『顔 FACE』作者:弾丸 / ~Xe - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
「僕」の住む市で、三人の首なし死体が見つかる事件が発生した。不思議な少女大平と僕は、猟奇的殺人の実行犯「和田」を探すことになるが……。 一方実行犯顔コレクター「和田」は、事件発覚にもかかわらず、次々とコレクションの標的を探していき……。 3人の行動が絡み合っていく……。
全角5169文字
容量10338 bytes
原稿用紙約12.92枚
顔  FACE



1

 大平はほっそりとした、真っ白い肌をした中学生の女の子だった。真っ黒い髪を真っ黒い制服の肩の上まで伸ばしている。昔から物静かな女性で、皆と同じように群れることを拒む。いつも教室の隅の席で読書している人だった。一言も喋らない。絶対笑わない。そのせいか、僕達のような[群れ]ている男子からは、この地球ではない、他の星の人ではないかとも言われていた。
 しかし、何故か大平は僕だけに心を許した。
「血まみれの結束という映画を見たわ」
 理由は……分からない。
「悲しい話だった……。すごく」
 大平は帰りの会が終わった直後、僕の机に来てそう言った。僕は鞄を背負おうとしたが、また机に載せて椅子に座りなおした。
「だけど、映画のあちらこちらに、不思議な愛を感じたの」
 皆は不思議に感じていた。誰に話しかけても答えない大平が、なぜ僕にだけ心を許すのか? ……しかし、僕にはどうでも良かった。彼女とは意外と話が合うし、皆もこのことに関しては興味を持たなくなってきたからだ。しかし、毎日話をするわけではない。
「愛、だって? あれは全米を震え上がらせたホラー映画のはずだろ?」
 話をする時間は決まっている。帰りの会の後の、放課後。必ず、皆全員が部活へ向かった後、だ。
「怖さは大したことなかったわね。周りの人がキャーキャーうるさくて」
僕は頬づえを付いて話を聞いた。
「上手く表現は出来ないわ。あなたも見たら?」
大平はそういって自分の席に戻った。
 教室はカーテンが閉まっていたが、間から入ってくる細いオレンジの光が、僕の机と、大平の机を一直線に照らしていた。静寂しかない教室だったので、外から聞こえてくる部活の「音」と「声」が良く聞こえた。


Я

 和田の趣味は、昔から変わらない。人の顔をじっくり見ることだった。いやらしい考えはない。ただ、顔という部分が、他の体のどんな部分よりも魅力的だからだ。
 他のどの部分より、明確に今の心情を語る。楽しいときは顔満面に笑い、悲しいときは涙を流す。どんな人でも、顔を見ればその人の感情を読み取ることができる。暑いときは汗をかき、寒いときは鼻水をたらす。
人が俗に言う心とは、顔なのだ。和田はそう考えた。

 小学六年生の頃、初めて人の顔を持ち帰った。人の顔への憧れは頂点に達しており、学校さえなければ一日中公園にいる人の顔を見ているような生活だった。しかし、見るだけでは堪えきれなくなったのである。
 人の首というのは、意外とあっさり切れるものだ。大きめの包丁で思いっきり首を叩きつければ、もの凄い血飛沫と共に[大好きな顔]がゴロリと転がる。和田はその度に体中を駆け巡る満足感に染まる。同時に自分の服も真っ赤に染めた。その作業は、大体首から下のガラクタに包丁を付きたて、息の根を止めてから公園のトイレで行った。その公園は確かに人はいるが、ホームレスが朝から晩までうろついているような公園だったので、誰にも見つからずに顔を持ち帰るのは簡単だった。
 切った首は、切り口を粘土とガムテープで補強し、釣り用のクーラーボックスに入れて持ち帰った。あらかじめボックスに入れておいたTシャツに着替えて、何事もなかったかのように家に帰るだけで平和な夕食を迎えることが出来た。
 問題は切った首から下の、どうでもいいガラクタの処理だ。一番初めに殺した中年男性の体は、公園のすぐ近くの河川岸の草むらのくぼみに捨てた。しかし、家に帰るとさすがに見つかるのではないか、という不安に襲われる。だが、クーラーボックスを開けてみればそんな不安も吹き飛ぶのだ。
 まず、クーラーボックスごと、風呂場にもっていく。誰も風呂場など覗かないので、持っていくのは容易だった。そして、シャワーを流しながらボックスを開けて顔を取り出す。そのときの感動を、和田はまだ忘れていない。真っ赤に染まった髪の毛を丁寧に洗い、シャワーでまた流す。そしてまたボックスにしまえばいい。そうした作業を繰り返し、和田のコレクションは二つ、三つと増えていった。自分の部屋の冷蔵庫に保管する。腐らないようにする薬品は最近やっと手に入ったため、保存できているのは5個ぐらいだ。

 あの死体は、今も見つかっていない。あの公園からは、3人のホームレスの顔が消えた気がする。

 


Я

 次の日、僕は目が覚めるとすぐにベッドから降りた。目覚まし時計の針は、5時30分を刺している。両手を頭の上に伸ばして体を伸ばし、薄暗い4畳の部屋のカーテンを開けた。外は薄暗く、曇っていたようだが、外の景色を見る間もなく僕は忙しく部屋を出て階段を降りた。少し寝坊した。
 リビングに入っても誰もいないのは毎度のことだ。気にせず冷蔵庫を開ける。中のオレンジ色のライトが、暗いリビングを広く照らす。が、中に何もないということも強調していた。小さく舌打ちをしたが、隣の部屋の両親に文句を言う暇もない。スウェットを脱ぎ捨て、昨晩たたんで置いたジャージに着替える。絶えず時計の針を見ていたが、着替えている間に一回だけ長い針が動いたのを見逃さなかった。一分一分が無駄に思える。着替え終わり、準備が整う頃には、時刻は5時45分を刺していた。五分余裕がある。僕はソファにどっかと座り、テレビをつけた。つけた瞬間、超音波のような、テレビの付く音がリビングに響き、次第にアナウンサーの姿がぼんやりと映る。そして、暗闇の中から透き通った女子アナウンサーの声が浮き上がって、僕の耳に届いた。
「……ったニュースです。昨夜未明、○○市内の河川岸で、3人の男性の死体が見つかりました」
 毎朝のように聞こえてくる、殺人事件のニュース。ぼんやりと見ていても、面白みは無いかと思えた。
「男性の死体は河川岸の5メートルほどの穴に放り込まれており、死後数年経っていました。いずれの死体も首から上がなく、警察は殺人事件とみて捜査を続けています」
 来た!!久々の猟奇殺人と言う物だ。鳥肌が立つ。しかも、自分の住む市で、だ。僕は殺人事件のニュースを聞くのが好きだった。綺麗な女子アナが残虐的な殺人事件を、澄ました顔で僕に伝える。その眼光までもが殺意に見えてくるのが好きだった。しかし最近のニュースは暇だ。胸を包丁で刺す?頭をバットで殴る?殺意は[カッとなって]?暇だ、暇。見ていても楽しくない……。

 殺人=猟奇という僕の中の理屈。やっとその理屈に沿う事件が起きた。首から上がなく、聞けば心臓を刃物で突き破っているそうではないか。僕は犯人の動機を予想した。
[楽しむため]
 すぐに予想は付いた。間違いない。楽しまなければ、3人も同じ手口で殺すはずがない。首は捨てたのではない。持ち去った。勝手な妄想……いや、自分の中の猟奇殺人犯像を膨らませていくうち、時間は過ぎていった。ソファに僕は座り込み、天井を見つめ続けた。
大平に話せば、必ずこんな返事が返ってくるに違いない。


「犯人を探して、会ってみない?」
その問いかけに、僕は100%頷く自信があった。


2

和田はニュースを見て絶叫した。
……ついにバレた。
スウェット姿でテレビの前に呆然と立ちすくむ。カーテンも雨戸も締め切っていたから、リビングは真っ暗だった。いたるところの壁、引き出しなどにテレビの光が当たる。
……間違いなく、警察がハイエナのように俺を追い詰めるだろう……。俺の腕に、重たい鎖がくくりつけられる……。
フラフラとカーテンを開ける。和田の心境とは真逆の青空とまぶしい日光がリビングに降り注ぎ、フローリングに光の広場を作り出した。それでも心は晴れない。ニュースはCDのオリコンチャートに移り、アーティストが得意気に唄を歌っている。
……つかまりたくない。人の顔は見るだけで十分だ。だから、毎日たくさんの顔を見られる教師という役職についたのだ!!
 自分の部屋の大型冷蔵庫の中の、たくさんのひしめく顔達を思い浮かべる。顔への情熱より、逮捕という不安の方が、今だけ上回った気がした。


Я

 今日は大平が休みだった。理由は家の用事との事だった。皆はそんなことには全く気づかずに過ごしている。それは普段の大平の存在感の薄さにも通じているのだと思う。僕も放課後以外は大平と話さないからか、友達と絡んでいる間はそのことも忘れていた。
 彼女が皆から避けられ、彼女自身も皆を避けている理由。それは彼女の心の奥底にある[暗黒]という部分が原因だと感じる。大平には、眼に見えない膨大な闇を抱えている。ほんの想像に過ぎないが。
 一週間前のことか。放課後、友達とかくれんぼ中に、僕が図書室へ飛び込んだ。いつもは本当に誰もいない、何百冊もの膨大な本がただ並べられているだけの部屋だった。しかし、その日は違った。窓際の一番後ろの席で座っていたのは無論彼女だった。夕方の夕日の光が斜めに図書室を横切っている。その中で彼女はただ一人、本を読んでいた。僕は興味本意で大平の席へ駆け寄った。
「あら」
大平は短く僕に反応すると、パタンと本を閉じた。
「何故ここに?」
彼女が読んでいた本は「死ぬ ということ」という分厚い辞書のような本だった。
「もちろん読書だわ」
僕は机に置かれた本を横目に見たが、読んでいた本には触れずに話を続けた。
「いつもここにいるの?」
彼女は立ち上がり、机をまじまじとみた。そしてハッとして机に置かれた何かを慌てて鞄にしまった。なんだったかはよくわからないが。
「そろそろ帰らなくっちゃ」
彼女は僕の質問には答えずに立ち去った。僕はまじまじと机の上の本に目をやったが、廊下から聞こえた物音に気づき、掃除のロッカーに飛び込んだ。

 あの時、彼女がしまったもの。あれは確か、カッターナイフだった気がする。

Я
 和田は初めて、人の顔を一回も気にせずに出勤した。職員室に入って、飯島先生に声を掛けられる。
「元気、ないですね」
飯島先生は綺麗な顔をした優しい先生だった。音楽担当で、生徒にも人気がある。
「ちょっと、気分が悪くて……」
嘘をついたわけではない。和田は今朝のニュースをみて朝食も食べずに出勤した。それもあってか、学校に付く頃にはすっかり気分が悪くなっていた。
 飯島先生は和田の席の隣だ。
「今朝のニュースみましたか? 首なし死体がこの近くの川で見つかったんですよ」
和田は余計気分を悪くする。また自分の家の顔たちを想像した。
「そうなんですか」
和田は短く答えた。
「許せないというか、言葉も出ないですよね。首は見つかってないらしいんですよ」
「持ち去ったということ、ですか?」
それは誰よりも分かりきった事だ。自分で聞くのも馬鹿馬鹿しく思えた。飯島は机に肘を付いて頷いた。
「そういうことですよね。きっと、人の顔をコレクションするような悪魔が持ち去ったんです」
和田は笑い声を上げた。言っている事は自分にぴったり当てはまった。それが逆におかしかったのだ。
「確かにそうかもしれませんね。僕には考えられない」
和田はそう言ってテストの丸付けを始めた。
「やっぱりそうですよね! あの川の近くにはこの学校の生徒がたくさん住んでるから、きっと騒ぎになっていると思いますよ。そこらへんは先生も指導をお願いしますね」
 軽快に動いていた赤ペンが止まる。ゆっくりと飯島先生の顔を見た。
「……あの川の周りには、生徒がたくさん?」
恐る恐る尋ねると、飯島先生はええ、と返事した。
「10人ぐらい住んでいたと思いますよ。現場をみた人もたくさんいると思いますからね」
和田の鼓動はどんどん早まる。焦る気持ちを堪えてまた丸付けをする。
「あれ? 和田先生……」
和田はビクリと彼女の方を見た。彼女の視線はテストの模範解答へと向かっている。
「そこはX=12になっていますよ」
単純な方程式の採点ミス。和田は震える赤ペンを抑えながら修正した。飯島先生は愛想笑いを僕に向けて自分の席を立ち去った。
 あの川の周りには、生徒がたくさん…住んでいる……?
和田は言いようのない焦りに襲われた。いつか、その生徒達に正体がバレないか。ありえないことに見えるが、絶対にありえる。テストの名前欄の名前を一人ずつ確認していく。
 尾上、駒崎、山田、小嶋、森野、大平……。一人一人の名前が、自分を睨みつけているように感じた。
2006-06-02 15:49:34公開 / 作者:弾丸
■この作品の著作権は弾丸さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 どうも、弾丸です。前作の更新をすこしサボっていたせいで、また現行ログから落としてしまいました……。
 ミステリ、という分野は余り挑戦したことがなく、分からないことだらけでした。
勝手ながら、主要人物切り替えの記号にЯという記号を使わせていただきました。
この作品に対する感想 - 昇順
[簡易感想]
2006-05-06 18:41:50【☆☆☆☆☆】スイミンブソク
日記調の文で良い感じですが、題名が有名作品と被っているのが気になります。まあ、内容から考えれば妥当な題名とは言えるのですが―
2006-05-06 18:45:33【☆☆☆☆☆】スイミンブソク
作品を読ませていただきました。大平の立ち位置、和田の嗜好、主人公とおぼしき少年が大平に抱く感情などもう少し書き込んで欲しかったです。猟奇事件を淡々と書くのはいいですが、正常な視点が弱いため異常さが異常に感じられなかったです。では、次回更新を期待しています。
2006-05-07 23:42:14【☆☆☆☆☆】甘木
はじめまして。風間新輝です。これからの内容がたのしみですね。猟奇的であっても狂人の理論ありってやつですよね? 僕としてはもう少し和田の理論をがっつりと深くしていくと味がでるのかなと思いました。ミステリは大好きです。次回更新期待してます。
2006-05-10 23:55:32【☆☆☆☆☆】風間新輝
はじめまして、読ませていただきました。とても独特な文章の書き方ですね。淡々としている内容が、とても印象深いです。またこの話の構図、設定、出てくるキャラクター、とても興味深いです。どうやって考えたのでしょうか?すごいですね。
 このお話で出てくる大平さん、いわゆるGOTHというものなのですね。このお話には必要不可欠な人物ですね。
では、次回も更新、頑張ってください。また更新されたら、感想書かせていただきます。
2006-06-08 00:35:09【☆☆☆☆☆】森野 夜
皆さん感想ありがとうございました。

スイミンブソク様

 すいません。全体的に読書量の少ない自分、同タイトルの本というのは聞いたことがありませんでした。そこで検索エンジンから検索したところ、見事に同タイトルがHIT致しました。徳間書店から発売されており、どうやらドラマ化までされていたようです。配慮が足りませんでした。タイトルの改定を考えてみようと思います。
 甘木様
 描写不足は課題として取り組んでいます。感想ありがとうございました。
 風間新輝様
 感想ありがとうございます。和田の理論はこれから少しずつ膨らましていけたらな、と思いました。
 森野 夜様
感想有難うございました。
 GOTHというものですか……。またまた自分は知識不足で、GOTHという言葉を知りませんでしたので、またYAHOO!辞書の検索エンジンで検索しました。HITしたのは、ゴータ【Gotha】、ゴータ【Gotha】、ゴシック【Gothic】という項目でした。ゴータというのはドイツ中部の都市らしいのですが、他の二項目は理解に苦しんでしまいました。スイマセン…。
2006-06-16 21:07:10【☆☆☆☆☆】弾丸
計:0点
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