『一番当たるのは?』作者:PAL-BLAC[k] / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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 ある日の午後、相羽氏はデパートの占いコーナーを訪れた。
 「ひとつ、運勢でも見てもらおうかな」
デパートの1階分のフロアを全部使っているだけに、占いの数もたくさんある。
手近なところで、入り口付近の手相占いに入ってみた。

ブースの中には、白髭を伸ばした老人が座っていた。
 「私の運勢を見てもらいたいんですけどね」
狭い、カーテンで仕切られたスペースに入り、占い師の前に座りながら言った。
 「では、手を出してください」
そう言って、年老いた占い師は手相見を始めた。
 「あなたのこれまでの人生は可もなく不可もなく流れたようですな」
 「よくわかりますね」
びっくりして相羽氏は言った。
 「今後の人生も、同じように流れるでしょう」
 「それじゃぁつまりませんね。何かありませんか?」
そう聞かれて、老占い師は落ち着き払って言った。
 「大きな運命の転機はそう簡単にはやってきませんよ」
 「そういうものですかねえ」
相羽氏は、代金を払って出て行った。

人間、平凡だとか、可もなく不可もなくなどと言われて潜在的に反発する人がいる。
相羽氏もそんな一人だった。
 「他の占いにも行ってみるかな」
そう考えて、手近のタロット占いのブースに入っていった。
 中には、黒いベールをかぶった中年の女性が座っていた。
 「何をお望みですか?」
そう聞かれて、相羽氏はさっきと同じ事を聞いてみた。
 「運勢を占ってもらいましょう」
 「では・・・」
そう言うと、占い師はカードをきった。
カードを並べ、一枚めくった。
 「あなたの上に、大きな変化の兆候が見られます」
相羽氏は、俄然興奮して聞いた。
 「それはなんなんですか?」
 「今後のあなたの生き方を変えるような大きな出来事のようです」
次のカードをめくる。
 「・・・ですが、その兆候は大変にわかりにくく、気づかないこともあるでしょう」
結局、変わらないんじゃないか。そう思って、相羽氏は後にした。

このままでは気持ち悪い。他の占い師に見てもらおう。
そう思うと、今度は、人相見の店の行列に加わった。
しばらく待たされて、相羽氏の番が回ってきた。
 「次の方、お入りなさい」
声に促されてブースに入ると、仕事に疲れた、といった風情の中年が座っていた。
 「実は・・・」
相羽氏が用件を言う前に、遮られた。
 「わかりますとも。相に出ておる。運勢を占ってほしいんですな?」
言い当てられて、相羽氏は仰天した。
 「よ、よくお分かりで」
 「いいですか。運勢というものは心構えひとつで変わるものだ。占いに惑わされてはいけませんな」
 「はぁ」
呆気にとられてうなずく相羽氏。
 「あなたは、人の意見に惑わされやすそうな顔をしておる。注意しなされ」
何がなんだかわからずに相羽氏の占いは終了し、規定の料金を払った。

 「さっきのは、本当に占いなのか?」
勢いに押し流されただけというような気が相羽氏にはした。
もうちょっと見定めて入らないと駄目だな。そう思った相羽氏は、店の入り口の看板を見ながら
どんどん奥に進んでいった。
奥まで行くと、「総合案内」という看板の出ているブースがあった。

 「ここは案内かな?」
総合案内のブースに座った青年に相羽氏は聞いた。
 「そうです」
 「数が多くてどこにはいろうか迷うんだよね」
そう言われて、青年は何度も頷いた。
 「わかりますとも。そういった相談が一番多いんです」
 「それなら話は早い。どこの占いが一番いいんだい?」
 「そうですね・・・。そこのブースでどこが一番当たるかを占ってもらってはいかがですか?」

                                              <了>
2003-11-09 20:20:57公開 / 作者:PAL-BLAC[k]
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■作者からのメッセージ
ま、ありがちな占い話です。

・・・本当に言われた日にはキレかねない位な案内役です(笑)。
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