『キスは後ででいいの』作者:イシュ / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
戦場に向かう大事な人を送り出す人の心情です。解りにくいことは重々承知で描写のところは2段下げにいたしました。
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原稿用紙約3枚

 ねぇ、いま光ったよね。
 ほらあそこ、窓の外……。
 こうしてみると大きな花火みたいだよね。
 もしかしたら飛び散ったあの光がヒトの欠片かもしれないのに、なんて綺麗に貴方の顔を照らすのかしらね。
 あそこではたくさんの人が命を落としてる。でも……夜だから皆寝てるよね。
 夜にいきなり攻撃するのを卑怯だっていうけど、私はそう思わないんだ。
 死ぬなら自分がしらないうちに死にたいもの。
 動きたいのに大怪我して動けなくなるのも嫌。わざわざ痛い思いをしたくないの。
 それに寝ている間なら、夢、見てるでしょ?
 幸せな夢を見てて……大切な人が死んだりするのを見なくてすむから……。
  遮るように、窓の外で新しい花が咲いた。
  外界と室内をつなぐ窓ガラスがビリビリと震える。
  でも、とっても静か。まるでこの部屋だけ別の世界にあるみたいに。
 貴方の腕にだかれながら見える景色は燃える花の色をしているのね。
 ……なんのお話してたんだっけ……そうだ、大事なお話なんだよ。
 大切な人が目の前で死んじゃうのは嫌だっていったよね。
 ……でも、遠く離されて、私のしらない間に死んじゃったり、私の気付かないところで凄く苦しかったりするのは、やっぱりやだよ。
 もしかしたらもう死んじゃったかも……なんて考えながら暮らしてなんていけないよ。だから……、
  
  ――   だから   ――

  触れ合った肌を通して、貴方が苦笑したのが伝わってきた。
  私が言いたい事、全部知ってる笑い方。
  大好きなの、その笑い方。でも今は悲しい。
 ……笑わないでよね。これでも、ちゃんと自覚してるんだから。
 私……人一倍弱虫で、泣き虫だから、もううんざりされてるって、わかってるんだから。
 でも、嫌われちゃうってわかってるけど……どうしても……。

  耳に柔らかいものが触れた。
  それは貴方の唇。私が決定的な言葉を言う前に、もうおやすみのキスをするつもりなの。
  でも今日はごまかされたくない。
  もちろん、いつも貴方がごまかしてるだなんて思ってるわけじゃないけど、このまま寝ようとしても眠れないから。
  二人にはもう明日しかないんだから。
  だから、キスは後ででいいの。

 ね……最後に言って欲しいことがあるの。
 絶対に離れたりしないって言って欲しいの。
 私の目を見て、少しでも安心して眠れるように……。
 今だけでいい……。朝日で溶ける淡い約束でいい。
 時計とか、そういう形見で虚しいトキを測りながら長らえたくないから。
 それからおやすみのキスをして。
 それでね、今夜はこのまま離さないで。
 ……わがままだって思うかもしれないけど……花火があんまりにも目に痛いから……ね……――。
2005-11-13 23:40:07公開 / 作者:イシュ
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■作者からのメッセージ
戦争の本をよんでガガガと書き上げました。
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この作品に対する感想 - 昇順
はじめまして。時貞(ときさだ)と申します。拝読させていただきました。とても綺麗な作品であったと思います。テーマや主人公の切ない心情は胸に迫るものがありました。これはこれでとても味のある作品だとは思うのですが、どうしてもストーリー性を求めてしまう僕のような読者としましては、小説以上に詩に近い印象を受けてしまいました。もっともこの手法は、もとよりイシュ様の意図されたものであったのかもしれませんが。美しい表現には目を瞠るものがございました。それでは、イシュ様の次回作をお待ち申し上げます。乱文失礼致しました。
2005-11-14 16:45:56【☆☆☆☆☆】時貞
初めまして、凪風と申すものです。お話、読ませていただきました。最初から最後まで美しい言葉で構成されてますね。女性の気持ちが綺麗な形のまま伝わる、そんな感覚を受けました。
ただ、もし自分の身内、知り合い、友人、愛する人が戦争に行く場合、こんなにも簡単に別れを納得できるかなと思いました。僕は戦争モノの映画やドキュメンタリーが好きで、よくこの手の作品には出会いますが、そこには人の裏側を抉り取るような激しい感情の波がありました。それに僕は衝撃を受け、作品を書いてるといっても過言ではないかもしれません。それくらい戦争に行く者の感情、見送るもの、亡くす者の思いというもは強いのです。イシュさんの作品からは、美しさだけが誇張され、そういった戦争の痛ましい姿は感じられなかった……そこが残念です。ただ、これはあくまでも僕の主観ですが。
長々と失礼なことをお書きしました。小説家としてみれば、文章の美しさ、言葉の選択、それらの素晴らしさがひしひしと伝わってくる。そんな作品でした。イシュさんのセンスのよさも感じます。次回作も、頑張ってくださいね。
2005-11-14 22:51:54【☆☆☆☆☆】凪風
詩的な印象を受けたものの、心に沁みるものがありました。美しさの中に切なさを見た、そんな感じでしょうか。あまりにも美しいものは、時に悲しいものだから。私にとっては短いけれど心に「くる」作品でした。
2005-11-15 07:15:32【★★★★☆】ゅぇ
拝読しました。一視点からの心情吐露に終始してしまったがために、物語性を見出せませんでした。詩とはまた違うようですが、この形式のものに感じるためには、読者個人のもつ感情に近しい、若しくは共通項がある時だと思います。残念ながら、私には感じられませんでした。もっと広げたほうが良いと思います。次回作御待ちしております。
2005-11-15 11:51:09【☆☆☆☆☆】京雅
時貞さん、凪風さん、ゅぇさん、京雅さんご感想とご指摘をありがとうございました。
物語性が皆無なうえに微妙な手法の作品だったので、感想はもらえないと思っていました。
ありがたいです。
もっと視野を広げた味の深い作品を書くようにこれからも精進してゆきますのでよろしくおねがいいたします。
2005-11-15 20:01:40【☆☆☆☆☆】イシュ
作品を読ませていただきました。詩的に穏やかに流れる文章のリズムは心地よかったです。ただ、大切な人を戦場に送り出す恐怖、苦渋など負的な感情が弱かったですね。そのためこの作品が戦場に大切な人を送り出す女性の心情には感じられなかったです。また、小説と見た場合、長い作品のワンシーンのようで、前後の情勢が見えず作品世界が持つ重さが解らず残念でした。では、次回作品を期待しています。
2005-11-16 08:10:13【☆☆☆☆☆】甘木
 ものを作るとは何か一瞬の恍惚に触れ合うものだ、僕はそう思うのですね。またそのようにして書きたいと思う。だけれどもその一瞬に至るためには、何より忍従が必要ですね。ただ一瞬の歓喜のために多くを耐え忍ぶ。この作品に、書き手が描きたかった一瞬はあると思うのですよ。ただ惜しむらくはそこへ至るために積み上げられたものがない。ゆえに小説として見えてこないのですね。この作品は詩文として心情を切々と訴えかけています。それは演劇に例えれば主演女優の叫びです。だけれども演劇は何もない舞台の上で女優が叫んでいればそれでいいのか。違いますね。大道具、小道具、演出、音楽、他の共演者、脚本、そしてそれらを統御する監督が必要です。小説というのはひとり演劇のようなもので、それらのことを全部書き手がひとりでやらなければならないのですね。演出をする。構成をする。それは自分自身の心情をディレクトする、ある種アブノーマルな、多重人格的な作業となります。
 これを生かす、もっとも単純短絡的な手法は、心情を手紙文、或いは日記にして、小説の中に挿入することですね。それによってモノローグが明確に確立する。またある程度設定さえすれば構成も容易に効果をもたらすことができます。ただし使い古された手ですので、安直であっては興を削ぎますね。もちろんもっと凝った手法もたくさんあると思う。心情はいいと思うのです。アイディア次第だと思うのですね。
2005-11-18 20:56:38【☆☆☆☆☆】タカハシジュン
詩のような感じもするけど、主人公の心情がすごく良く伝わってきました。
私はこう言う作品は好きです。
2006-02-01 10:19:11【★★★★☆】陸
計:8点
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