『loop...』作者:少年ラジオ。 / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
死に切れない賎しさと生きている事への安堵。……どちらつかず。
全角1249文字
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原稿用紙約3.12枚
錆付いたブランコの鎖が擦れる音が、誰も居ない小さな公園に響いた。空が澄んだ青から朱色、紫のグラデーションとなって星々の引き立て役になろうとしていたが汚い空気の所為でそうは成らなかった。冬で空気が乾燥していると言うのに私の町には星なんて見えなかった。
それもこれもみんなよのなかのせいよ。そう思い乍汚い空気を肺へと送るために一息吸った。私にはこの空気の悪さを感じる事は出来ない。もう慣れてしまった事、ずっとここに居たからでしょうね。
冷たく張り詰めた空気の中に薄着に裸足という奇妙な格好で私はブランコに腰を降ろしていた。両手で私を支える鎖を持つ。霜が降りた地面、錆びて茶色の鎖。
三秒間ほど息を、汚い空気に含まれる酸素を吸収するために息を吸った。そして私の口腔からシーオーツー……二酸化炭素を吐き出した。それは白く凍り空へ昇る前に消えた。白い息、ああいった現象は空気が汚いとでると聞いた事がある。
……そう考えると妙に腹立たしく、また皮肉に感じた。詩人らがよくキレイな言葉で表す白い息なんて物は空気が汚くして起こるのだ。そのキレイさもこの空気の汚さで台無しね。
ギリギリと歯を脣に当てる……否、唇を噛みちぎる様に歯を食い込ませた。次第に血が溢れ零れたが私は何か憑かれたかの様にその行為をただ続けていた。傍から視れば気が違った女なのだろう。
 「ねぇどうして」
少年……と言うよりはまだ男の子と言った方が良いような、そんな子が私に唐突に声を掛けた。純真無垢で汚れを知らない眼球が私を真っすぐに見つめていた。
「どうしておねえちゃんはくつをはいていないの?」
何も知らない。きっとこの子は何も知らない。だからこんな事を聞くのだと、そう気休め程度に思うのが一番善いと、判っている理解している筈だったのに。人間というのはかなしい生き物ですね。
「ねぇ」
逃げ出したのは、私。



脚の裏をガラスの破片で切った。それでも私は逃げることを止めなかった。やがて私は数十分前までそこに居た橋へと逃げ着いた。私の靴がキレイに整頓されてそこにある。紛れもなく私がしたものだった。生きる事を諦め、身を投げだした証として。
それでも私はここにいる。
死へ臨む事に怖じ気つき生に縋りつくが意味は亡く言い様が無い喪失感と失望が私の中で混じり濁った。泣きたい気持ちを押え乍私はそこにしゃがみこんだ。崩れたといっても善い。
自分が生きている、その事実がたまらなく厭だった。隠蔽したい。そして世界は、何事もなかったかの様に回り続けてくれるだろう。
橋の欄干に手を掛け身を乗り出した。さよなら世界、そう呟いて投げ出そうとした。
……またあの感覚に襲われた。死にたくない死にたくない、私の中で私が身を攀じろぐ。
何も、何も知らなかったんだ。



 錆付いたブランコの鎖が擦れる音が、誰も居ない小さな公園に響いた。私はまだ生に縋りつき諦めている。

2005-11-06 19:36:37公開 / 作者:少年ラジオ。
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■作者からのメッセージ
かなしい人間のお話です。死ぬことに怖気つき生きている事を諦めても、自分はここに存在している。
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