『母の涙』作者:koro / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約5.11枚
父の会社は倒産。その数ヵ月後に自殺。
母と2人残されたあたしの心は行き場を失っていた。

父の会社は日本を代表するジュエリー会社とまではいかないまでも、そこそこ
有名でテレビなんかにもよく出てた。
そんな家庭に育ったあたしに手に入らないものは無かったし
おかかえの世話係りだって10人はいた。そんな絶好調の
父の会社の雲行きが怪しくなってきたのは丁度私が高校に
入学したての頃だった。その頃の日本の経済はあまりかんばしくなく、
どんどん下降するばかりだった。国民は富を失いあたしの父が
経営していた会社の宝石やらを買う余裕はもちろんなく
父の会社経営は日増しに難しくなっていった。それからも不況は留まるところを知らず
遂に父の会社は倒産。その数ヵ月後には自殺。と、不幸な事件が相次ぎ、
私と母はフワフワの絹織りベッドから掛け布団一枚というなんとも
乏しい生活を強いられることになってしまった。
小さい頃から人一倍プライドの高いあたしがもちろんそんな状況を
受け入れられるわけもなく、本当ならば母と協力して働くなりなんなりしなければ
いけない所を毎日遊びに出かけたりしている私を見ていた母は泣きながら
私にお金を使うのをやめるよう、懇願してきた。でもあたしはやめなかった。
やめられなかった。どうしても今の状況を信じきれないのだ。
きっと夢でも見ているのだろうと現実から目をそらしたままでいた。

もちろん学校もやめなかった。しかしこれはあたしの意思だけではない。
母は学校だけは通わせてやりたいと思ったらしくあたしはなんとか
外ヅラだけは保つことが出来た。
学校から帰ると母はいつも泣いていた。隅の方であたしに見つからないと
思ったのかもしれない。でもあたしが母の涙を見なかった日は無い。
その度にあたしは怒りを抑えきれなかった。泣いて欲しくなかった。
ここで泣くと本当にあたし達が惨めで食ってく金もありません。って感じがして
むしょうにやりきれない気持ちになるのだ。
母と二人きりになって1年、あたしはまだ素直になれずにいた。

朝はいつもドアを叩く音がうるさい。借金取りが大声で「出て来い」だの「金
返せ」だのといった言葉を叫んでいる。そんなに毎日きても無駄だよ。
本当は返せる金なんてないんだからさ!心では解っていても
やはり認めることは出来なかった。その度に母の涙が増えていくことに
なるのだけれど。。借金取りがようやく諦めて帰ったのを確認した
あたしは(ドアを壊すなりすればいいのに、どうやら今日の借金取りさんは
随分と紳士的らしい。)彼らの目を気にしながら学校へと急いだ。
学校が終わり家に帰ると母が一人父の写真を持ったまま隅の方で泣いていた。
私が素通りして自分の部屋へ行こうとしたときふっと母がなにかをもう片方の
手にもっていることに気付いた。それは鈍く光っていて、母はその
物体を自分の胸の方へ持っていこうとしていた。あたしは咄嗟に
かけより、母の手から鈍く光る物体を奪った。
「何・・してんだよ」あたしは驚いた。まるで自分の声じゃないみたいで
それはとても弱々しかった。母の顔はあたしを見たとたんくずれて、
今までの泣き顔のなかで一番ひどいんじゃないかと私は思った。
「お願いだから・・」母は蚊にも聞こえないような小さな声で
言った。「お願いだから母さんと協力して生活していって頂戴。
母さんもう本当に限界なの・・」目頭がじわっと熱くなって
私は無意識のうちに「ごめん・・」と母に謝っていた。
それからあたしは母に自分が素直になれなくて迷惑をかけたこと、
いつも母ばかりに苦労をかけさせてしまった事等を謝った。
母はうんうんとうなずきながらあたしの話しを黙って聞いてくれた。
その日を境にあたしは変わった。遊ぶのをやめ、母と協力
して働いたりした。季節は繰り返し、大人になった今、私は
自分の会社を立ち上げるまでに成長した。
私が変わるまでに通ってきた1年という時間は決して短くはない。
本当にいろんな事があった。私はこれからもいっぱい失敗をし、
いっぱい後悔することがあるだろう。しかし私はこれからも
母と力をあわせ生きていこうと思う。

「フー」私は深く息を吐き出した。原稿がやっと終わったのである。
隣りにいた担当者がおつかれさまです。とねぎらいの言葉を
かけてきた。私は「ありがとう。」と笑顔で言い、しばらくして本のタイトル
についてかれこれ1時間位話し合った。色々話し合った末、
「ん〜…あんまり関係ない気もしますが、母の涙っていうのは
どうでしょう?」と、担当者が私に尋ねてきた。
「いやいや関係あるよ!・・母の涙かぁ。うん。いいよそれ。それにしよう」
私はそう言って、近くにあったコーヒーを一気に飲み干した。


2005-08-25 17:42:06公開 / 作者:koro
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■作者からのメッセージ
なんかよくわかんないんで未分類にしときました。
話しが唐突になりましたが良かったら読んで下さい。
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