『さいれんないと 〜主に虚しくて〜』作者:緑豆 / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
どこかにはあるかもしれない、クリスマスの出来事。一部ノンフィクション。
全角3367文字
容量6734 bytes
原稿用紙約8.42枚

 こんなことを言うのもなんだが、日本という国は節操が無いと思う。
 無宗教の国でありながら、正月に神社に赴き盆を行いクリスマスを祝う。
 まったくもってけしからんことである。日本人は、それらの行事に込められた意味を考えることなく、快楽だけを享受するのだ。同じ日本人として恥ずかしくなってくる。
 十二月二十五日である今日、オレはそのことに強く憤るのだった。
「―――で、負け惜しみは終わりか?」
「そういうこと言うな、そこッ! 尚更惨めになるから!!」
 安アパートの寒い一室。微妙に切れそうな電灯の下で、オレは友人(男)と鍋を囲んでいた。
 さてみなさん、唐突ですがここで問題です。次の文章で誤っている箇所があります。そこを指摘してください。
『クリスマスの夜に、野郎二人で、鍋』
 賢明な皆さん(特に男独り身)なら亜高速でお分かりですね。
 はい、一個目の読点から二個目の読点までの間の文章です。
 野郎二人で、クリスマスの夜。
 何ででしょう。何でだろう? 何でだよコンチクショウがッ!
「それ以上叫ぶと、自分の品格貶めるだけだからやめような」
 友人の声も聞こえないぐらいに、オレの怒りは沸点に達していた。聞きたくないということもあるが。
 何故、幸せそうな家族が、幸せそうな恋人たちが、幸せそうなカップルが、幸せそうなアベックが、クリスマスの聖夜を楽しんでいるというのに、オレは野郎と鍋を囲んでいるのかっ……!
「しゃーねえだろう。お前は言うまでも無い理由だし、おれの方も沙耶がよりによってクリスマスに葬式出ることになっちまったし。後、二個目から先は全部同じだ」
 更には目の前の男が彼女持ちなのも気に入らない。律儀に突っ込むのも。
 何もかもが気に喰わないので、衝動のままに鍋の中の肉をつまむ。
「おい、待てって。それまだ煮えてないから。豚肉はしっかり煮ないと腹壊すぞ?」
 無視してフードファイターの如く貪る。まだ赤みの残っている肉の食感は、ぐにゃんとしていて嫌な感じだった。
「…………」
「言わんこっちゃない。ほら、水」
 差し出された水を一気に飲み干す。何とか、あのいやな感触は消えてくれた。
 ふう、とため息をつくオレに、友人は呆れたような顔で話し掛けてくる。
「……ったく、本当にお前どうしたんだ? 去年は少なくとも、そこまで荒れてなかっただろ」
 微妙に心配しているような口調。それはある意味でありがたいのだが、ある意味でムカついてきます。
 何故なら原因に似たようなものは、目の前のコイツ―――冴崎にあるというのに。
 昨年のクリスマス、毎年恒例である独り身男の宴を開いた時。その時はコイツもまだ独り身男の一員で、まさに戦友と呼べる奴だったのだ。
 が、その半年後。コイツの隣には、神奈沙耶という女の子が少し恥ずかしそうに、凄く嬉しそうに立っていました。
 その瞬間から、オレたちの友情は(一方的に)崩壊した。昨日の友は今日の敵とはよく言ったもの、ブルータスお前もか。
 まあその次の日に、独り身男の懲罰集会『最後の晩餐』を開き、「この中に裏切り者がいる」と告発したが。無論オレ達はキリストのように優しくないので、即刻ユダに私刑執行し、その後復讐の虚しさにカラオケで絶叫。
 そんな訳で冴崎は今年の宴に来ないと思われていたのだが、彼女の祖母が亡くなったとのコトで急遽来訪。逆に独り身の男達は皆バイトで来れなくなり、野郎二人で鍋を囲むことになったのである。
 大勢でやる鍋ならまだしも、二人で囲む鍋のむなしいこと切ないこと。しかもオレに明日(かのじょ)はないが、奴にはある。
「……はあ」
 そりゃあため息も大判振る舞いで出てくるものだ。
「アイツらはバイトなんだから、しょうがないだろ。ほら、肉煮えたから食おうぜ」
 そして、相変わらず何も気付かない冴崎。オレが荒れるのは君のせいです。完全にお門違いだって分かってるけどさ、それでも荒れずにはいられない。
 それでも怒りを抑え、煮えた肉に手をつける。友人もそれに続き、言葉が途絶える。
 しばらくの沈黙。肉の野菜の咀嚼音だけが続く。
 そうして十分ほどして、
「なあ」
 オレのほうから、奴に話を切り出した。
「ん、どうした?」
「お前は、どうやって彼女作ったの? 今後の参考に聞きたい」
 真剣な口調で、真剣な顔で話しかける。
 気に入らないことではあるが、コイツが彼女を作ったのは事実だ。だからコイツに話を聞けば、オレにもチャンスは巡ってくるかもしれない。
 そうして、尋ねられた冴崎は何とも微妙かつ照れくさそうな表情で、
「彼女作ったというより、自然になったって感じかな。ゼミで一緒に作業してる内に、何となくいい雰囲気になって、な」
 そう言いやがった。
「……………………」
 思わず絶句する。それはアレか。畑に種をまいて肥料と水をやったら、美味しい野菜が出来たってのと同じぐらいの流れか。そんなんで彼女出来るなら、オレだって共同作業いっぱいするよ、コンチクショウ!
「……どうした、急に黙り込んで?」
「いや、お前に聞いたオレがバカだった。オレはそんな不確かな手段に頼るぐらいなら、竜王様に世界の半分(女の世界)もらったり、願いのかなう玉を七つ集めたりしてくるよ」
「よく分からないけれど、そういうセリフがデフォルトで出てくる辺りが、お前に彼女が出来ない理由の一端だと思う」
 放っておいて欲しい。
 そうして肉に手をつけようとした瞬間、冴崎の携帯から新曲の着メロが流れ出した。
「……お、沙耶からか。悪い、電話するわ。もしもし……」
 そう言って通話を始める冴崎。
 何となく気になって、そっと耳を澄ましてみる。
 幸い冴崎は通話音を大きめにしてあるのか、聞き取るのは容易かった。
「もしもし、どうした?」
『……ん、あのさ、今日は本当にゴメンね? 初めてのクリスマスなのに一緒に過ごせなくて……』
 真実申し訳なさそうな声。それに冴崎は気にするな、と答える。
「大好きだったおばあちゃんを、ちゃんと送ってあげたかったんだろ? だったらそっちを優先するのは当たり前だ。大切な人の最期だ、しっかり看取ってあげないと」
『うん、ありがとう……。それでね、今精進落とし終わったから、ようやく時間取れそうなの。もし迷惑でなかったら……会えないかな? すごく、会いたいんだ……』
「馬鹿、遠慮なんかしなくていい。ずっと一緒にいてやる」
 そこまで聞いて、オレは通話を聞くのをやめて鍋に手を出し始めた。その後の会話はもう話すというよりイチャつくと表現した方が正しかったからだ。
 ……いや、恋人同士の通話って時々、聞いてる方が恥ずかしくなってくる。コアな奴等のメールのやり取りを見たときは、吐血しそうになりちょっぴり憧れたものだった。オレにとってそれは、壁に描いたもちぐらい届かないものなのだが。
 イチャつき会話を終えた冴崎は、携帯をしまいすまなそうに謝ってきた。
「悪い、もう帰らせてもらうわ。いきなり上がりこんでおいて、本当すまないな」
「いや、彼女なんだろ? 行ってやれよ」
 そう言ったオレに、冴崎は一瞬だけ怪訝そうな顔をする。そりゃあそうだ。さっきまでさんざん彼女関連で騒いだり暴れたりしたし、最後の晩餐の過去もある。そんなオレが、こんな善人みたいなこと言い出したから、不思議に思ったのだろう。
 だから、オレは言ってやる。
「オレだってな、人を気遣う心ぐらいあるんだよ。……おい、そこ。詐欺師を見るような目でオレを見るんじゃない。ともかく、行ってやれよ」
 その言葉に冴崎は力強く、
「―――ああ、行ってくる!」
 頷いて去っていった。
 そうして安アパートの一室には、オレ一人がぽつんと残された。
 こたつには、まだこんもりと残っている鍋と二人分の皿が置かれている。
「……ああは、言ったけどさ。オレも彼女欲しいなあ」
 呟いて、硬くなってしまった豚肉を口に放り込んだ。
2005-12-26 09:08:39公開 / 作者:緑豆
■この作品の著作権は緑豆さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
勢いとノリで書いてみました。が、どうにもショートの文章量のバランスなどが分からず、迷走してしまった感じがあります。
感想、アドバイス(甘辛問わず)がありましたら、よろしくお願いします。

12/26 やや修正
この作品に対する感想 - 昇順

 ど〜も〜。アンガールズばりの挨拶で入ってきたベルともうしま〜す。
 これは連載物にした方がいいんじゃないかなあと。後少しでメリクリ終わるなあ。一応自分も受験生だったりするのにパソコン久しぶりに使えるからってパソコンにベタベタなわけで。
 いや、まあうちの学校で、タバコが露見した事件があって、ちょうどそこに僕も居合わせたわけで。夜遊び厳禁ですにゃー。だから出会いがないとかいいわけしてみたり。悲しきかな一人身一人身。入る高校共学だからまあ出会いのチャンスはあるわけで言ってて悲しくなってきた。
 ま、戯言をしまっておいて、感想をば。文章には自分から見たら問題はなかったかと。まあやっぱり御自分でもおっしゃられてるように、バランスががが。ショートショートってのはワンシーンを描くものだと頭では理解していてもこの物語っていうか主人公には親近感がもてるので(マテ)是非続けてもらいたかった…っていうのはわがままですよね。げは。
 凄く感想つけがたい。どう評価すればいいのだろう。連載してもらえたらすごく嬉しい内容としかいえないです。ごめんなさいね、表現力なくて。観察力も無くて。うわ、小説書くのに必要な才能無いじゃん、僕。
 ……ま、まあ、ともかく。ごちそうさまでしたー。げっぷ
2005-12-25 23:30:49【★★★★☆】ベル
>ベルさん
はじめましてー、感想ありがとうございます。
バランスがやっぱりアレですか……何とかしたいっすねえ(泣 何とかして直していきたいものっす。
そして連載ですが、流石に無理っすねえ……一発ネタでしたし、多分書いてるうちにボロが出てきます(汗 ごめんなさい。
何はともあれ、受験とその後の出会い頑張ってください! オレの入った学校は男子校だったッッ(血を吐くような叫び)
2005-12-26 09:28:40【☆☆☆☆☆】緑豆
読ませていただきました。クリスマス。結局コタツで蜜柑で終ってしまったけれども中々風流だったよクリスマス。隣の家のイルミネーションがすごかったよくr(略 えー、感想をば。面白いですね、私こういうノリと勢いだけで構成されたような作品も好きですよ。その人の感情とかも解り易いし。前半のテンションが上がってて良かったです。う〜む、でもこれはもっと読んでみたいですね、あっという間で文量的に物足りなかったです。後、これは私の私見ですが、オチが弱かった気がします。では次回作もお待ちしております。
2005-12-26 10:28:42【☆☆☆☆☆】渡来人
ああ、このテンポで読める小説って少ないので嬉しいです。
分かる分かるよ。クリスマスってね、周りがバカップルばかりだと辛いんよ。
泣きそうになるんよ。それを代弁してくれてありがとう。
では、指摘……もっと長くても良かったんじゃないです?(笑
いえ、無理にとは言えないんですが、このリアリティが哀愁漂うので、もっと体感したい。
 ではバレンタインデイも楽しみに待ってますw(待

さて、俺は独りきりのクリスマスの余韻に浸りますのでコレで。
2005-12-26 18:48:39【☆☆☆☆☆】神坂鬼一
はじめまして、だと思います。ミノタウロスと申します。実はクリスマスの日に読ませて頂いておりました。
テンポも良く、【ブルータスお前もか】の下りとか、【思わず絶句する】の辺りとか読んでいて楽しかったです。ただ、SSの内容としては求める物がどうしてもインパクトの強い物になってしまうので、その部分が弱かったかなと思います。しかしこう言う内容は好きですし、文章から感じる雰囲気など心地よかったです。次回作お待ちしております。
2005-12-26 19:25:00【☆☆☆☆☆】ミノタウロス
初めまして。水芭蕉と申します。ブルータスお前もか。中盤までは大いに笑いました。ただ、皆様と同じようにお笑いショートとしては些かインパクトが弱いかと……でもキライじゃないですよ。うん。テンポも良くてさらさらと読めました。恋愛ねぇ……その辺のカップルどもを見ていると妙に僻んでしまいます。でも半数のカップルは三ヶ月で別れる運命にあると思ってるのでそう思うとスッキリします。それではわけの解らない感想で申し訳ありませんでした。次回作お待ちしております。
2005-12-26 23:51:56【☆☆☆☆☆】水芭蕉猫
>渡来人さん、神坂鬼一さん、ミノタウロスさん、水芭蕉猫さん

感想ありがとうございます。最初の方はやはり思いついたものを書きたいという気持ちがあったので、勢いのままにかけたました。(ブルータスとか、最後の晩餐とかは特に)
が、後半のテンションも前半に比べると、勢いが完全になくなってしまい、オチすらありませんでした(汗 文章量も少ないですし…… やはり書きたい場面を書く以上、そこまでへ持って行く過程やその後を何とかしなければなりませんね。次のものを書くときに、そういった問題を直していきたいと思います。
改めて、感想ありがとうございました。
2005-12-27 20:25:26【☆☆☆☆☆】緑豆
 おはようござます、座席です。
 やはりSSは勢いしかりですね。最初のロケットスタートから一気に話にひっぱり込まれて、主人公の独白も面白かったです。ただ皆さんもおっしゃってるように、やはり後半で勢いが落ちているかなと。一様に情景描写が主になってしまい、序盤のユーモアのある独白が消えてしまっているのが原因かと。!が多かった最初に比べ、後半は三点リーダが多めということで、牙崎と彼女の会話も含めて全体的な雰囲気のクールダウンが起きていたようです。落ち着いて書かれたような印象を受けました。
 まあでも、それはそれで独り身の寂しさといいますか、しんみりしたような感じがあって個人的には良かったです。次回作お待ちしております。
2005-12-28 10:43:08【☆☆☆☆☆】座席
拝読しました。日本には神道というものもあるし、無宗教ではなく多宗教の国なんだよなぁとか思いつつ、そんな些細なことは気にならない流れで、面白かったと思います。ラストはカップルの毒気にあてられたのか、オトされたと云うより途切れた感じがしました。でもまあ、他者の不幸は何とやら(笑 次回作御待ちしております。
2005-12-29 06:40:16【☆☆☆☆☆】京雅
作品を読ませていただきました。山場的なものはないのに、主人公の心情が巧く描かれているので最後まで楽しく読めました。中盤までの勢いが後半で萎むあたりが、沙耶からの電話を盗み聞きする主人公の心情とリンクさせてあるのかな。後半にもう少し主人公の毒(心情)があればよりラストの寂しさが引き立ったようにも思われます。でも、なんとなく共感できる作品で良かったですよ。では、次回作品を期待しています。
2005-12-29 09:06:42【☆☆☆☆☆】甘木
>座席さん、京雅さん、甘木さん

 感想ありがとうございます。やっぱり肝は後半ですねえ(;´Д`) 最初の勢いをどうやって持たせるか、あるいは別の方法で流れを作っていくかが重要になりそうです。
 そして京雅さんが仰られた、日本が無宗教ではなく多宗教の国という件について。難しい問題っすねえ……江戸時代には戸籍管理の目的から寺院や神社への帰属が義務付けられたりするなど昔から政治に深く関わり、今でも無意識に宗教関連の行事を通過している辺り、多宗教の国と言っても過言ではないかもしれません。ただ、全体的に賛成というのもあまり出来ないですね。認識などの問題で。
 今の日本人はどんな宗教にも寛容ですけれど、それはどちらかというと無関心の裏返しってイメージがあります。文中でも書いたように日本には無節操と言えるほどの多くのイベントがありますが、大抵の人間はそれらのイベントを宗教的行事として認識していませんし、仮にそういう人々に宗教を尋ねても『自分は無宗教だ』と答えるでしょう。やはり国あるいは多くの人間がある程度の確固たる宗教観を持ってこその、宗教なのではないでしょうか。

……長文な上に乱文で申し訳ありません。これは自分の稚拙な一意見に過ぎませんので、『いや、それは違うだろう』と思ったら、スルーしてください。ぶっちゃけ自分は宗教観以前に学が足りないので、こういった問題は苦手だったりします(汗
2006-01-07 14:13:55【☆☆☆☆☆】緑豆
こんばんは。
初めまして、鷹月と申します。
主人公とそのご友人の会話は現実味があり、とても楽しく読ませて
いただきました。
主人公の切ない気持ちもよく伝わってきました。
会話の表現がとてもお上手でうらやましいです。
ただ、最後の終わり方がやや唐突であり、主人公があまり動いて
いなかったのが残念でした。
終盤はやはりある程度の盛り上がりは必要だと思います。
しかし、次回作があるならぜひ読みたいですね。

……好き放題言ってしまいました。
これはあくまで私個人の考えですので、「こんな考え方の奴もいるん
だな」くらいに思っていただければ幸いです。
では、失礼いたします。
2006-01-09 00:18:36【☆☆☆☆☆】鷹月
計:4点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。