『通り雨がすぎるまで』作者:ライラック / AE - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
いつか見た、どこにもない場所へ。行ってみたい。そこは、大切なあの人と出会える場所。どこへ行ったかわからない、もう会えない人と出逢える場所。その場所で、あの人とどんな会話を交わそうか。愛の言葉をかたることのできるたった一つの場所。愛の言葉を語りたいたった一人の人。そんな夢のような物語を。
全角2507文字
容量5014 bytes
原稿用紙約6.27枚
ある夏の冷えた夜空の下でした、たたずむ僕と響く雨音。
うつむいて、歩く人波ながめつつ、待つとしようかしずく雨音。
舞い落ちる木の葉が触れた僕の頬、きっとあなたが今頬笑んだ。
めぐり逢う、いつもその日を夢見てる、あなたの影をどこか探してる。
分かってる、あなたはここにもう来ない、忘れられない儚き日々よ。
この雨が思い出させるはしゃぐ声、大きな傘に入ってきてた。
迎えてた新しい朝、飽きないで夢を見ていたあの日の僕ら。
目に入る松の枝が露むすぶ、秋よ来ないで袖が濡れてる。
ゴロゴロとふいにうなる雷に、駆ける人波ぶつかるあなた。
そうあなた、謝るあなた何言おう、ごめんありがと今もあなたを。
言えないよ、資格が僕にあるのかな、その瞳今何映してる。
この夏の冷えた夜空の下で。響く雨音の中で

「あなたと一緒に居たい」
口をついて出たこの言の葉は、あなたの頬を赤くした。濡れた袖を雨のせいにして、僕は続ける。
「今日はあの大きな傘を忘れたんだ。はしゃぐあなたの声が聞けないのが残念さ」
「もう、そんな子どもじゃない」
そうか。そうだった。もうこんなにも時は流れている。
一人では、大きすぎるあの傘も、ずっとずうっと眠っているんだ。
時とめる魔法があればいいのにな、年重ねても願い続ける。
そんな子どもみたいなことを僕は考えてしまう。あなたはもう大人になってしまったの?
「時計をとめても、時間は過ぎてく。周りのすべてがいじわる、そんな話をしたのを覚えてる?」
「そんな昔のこと……」
その瞳、今映るのは、過去? 未来? それとも僕を映しているの? 
分からない、何を話せばいいのかな、たくさんあるよ、話したいこと。
「ねえ? いつまでこうしていられるの?」
「通り雨が過ぎるまで」
そうか。そうだった。今は雨宿りをしていたのだ。この通り雨がすぎるまで。僕とあなたの時間。空白の過去をうめる時間。思い出にひたる時間。未来への希望を結ぶ時間。ねえ? あなたにとって、通り雨が過ぎるまで。どんな時間なのでしょう。どうか雨よ止まないで。できれば永久に夢の雫を降り注いでいて。僕にとって、あなたが、かけがえのない時間だから。大切な人だから。いつかきっと、またあえる日を信じて、生きてきたのだから。

「今もあなたを……」
身勝手な僕の唇、その動き、留めてくれたの、あなたの唇。
驚いた僕の頬へと手を伸ばし、照れくさそうにつま先立てた。
つぶやいた、あなたの口から愛してる、夢を見ているこの瞬間(とき)僕ら。
 
 僕らは部活で知り合った。手芸部で。
そりゃ体育会系への憧れはあった。でも僕にはどうしても無理だった。部室の窓から見える、少年の活躍と歓声は、遠い世界のように見えた。部室にあなたは居た。今考えれば、よくそれほどの話題があったものだ。毎日放課後、暗くなるまで話していた。本当にたわいもないことを。その時僕はまだ気づいていなかったんだ。あなたの生きる毎日がどんなものか。それに気づいたのは、あなたがずぶ濡れで、部室に入ってきた日。
「たすけて」
と一言つぶやき、泣き崩れてしまった日。いじめられていたんだ。あなたは。
 なぜ? 僕の前では、そんなそぶりを少しも見せなかった。ずっと、楽しそうに笑っていた。その向こうにある悲しみに僕はずっと、気付けなかったんだ。僕は自分を責めた。そして誓った。助けなきゃ。
 
それから僕はずっと、あなたと一緒にいた。そのせいなのか、僕の周りから友達がいなくなる。あんなのと一緒にいるなんて、とささやく声が耳に入る。そのことがまたあなたを悩ませた。あなたのせいで僕も一人になる。そんな状況に耐えられないで居た。
「一緒に居ない方がいいよ。」
「もしも世界中敵に回しても、いつも二人で、醜い嫌われ者で居ようね。」
こんなうすっぺらな言葉が人を掬う、と本気で信じていた、あの頃。状況は一向にかわらなかった。ただ、あの時以来、一度も涙を見せていない彼女の強さに僕は敬服した。いじめから掬うだなんて、本当にできるんだろうか。とくにできることもなく、ただいつも隣に居ることだけで、お互いの心の穴が満たされていたのかもしれない。          

月日は流れた。卒業を意識し始める頃。時間が形を変える頃。助けるだなんて誓いは、果たされることはなかった。ただ、月日が流れるのを待ち続けてた。生きることに意味なんて要らない。そんな気休めを抱きながら。
 二人ぼっち。帰り道。僕は話しかけた。
「ずっと、言いたかったことがあるんだ」
「うん」
「何もできなくて、ごめんね。一緒にいたときは楽しかった、ありがとう。知らない名前の町に行くんだね、さようなら。」
 二人ぼっち。帰り道。あなたが話した。
「ずっと、言いたかったことがあるんだ」
「うん」
「好きだった」
「僕も同じ気持ちでいたんだ。でももう会えなくなるね。寂しいよ。次の場所では、うまくやりなよ」
「うん」
「人波の中、偶然、いつか出会える日が来たら、その時は笑って話をしようね」
 小さくなっていく、あなたの後ろ姿を目に焼きつけていた。橙にそまる街の景色の中に、それは溶けていった。

 驚いた、まさかあなたが口づけを、愛の言葉をつぶやくなんて。
あの頃の、あなたではもうないんだね、大人になってしまったんだね。
いつまでも子どもみたいな僕の事、どういう風に思っているの。
また今も愛の言葉はあなたから、でも今ならば約束できる。
あなたの手、離しはしないもう二度と、かけて誓うよ、あなたを守る。
夢も未来も、あなたとここから。

通り雨が過ぎていった。あなたはいなくなっていた。僕は歩き出した。そうやってあなたは、まるで通り雨のように、僕の前に度々現れるては、消える。その時僕は、いつも思うんだ。
「はじめまして、お久しぶりです」ってね。

ある夏の朝日の照らす部屋でした、まどろむ僕と鳥のさえずり
2006-08-04 15:19:52公開 / 作者:ライラック
■この作品の著作権はライラックさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
はじめまして。普段は作詞をしている大学一回生男子です。
はじめて、小説らしきものに挑戦しました。
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この作品に対する感想 - 昇順
はじめまして。読ませていただきました。ところどころ誤字があったので気になりましたが、言葉じたいは素敵だったように思います。けれど小説ではないかな、という気がしました。普段作詞をされているそうですが、これはまさにその「詞」かな、と。小説というにはずいぶんと足りないように思います。
2006-08-04 18:11:24【☆☆☆☆☆】ゅぇ
作品を読ませていただきました。詩的な作品ですね。言葉の美しさがイメージを喚起させてくれます。しかし、一般論的な小説という見地からこの作品を見ると小説としては物足りないですね。読者の想像力に依存しすぎている感じです。これが長編や中編のプロローグであれば非常に惹きつけられる作品ですね。では、次回作品を期待しています。
2006-08-08 07:57:08【☆☆☆☆☆】甘木
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