『無題』作者:あきてる / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約20.03枚
 駅前の特等席は今日も暑かった。俺は底に座り込み、静かにギターのケースを開いた。無数の足音が聞こえる中、音叉と音と耳を頼りにチューニングを始める。午後十一時。いつもと同じ時間だ。
 そんな中、スーツを着込んだオヤジや、化粧の濃いOLなんかが、見向きもせずに通り過ぎていく。無視されるのが普通だったけど、最近は不良高校生のたちに、たまにガンをつけられるようになってきた。ま、無視されるよりはそっちのほうがいい気がする。その不良高校生たちは少なくとも、俺の存在には少し気にかけてくれているのだから。
 ギターのチューニングを終えた俺は、開いたケースを目の前に置く。こういうのは昔、友達とカラオケに行ったときの映像になんかよくあった光景だ。ハッキリ言って、古い。でも、これが俺に一番合ってるのは確かだ。
 ちょうどその頃には、正面に少し距離を置いていつものお客さんが立っていた。中年サラリーマンの佐川さんと、近所の公園に住む――いわゆる『ホームレス』の、時田の爺さんだ。二人に一礼して――真剣に聞いてるのは、最初はこの二人だけだから――俺は左手で弦を押さえた。曲名は、『遠い日の記憶』。昨日出来上がったばかりの、新曲だ。
 無数の足音が聞こえる中、俺は右手で音を奏で始めた。




「いやぁ、新曲、良かったよ」
 一曲目演奏終了後、スーツ姿の佐川さんは笑ってそう言い、カバンの中から取り出した財布の中から、五百円玉をケースに入れてくれた。いつもの五百円。俺にとっては大変な収入だ。
「ありがとうございます」
「いやいや。今日はちょっと時間がないから、これで」
 そう言って、佐川さんは駅の中に歩いていった。
 佐川さんは毎日俺の歌を聞いては、必ず五百円をケースに入れてくれる。そして優しい佐川さんは、必ず一言、曲の感想を言ってくれる。俺にとって、佐川さんは必要な存在なのだ。


 最後の曲を弾き終わった頃には、もう駅前の通りにはほとんど人気がなくなっていた。人がいないと、駅前とはいえ寂れてるよな。
 その沈黙の中で一人、いつまでも俺の正面であぐらをかいているのは時田の爺さんだ。爺さんには、路上生活の知恵――つまり、ホームレス生活をしていくうえで大切な、悪く言えば、悪知恵――をいくつか教わった。例えば……『金を見つけたら自分のものと思って、何事もなかったように拾うべし』など。
「ほっほっほ、今回の曲も哀愁タップリじゃのう」
 爺さんはもうほとんど髪の毛のない、まるで太陽のような頭を囲むように生えた立派な白髪を撫でながら笑った。
「そりゃそうだよ。幸せでもないのに、幸せタップリの歌なんて歌えるわけねーじゃん」
「うん、まあそうじゃがの。ほっほっほ」
 爺さんは、ホームレスとは思えないほど寛大に笑った。
 そう。幸せでもないのに、幸せタップリの歌なんて歌えるわけがないんだ。俺は今、幸せじゃない。だから、俺の歌はいつでも哀愁タップリなんだ。
「じゃワシはそろそろ帰るとするかの。若者よ、体に気をつけよ」
 爺さんはそう言って、自称(段ボール箱の)素敵なマイホームがある公園へと歩いていった。少し曲がったその背中を、俺は笑って見送った。
 ギターケースをもう一度見る。五百円玉一枚と、五十円玉が三枚、それと、『がんばれよ』と一言書かれた紙が一切れ。紙はケースの中の小物入れに、硬貨はポッケの中に入れ、俺はギターをしまう。

 俺は駅前通のギター弾き。毎晩こうしてギターを弾いてはアルバイトより効率の悪い小遣い稼ぎをし、何とか生き残っているような、存在価値の薄い人間。
世の中の掃き溜めに行くのも、天国(地獄か)に逝くのも、時間の問題かもしれないな。






 そんな俺が宮古さんに出会ったのは、その日の翌日、昼時だった。
 昨日の儲け――違和感あるかもしれないけど、俺にとっては立派な儲けだ――を手に、近くのコンビニに言ったときだった。
「いらっしゃいませ」
 レジにいた彼女は、笑顔でそう言った。その流暢な声の調子から、アルバイトではないとすぐに分かった。でも、その時は何とも思わなかった。別にコンビニの店員なんて来る度来る度変わるもんだと思ってたし、そこから生まれるものがあるとは思えなかったからだ。
 そういう訳で、俺は彼女のあいさつを気にもせずに弁当のコーナーに向かい、いつもの弁当といつものジュースを手にレジに行った。
「これ、お願いします」
「あ、はい、ありがとうございます」
 近くで見ると、ルックスはそんなに悪い感じではなかった。というかむしろ、良い方だった。肩ぐらいまであるきめ細かそうな髪と、少し大きめの目が、かなり印象的だった。我ながら、ヘンな方向に興味が行かなかったのはすごいと思う。
 そんなことを考えているうちに、彼女はレジを打ちながらこう言ったのである。
「あなた、ギターやってるんですか?」
 言い終わった後で、彼女の目が俺を捉えた。あ、そうか。背中のギターで……。
「え……ま、まあ。路上ギターですけど」
「へぇ、どこで?」
 興味津々の顔で彼女は聞いてきた。
「駅前通です。あそこ結構人が通るんで」
「あ、そうなんだ。聞きたいなぁ、あなたのギター」
 彼女の顔がほころんだ。俺もつられて少し笑っていた。
「じゃあ今日の夜の十一時に、駅前通に来てください。やってますから」
「本当? じゃあ必ず行くわ!」
「はい。待ってます」
 客が一人出来た。この時は、まだそういう感じしかしなかった。
「えっと、じゃあはい。五百二十円になります」
 いきなり話が戻ったことに少しびっくりしながら、俺は五百円玉と五十円玉をそれぞれ一枚ずつ差し出した。
「はい、三十円のお返しになります。ありがとうございました」
 彼女はそう言って、十円玉三枚と弁当とジュース、そしてそれらを持った俺を、笑顔で見送った。



「あれ」
 ビニール袋に入っていたメモに気付いたのは、俺の巣――妥当な表現だ――について弁当を食べようとした時だった。
『月谷響輝さんへ
ギター、楽しみにしています。
宮古華菜 Haruna Miyako』
 そうか。あの人は宮古華菜さんというのか。しかも丁寧に読みまで。お客さんの名前はちゃんと覚えておかなくちゃ……って、待てよ。何であの人――宮古さんは俺の名前を……?
 そう思って後ろを向いたところに見えたギターケースには、俺の名前『月谷響輝』がでかでかと書かれていた。



 約束の時間、宮古さんはチューニングをする俺の前で、佐川さんや時田の爺さんと盛り上がっていた。話し声は聞こえなかったが、凄く楽しそうだ。俺は期待に応えるべく、一礼し、左手に構えた。曲名、『ワースト・ワンという名の栄光』。俺がここに来て二週間ぐらい、だんだん慣れてきた頃の曲だ。この頃は、まだ今よりは希望があったから、こんな前向きな歌が作れた。今じゃ、そうはいかないけど。


♪いつもビリッケツ 俺はワースト・ワン
 ナンバー・ワンよりも 素晴らしい栄光
 みんなの走る後ろ姿は
 なかなかマヌケだぜ Oh Yeah♪


 歌っている間、宮古さんはにこやかだった。出逢うもの全てを幸せに引き込んでしまうようなその笑顔に、俺はだんだんとひかれていった。

「どうでした?」
 演奏終了後、宮古さんに聞いてみた。
「うん、すっごく感動した! ありがとね」
 そう言って、宮古さんはあろうことか、千円札を俺に差し出してきた。
「えっ……いいんですか? こんなに」
「いいのいいの。響輝さん、あんなにいい歌、聞かせてくれたんだもの」
 宮古さんは笑っていた。横の二人も笑っていた。佐川さんは宮古さんと同じような、にこやかな笑顔、時田の爺さんは、少し怪しげなニヒニヒ笑いで。
「じゃあ、私、そろそろ帰るわね。これ、毎日やってるの?」
「はい。俺が病気しない限り、毎日やってます。今のところ、無欠席ですし」
「じゃあ、私も毎日来ようかな。病気しない限り」
「そうしてもらえると嬉しいです。あ、ちなみに、佐川さんと爺さんは、今のところ無遅刻・無欠席です」
「ははは、そりゃあそうだよ。響輝くんの歌は素晴らしい力を持ってるからね。どんなことが合っても、この歌があれば、にこやかに帰れるからね」
 佐川さんはやっぱりジ〜ンと来ることを言ってくれる。嬉しいなぁ。
「ほっほっほ。わしゃあお前さんがどこまで根性据えてやってられるか、見守ってやっているだけじゃよ。ほっほっほ」
 爺さんは相変わらず、照れてるんだか本気なんだか、よくわからねぇや。
「じゃあ、私行くわね」
「はい。お気をつけて」
 俺の言葉に笑顔を返した後、宮古産は駅の中に消えていった。今日の収入、千円と六百円、それに七十円。いつもの……三倍くらいだ。
「……響輝くん、いい人に出逢ったね」
「はい?」
「華菜さんだよ。あの人、演奏中見とれてる感じだったよ、君に」
 心臓が、一瞬高鳴った。
「それにのぉ、終わってからも、大絶賛じゃったぞ」
 爺さんが言う。また、心臓が高鳴る。この感じは……中学二年の時の、儚く散った初恋以来だ。
 ……? 初恋以来……?



 そうか。俺はいつの間にか、宮古さんに恋をしていたんだ。

 と、この時初めて、確信した。そういえば初めて恋を確信したのも、中二の時以来だった。




 それからも、宮古さんは俺の歌を聞きに、毎日欠かさず来てくれた。そして毎日千円札を入れては、俺に笑顔をくれた。俺からしてみれば、聞きに来てくれるだけでよかった。愛する人が、毎日こんな近くに来てくれる。こんなに、嬉しいことはなかった。

 ある日、いつものように宮古さんは二人と一緒に俺の演奏を聞いていた。曲目、『輝けない光』。俺が生まれて初めて作詞・作曲をした曲。
一応言っておくが、『ワースト・ワンという名の栄光』が例外なだけでこの曲は暗い。


♪いつも頑張ってきた
 人より何倍も何倍も……
 でも 神様は意地が悪くなったのか
 僕という光を 輝かせてはくれない♪


「はい、今日のご褒美」
 宮古さんはそう言うと、千円札と、宮古さんとであった日に買った弁当――いつもの弁当を俺に渡した。佐川さんと爺さんが帰った後の出来事だ。
「え?」
「今日はここで食べようかな〜と思って。だめ?」
「いやいや、全然大丈夫ですよ」
「良かった」
 宮古さんはそう言って俺の隣に座った。そして俺と同じ弁当をバッグから取り出すと、俺と同時に箸を割った。
「いただきま〜す」
 そう言った直後、俺は弁当を腹にかき込んだ。宮古さんが買ってきてくれたいつもの弁当は、いつもより美味かった。
「あのさ、言うのも何なんだけど……」
「? 何スか?」
「明るい歌って……嫌い?」
 思いもよらぬ質問に少し戸惑った。
「いや、嫌いではないですけど……」
「じゃあ、何で歌わないの?」
 辛うじて、続きのセリフが言える。
「いや、嫌いではないんですよ。ただ、自分が今いる場所の状況しか分からないから、歌えないんです」
 俺の言葉の後、宮古さんは少し考えているみたいだった。何を考えているかは俺には分からない。当たり前だけど。でも、俺には彼女の意味深な表情が、気になって仕方なかった。
「う〜ん、じゃあさ、私の歌詞に、曲つけて歌ってみて」
「え……宮古さん、作詞してるんですか?」
 驚きだった。宮古さんはどっちかというと、音楽を『聴いて』楽しむ人だと思ってたし、コンビニの店員って、意外と忙しいもんだと思ってたから余計だ。
「ええ、趣味でちょっと。今はあんまりしないけど、学生の頃は作詞家とか、その辺を目指してたからね」
「へぇ〜」
 俺が驚いていると、宮古さんはバッグの中から――いろいろ入っているらしい――何枚か紙を取り出して眺め、「じゃあ、これで」と言ってそのうちの一枚を俺に渡した。
 その紙には、綺麗な字で、愛の言葉が紡いであった。
 その曲の名前は、『明日を信じて』。一通り読んでみると、すっごく『青春』って感じだった。そして、今の俺にはありえないくらい前向きな歌だった。
「……どう?」
 歌詞を見つめたまま固まった俺を見て宮古さんが言う。
「……たぶん、大丈夫だと思います。はい、大丈夫です」
「わぁっ、本当? ありがとう!」
「今考えてる曲は無いんで、たぶん二、三日で出来ると思います」
「すごい! そんなに早く出来るの?」
「ちなみに、今までの最高新記録は、十八時間と二十七分です」
「へ〜、やっぱ才能のある人は違うね」
「いえいえ、そんなことは無いですよ」
「ふふふ……響輝くんは謙虚だね」
 褒められたんだろうか? それとも、もっと自身を持てと言っているんだろうか? よく分からなかったけど、笑ってごまかした。
「じゃあ、今日はこれで。楽しみにしてるわ」
「はい。お気をつけて」
 いつものように、宮古さんは笑っていた。
 そして、俺も笑った。
 彼女が、俺の演奏を聞きに来て、素晴らしい笑顔を見せてくれる、明日を信じて。


 翌日、その出来事は大きなニュースになっていた。きっと知らなかったのは、路上暮らしでテレビが見れない俺と、時田の爺さんたちくらいだろう。


 そういえば、コンビニが休みだったな。閉められたシャッターには、『本日は諸事情により休業とさせていただきます。ご了承ください。 店長』とだけ書かれた紙が張ってあったな。
 そういえば、いつもは俺を無視する奴らも、今日は何故か俺を見てきたな。昼間に練習してる時、俺が路上ギターをやってることを知ってる奴はみんな、何故かそわそわしてやがったな。
 そういえば、佐川さんが来るのが早かったな。朝っぱらから俺を探してたな。凄く、真剣な表情で。

 今、その全ての答えが、目の前にあった。
 宮古さんは、その大きめの瞳を見せず、きめの細かい髪はきちんとしたままで、そこに横たわっていた。
「! ……あなたが月谷さんですね?」
 近くに立っていた中年女性がそう言った。俺は頷いて彼女に近寄る。宮古さんに似ているところから、お母さんなのだろうと分かった。
「……宮古――華菜さん、どう、されたんですか?」
 恐る恐る聞いてみる。宮古さんのお母さんは静かに、俺に教えてくれた。

 あの日、宮古さんは電車を降りて、駅の前の通りに出た時に車にはねられたらしい。完全に宮古さんの不注意だったそうだ。ただ目の前だけを見て、道路に出てきたのだと言う。そして病院に運ばれている時、必死で俺の名前を連呼していたそうだ。

「宮古さん――」
 宮古さんの顔をのぞく。美しいほどに青ざめた肌は、彼女に息がないことをはっきりと示していた。もう、彼女は笑ってはくれない。
「宮古さん……応えてくださいよ」
 宮古さんの青い肌に、一粒の雫が落ちた。

 信じたくなかった。
 宮古さんがいない明日を、これからの日々を、俺は信じられなくなってしまった。
 生きていくのが、辛くなった。ギターでさえ、触る気がしなくなってしまった。


 そんな矢先、帰りの電車で夢を見た。
 夢の中で、俺はギターを弾いていた。駅前通の、いつもの場所で、宮古さんから授かった『明日を信じて』を。
 その客の中に、宮古さんもいた。笑っていた。
 演奏を終えると、宮古さんは笑顔で俺に近寄ってきて、
「すごいね、ありがとう」
 と告げた。俺は笑う。
「この歌を歌えたんなら、私がいなくても大丈夫だよね」
 そう言って、彼女は姿を消した。


 気が付くと、電車は俺が降りるべき駅で止まっていた。
 電車を降りて、次の駅へを走る電車を見送っていた時、ハッと気が付いた。

 俺がすべき事は何だ?
 俺がしなくちゃいけないことは何だ?
 宮古さんからの、最後の頼みを、成し遂げることじゃないのか?
 答えろ! 月谷響輝!



 その日も、俺はギターを弾いていた。ここでやめたら、宮古さんの頼みを、俺は無視したことになってしまうことに繋がる。俺は涙をこらえて、『ワースト・ワンという名の栄光』を歌った。何回も、何回も歌った。俺の、唯一の前向きソングを、天国にいる彼女に聞いて欲しくて。

「響輝くん、大丈夫?」
 心配して、佐川さんが声をかけてくれた。
「あ、はい。もう大丈夫です」
「本当かい? 無理はしないほうが――」
「いいんです」
 佐川さんの言葉をさえぎって俺が言う。精一杯、笑って。
「ここでサボったら、宮古さんに怒られちゃいますから」
 それを聞くと、佐川さんは安心したかのように微笑み、
「そうか……じゃ、頑張って」
 と残し、五百円をケースの中に入れてくれた。


 そして、作曲作業に取り掛かった。
『明日を信じて』は、各旋律の音数がきちんと合っていて、メロディーが作りやすかった。メロディー作りと、音程にあうコード探しが済めば後は簡単だ。コードを押さえるのは五年前、我流の特訓で九十パーセントマスターしたから。一応、自慢。
 こうして、俺は約束より少し早い、三十時間と五十三分、一日と六時間五十三分で、『明日を信じて』を完成させた。十分な手ごたえだった。



 宮古さんが来なくなってから、二日目の夜十一時。俺はいつもの特等席にいた。またもや無視に戻った通りすがりの足音の中で、チューニングを始める。前には、佐川さんと時田の爺さんもいる。そして、心の中には宮古さんがいる。いつも通りだ。何も怖くない。
 二日前は怖かった明日も、この歌を練習しだしてから、もう全然平気だ。どうせ明日は来るんだ。俺がいくら怖がっていても、宮古さんが目の前にいなくても。そう思ったら、怖がるのが急にばかばかしくなってきたからだ。
 それに、今日は宮古さんとの約束の日。歌詞を渡されてから、二日目の夜。宮古さんはきっと、この世にいちばん近い特等席で、俺の演奏を心待ちにしていることだろう。そう信じられれば大丈夫。
「この歌を歌えたんなら、私がいなくても大丈夫だよね」
 夢の中で彼女は言った。
 ああ、そうだ。この歌が歌えたら、俺はまた立ち上がれる。
 立ち上がるために、この悲しみに打ち勝つために、俺は歌うんだ。
 これは明るい歌だけど、決してウソではない。だって、俺は今、シアワセなんだ。愛する人から授かった言葉が、俺の曲、俺の声に乗って大勢の人に伝わる。うん。俺はシアワセだ。
 そう確信して空を見上げ、星のない空に一礼する。そして、左手にコードを構えた。


 ♪あなたにこの想い 届かなくても
  僕は決して この愛を忘れない
  あなたを見失ったまま 夜が更けても
  あなたのいる 明日を信じて♪


 今宵、俺は立ち上がった。もう、一人で大丈夫。
 それに、今なら死んでも悔いはないな。
 何故なら、俺は天国行きの切符を、もうこの手に持っているんだから。
 明日を信じる気持ちと、宮古さんを想う気持ちが、何よりの証拠だ。
2005-10-20 18:40:25公開 / 作者:あきてる
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■作者からのメッセージ
個人的にかなり長めなのですが……どうでしょうか?
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