『ストロベリー・キス』作者:宣芳まゆり / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約7.19枚
「ねぇ,山猫さん.キスして.」
コタツの上に,教科書や参考書を広げているにもかかわらず,彼女には学習しようという気はないらしいです.
「お断りします.」
同じコタツに入りながら,私は丁重に彼女に言いました.

「なんでよ!?」
むっとして彼女は言い返します.
「そうですね.1.私はロリコンではないから,2.私は子供の誘惑に乗るほど馬鹿ではないから,3.あなたの鉄拳が怖いから,のどれかでしょう.」
「何よ,それ.」
シャーペンを持ったまま,彼女はむくれてしまいました・・・.

あ,申し遅れました.
私の名前は山根と申します,・・・決して山猫なんて本名ではございません.
27歳の大学院生です.

ちなみに彼女は17歳の高校生でございます.
恋愛に対して,好奇心や興味の方が先走る年齢なのでしょう.

「この前つきあってって言ったときに,いいよって言ってくれたじゃない!?」
確かに,そうです.
「それとこれとでは,話が違いますよ.」
まだまだ幼い彼女に,手を出すつもりはありません.

彼女とは,ある事件をきっかけに知り合ったのですが,しかもありがたくないことに殺人事件です,事件が解決した後も,たびたびこうやって私のアパートに押しかけてきます.
そうそう,実は彼女はその事件を担当した刑事さんの娘さんだったのですよ.

「じゃ,この問題を教えてよ.」
と,今度は私の鼻っ面に,参考書を押し付けます.
「物理,山猫さんの専門分野でしょ.」
はい,そうです.
私は,大学で理論物理を専攻しております.
「古典力学の問題ですね・・・.正直簡単すぎて,研究者としてやる気が起きないのですが・・・,」
ニュートンは尊敬しておりますが・・・.

「それなら,どんな問題なら喜んで解いてくれるの?」
ますます機嫌の悪くなった様子で彼女は聞いてきます.
「そうですね,誰にも分からない,誰も答えを知らない方程式なら,解いてみたいですね.」
それは,研究者としての欲ですね.

そういえば,冷蔵庫に・・・,
「イチゴ,食べませんか?」
「へ?」
彼女は素っ頓狂な声を上げました.

私はいそいそとコタツから出て,台所の方へ向かいます.
「お好きでしょう,イチゴ.」
これで,彼女の機嫌が直ってくれるでしょう.
「え?イチゴなんて嫌いよ.」
あれ?
「この前,イチゴのアイスをおいしいと言って食べていたじゃないですか?」
せっかく奮発して,ハウス栽培の高いイチゴを買ってきたというのに・・・.

「だって,あれはイチゴじゃないもん!イチゴは形が嫌なの,あの黒いぶつぶつが,気持ち悪いの.」
眼をつぶって食べたらいいのでは,と思いますが・・・.
「仕方ありませんね,一人で食べます.」

私は冷蔵庫からイチゴのパックを取り出しました.
「食べたことはおありなのですか?」
パックから取り出したイチゴを洗いながら,私は尋ねました.
「無い!」
彼女は自信満満に答えます.
食べず嫌いですか・・・,私はため息をつきました.
「未知の領域に手を出さないと,科学は発展しませんよ.」
「私は,科学者にならないもん!」
はぁ,そうですか・・・.

しかしこれ以上彼女の機嫌が悪くなると,いつ怒りのローキックだの往復ビンタだのが飛んでくるのか,分かりません.
そう,あのとき・・・,私ががたいのいい男を指差して,「あなたが犯人です!」と叫んだときに逃げ出した男を,彼女は追いかけて一瞬でのしてしまったのです.

さすが,刑事の娘です.
いつか,親の職業と子供の戦闘能力の関係を,グラフにプロットでもしてみたいものです.

「イチゴよりも,私を食べてくれたらいいのに・・・.」
・・・・・・・・・・・・・・・.
・・・・・・・・・・・・・・・.
・・・・・・・・・・・・・・直球ですね.

思わず,イチゴを洗う手が止まりましたよ.
「科学者にならないのなら,なぜうちの大学の理工学部志望なのですか?」
皿にもったイチゴを持って,私はコタツに戻りました.
「え?だって,山猫さんと同じ大学に行きたいんだもん.」

「そんなことで,大学を決めないでください.」
私はけっこう充実した研究生活を大学で過ごしております.
彼女にも有意義な大学生活を送ってほしいのです.
すると,彼女はなぜか傷ついた顔をして,そっぽ向いてしまいました.

「山猫さん,私のこと好きなの?」
涙ぐんだ横顔で彼女は聞きました.
「好きですよ.それより,イチゴを食べてみませんか?」
高かっただけはあって,甘くておいしいです.
「食べない!!」
彼女は私の顔をぎっとにらんで,再び横を向いてしまいました.

「イチゴ・・・,」
私は横を向いた彼女の唇に,イチゴをあてて言いました.
「食べたら,キスしてあげますよ.」
「え!?」
彼女は驚いて,私の方を向きました.
その彼女の柔らかな唇に,イチゴをうりうりとあてて,戸惑う彼女の顔を観察します.

真っ赤なイチゴと,桜色の彼女の唇・・・.
どちらが,より甘くておいしいのでしょうか.
この難解な命題に対する解を,誰か教えてくれませんか?

「じゃ,じゃぁ,食べるから・・・,ちゃ,ちゃんとしてよ!」
真っ赤になって,彼女はせいぜい強気に言い張ります.

誰にも分からない,誰も答えを知らない方程式.
解いてみたくなるのは,男の性でしょうね.

彼女が口を開けて,イチゴを口に入れようとした瞬間,私はイチゴを彼女の口から奪い,一口で食べてしまいました.
「え!?」
彼女が非難の視線を私に送ります.

しかし,文句は言わせません.
彼女の意外にきゃしゃな背中をしっかりと抱き,唇を塞ぐ.
あれほどせっついていたくせに,抵抗をする彼女を抱きしめ,離さない.

「・・・イチゴ,おいしかったですか?」
すると,腕の中で彼女は真っ赤になって答えました.
「は,初めてのキスなのに,なんてことをするのよ.」
「未知の領域が一度に二つも経験できて,よかったじゃないですか?」
ついでに,イチゴもいっぱい食べてください.
なんせ,高かったのですから.

「や,山猫さんのばかぁ!!!」
火花が散りました・・・.
どうやら,彼女のアッパーパンチが私の顎にクリティカルヒットしたようです.

「ご,ごめんなさい!山猫さん.」
薄れゆく意識の中で,彼女の謝罪する声だけが聞こえました.

・・・いいのですよ,私の子猫さん.
あなたという未知に触れて見たいと思ったときから,なんとなくこの展開は予想していましたから・・・.
2003-11-08 02:27:43公開 / 作者:宣芳まゆり
■この作品の著作権は宣芳まゆりさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
Senyoshi Mayuri。現代ものラブコメディです.
普段,ファンタジーばかり書いているので,これはなかなか新鮮でした.
しかし,私が書くとどうしても男性の方が強引ですね・・・.
この作品に対する感想 - 昇順
基本的なことばかりで申し訳ありませんが、「,」「.」などは使わないほうがいいと思います。
2003-11-08 08:40:43【☆☆☆☆☆】匿名
「,」や「.」は見慣れないので少し戸惑いましたが、ストーリーはとても甘くて素敵でしたvv
2003-11-08 08:45:15【★★★★☆】カニ星人
「愛」っすか。まだ恋をしたことがないのでこうはいかないだろうなあと思いました。(笑)
2003-11-08 09:22:23【★★★★☆】柳沢 風
愛ですねぇ・・。良かったです
2003-11-08 11:42:23【★★★★☆】はるか
山猫さん、大人ですねぇ・・。とってもステキですvv
2003-11-08 11:50:54【★★★★☆】輝
面白かったです!!
2003-11-08 16:51:47【★★★★☆】流浪人
面白かったです。憧れでふ(何
2003-11-08 21:39:25【★★★★☆】晴香
面白かったですww山根さんみたいな人、良いですね♪
2003-11-09 23:00:59【★★★★☆】悠
計:28点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。