- 『朝、目が。』作者:六花 / AE - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
- ぽかりと抜け落ちる日常。明日が必ず来るとは――限らない。
- 全角4759.5文字
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原稿用紙約11.9枚
朝、目が覚めた。
うるさく鳴るヒヨコの形の目覚まし時計を叩いて黙らせた。
目を擦りながら、制服に着替えた。制服のリボンは細長い紐状で少し結び難い。
昨日のうちに用意しておいた鞄を持って、台所に下りた。机の上に置いておいた課題を取りに、一度部屋に戻った。
台所ではお母さんと妹が朝ごはんを食べていた。
トーストとハムエッグだった。
鞄を置いて自分の椅子に座った。
台所のテーブルは四人がけで一つ空いていた。残る椅子に座るはずのお父さんはいなかった。仕事が忙しいのだと、昨日も今日もいなかった。
お母さんが私の分のコーヒーを入れるために立ち上がった。
「お父さん、今日も遅いのかな」
今日は早いはずよ、とお母さんが答えた。
トーストにバターを塗った。ハムエッグには塩コショウをかけた。
お母さんがコーヒーを差し出した。
私が愛用しているマグカップじゃなかった。
「お母さん、私のカップは? 」
何言ってるの、そんなものないじゃない、とお母さんが言った。
可笑しなお姉ちゃん、と妹が自分の愛用のマグカップでコーヒーを飲みながら言った。
付けっぱなしのテレビで、どこかの女子高生が飛び降りをして今も意識不明の重体なのだといって、司会者が『最近の命を軽視する風潮は……』と嘆いていた。
天気予報を見た。今日は晴れだった。
朝ごはんを食べ終わった妹が今日は日直だからと、先に家を出て行った。
アンタも早く食べなさいとお母さんが言った。
トーストとハムエッグを食べた。バターを塗りすぎたトーストは少し油っぽかった。
お客様用のコーヒーカップでコーヒーを飲んだ。
すこし量が物足りなかった。
食べ終わると、家を出て学校へ行った。
学校は歩いて15分で着いた。
同じクラスの子と挨拶をした。
教室でなんの役に立つのか分からない授業を受ける。今日は昨日よりも五ページも教科書が進んだ。
授業が終わった。
比較的親しいクラスメイト達と一緒にお昼ごはんを食べた。
昨夜のトレンディードラマを見た?と訊かれた。見ていないと答えたら、つまらなそうな顔をされた。
食べ終わって、午後の授業が受けた。すごく眠かった。
寄り道していこうという友達の誘いを断って家に帰った。
家には誰もいなかった。
制服を脱いで、私服に着替える。脱いだ制服はハンガーにかけた。
何もする気がなくて、ベッドに倒れこんだ。
使っていたはずの愛用のカップの事が気にかかった。
どんな柄だったか思い出せなかった。
それでいいの?、と誰かが言った気がした。
「だって、思い出せないんだもの」
誰かにそう答えて、目を閉じた。
朝、目がさめた。
うるさく鳴るヒヨコの形の目覚まし時計を叩いてだまらせた。
目をこすりながら、制服にきがえた。制服のリボンはほそ長いひも状で少し結びにくい。
昨日のうちに用意しておいたかばんを持って、台所に下りた。机の上に置いておいたかだいを取りに、一度へやに戻った。
台所ではお母さんと妹が朝ごはんを食べていた。
トーストとハムエッグだった。
かばんを置いて自分のいすに座った。
台所のテーブルは四人がけで、残るいすに座るはずのお父さんはいなかった。仕事が忙しいのだと、昨日も今日もいなかった。
お母さんが私の分のコーヒーを入れるために立ち上がった。
「お父さん、今日もおそいのかな」
何言ってるの、そんなものないじゃない、とお母さんが答えた。
おかしなお姉ちゃん、と妹が言った。
トーストにバターをぬった。ハムエッグには塩コショウをかけた。
お母さんがコーヒーを差し出した。
私が愛用しているマグカップじゃなかった。
付けっぱなしのテレビで、どこかの女子高生が飛びおりをして今もいしき不明の重体なのだといって、司会者が『最近の命をけいしするふうちょうは……』と嘆いていた。
天気予報を見た。今日は晴れだった。
朝ごはんを食べ終わった妹が今日は日直だからと、先に家を出て行った。
アンタも早く食べなさいとお母さんが言った。
トーストとハムエッグを食べた。バターをぬりすぎたトーストは少し油っぽかった。
お客さま用のコーヒーカップでコーヒーを飲んだ。
すこし量が物足りなかった。
食べ終わると、家を出て学校へ行った。
学校は歩いて15分で着いた。
同じクラスの子とあいさつをした。
教室でなんの役に立つのか分からない授業を受ける。先生の顔が知らない顔だった。
今日は昨日よりも五ページも教科書が進んだ。
授業が終わった。
ひかく的したしいクラスメイト達と一緒にお昼ごはんを食べた。
昨夜のトレンディードラマを見た? ときかれた。見ていないと答えたら、つまらなそうな顔をされた。
食べ終わって、午後の授業が受けた。すごく眠かった。
寄り道していこうという友だちのさそいを断って家に帰った。
家には誰もいなかった。
制服をぬいで、私服に着替える。ぬいだ制服はハンガーにかけた。
何もする気がなくて、ベッドにたおれこんだ。
いたはずのお父さんの事が気にかかった。
どんな顔だったか思い出せなかった。
それでいいの?と誰かが言った気がした。
「だって、思い出せないんだもの」
誰かにそう答えて、目を閉じた。
あさ、目がさめた。
うるさくなるヒヨコの形のめざましとけいを叩いてだまらせた。
目をこすりながら、せいふくにきがえた。せいふくのリボンはほそ長いひも状で少しむすびにくい。
昨日のうちによういしておいたかばんを持って、台所に下りた。机の上においておいたかだいを取りに、一度へやに戻った。
台所ではお母さんがあさごはんを食べていた。
トーストとハムエッグだった。
かばんを置いて自分のいすに座った。
台所のテーブルは四人がけで、いすは二つ空いていた。妹はいなかった。
お母さんが私の分のコーヒーを入れるために立ち上がった。
「お母さん、あの子は? 」
何言ってるの、そんなものないじゃない、とお母さんが答えた。
トーストにバターをぬった。ハムエッグには塩コショウをかけた。
お母さんがコーヒーを差し出した。
私があいようしているマグカップじゃなかった。
付けっぱなしのテレビで、どこかの女子高生が飛びおりをして今もいしき不明のじゅう体なのだといって、司会者が『さいきんの命をけいしするふうちょうは……』となげいていた。
天気予ほうを見た。今日ははれだった。
アンタも早く食べなさいとお母さんが言った。
トーストとハムエッグを食べた。バターをぬりすぎたトーストは少し油っぽかった。
お客さま用のコーヒーカップでコーヒーをのんだ。
すこしりょうが物足りなかった。
食べおわると、家を出て学校へ行った。
学校は歩いて15分で着いた。
同じクラスの子とあいさつをした。
きょうしつでなんの役に立つのか分からないじゅぎょうを受ける。先生の顔が知らない顔だった。
今日は昨日よりも五ページも教科書がすすんだ。
じゅぎょうが終わった。
ひかく的したしいクラスメイトたちといっしょにお昼ごはんを食べた。名まえは思い出せなかった。
昨夜のトレンディードラマを見た? ときかれた。見ていないと答えたら、つまらなそうな顔をされた。
食べおわって、ごごのじゅぎょうが受けた。すごく眠かった。
よりみちしていこうという友だちのさそいをことわって家にかえった。
家にはだれもいなかった。
せいふくをぬいで、しふくにきがえる。ぬいだせいふくはハンガーにかけた。
何もする気がなくて、ベッドにたおれこんだ。
いたはずの妹のこと気にかかった。
どんなかおだったか思い出せなかった。
それでいいの?とだれかが言った気がした。
「だって、思い出せないんだもの」
だれかにそう答えて、目をとじた。
あさ、めがさめた。
うるさくなるヒヨコのかたちのめざましとけいをたたいてだまらせた。
めをこすりながら、せいふくにきがえた。せいふくのリボンはほそながいひもじょうですこしむすびにくい。
きのうのうちによういしておいたかばんをもって、だいどころにおりた。つくえのうえにおいておいたかだいをとりに、いちどへやにもどった。
だいどころにはだれもいなかった。
じぶんでトーストをやいてコーヒーをいれた。
だいどころのテーブルはよにんがけで、いすはみっつあいていた。
トーストにバターをぬった。バターをぬりすぎたトーストはすこしあぶらっぽかった。
つけっぱなしのテレビで、どこかのじょしこうせいがとびおりをしていまもいしきふめいのじゅうたいなのだといって、しかいしゃが『さいきんのいのちをけいしするふうちょうは……』となげいていた。
てんきよほうをみた。きょうははれだった。
おきゃくさまようのコーヒーカップでコーヒーをのんだ。
すこしりょうがものたりなかった。
たべおわると、いえをでてがっこうへいった。
がっこうはあるいて15ふんでついた。
しらないことあいさつをした。
きょうしつでなんのやくにたつのか分からないじゅぎょうをうけた。せんせいのかおがしらないかおだった。
きょうはきのうよりも五ページもきょうかしょがすすんだ。
じゅぎょうがおわった。
ひかくてきしたしいクラスメイトたちといっしょにおひるごはんをたべた。なまえはおもいだせなかった。
ゆうべのトレンディードラマをみた? ときかれた。みていないとこたえたら、つまらなそうなかおをされた。
たべおわって、ごごのじゅぎょうがうけた。すごくねむかった。
よりみちしていこうというだれかのさそいをことわっていえにかえった。
いえにはだれもいなかった。
せいふくをぬいで、しふくにきがえる。ぬいだせいふくはハンガーにかけた。
なにもするきがなくて、ベッドにたおれこんだ。
いたはずのおかあさんのことが気にかかった。
どんなかおだったかおもいだせなかった。
それでいいの?とだれかがいったきがした。
「だって、おもいだせないんだもの」
だれかにそうこたえた。
じゃあしかたないね、とだれかがいった。
それは、わたしのこえだった。
おやすみなさい、とわたしがいった。
――――付けっぱなしのテレビで、飛びおりをしてずっと意識不明だったどこかの女子高生が今日亡くなったのだといって、司会者が『最近の命を軽視する風潮は…』と嘆いていた。
朝、目が。 - 2006-01-08 23:57:38公開 / 作者:六花
■この作品の著作権は六花さんにあります。無断転載は禁止です。 - ■作者からのメッセージ
初めまして。六花と申します。
改行が多いのと、必ず「〜た」で終わるのはわざとですが、他にもおかしい表現とか気になる箇所とかあると思いますので、よろしくご指導くださいませ。
- この作品に対する感想 - 昇順
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初めまして、座席です。
淡々とした文章の中、ループをしつつ次第に漢字が崩されていくのには少し恐怖心が沸きました。しかし些か繰り返され過ぎたのか、結構鈍い私なのですが三回目あたりで結末に気付いてしまいました。
それはそれで四度目の朝においてはそれを感じながら読むことが出来たので、中々楽しんで読むことができました。
しかし、これもループの宿命ですが。同じ文章を四回も読まされると段々と流し読みになってしまいますね。少しでも文章の頭に違和感があればもう少しよく読めたと思いました(これの必要性は個々の趣向ですのであまりお気になさらず)。
次回の投稿をお待ちしております。2006-01-05 11:09:42【☆☆☆☆☆】座席はじめまして、六花様。上野文と申します。
興味深く拝見しました。
確かにこのギミックとインパクトはこの書き方じゃなきゃできないかも…
「わたしがいった」
で、ああ、と。
テキストから色々と想像できて、面白かったです。
それでは。2006-01-06 00:16:09【☆☆☆☆☆】上野文始めまして。夢幻花 彩と申します。二回目の初めくらいでもうすでに読めてしまいましたが、ループの中で少しずつ世界を崩していく、というのは良いと思います。ただ、座席さんと同じ感想になりますが4回は多かったかなぁ、と。繰り返すにしてもひらがなを多くするだけよりは全体的にもっと違和感を与えた方が良かったかもしれません。多分読みなれている人なら初めの方で気付きますが、それでも十分に楽しませることは可能っていうか、気付かない人よりも楽しませることは出来ると思うので。少し辛めの感想になりましたが、大変に興味深いなぁと思って楽しませていただきました。次回作も楽しみにしています☆2006-01-07 23:53:00【☆☆☆☆☆】夢幻花 彩初めまして甘木と申します。作品を読ませていただきました。同じことの繰り返しのなかで、崩壊していく自分の存在感というテーマは面白く詠めました。ただ皆さんがおっしゃっているように4回は多いな。また現実感の喪失が平仮名の多用だけではなく、出来事の差異をもっと描いても良かったかなと感じています。繰り返しによってオチが見えてしまうため、もっと変化を付けて欲しかったです。では、次回作品を期待しています。2006-01-08 21:34:28【☆☆☆☆☆】甘木初めまして蒼狂ヲです。正直なところオチには一回目で気付きましたが、夢幻花さんがおっしゃっているようにそれで逆に楽しめたところもあります。ただ、気付いてしまった分再読に耐えるものではなくなってしまったやも。文章を崩していく様式はさほど奇抜なものでもないですが、皆さんが「多い」と感じていらっしゃる4回目をあえて日常の気だるさや惰性感のようなものを文章の気だるさで表す為だと解釈すると結構面白い表現になっていると思います。2006-01-08 22:37:17【☆☆☆☆☆】蒼狂ヲ皆様、はじめまして。コメントありがとうございました!!
同じ所の指摘が多いですし、コメント返しは苦手なものでまとめて返させていただきますね。
確かに自分でもちょっと繰り返しすぎかなーとは思ったのですが、徐々に壊れていく感じと日常のだらだら感(?)を出すには三回じゃ短いかな、と。なので、回数はそのままで、変化を増やすためにまったく同じ繰り返しだった学校シーンの部分をちょっとだけ(本当にちょっとですが)、壊してみました。
また、投稿させていただくと思いますので、よろしくお願いします!2006-01-09 00:11:12【☆☆☆☆☆】六花初めまして、京雅と申します。拝読しました。文体が作品の仕掛けの大部分を担ってしまう系統の書き物は、中途でそうだと理解してしまうと味が薄くなってしまう傾向にあるようですね。この文量に纏めるなら無理ですが、長くなっても良いなら日常のシーンをもっと描き進むごとに主人公の認識欠如とイベントの変質、から、認識の欠如を埋めるために宛がわれる言葉の言回し(あまり思いつきませんが、例えばピンクという色を皮膚のめくれた肉の色なんて…否、気持ち悪いか)、イベントに対する主人公の反応(その奇妙さを本人が自覚していないとか)等で味が出たかもしれません。この文量なら、四回という回数は特別多くもないように感じられます。次回作御待ちしております。2006-01-11 12:16:51【☆☆☆☆☆】京雅計:0点 - お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。