『不自然な空間――覚醒』作者:小田京輔 / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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 友達からもらった変なクスリを飲んだんだ。
 銀色のカプセルに入った、すっごくクールでカッチョイイ感じのクスリをさ。
 飲み始めてすぐに、何だか猛烈な吐き気に襲われたんだ。トイレに駆け込んでゲェゲェやってみたんだけど、不思議と僕の胃袋からは何も出てきやしなかった。とりあえず喉がヒリヒリしたんで、水道の水をガブガブと飲んだよ。
 しばらく経って吐き気もおさまって、僕は胃の辺りをさすりながらカーペットの上に寝っ転がっていたんだよね。それから三十分ほど経った頃、今度はなんだか猛烈な眠気に襲われてきたんだ。
 どんなに頑張って目を開けてようとしても、どんどんどんどん瞼が重くなってきて。身体中がどんよりと重くなってきて。……あ、こりゃダメだ。寝ちまうわ――って思った瞬間、目の前が深い、深―い真っ暗闇になったんだよね。

 それにしても変な夢だったよ。
 僕の身体がものすごーく小さくなってしまった夢でさ。
 周りを歩いてる子供たちの姿が、まるで巨大怪獣みたいに思えたもんだ。そいつらがノッシノッシと、地響きをあげんばかりの重量感で歩き回っていやぁがるんだ。もともと子供が大嫌いだった僕は、「ああ、こいつらの傍を一刻も早く逃れたいなぁ」なんて心の中で思ったんよ。「ああ、飛んで逃げていけたらなぁ」なんてね。そしたら何と! 僕の身体がみるみる宙に浮いていくじゃないか!
 よく見ると僕の背中には黄緑色の立派な羽が生えていて、そいつがバッサバッサと景気良く羽ばたいていやがんの。
 僕は見る見るうちに子供怪獣たちの傍から離れて、風に乗ってふんわりふんわりと飛んでいったわけさ。
 ああ、空を飛べるっていうのはとっても不思議な感覚だねえ。なんだかとても気分が良かったよ。だけど飛行機やヘリコプターなんかと違って僕は自力で飛んでいたから、しばらく飛びつづけてると段々疲れてくるんだよね。背中の、羽の付け根辺りが徐々にシビれてきてさ。「ああ、そろそろ休みたいなぁ」なんて呟いたら、目の前にちょうどいいモノが見えてきたんだ。
 小高い丘みたいなところ。
 芝が一面に生い茂っていてさ。昼寝するにはちょうど絶好の場所って感じだった。さいわいなことに、その辺りにはさっきみたいな子供怪獣たちも見当たらなかったしね。
 僕は頑張ってそこまで飛んでいくと、丘の中腹辺りにフワリと舞い降りたんだ。そのときの着地! すっげぇ格好良かったぜ! パラグライダーとかスカイダイビングとかはやったこと無いけどさ、あれほど見事に着地が決められるヤツなんてそうそういないぜ!
 ってな感じで上機嫌で丘に降り立った僕は、真上の太陽を眺めながらゴロリと芝の上に横になったんだ。風がそよそよと吹いていて、とっても気持ちよかったね。

 どれくらいそうしていただろう?
 なんだか身体中がカッカしてきて目が覚めた(夢の中で「目が覚めた」っちゅうのも面白いもんだね)んだ。いや、身体だけじゃなくて、なんだか頭の中の脳みそまでカッカしているような感じだった。
 とりあえずその場に飛び起きて両手を伸ばすと、なんだか背後からジ――っと熱い視線を感じる。背中がむずがゆい感じで振り向いたら、うひょっ! すんげえイイ女が僕のことを見つめていやがんの! マジでグラビアアイドル真っ青のナイスバディでさっ。顔もアイドル顔負けの超キュートなもんだから、こりゃたまらんって感じだったよ。
 しばらくその子を見つめたまま僕が動けないでいると、驚くことにその子から僕に近寄って来るじゃない! それも満面の笑顔で、シャツの胸元を大きくはだけてさっ! 呆気にとられて立ち竦んでいると、彼女は見る間に僕の目の前まで近づいてきて、なんと驚くべきことに僕の首に腕をまわして抱きついてきたんだ。
 僕の理性は完全に吹っ飛んだね。
 完全にコワレタね。
 僕は彼女の身体を強く抱きしめながら、その場に勢い良く押し倒したんだ。彼女はビックリするどころかなんだかとっても嬉しそうな、楽しそうな、ものすっごく妖艶な瞳で僕を見返していたよ。
 それからしばらく、僕はこの世のものとは思われないほどの快楽を味わった。
 最高ですか――? ハーイ、最高で――す! ってなぐらいに最高だった。
最高、最高、最高!
 僕が絶頂のうちに果てて、ぐったり彼女にもたれかかったとき、なんだか彼女の身体からヘンな臭いが立ち込めてきたんだよね。なんかこう、生理的にいやぁな臭いが……。
 こりゃなんだろう? って思って彼女の顔を見返してみたら……な、なんとっ! 彼女の顔がカマキリに変わってしまっているじゃあないかっ!
 僕は焦ったね。
 メチャメチャ焦ったね。
 だってカマキリのメスとヤっちゃったら、その後はそのメスに自分の身体を喰われちまうんだろう。そんなんイヤだっ! ぶるぶるぶるぶる。いやいや、一気に興奮の絶頂から恐怖のズンドコ――もとい、恐怖のどん底に突き落とされた感じだったね。
 僕は必至で逃げ出そうとした。だけど、そのメスカマキリがしっかりと僕の身体を抱え込んでいて、まったく身動きが取れないんだ。メスのくせに、すんげえバカぢから!
 もがいてもがいて、もがきまくったね。それでもメスカマキリの力は緩まることをしらない。みるみる僕の体力は奪われていく。
 そこで考えたね。
 どうやってこの状況を打破すればよいか。
 こたえはすぐ目の前にありやした。
 そうだ! このメスカマキリをぶっ殺してやればいいんじゃん! 明瞭簡単、オッケーでーす。
 そう思ったら早い早い。
 僕はメスカマキリの首に自分の両手を描けて、力いっぱい締め付けてやったい。最初は激しく抵抗してたメスカマキリだけど、そのうち見る見る弱っていったね。なんだかヘンな声をあげちゃってさ。
 ガッ、ギッ、グッ、ゲッ、ゴヘッ……みたいな。
 しばらく経ったらまったく動かなくなった。僕はようやく安堵の吐息を洩らした。メスカマキリの身体から離れて、しばらくその場に座り込んでボ――っとしてたんだ。たまにチラリと横目で見るけど、メスカマキリはピクリとも動かなかった。それでも何となく……不安になったんだよね。今にもむっくりと起きだして、僕に逆襲してくるんじゃないかって。そこでまわりを見回したら、何故だかわかんないけどおあつらえ向きに包丁が一本落ちてる。おっ、こりゃラッキー! なんて小躍りしそうになっっちゃったっけ。
 僕は包丁を手に戻ってくると、ぐったりと動かないメスカマキリの身体を丁寧に切り刻んでいったんだ。少しずーつ、少しずーつ、ゆっくりとじっくりとね。バラバラになったメスカマキリは、まるで組み立てる前のプラモデルのパーツみたいになっちゃった。そこで僕の、ほんの邪気が出てしまったんだな。
「よーし、今度はこのパーツを組み立ててやるぞ!」なんて意気込んだら、せっかくの夢から本当に覚めてしまったっていうわけさ……。
 なんだか知らないけど、僕の回りにおまわりさんがいっぱい集まってきててさ。

 ねぇ、おじさん。じゃなかった、弁護士の先生だっけ? 今までありのままに話してきたわけだけど、これから僕、一体どうなっちゃうの? え? 猟奇殺人の現行犯だから慎重に……だって? リョウキサツジンって何よ? え? 麻薬中毒? まっさかぁ、この僕が? このクリーンな僕が? ったく、冗談もほどほどにしてよ。どうでもいいけど早く家に帰りたいんだよね。家に帰って、早くザクのプラモデルを作りたいんだ。
 もう帰ってもいいかな?
 ああ、帰りたいなぁ。
 ……帰りてぇな……。
 ……オイ! なんだよ、その顔は! 俺は帰りてぇって言ってんだよ! なぁ、オイ! いつまでもおとなしくしてりゃあ――。



         糸冬
2006-02-02 18:27:49公開 / 作者:小田京輔
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■作者からのメッセージ
はじめまして。小田京輔と申します。こちらは皆さんレベルが高いですね。こんな場に自分のような未熟者が投稿していいものかどうか迷いましたが、思い切って初投稿させていただきました。一人でも多くの方にお読みいただき、そしてアドバイスをいただけたらと思っております。どうぞよろしくお願いします。
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