りのようなものを感じながら、画面に集中する。
 映し出されるのは代わり栄えのしない顔ばかり。どいつもこいつも、変わることは無い。
 今日は幼くして殺されてしまった女の子について話している。
 皆、揃って悲しそうな顔をし、犯人に対して罵詈雑言を叩きつけている。
 その後はプロ野球のどこかが優勝へのマジックがどうという話を始めた。
 先程まで悲しそうな顔をしていた評論家の男が、そこのファンなのか、顔を真っ赤にして喜びを見せている。
 これも仕事だから仕方ないと思いつつも、この豹変振りに口だけで笑う。
 だが、これも現実。

 面白くも無いものを見るのもどうかと思ったのか、テレビを消す。
 同時にポストに何かが投げ入れられる。
 足を運んでみれば、こんなものが入っていた。
『電気料金滞納』
 どうやら先月分の催促のようだ。人は腐るほどいるのだから、一人ぐらい見逃してはくれないだろうか?
 そう思っても、これが現実。

 ふぅと息を吐きながら部屋に戻ると、散乱した物の中に今必要なものが見当たる。
『貯金通帳』
 ぺラリとめくれば、雀の涙ほどの残高。バイトもしなければこうなる。
 もちろん、これも現実。

 何処を見渡してもいやな現実ばかり。
 彼はそんな現実から逃れるようにイスに座り、パソコンでもつけようかと邪魔な参考書を払いのけようとしたら、一冊のノートが目に映った。
『日記』
 いつか書いたな、と思いながら一ページを見てみる。
 八月一日。ニート生活脱却のために始めたと言っている。
 つらつらと見れば、中々どうしてよくやっているではないか。求人誌とはあれだろう、四つあるゴミ袋の中のどれかにある。
 ペラ、ペラ。
 だが、それも長くは続かない。二、三ページ目で終わっている。
 始まりはそれなりに長く、最後に近づけば近づくほど文も単調で短くなるのはなんとも彼らしいといえる。

 ああ、この日記はまるで彼そのものみたいじゃないか。
 でかい口叩いておきながら、結局は半端。
 そして、これも現実。

 少しの間、ショックだったのか呆ける青年。だが、その意識はすぐに引き戻されることになる。
 耳障りにならない程度の電子音。いつか設定した、昔の流行の歌。
 それを奏でる小さな電子器具を取り上げる。
「もしもし」
 その息の根を止めると、少し前までは毎日聞いていた女性の声が聞こえてきた。
 いい関係ではない。むしろ劣悪。
 だって、母親だ。
 これからはどうするの? 仕事のあてはあるの? エトセトラ、エトセトラ……
 ハイ、ハイとだけ返事をして、親の敵にするようにボタンを叩き押す。
 相手は親だが、関係ない。
 その精密機械をベッドに投げ、イスの上で体育座りする。

 いやな現実。もうたくさんだ。
 そう思って目を閉じる。
 暗闇は真っ暗で、何も見えることは無い。
 一度、目を開ける。
 その視線の先には『日記』。
 そらす様に下を見れば、『電気料金滞納』『預金通帳』。
 見たくないと思っても、次は物言わぬ『テレビ』が見ている。
 寝れば終わりだとベッドにダイブすれば『携帯電話』。日付は九月三日になっている。
 ええい、と電源を落とし、自分の電源も落とそうと、張り付いたように固く目を閉ざす。
 だが、その脳裏に蘇るのは母の声。
「あああああああああ!」
 叫んでも解決しないのは明白だが、大声を出さなければやってられなかったのだろう。
 言いながら立ち上がった彼に、先程浴びせられた光が、また。
 次は眩しくても目をそらさない。目を細くしながらも、しっかりと光を見据えてベランダへと向かう。
 外に満る光を見るべく、カーテンを開ける青年。
 レールを走る金具が、無意識にどこか涼しげな音を出す。
 カーテンを開ければ、そこには眩しすぎるほどの現実。
 ただ市の意向で均等な間隔をもって植えられた木と、それなりに綺麗に舗装された道路。そしてそこを走る普通車。
 何も、何も変わらない。つまらない、変わることの無い普遍の日常が転がっていた。
 ベランダに出て、忌々しく道路を見ていた目を少し上に傾ける。
 そこには非現実的な明るさを湛えた太陽。
 そいつだけ、これでもかと自己主張していた。
 それも現実。未来永劫、彼が死んでも変わらぬであろう現実。

「……くそったれ」
 そういい残した彼は、目を落として部屋に戻る。
 彼が現実から逃げるか、現実に生きるか。
 それは彼次第。
 だが、暗幕たるカーテンは開いた。
 世界は、開かれている。
2006-08-24 13:09:15公開 / 作者:大哲
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この作品に対する感想 - 昇順
はじめまして無関心ネコです。
文章からはユーモラスさを読み取れ、なかなか読んでて飽きはきませんね。一つ○です。
ただ気になったのは地の文に違和感がある点です。三人称であるのにかかわらず主人公の言葉で語られてしまっています。いえ、実はそういう書き方もありますが、これはおそらく「失敗」ではないかなぁ(僕主観です)と。ライトノベルなら「イリヤ」なんかがこの手の書き方で成功してますからお勧めです。+
それと、主題ですがニートを冠しているようですが、これはやはりあの某有名引きこもり小説と比べてしまうわけですね。個々の作品に優劣をつけるのはやはり間違っているでしょうが、いかんせんあの作品の勢いに劣るものを感じてしまいました。あんまりダメ人っぽく見えず、意外と普通の人なんじゃないかなぁと思ってしまう。僕がダメ人だからか?(・ω・;)(;・ω・)
彼の目するところがわからないのも悪因の一つでしょう。たぶん。
どこまでも主観にたった身勝手な僕個人の感想です。あまり真に受けないようにして下さいm(_+_)m
ただ笑いのテンポと冒頭にも書いたユーモラスは期待値高いです。今後の展開に期待しますね(*^_^*)頑張って下さい
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2006-08-24 19:43:25【】無関心ネコ

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