『革命の終わりに捧げる花』作者:甘木 / Ej - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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 一七八九年七月一四日。バスティーユ牢獄の襲撃で始まったフランス革命は、ルイ一六世を頂点とした王制を破壊し、建前上は民衆主導による共和制政治を打ち立てた。しかし、外からは王制否定を危険視した諸外国の干渉、内ではジロンド派とジャコバン派の政争などを抱え、情勢は極めて不安定なものであった。
 その政争の中で台頭してきたのは、ジャコバン派のマクシミリアン・ロベスピエールだった。彼は極端とも言える理想主義を掲げ、その理想に向かって強引に政権を推し進めた。敵対するものは失脚させ、時には『Bois de Justice(正義の柱=すなわち、ギロチン)』に送って処刑すら行う恐怖政治を実行した。
 しかし、急激な左翼化は民衆の反感を買い……一七九四年七月(テルミドール)、クーデターによりロベスピエール一党は逮捕され、革命広場(現・コンコルド広場)で正義の柱によって処刑された。フランス革命はこれにより終焉を迎えることになったのである。


 *  *  *


 ───死ね!
 ───民衆の敵!
 ───ロベスピエールの手先なんて、さっさと殺してしまえ!
 拳を振り上げる痩せた男、顔を紅潮させ叫ぶ老人、歓喜の涙を浮かべ罵る女性。コンコルド広場を埋めた人々の怨嗟の声が革命広場に木霊して、
 とぉぉぉぉくおぉぉん
 と呪詛の響きになってテルミドールの青空に吸いこまれていく。
 何千人の声だろう。
 フランス国内にある憎悪がすべてここに集まっているようだ。
 なぜ、彼等は私たちを罵るのだろう?
 なぜ、彼等は私たちを嫌うのだろう?
 なぜ、彼等は私たちを憎むのだろう?
 ───おまえらの親玉、ロベスピエールは死んだぞ!
 ───ロベスピエールの狗!
 ───殺せ!
 すべての言葉が憎しみに彩られ、真っ赤な空気を伴って膨らむ、
 ───殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。
 テルミドールの空が憎悪を吸って紫色に変色するぐらいに。


 私たちが何をしたと言うんだ。フランスが素晴らしい国に生まれ変われるよう、ロベスピエール先生と共に働いただけだろう。
 ロベスピエール先生の掲げた理想はすべて民衆のためにあるというのに、なぜ彼等はロベスピエール先生を憎み、ロベスピエール先生の死を喜ぶんだ?
 圧政を敷いてきた王制を打ち倒し、民衆による共和制を打ち立て、ブルジョワ主義のジロンド派を処刑したのだって、すべては虐げられた民衆のためだったのだ。
 どうしてそれを分かろうとはしない……。
 ロベスピエール先生が権力を貪ったか?
 否!
 ロベスピエール先生は国民公会の議員になっても、富を集めるわけでなく清貧に甘んじ、生活のすべてを民衆の幸福に捧げてきたというのに。
 なのに彼等はロベスピエール先生を殺した。昨日、この革命広場で正義の柱にかけたのだ。揺るぎない正義を、何万人もの民衆を救う理想を、このフランスを地上の王国にする夢を、平等の世界の機会を、正義の柱で断罪してしまった。昨日、このフランスから正義が消えたのだ。正義の柱によって……。
 そして今日。私は後ろ手に縛られ、六九人の仲間と共に晒し台の硬い椅子に座らされている。
 革命の敵、革命の裏切り者、大悪人ロベスピエールの走狗として。

「静まりたまえ!」
 壇上から野太い声が響く。そこにはロベスピエール先生に処刑を伝えた革命裁判所検察官のフーキエ・タンヴィルの姿があった。自分が劇の主役でもあるかのように高々と右腕を上げる。人々の視線がタンヴィルの動きに合わせ大きく動く。
「これより、」
 タンヴィルが腕をゆっくりと下げると革命広場に一瞬の静寂が訪れた。
「革命裁判所により刑を執行する」
 タンヴィルは大袈裟な仕草で正義の柱を指差し、民衆の反応を楽しむようにじっとしている。広場を埋めた人々から地を揺らすような声があがる。そこには憎悪ではなく歓喜の響きが籠もっていた。
 人々の歓喜がうねりとなって空に舞い上がること三度。タンヴィルは再び腕を上げる。人々はその動きに釘付けになる。タンヴィルは小さく頷き、私たちが列ぶ晒し台に向き直った。
「革命裁判所は公正な法の裁きにより、反逆者ロベスピエールに荷担したもの七〇人に対し死刑を命ずる」
 タンヴィルは大きな紙を広げ、覗きこむようにして背を丸める。そこには私たちの名前が書き付けられているのだろう。
 私の名前は何番目にあるのだ。私は何番目に殺されるんだ。
 紙から顔を上げたタンヴィルは、私たち一人ひとりを品定めするように見回す。
 うっぐぅん。横に座っているフランソワ・エギエットが大きく喉を鳴らした。
「では、元公安委員会委員マキシミリアン・カリエ。国家反逆罪により死刑を命ずる。前に出たまえ……」
 刑が始まった。


 たぁん!
 たぁん!
 ひとつの音が鳴るたびに歓声が上がり、私と共に列んでいた仲間がいなくなる。主を失った椅子の数は三〇。ぽっかり、ぽっかりと隙間を開けて私たちの死に近づいてくる。私は無人の椅子が増えていくのを、縛られた手を握りしめただ見ているしかない。
 怖い。何もできず死を待つのが怖い───タンヴィルの視線が怖ろしい。タンヴィルの視線が向けられると、胃袋がせり上がってくるような冷たさが全身を包む。気が狂いそうだ。いっそうのこと舌をかみ切った方がマシじゃないかとさえ思えてくる。
 タンヴィルの口がエギエットの名前を呼び上げる。
 よかった。私じゃなかった。
 と、同時に生の苦しさが───死にたくない、死にたくない、死にたくない───頭の奥が焼かれるような生への願望が頭蓋のなかで脈打つ。
 吐き気がする。胃も腸も肺も心臓もすべて吐き出してしまいたい。
 早く楽にしてくれ───早く。
 早く私の名前を呼んでくれ!
 でも、名前を呼ばないでくれ!
 待つのが怖ろしい。自分の運命を他人に委ねてじっとすることは、千の釘を身体に打ちこまれるよりも痛い。後ろ手に縛られた腕を捻ってみても何も感じない。ただ全身の毛穴という毛穴から、死が忍びこんでくるような冷たい痛みしか感じられない。この痛みは後どれだけ続くんだ……。
 たぁん!

「○○○○○○○! 前に出たまえ」
 私の名前だ……やっと呼んでくれた。
 死への呼び出しなのに、不思議なことに安堵感が沸いてくる。
 なぜだ? これから首をはねられるのに───なのに、安堵感が鼻を抜け涙がわき出しそうになる。なぜだ?
 私は涙が零れないよう大きく息を吸って立ち上がった。
 もう私にできることなどない。せいぜいが、この足が震えぬよう歯を食いしばるぐらいだ。エギエットのように途中で腰が砕けて引きずられていったり、オノーレ・デュシュエーヌのように小便を漏らすようなマネだけはしたくない。最期だからこそ胸を張っていたい。
 そうとも、胸を張る資格はあるはず。私たちはロベスピエール先生に従ったのだから。
 ロベスピエール先生は正しかったのだ。私たちはそれを信じて先生について行った。ロベスピエール先生と共に革命に奔走したことを後悔もしていないし、恥ずべき行為はなにひとつしてこなかった自信もある。今さら命乞いや臆病な行為を見せればロベスピエール先生を汚すことになってしまう。それだけは嫌だ!
「おまえの番だ。ぐずぐずするな」
 革命裁判所の係員が私の背中を軽く押す。
「わかってるよ」
 精いっぱい胸を張って堂々と歩こうとしたのだが、一歩踏み出した途端、膝が震えて身体が右にぶれよろめいてしまった。
「逃げはしないから、せめて腕を自由にしてくれないか。歩く辛くてしょうがない」
 私は恥ずかしさを誤魔化すため係員に向かって、後ろで縛られた腕をこれ見よがしに突き出してみせる。
「しばらくの辛抱だ。正義の柱がすぐになんにも感じなくしてくれるから我慢しろ」
「あれが正義の柱? 冗談言うな。正義を断罪するのが正義の柱なわけないだろう」
「おや、あれを正義の柱と名付けたのはおまえたちだろう」
 係員は正義の柱が鎮座した処刑台を見上げ、口の端を歪ませて嫌味のように言う。
「いいや。あれは昨日から正義を断罪する不正の柱に名前が変わったんだ」
「反逆者風情がなにを言う」
「私たちは反逆者などではない。今は無理かもしれないが、きっと歴史がそれを証明してくれる」
「ああ、そうかい。だったらこの俺様が爺さんになった時、おまえさんが眠る墓の前でその歴史とやらを読んでやるよ。何十年経とうがロベスピエールは大悪人だったという歴史をな。せいぜい楽しみにしてな、はははは」
 私は嘲笑う係員を無視して処刑台へと向かう。
 笑いたければ笑うが良いさ。おまえら理想持たぬ者には分からないだろうが、歴史がロベスピエール先生の正しさを認めてくれるはず、きっと。
 だからもう怖ろしくない。
 なのに───
 処刑台の階段は高く、急峻で、生臭かった。どれだけの人間の血を吸ったのか、板目はどす黒く変色している。この階段の先には死しかないのを、否が応でも理解させられる臭いと色───膝から力が抜けていく。どれだけ噛みしめていても奥歯が震え『ぐくぃ、ぐくぃ』と無様な音を奏でる。いま、怖くないと決めたつもりなのに───階段への一歩が踏み出せない。
「おい、さっきの威勢はどうした。怖くなって足が動かないか。なんだったら俺様が抱きかかえて連れて行ってやろうか」
 革命広場を埋める人々に向け、係員はこれ見よがしに大きな声を上げる。目が『いいザマだな。民衆はおまえが大小便を漏らして命乞いをするのを待ってるぞ。さあ、おまえさんの糞尿ショウを見せてやりな』と笑っている。
「余計なお世話だ」
 くそっ! くそっ! 動け足!
 力強く階段を上れよ……頼むから。
 昨日、フランソワ・アンリオは泥酔したまま首をはねられたそうだ。私も泥酔してなにも分からないまま死ねたらどれだけ楽だろう。
 アンリオ、あんたは無能だったけど、運だけは良かったんだな。
 ちくしょう、なんで私は素面なんだ。
 ───ぐずぐずするな! さっさと死ね!
 ───ロベスピエールは、もっと堂々としていたぞ!
 ───反逆者だったけれど胸を張って見事に死んだぞ!
 そうだ。ロベスピエール先生は御自分の信念を貫き通したんだ。私だってロベスピエール先生の信念を信じている。この信念を失うことより、死が怖ろしいわけないだろう! 死ぬだけじゃないか、信念まで奪われるわけじゃない。
「ははは、それだけじゃないか」
「恐怖で狂いやがったな」
 刑場でおかしくなる人間が多いのか、係員は驚いたふうもなくつぶやく。
「狂ったのはフランスの方さ。ロベスピエール先生のいないフランスなんて生きている意味なんてない。こっちから退場させて貰うよ。さっさと、な!」
 私は係員の足を思い切り踏みつけ、階段に足を載せた。後ろから口汚い罵声が聞こえたが、処刑台の階段より上は私と死刑執行人だけの世界だ。私を引きずり下ろすこともあるまい。いや、ヤツにはこの血塗られた階段を上がる勇気なんてないだろう。


 処刑台の上がこんなにも見晴らしが良くって、不思議な光景が広がっているとは知らなかった。
 空がどこまでも高くて、氷のように澄んで硬質的に蒼く広がっている。なのに革命広場を埋め尽くす人々は不思議と色がなく、まるで灰色の絨毯のように見える。ここから見える世界が蒼と灰色の二色しかないとは思わなかった。
 おまけに───音がなかった。
 灰色の人々が口を大きく開き、私に対する罵詈雑言を叫んでいるはずなのに一切聞こえない。ただ、『いぃぃぃぃぃぃん』と、音とも振動とも言えないものが大気を揺らしている。
 美しい。静寂と蒼はこの世のものとは思えない美を創りだしている。ここは神の国に近い場所なのかもしれない。ロベスピエール先生もこの光景を見られただろうか。この美しい神の光景を。
 私はこの光景を目に焼きつけるべく、ゆっくりと首を動かした。蒼、灰色、蒼、蒼、灰色……二色の世界にたった一つ別の色があった。広場のずっと奥、灰色が途切れる場所に鮮やかな黄色が。ぽっんと咲いた花のように。
 なんだろう? 目を凝らしてみると、金髪の少女が真っ直ぐ私を見ている。
 みすぼらしい衣装に日焼けした肌。どう見ても田舎娘。あんな田舎娘は私の知り合いにはいない。処刑される人間の娘なのか。私に同情してくれているのだろうか。それとも、私の気の迷いが見せる幻覚なのか。誰だか知らないけれど、彼女だけは憎悪の表情を浮かべていない。ただ、悲しみを抑えるように唇を噛みしめているように見える。
 私たちに罵声を浴びせに来たのではないのか?
 私たちの処刑を楽しみに来たのではないのか?
 どうしてあんな表情をしているのだろう?
 私の視線に気づいたのか、彼女は慌てて俯いてしまう。
 そのとき彼女の金髪が陽光に揺れ───向日葵のようだな。なんとなく向日葵を思い出してしまった。
 そう言えば、この五年というもの花なんて気にしたことなかったな。最後に見た花はなんだったけ? 故郷にいた頃、妹のテレジアが大切に育てていた向日葵だったかもしれない。家か……懐かしいな。
 テレジアにいい人はできたろうか?
 雨漏りがひどいって母さんが手紙に書いてきたけど、屋根はちゃんと直したろうか?
 父さんは畑を広げたいと言ってたけど、広げたられたかな?
 あと僅かの命なのに、こんなことを思い出すなんて。人間というものはおかしい生き物だよ。でも心が軽くなったような気がする。これも彼女のおかげだな。
 私は俯いたままの彼女に向かって心の中で『ありがとう』と感謝した。
「さあ、いいかね」
 死刑執行人の穏やかな声。
「ああ、すまなかった。じゃあ、さっさと済ませてしまおう」
 死刑執行人に促されるまま、私は首を枷に差しだす。
「苦しみはない。すぐに終わる」
「ああ」
 首が正義の柱に固定されても、私は真正面に立つ彼女から目を離さないでいた。
 カッ! 滑車の乾いた音。
 私の首筋にひやりとした重みがのしかかった瞬間、俯いていた彼女は顔を上げ小さく口を動かした。声を出さずゆっくりと、
 ───尊敬します。あなたがたは素晴らしかった。
 確かにそう言った。
 私が見た最期の世界。
 テルミドールの陽光に照らされた向日葵の花。


 向日葵の花言葉 『崇拝、敬慕、あなたは素晴らしい』


 終わり
2005-10-10 01:20:13公開 / 作者:甘木
■この作品の著作権は甘木さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
お久しぶりでございます。
歴史物の分類にしましたが、実は大層な物ではなく、反逆者として処刑される人間のわずかな時間を書いた作品です。テルミドールの反動でロベスピエールたちが処刑された翌日の話ですが、手元の史料じゃ翌日処刑された人数は分かっても名前まで分からなかったので人物名は私の創作です。
また、ファンタジーとしていますが、正確にはファンタジーではなく小幻想というところでしょうか。こんなのは似非ファンタジーだと言われたら、返す言葉はありませんが……。
このような妙な作品ですが、読んでいただけたら感謝に堪えません。また、皆様の声(罵詈雑言でもかまいません)をいただけたら幸いです。
この作品に対する感想 - 昇順
ロ、ロベスピエール懐かしい……理工系の大学に進んで、好きだった世界史とは疎遠になってしまった月海です。断頭台の上から見た最後の情景が劇的な話でしたね。いやぁ、考えさせられる内容です。自分達の理想を掲げ、そして敗れていった者達。彼らは散り際に何を考えていたのか? この物語の語り部の様に、救いを見つける事ができたなら、『我が生涯に一片の悔い無し』と思って死ねたのでしょうか(ぉ 歴史物、素敵です。 
ではまたいずれ。
2005-10-10 02:19:06【☆☆☆☆☆】月海
 こんにちは。面白いかったです。ロベルピエール、といえば、反射的に「恐怖政治」を思い出しちゃいます。いまだにイメージ悪いんですね。そのロベスピエールの理想に殉じて死んでいった若者たちも、確かにたくさんいたはずで、それはそれで美しい。美しいけれど、政治的理想というやつは、現実との相克の中で常に悲劇を生むのかもしれない、そうするとヒトラーやポルポトや日本赤軍はどうだったんだろう……などと、いろいろ考えさせられました。
 でも、政治的主義主張は抜きで、革命ロマンは大好きです。古い話だけど、ルーマニア革命やソ連八月革命のときもテレビにかじりついてました。
 贅沢を言えば、広場の建物や、人々の服装や、ギロチンの質感など、人物以外の事物の描写がもっとあればいいなと思いました。そのほうが時代の息吹がより強く感じられると思うんです。僕は、そういう細部の描写が大好きなんですよね……。
 あとひとつ、些細なことです。最初のほうに「七月(テルミドール)」とありますが、革命暦のテルミドールと、現行のグレゴリウス暦の7月とでは全然ずれてるんじゃないかと思うんですが、どうなんでしょう。あまり良く知らないんですが。
2005-10-10 11:02:29【☆☆☆☆☆】中村ケイタロウ
 革命って言葉、何だか不思議な魅力を今出しているんじゃないのかなって思います。現実的に、戦後も、学生運動も、民主主義のオルタナティブとしての社会主義も経験や、行動として「そこの空気を感じられない」まま大人になった世代です、僕は。僕らの中に、何かそういうことを経験できなかった負い目のような感情ってあるんじゃないのかなと、思うのです。30前、もっと言えば、40歳前ぐらいの世代で何かを描こうとした時、こうした負い目って表れてるよなーと少し感じてしまいます。あ、なんか本題と関係ないことをづらづら書いてしまいましたね、すみません。
 政治的理想の中で、自らの存在理由を作っていた人、確かに美しいですね、どこかそういうものと遠いところにいるからこそでしょうか、憧れさえもします。ただ、それがまた、自分とはある意味、無関係に壊されていってしまう状況と、そうした時の個人としての感情、そうしたもっとぐにゃぐにゃして、ドロドロしているものもあるのかなーと思います。素敵な程、きれいにまとめられていて面白く読まさせてもらったのですが、そうした感情の方ももっと見られたらなーと思いました。
2005-10-10 14:33:15【☆☆☆☆☆】カメメ
アンドレとオスカル様でつけまつげパタパタな自分なのであり、ドクトル・ジバゴ萌えだったりもするので、この舞台背景にはなかなか考え込んでしまうものがあるのですが、立場はどうあれ我欲や狭視野でなく広義の利他に殉じられる人間には、やはり『崇拝、敬慕、あなたは素晴らしい』と言ってあげたい。
なお、世界史など脳細胞の底に埋没してしまいそうな人間としては、ジロンド派とジャコバン派あたりの理念などにも軽く触れていただけると、より主人公に感情移入できそうな気がしました。
しかし短編というよりは仏革命大長編の静謐なるエピローグ、そんな感興の湧き上がる、鮮やかな光景でした。
2005-10-10 19:35:42【☆☆☆☆☆】バニラダヌキ
そう、まさにアンドレとオスカルとアントワネットとフェルゼンなのです(すみません、バニラダヌキさん)。ヨーロッパ史のハイライトとも呼ぶべき壮大できらびやかな時代背景と、対比するかのごとくひとりの死を前にした人間を掘り下げてゆく描写と。そのコントラストがまず小説として美しいと思ったのです。ハラハラドキドキではなく、また感情移入するのでもなく、ただ背筋を伸ばして読みたいと思わされる清廉さでしょうか。心の深い部分で物語そのものに相対するといいますか。あぁ、なに言ってんだろう。そしてあの少女。この時代の民衆は非常に無知だったと言われますけれど、この頃になるともう目が見えてる人は見えてたんですね。民衆がものを考えるようになって、彼女もきっとそういう目を持ち始めたひとりだったのでしょうか。みすぼらしい風体の少女がああいったことを言ったというのが、非常に胸打たれました。
とにかく私はこの話、ものすごく好きでしたということです。次回作お待ちしております。
2005-10-10 20:04:51【★★★★☆】有栖川
高校のときは世界史をとっていたのに、まったく何も覚えていない。自分の無知さに笑えてきます。誰か教えてください(汗 さてさて、師匠(甘木様)はやっぱりすごいなぁと思いつつ読み始めた物語でしたが、たんたんと進む展開に若干の不安が。もしかして自分理解できてない!?というやつです(爆 あぁ、なんてことでしょうね。ひまわりの花言葉と結び付けられたラストですが、もっと時代背景を把握していればドンと来ていただろうに……すいません。向日葵を幻想の中で少女と見たのか、そのまま向日葵のような少女だったということなのか。影舞踊は前者と見たのですが、安易すぎでしょうか? つかやっぱり読み取れてない……↓ 、、、とまぁ、総合的に感じたのはバニラダヌキ様が書かれている「仏革命大長編の静謐なるエピローグ」というやつです。影舞踊の感想っぽくないですが、馬鹿な自分めもそう感じました。
あぁ、いつもバニラダヌキ様の言葉拝借してるなぁ自分。。(すいません師匠&バニラダヌキ様
2005-10-11 01:18:38【☆☆☆☆☆】影舞踊
拝読しました。常なら歴史系統は敬遠してしまいがちなのですが、いや、なかなかに読みごたえのある書き物で御座いました。知識の無い私には細部へのイマジネーションが働かず曖昧なまま過ぎてしまった箇所も御座いますけれど、寧ろこれは私の苦手な歴史系ではなく好きな方の――メッセージ性を軸に置いたSSとして見たほうがよいのやもしれない。少女の言葉にどうしようもなく感じ入ります。あれは甘木様の言葉なのか、それとも作中人物の一科白だったのか、判然としなかったのはやはり歴史に疎いせいか(汗 とは言え、違う書き方であるのに随所らしさが垣間見れるのは素敵だと思いました。次回作御待ちしております。出来得れば鎌倉・葛きり・赤い花のやつ、若しくはクルツを(笑
2005-10-11 05:38:05【☆☆☆☆☆】京雅
作品を拝読させていただきました。現代物しか書けない僕としましては、冒頭の数行だけで圧倒されてしまいました。フランス革命に題を採ったネット小説は何作か読んだことがあるのですが、ロベスピエール一党側の視点から書かれた小説を読んだのははじめてです。時代背景や政治的思想うんぬんを抜きにして、物語として綺麗にまとめられていると感じました。全面的にではありませんが主人公の心情に共鳴できる部分もあり、また、最後に金髪の少女が発したメッセージとラストの一行は実に鮮やかでございました。読み手に深い余韻を与えるラストシーンとはこのように書くのだな、と、僕としてはとても参考になりました。甘木様の次回作を心よりお待ち申し上げます。
2005-10-11 11:52:38【★★★★☆】時貞
ご無沙汰をしております。オレンジです。久しぶりにこちらを覗かせていただきました。最近は本当に忙しく、書く暇も読む次時間もなくて……まあ、そんな事はどうでもいいですね。
読ませていただきました。主人公が処刑台から、街を見渡し感嘆する場面が、とても心にぐっときました。その風景は、命をかけて一つの事をやり遂げた人間が辿り着ける聖域なのでしょうね。歴史の判断などは、その時代毎にどの様にでも移り変わっていきますが、彼らの信念はどれだけ時代が過ぎようとも変わる事無く、その処刑台の上に存在し続けるのでしょう。
現在の某米国大統領にどの様な信念があるか解らないけど、彼の行った行動もやがて歴史が審判を下す時がくるのだろう。でも、彼の行った戦争は既に時間の中に刻まれ、最早変わる事も消え去る事も無い。フランス革命に散った若者達の信念と、某米国大統領の信念と、比較する事は出来ないが、そんな事をふと思いました。

良かったです。
2005-10-11 17:29:20【★★★★☆】オレンジ
 黒白の狭間にある、その黒白に身を引裂かれた者。人間の真実とは黒白のいずれでもなく灰色なんだよねと訳知りに言ってしまう事は容易いのだけれども、それを体現するのは悲痛なものだと思うのですが、その辺りのニュアンスというか、それに対してのシンパシーというか、作品の後背にある思いを感じさせますよね。構成も的確であると思います。何ていうんだろう、僕の理想は「或る一瞬を描く」ことなのですね。或る一瞬を描くために脈々と作品を積み重ねていってそこに至る。そこに凝縮されたものが四散し還元され、作品の隅々に行き渡り、読み終えられたものに再び生命が宿る。そういうものを書きたいなと思うのですね。僕にとってこの作品の好ましいところは、その典型であるところなのだと自分で思うのですよ。
2005-10-11 20:06:13【★★★★☆】タカハシジュン
ども、読ませてもらいました。石造りの家々が並ぶ中央公園のような場所で死刑になったのかなーと勝手に想像。革命の裏には常に犠牲者と言いましょうか、歴史には残らない人物達が数多く死んでいくモノなんだなーと思いました。その場の空気と言いましょうか、臨場感ある描写は、フランス独特の生臭い空気が漂っていて良かったです。
さて余談。日本の絞首刑(あの階段昇って首つりのヤツ)では、死刑執行者と死刑囚は別室に居て、五人の死刑執行者がボタンを順々に押していくそうです。んで、全部押すと(確か元々全部外れだったような……)死刑執行者がマイクを通して死刑囚に、「どうやら機械が故障したみたいだ」と言って、死刑囚がホッとした所に――。

ではでは〜
2005-10-11 22:07:14【★★★★☆】rathi
 これだけの人に読んでいただいて、感想までいただいて本当に感謝しております。最近コメディしか書いていなかったので、毛色の違うこの作品は少々不安でした。背景不足や歴史的な部分の説明も不足してますし、心情を前面に出しすぎ、誰も読んでくれないのではないかと心配していました。なのに皆様が読んでくださり、貴重なご意見を書いてくださり本当に嬉しいです。

 >月海さん、ありがとうございます。日本人的な判官贔屓とでも言いますか、私は敗者に感情移入してしまうんですよ。敗者といえども信念をもって生き通せば、ひょっとしたら幸福な人生なのではないかなぁ、などと思いながら書いたのがこの作品です。真実は分かりませんが、そうであって欲しいですね……でも、それは幻想みたいものですよね。だから私はこの作品の分類をファンタジーとしました。その感情が少しでも伝わっていたら嬉しいです。でも、民衆の声も真実なんですよねぇ。
 >中村ケイタロウさん、ありがとうございます。歴史には必ず勝者と敗者がいて、歴史は勝者によって語られる。でも、必ずしも勝者が善であるとは限らない。ひょっとしたら……などと思って書いた革命の終わりのワンシーンです。革命広場の情景ですが、資料がなくって省いてしまいました。想像で書こうとすればするほど嘘っぽくなってしまって……私の文章力の無さが原因なのですが。今後の反省材料にさせていただきます。
 テルミドールですが、グレゴリオ暦では7月19日から8月20日ぐらいです。テルミドールの反動自体はフランス革命暦11年テルミドール9日(7月27日)の事件です。ロベスピエールが処刑されたのはテルミドール10日(7月28日)、主人公が処刑されたのはテルミドール11日(7月29日)になります。
 >カメメさん、ありがとうございます。革命や往年の学生運動って、一種のお祭りだと思うんですよね。祭りの中で人間は本性を現したり、理想という夢を追いかけたりできると思うんです。祭りを知らない私としては、祭りを純粋の具現化と捉えてしまった感があります。本当はカメメさんが指摘されたように醜い面や残酷な面がたくさんあったはずなのですよね。そこまで触れると凄く長くなるので端折ってしまいました(本音を言うと、そこまで書く力は私にはまだありません)。お言葉に応えられるような作品を書けるよう、これからもっと勉強いたします。
 >バニラダヌキさん、ありがとうございます。惜しいです。「ベルばら」よりは、その後に描いた「エロイカ」のイメージなんですよ。馬鹿なことはおいて。絶対的な『善』や絶対的な『悪』と言うものはないと信じている私としては、悪党と呼ばれる人間にも理想や信念はあったろうと考え書いたんです。が、世界背景などを省いたのは卑怯でしたよね。でも、説明文にならないで書き上げる自信がないんです……すみません。これをプロローグにしたら凄い話になりそうだなぁ。たぶんマキャベリストのフーシェか、革命後のナポレオン軍の元帥ダブーを主人公にしそう……でも、私じゃ書けないですよ。
 >有栖川さん、ありがとうございます。ロベスピエールと言えば恐怖政治(当時から言われていたんですよねぇ)のイメージですが、ロベスピエール自体は賄賂など受け取らず、己の信じた正義を貫き通した清廉の人でもありました。と言うことは、ロベスピエールの革命により利益を得た人間はいるはずだと……少女のイメージはそこから始まりました。ただ、主人公が見た少女が本当にいたのかどうかは、作者である私にも分かりません。死の直前に見た幻かもしれませんし、革命という思念が具象化したものかもしれませんし、本当にいたのかもしれません。その判断は読まれた方に任せます。そして断頭台の空気を感じていただけたとしたら嬉しいです。
 >影舞踊さん、ありがとうございます。す、すみません。歴史的背景や情景を書くのをさぼってしまい本当にすみませんでした。いや、書き出したら凄く硬い文章になりそうだし、長くなりそうだし、作品が破綻しそうだし……自己弁護ですね。素直に反省しています。この作品は歴史物というスタートではなく、向日葵の花言葉からヒントを得て書き始めたものですから、歴史的背景があやふやになっているんですよ。主人公が見た少女の正体は……実は私にも分かりません。だからファンタジーなんです(本当は小幻想)。フランス革命も民衆の想いも全て幻想じゃないかなぁ、なんて思いまして……苦しい言い訳だ。
 >京雅さん、ありがとうございます。ははは(虚ろな笑い)。霧がかかったように背景が曖昧なのは、書いている当人が情景イメージを浮かべていなかったからです。いや、一応は考えたのですが、観光地の絵はがき的な平面的で薄っぺらいイメージしか浮かばず、だったらいっそ省いてしまえと……勉強・努力不足でした。すみません。少女の言葉ですが、種明かしすれば花言葉からイメージした作品なんです。だから、あの言葉が先にあって、言葉に合うような状況を考えていたら、この作品になったんです(いい加減だなぁ)。書き方は自分なりに変えてみたのですが、上手くいったんだか失敗なんだか見当がつきません。鎌倉・葛きり・赤い花は『猫供養(仮)』として鋭意書いています。クルツの方ものんびりと書いています。
 >時貞さん、ありがとうございます。実は私はロベスピエールが好きというわけでもなく、突然の死という状況を考えている内に、ふと思いついただけなんです。一応、フランス革命の本は何冊かは読んでいたのですが、私的にはその後のナポレオン時代の方が好きでして。私も主人公の理想や信念が絶対的な『善』だとは思っていません。ただ、民衆の声の中にも『善』があり、主人公たちにも『善』があるのじゃないかと思って書きました。ですから、その一部でも共感していただけて嬉しいです。処刑という醜い事象を、少しでも美しく書いてみたつもりですが、どうでしたでしょうか……少女がいなかったら、この作品って心情吐露の一種の露悪小説になっていたかも。
 >オレンジさん、ありがとうございます。お久しぶりでございます。忙しい中、わざわざ読んでくださり感謝に堪えません。理想って一種の麻薬みたいなものではないでしょうか。理想を追っている間は夢を見ていられる。その結果が良い夢になるのか、それとも悪夢になるのかは分かりませんが。主人公もフランス革命という夢を見ていました。彼が断頭台に上がったとき、夢から覚めていたのか、それとも夢を見続けていたのか……でも、変動し続ける歴史の中で夢を見続けられる人間は幸福なのじゃないかなぁ。書き終わってそんなことを思ってしまいました。
 >タカハシジュンさん、ありがとうございます。タカハシさんにそう言っていただくと、恥ずかしいです。だって私は難しいことなど考えず、ただ向日葵の花言葉から思いついた状況を書いてだけですもの。突然の死という状況(ただし、目隠しされていない状況で)、向日葵がある時代(フランスに伝わったのは17世紀末だそうです)、花言葉に合うような事柄……と考えて、ふと思いついただけですから、大層なことなど全く考えていないんです(本当は考えて書かなきゃいけないのに)。そんなお褒めのお言葉をいただくと、自分の思慮不足をしみじみ感じてしまいますよ。でも、タカハシさんのお言葉を『これからがんばれよと』との励ましのお言葉と受け止めさせていただきます。勉強します。
 >rathiさん、ありがとうございます。歴史的な無名人って妙に好きなんですよ。歴史に名を残す有名人の陰に山のようにいる普通の人。その普通の人たちが刻む歴史って言うのも有りかな、なんて思って書いた部分もあります(かっこつけすぎですね)。と言うか、有名人は書きづらいんですよね。すぐにアラが出てしまうし。無名人たちも死んだフランス革命の終焉の雰囲気が少しでも伝わったとしたら本当に嬉しいです。
 日本だと死刑囚は判決が出てから平均8年で死刑が執行されるそうですね。死刑が伝えられるのは午前9時。毎朝胃が痛いだろうなぁ。でも、死刑囚は未決囚扱いだから労働もしなくて良いし、お菓子とか果物も自分のお金で買えるし気楽かな……私は遠慮したいですけど。

 改めて読んでくださった皆様ありがとうございました。 
2005-10-12 01:00:39【☆☆☆☆☆】甘木
今晩は。すみません、かなり遅い訪問となりました。世界史に疎すぎるわたくしは、アニメのべるばらの雰囲気程度の知識なので、突っ込んだ感想は全く書けないのです。処刑台から見えた少女は神が見せた幻か、真実、その場にいた処刑される人々を尊敬していた少女だったのか。後者であって欲しいと勝手に思っていました。ところで、ギロチンの処刑方で、生首が意識ある秒数という実験をやった記録が残っているはずですが、首だけになっても暫く会話が成立したとか。よって、ギロチンは一瞬の苦しみではないらしい。彼が見た光景は首が転がってから見たものかな?などと、オカルトちっくな見方をする愚か者です。この男の迷いと苦悩、死を目前にイエスの最後のような達観した心情描写が流石ですね。歴史物を見る楽しみ方は私の知識不足で出来ませんが、死と言う物を改めて見つめさせられたお話でした。
2005-10-13 00:16:12【☆☆☆☆☆】ミノタウロス
 >ミノタウロスさん、ありがとうございます。歴史物と言っても似非歴史物です。どちらかというとマンガ的な歴史と言うのが正しいでしょう。フランス革命の歴史も何冊かは本は読みましたが、一番記憶に残っているのは『ベルサイユのばら』と言う人間が書いているのですから。それより首を斬られても少し意識が残っているんですか……エグイな。でもギロチンの場合、首は下に置かれた籠に落ちるみたいだし、少女を見ていたとしても首を切り落とされる寸前でしょうか。いや、首を枷にはめ込まれた時点で前は見えないような気もしますが……処刑台より上は幻想を伴う一瞬の世界と言うことにしておいてください。
 改めて、読んでくださってありがとうございます。
2005-10-13 22:21:57【☆☆☆☆☆】甘木
感想を頂いたので、この作品を読んでみました。
僕はあまり歴史には詳しくないけれども、この作品はとても良かったです。
死ぬ瞬間ではなく、少し前に思い出が浮かんできたあたり、かなりきました。
では、次回作を期待しています。
2005-10-22 10:32:59【☆☆☆☆☆】相川 柊
 >相川 柊さん、ありがとうございます。歴史物のジャンルにはしていますが、歴史そのものが書きたかったわけではなく、一人の人間の死というものを書きたかったのです。ですから死に至るまでの思い出のシーンを感じていただけて、書き手としては非常に嬉しく感じています。それにしても歴史を題材にすると書くのが大変です。付け焼き刃だとすぐにアラが出るし……私の作品も結構アラがありますね。お恥ずかしい。わざわざ感想ありがとうございました。
2005-10-23 20:56:15【☆☆☆☆☆】甘木
計:20点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。