『――心――』作者:紫苑 / t@^W[ - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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第1話 伝説

人間には、誰だって【心】がある。
これは、心を無くした少女の物語―――





今からおよそ500年前。
平和だったこの地に、魔王がやって来たのです。
魔王は、自らを【闇の使者】と名乗り、次々に娘をさらっていきました。
それだけでなく、魔王はすべての光を消してしまいました。魔王にとって、光は天敵だったのです。
空は黒い雲に覆われ、魔物が出現する闇の国になってしまいました。
さらわれた娘達は、皆心を無くして戻ってきました。
人々は、城に行って魔王の家来になるか、此処に残って魔物に食われるか、選択を強いられることになりました。
多くの人々が、魔王を倒すため、城へ向かいました。しかし、誰一人帰ってくる者はいませんでした。

ある日、一人の少女が魔王に連れさらわれました。魔王はいつものように、少女の心を吸い取ろうとします。しかし、吸い取ろうとした瞬間、光が魔王を包み、魔王は光もろとも、その少女に吸い込まれていきました。

魔王は消えたのです。少女によって。

魔王が消えた瞬間、空を覆っていた黒い雲が消え、太陽の光が差し込んできました。その光を浴び、魔物達は溶けてしまいました。娘達も、心を取り戻しました。
人々は、その少女を【神からの使者】と称えました。

しかし、まだ問題は残っています。
魔王は死んだ訳ではないのです。
少女の心の中に―――力は失っていますが―――いるのです。
このままでは、魔王が力を取り戻し、復活してしまうかもしれません。
人々は、少女を強力な魔法で封印しました。

その少女は、いまだに封印されているといいます…






「はぁ…またこれかよ。もう何回も見たっつーの…」
テレビを見ながら、俺…レインはため息をついた。
昨日からずっとこればっかりだ。どのチャンネルにしても、【アール王国の歴史】ばっかり。
無理もない。この話に出てくる少女が昨日、【封印の神殿】から姿を消したと言うのだ。しかし、神殿に入れる者は誰一人といない。姿を消す、ということは、少女の封印が何者かによってとかれた、そう考えるしかない。
「つまらねー」
俺はテレビの電源を消すと、外に出た。空はいつもと変わらず、太陽が光っている。魔王が復活したなんて、とても信じられない。
あんなおとぎ話、信じる奴はバカだ。…とか言って、俺も小さいころ信じてたんだよな…ま、ガキの頃だし。俺は苦笑した。
「な〜に変な顔してんのよ?」
突然の声に驚き、前を見ると、幼馴染のリルアがいた。
リルアは、俺と同じ金髪を、肩の所まで伸ばしている少女だ。青色のフードつきのマントを、いつも羽織っている。
「お前かよ…」
「何よ?その嫌そうな顔!」
俺が顔をしかめるのを、コイツが咎める。
「別に…それより、何の用だ?」
「勿論、コレよ」
リルアが朝刊を見せる。
「それが…何か?」
「…は?」
リルアは呆気にとられた。何なんだ…?
「何だよ?」
「あんた…知らないの?」
俺が頷くのを見ると、リルアはため息をついた。
「まったく…あれだけ騒ぎになっているのに…」
リルアは、持っていた朝刊を俺に渡してきた。俺が受け取るのを見て、
「読みなさいよ」
と言い残し、その場から去っていった。
俺は朝刊を見た。大きな文字で、『少女からのメッセージ。魔王復活か!?』
と書かれている。俺は気になって、続きを読んだ。



【封印の神殿】から姿を消した少女。その少女が昨日の夜中、アーク王の前に現れた。
「あと一ヶ月。一ヶ月たつと、私の中から魔王が出てきて、この世界を支配してしまいます。だから…一ヶ月以内に、私を…魔王を見つけだして、殺して下さい。ただ、魔王を殺せる者は、一人だけです。封印の神殿にある、大きな水晶が認めた者だけが…」
そう言い残し、少女が消えた。
王は今日、魔王を倒す勇者を選ぶため、宮殿に人を集める予定―――




「マジかよ…」
「読んだ?」
リルアが戻ってきた。
「ああ…」
俺はリルアに新聞を渡した。
「で?レインは行くの?」
新聞を受け取りながら、リルアは聞いた。
「嫌」
「はっきり言うのねー…」
「何の得にもならないだろ?」
「この世界が危ない時によく言うわね」
リルアは俺に軽い返事をすると、新聞を開いて、読み始めた。
一分ぐらい、無言になっただろうか。たまりかねた俺が話しかけた。
「…なぁ、家に帰って読めよ…」
俺はそう言って、奴から新聞を取り上げようとした、が…
「ねぇ!」
リルアがいきなり俺の腕を掴んできた。痛いっつぅの…
「これ!見て!」
「…痛い」
俺は顔をしかめた。
「あ、ゴメン。それよりこれ見て!もし水晶に選ばれて、魔王を倒すことが出来た人は、賞金十億G…」
「何!?」
【金】という言葉に反応して、俺はリルアから新聞を奪い取った。そして、食い入るように読み始める。
「レ…レイン?」
いつもは無口で自分からはあまり行動を起こさない俺が、金の事になると、ここまで反応するとは奴も知らなかったみたいだ。
いきなり俺は新聞を投げ捨て、不敵な笑みを浮かべる。
「決めた。俺、行くよ」



第2話 旅立ち

翌日、早速支度を終えた俺は、村の人々に見送られて、村を出て行った。
見慣れた風景を通り過ぎ、森へとつながる洞窟に入ろうとしたとき、
「レイン!待って!」
と言う声と共に、リルアが駆け寄ってきた。ずっと走ってきたのか、息を切らせている。
「ごめん…私も見送ろうとしたんだけど…準備がまだで…村の人に聞いたら、もう出発したって…だから…走って…きた」
リルアは息を切らせながらポケットから指輪を取り出した。赤いルビーがついている。彼女はそれを、俺に差し出した。
「お守り。魔法の指輪だよ」
それを受け取ろうとしていた俺は、【魔法】という言葉を聞いて、慌てて手を引っ込めた。
リルアは魔法使いであり、色々な魔法の品を持っている。そういう品は、魔力を持たない普通の人間が持つと、その人に害を及ぼすのだという。幼い頃からそう教えられてきた俺は、当然の反応をしたまでだ。
「あ、これは触れても大丈夫だよ。強い魔法じゃないから。それに…」
「何だ?」
「な、何でもない。とにかく大丈夫だから!!」
俺は恐る恐る指輪に触れてみた。俺の指が触れても、指輪は何の反応も示さなかった。
「ね?言った通りでしょ?」
リルアが笑いかけた。
「お守りとして持っててね」
俺は指輪を握り締めた。
「サンキュー。大切に持ってるからな」
そう言って、俺は洞窟に入っていった。
リルアは、俺の姿が見えなくなるまで、その後ろ姿を見つめていた。
2005-09-14 10:24:08公開 / 作者:紫苑
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この作品に対する感想 - 昇順
あれ?初めまして?うーん……京雅と申します。拝読しました。冒頭の昔話・伝説は敢えて簡潔に書かれているのでしょう、呑み込み易いと思います。ファンタジーな世界観・雰囲気を見せない本編は、これは仕様なのかな。身近では御座いますけれど、現実から脱け出せていないような気がして違和感も御座います。せっかく一人称(キャラ主観)で書かれているのですから、もっとモノローグにて語らせて、位置付けと説明を随時してゆくのもよいかな。それにしてもなぁ、ふむ、まあ、いいか。次回更新御待ちしております。
2005-09-11 15:58:45【☆☆☆☆☆】京雅
初めまして。
ご指摘有難う御座います。
確かに…違和感ありますね。現実なんだかそうでないんだか…^^;
次からはその辺も気をつけて書くようにしますね。
有難う御座いました。
2005-09-11 17:06:40【☆☆☆☆☆】紫苑
こんばんわ〜。読ませていただきました。純ファンタジーっぽいファンタジーですね。こういうのも嫌いではありませんよ。いや、むしろ好きかも……。さてさて、読ませてもらった感想ですが最初に、魔王を封印したという少女がいったい何者なのか説明がほしかったですね。後で出すっという考えかもしれませんが、自分は何かしらの説明がほしかったです。なんと、えらそうなことを言っている上下ですが許してください。とても続きの気になる作品で御座います。ぜひ早めの更新を!それでは、次回も楽しみにしています
2005-09-12 21:55:21【☆☆☆☆☆】上下 左右
初めまして。ご指摘有難う御座います。少女の説明は後でするつもりでしたが、やはり少しぐらいは説明しておいた方が良かったかも知れませんね…。最初の方を少し変えてみます。有難う御座いました。
2005-09-14 10:17:04【☆☆☆☆☆】紫苑
続き拝読しました。今回更新分は短かったですね。例えば、この流れはよいと思うのです、しかし些か展開速度が速過ぎて旅立ちの前の心境・その際にある微かな逡巡(賞金目当で御座いますからこれは無いかも)・背景、そういうものを省略化してしまっております。そのあたりを細かく書き綴ったなら、感情移入も出来得たかなと。次回更新御待ちしております。
2005-09-14 17:57:48【☆☆☆☆☆】京雅
続きを読ませていただきました。少し更新分が短いかもしれませんが、それでも楽しめましたよ。先に京雅さんが言ってしまったおりますので多くのことはもう言えませんが、この後が気になることには変わりありません。さてさて、いったいこれからどういう展開になっていくのでしょうか!!しかし、レインはけっこうな距離を走っていたみたいで……。それでは、次回も楽しみにしています
2005-09-14 23:40:02【☆☆☆☆☆】上下 左右
初めまして甘木と申します。作品を読ませていただきました。正統派ファンタジーのような雰囲気は、お約束ながらも和みますね。ただ、始まりの神話にしろ、本編にしろ描写が少ないですね。特に旅立ちのシーンはもっと勿体ぶって書いても文章のテンポは悪くならないと思いますよ。想像力欠如の読者のために、もう少し描写を増やしていただけると嬉しいのですが。でも、これからの展開が楽しみです。では、次回更新を期待しています。
2005-09-17 11:00:38【☆☆☆☆☆】甘木
計:0点
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