『しっぽの無い犬。』作者:ぽろろ / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約2.8枚
珍しい犬が居た。
しっぽの無い犬。
やさしそうなオジサンがその犬を散歩させていた。
「こんにちは」
犬が気になったので、思い切っておじさんに話しかけてみる。
「そのしっぽ、どうしたんですか?」
ボクは尋ねた。
「邪魔だったから切ってしまったんだ。しっぽがバシバシ足に当たることもないし、楽な
もんさ」「それはイイですね」
隣の家で飼われている犬が時折馴れ馴れしくボクをしっぽで叩くのを思い出しながら、言
う。
隣の犬もこうなら良いのに。
「ただ、糞をするからそれだけがすごく嫌なんだ」
それは確かに、嫌だ。
「じゃあ、また」
そう言うと、オジサンはボクに小さく会釈して行ってしまった。

今日もあの犬とオジサンを見かけた。
あの犬は尻が無かった。
「こんにちは」
ボクは昨日のように話しかけた。
「その尻どうしたんですか?」
ボクは尋ねた。
「邪魔だったから切ってしまったんだ。糞をすることが無いからね。楽なもんさ」
「それはイイですね」
隣の家で飼われている犬が時折ウチの前で糞をするのを思いだしながら、言う。
隣の犬もこうなら良いのに。
「ただ、わんわん吠えるから、それだけがすごく嫌なんだ」
それは確かに、嫌だ。
「じゃあ、また」
そう言うと、オジサンはボクに小さく会釈して行ってしまった。

今日もあの犬とオジサンを見かけた。
あの犬は首がなかった。「こんにちは」
ボクはいつものように話しかける。
「その首、どうしたんですか?」
ボクは尋ねた。
「邪魔だったから切ってしまったんだ。全く吠えないし、楽なもんさ」
「それはイイですね」
隣の家で飼われている犬が夜間いつも吠え続けているのを思い出しながら、言う。
隣の犬もこうなら良いのに。
「ただ、栄養を毎時間ごとに点滴したり、世話をするのが凄く嫌なんだ」
それは確かに嫌だ。
「じゃあ、また」
そう言うと、オジサンはボクに小さく会釈して行ってしまった。

今日はオジサンだけを見かけた。
あの犬はいなかった。
「こんにちは」
ボクはいつものように話しかける。
「あの犬、どうしたんですか?」
ボクは尋ねた。
「邪魔だったから切ってしまったんだ。全く世話をしなくていいし、楽なもんさ」
「それはイイですね」
隣の家で飼われている犬の世話を時折任されることを思い出しながら、言う。
隣の犬も居なければ良いのに。
「じゃあ、また」
そう言うと、オジサンはボクに小さく会釈して行ってしまった。

次の日からオジサンを見なくなった。

隣の犬も見なくなった。

2006-05-28 21:15:22公開 / 作者:ぽろろ
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■作者からのメッセージ
初めまして。
此れは、シュールな話が書きたくて電車の中で携帯にぷちぷち打ったモノです。
感想をいただけたら幸いですm(__)m
この作品に対する感想 - 昇順
 空虚性、ちょっと落語の発想に近い感覚だと思います。なかなか結構なアイディアだと思う。ものの存在のネガティブな部分の顕在化とその消除という連環、そして最終的にその存在それ自体の消滅というところにつながるというのが、面白い。ただまあ、こういう寓話性のある話というのは、書いてあること以上のものを詰め込んでいるからこそ面白みが増すという傾向があって、水面下にこの三倍ぐらいたくらみや目論見をもつという人の悪さがあるとより結構だったと思います。発想に至るヒラメキを一度自分の中で十分に消化し、解析して濾過するプロセスがあるとなおよかったなあと。
2006-06-07 03:37:05【☆☆☆☆☆】タカハシジュン
こういう不思議なお話大好きです。なんだか怖いような、おかしいような… 上手く言えないんですが(笑)これからも頑張ってください
2006-06-08 01:54:38【★★★★☆】きゃろ
タカハシジュンさん>面白いと言ってくださり、ありがとうございます。適切なアドバイス、大変たすかります。
確かに、少し悪意が弱いな、と思いました。
次は、読者により深く考えさせるが出来、主人公の悪意を感じさせられるような話にしたいと思います。

きゃろさん>好きと言っていただいてとてもウレシイです。次の作品も頑張っていこうと思います。

感想、アドバイスありがとうございましたm(__)m
アドバイス・感想を次の作品に生かしたいと思います。
2006-06-20 21:02:28【☆☆☆☆☆】ぽろろ
計:4点
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