『丘の風』作者:緋陽 / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約3.39枚
――ぼかぁ、メンドクサイことは嫌いやねん。
 五年前の八月十五日。
 これが俺がアイツから聞いた最後の言葉だった。


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 俺はいつものように朝日を浴びながら眼を覚ます。基本的にカーテンはせずに寝る主義なのだ。そのほうが気持ちいいから、と言う理由ではじめたこの癖も、元はと言えばアイツの受け売り。
 今日は八月十五日、終戦記念日。日本にとっては記念の日なのだろうが、俺にとっては違う日だ。今日は学校を休むと昨日桜木に言っていたから別に学校を休んだって連絡はしてくれるだろう。
 俺は早速着替えて朝の飯を食べる。いつものトーストも今日は喉を通らない。いつものことだ、気にも留めない。去年だって、一昨年だって。飯はろくに喉を通らなかったはずだ。何故なら今日はアイツの命日。
 奈留髪大生(なるかみおおう)の命日だからだ。いつものように家から出て、原付へと足を伸ばす。キーを入れると作動音がして俺の気分を少しだけ高揚させた。
「……行くか」
 俺は短く言って走り出す。目的地は決まっている。場所も解かっているから迷うことなど無いだろう。暫く道を走っていると田舎道に出る。そろそろ丘の上に着く頃だ。
 丘の上に奈留髪の墓は在る。死んだ時には全てを見渡せる丘の上に墓を立てて欲しい、と何度も言っていたからだ。そんな昔のことを思い出したら、他の思い出も思い出して、俺は心の中でくすり、と笑った。
 丘の上。気持ちの良い風が辺り一面に吹き晒している。ひゅん。風が俺の髪を靡かせる。
 ぽつん、と何も無い丘に一つだけ存在している墓。近づくとその石には『奈留髪大生此処に眠る』と彫ってあった。
 奈留髪は俺の親友といえる存在だった。今となってはもう居ないが。俺はその墓石に花を添える。パンジーの花。様々な色が墓石に映える。
「……また来てやったぞ、大生」
 俺は墓石に話しかける。勿論、返事など無い。だけど、何故か。俺の目の前にはまだ、奈留髪が居るような気がしてならない。俺は今奈留髪と話しているのだ。周りから誤解されようとも気にもしない。
 つまらない事で逝ったよなぁ……。
 死因は崖から落ちた転落死。それはもう、見るに無残な姿だったらしい。当時十二歳だった俺は涙も流さずに葬式に出た。そのときの俺は未だに奈留髪は死んでいないと思い込んでいて。
 近くの山々を暗くまで走り回って。
 奈留髪を必死に探してたっけ。
 でもやっぱり、死んだ人間は帰っては来ない。認めたくなくて遠くまで逃げ出したこともあったっけか。今となっては良い思い出になっている。
「良い思い出……か……。本当に、そうなのかな……」
 ふふっ、と俺は微笑(わら)い遠くの山を見渡す。空は茜色。それはそうだ、何故ならば今は午前の五時半。些か早く来すぎたような気もするが。きっとアッチでは奈留髪は怒っているのだろう、などと滑稽な考えを浮かべる。
 そんな思いを胸に抱きながら遠くを見渡す。
 そうすると、天国に居る奈留髪が。
 俺の方へ出向いて、また再び、あの関西弁で、俺を和ませてくれそうな気がしたから。








 〜了〜
2005-08-30 23:42:51公開 / 作者:緋陽
■この作品の著作権は緋陽さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
……なんだか、またオリジナリティの無い話を書いてしまったよ……。ちゃんぷるーNGに似てしまったのか。そんなつもりなかったのに……座席さんにごめんなさい。ってかこれを見てくださった皆さんにごめんなさい。
さて、主人公の名前を言ってなかったな。ま、各自で想像してください。お願いします、自分じゃ……。
シリアス短編になってたらいいな。アヤカシの読んでくれたらなお嬉しいな。などとCMを。
では、また
この作品に対する感想 - 昇順
はじめまして。時貞(ときさだ)と申します。よろしくお願い致します。
作品、拝読させていただきました。冒頭の三行でいきなり引き込まれますね。導入として、とても効果的で上手いと思いました。たいへん静かな雰囲気のSSで、主人公の奈留髪に対する思いが嫌味無しに伝わってまいります。山場こそございませんでしたが、短いながらも印象に残る物語ですね。時間が出来ましたら、 緋陽さんの連載作品をぜひとも読ませていただきたいと思います。
2005-08-31 10:24:25【☆☆☆☆☆】時貞
こんにちは〜、読ませていただきました。う〜ん、自分もちゃんぷるーNG読ませていただきましたが、おそらく言われなければわからないぐらいなので大丈夫ですよ(自分に読解力がないだけ?)ほとんどギャグ色が無くて、シリアスな作品で仕上がっていると思います。次回作も楽しみにしています。
2005-08-31 19:46:41【☆☆☆☆☆】上下 左右
どうも初めまして緋陽です。返信をば。
【時貞様】
初めまして緋陽です。こちらこそよろしくです。
冒頭の三行には自分も気に入ってたり。そういってもらえると大変嬉しく思います。
静かに、を心がけて作ったこの作品。心配でしたが一安心しました。印象に残ったと言われると創作意欲が湧いてくる緋陽でした。
読んでくださり、感想を下さり有難うございました。
【上下 左右様】
シリアス短編になっていればいいなぁ、と思っていたこの作品。そう思ってくれれば光栄です。
次回作はまだ考えていませんが、読んで下されればと思います。
読んでくださり、感想を下さり有難うございました。

最後に感謝の意を込めて。本当に有難うございました。では
2005-08-31 21:47:10【☆☆☆☆☆】緋陽
拝読しました。哀愁を帯びた文章と、淡く静かな雰囲気はやわらかくせつなさを醸し出していると思います。しかしここへ目を遣り過ぎたのか、筆をふるっている時にプロセスを省いてしまったのか、突如ラストをもってきたように感じました。哀しさを際立たせるために先ずそこへ至るものを書いて、基盤をつくったあとに波立たせればさらに感情へ訴えれたかなと。ひとは、ひとが死んだからと言って哀しむものじゃなく、自己を重ねたり喪失感に心を委ねたりと、感情移入しなければなりません。此度は一寸度合が低かったです。次回作と連載の続き御待ちしております。
2005-09-01 10:47:59【☆☆☆☆☆】京雅
返信をば。
【京雅様】
有難うございます。多分、後者のプロセスを省いてしまった方でしょう。よく見ずとも唐突なことが解かってしまいました。ああ、参考になりまする。
読んでくださり、感想を下さり有難うございました。

最後に感謝の意を込めて、本当に有難うございました。
2005-09-01 19:11:53【☆☆☆☆☆】緋陽
こんにちわ、大屋です。読ませていただきました。
冒頭を読んで「おっ?」と思いました。ああいう表現は読者を引き付けるのでいいなと思いました。パンジーや茜色のそらなど色の表現が上手です。ただ名前が少し読みにくかったかなーというのがあります。次回の投稿も楽しみに待っていますね。
2005-09-03 11:28:12【☆☆☆☆☆】大屋なつの
こんにちは初めまして大屋さん。返信をば。
【大屋様】
冒頭でそう思ってくれればこちらの思う壷……だったはずなんですけれど(汗
名前は確かに読みにくいのにしてしまいました。何であんな名前が思いついたのか私にも謎です。さっぱり。
読んでくださり、感想を下さり有難うございました。

最後に感謝の意を込めて本当に有難うございました。では
2005-09-03 16:36:35【☆☆☆☆☆】緋陽
作品を読ませていただきました。読みやすい文章のせいか、物語の展開が唐突という感がありました。墓参りに行くまでの感情や、主人公が友人の死に対する今なお持っている心情がもっと欲しかったかなぁ。でも、ラストの「俺を和ませてくれそうな気がしたから」の言葉は良いですね。主人公と奈留髪の友情が確固たるものであり、今も続いていることを表していて余韻を堪能できました。では、次回作品を期待しています。
2005-09-03 19:44:36【☆☆☆☆☆】甘木
計:0点
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