『紅の森 第一章「海」?』作者:森々 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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両親の事故から1ヶ月が経った。

『海ちゃん。都立と言ってもそんな安い金額じゃないのよ?』
「前にも言いましたように、学費は自分で払います。叔母さんの世話にはなりません」
『でもあなたはまだ高校生よ?稼げる金額だって限られているわ』
「大丈夫です。友達にバイトに詳しい人物がいるので」
『でもやっぱり心配よ。生活費くらいは私に・・・』
「ご心配ありがとうございます。でも平気です。もう決めたことなので」
『海ちゃん・・・』
「失礼します」

海は電話を切った。

「叔母さんから?」
振り向くと空が立っていた。
雨の中自転車で帰宅して来たので、全身ずぶ濡れになっている。
「何の電話だったの?」
「楓ちゃんの高校の文化祭について」
海は洗面所からタオルを持ってくると、雫の滴り落ちる空の髪を拭き出した。

「楓姉が誘ったの?」
「そうよ。本当は私の学校のにも来て欲しかったんだけどね」
「6月だったっけ。海の高校の学園祭」
「うん。お父さんとお母さんも来てくれたのよ」

『お父さんお母さん。15日の学園祭には来てくれるでしょう?』
『もちろん行きますよ。夏美さんもその日は仕事が休みだし』
『担当の患者さんの状態は?』
『術後の経過も上々よ。学園祭の事を話したら、嬉しそうに「行ってらっしゃい」って言ってたわ』
『じゃあ二人とも来れるのね!嬉しい!』
『俺も行きたいな』
『空はその日はテストがあるでしょう?頑張ってくださいね』
『お父さんは優しすぎるわ。赤点取ったら承知しませんからね!』
『俺まだ一度も取ったことないよ!』
『偶然ってこともあるわ』
『海!!』

「父さんの敬語調の話し方。未だ頭から離れないよ」
「お母さんも厳しいけど優しかったわ」

幸せだったあの頃。
何もかもが輝いていたあの頃。

海はタオルで空の顔を隠した。

「うわっ・・・前が見えねぇって」
海は黙ってそのまま拭き続けた。
タオルから落ちる雫が海の服を濡らそうとも、気にせず拭き続けた。


学費と生活費を稼ぐために、海は割りの良いバイトを探していた。
「バイトに詳しい友人」の渡部諭史は海に協力的で、自分の受け持っているバイト先の店を数多く紹介してくれた。

「時給860円。悪い金額じゃないだろ」

そう言って勧めてくれたのは、駅の近くにあるCDショップでのバイト。
諭史は半年前からそこで働いていた為仕事の手順も熟知している。

「店長も女性ですごく良い人なんだ。人見知りが激しい海でも働きやすいと思うよ」
「そうね・・・やってみようかな」
「そうこなくっちゃ!」

諭史は腕捲りすると、早速携帯で店宛てに電話した。

簡単な面接を通して、海は晴れて店員となった。
初めは流石に不安なので、仕事の割当日を諭史と同じにした。
諭史は笑って「これから頑張ろうな」と言うと、海の背中を軽く叩いた。
海は俯きながらも、笑顔を返した。

だが海が受けた面接は一つではなかった。
諭史には内緒で12回もの面接を受け、海はCDショップ以外に4つのバイトを手につけた。
一つは小さな雑貨屋での販売員。そして近くのコンビニでのバイトと水族館での案内員。最後は友人の母親の経営する喫茶店でのウエイトレスだった。

これで海は一週間休み無しの身となった。
平日の午前中は学校に通い、水曜と木曜の7時までは雑貨屋で8時から12時まではコンビニでバイト。月曜と火曜はCDショップで働き、土曜と日曜は水族館と喫茶店を行き来することになる。

海は自分を気遣ってくれる諭史に罪悪感を募らせていた。


「俺もバイトしたいな」
空は乾いた髪を手櫛で梳かすと、ソファーに横になりながら言った。
「“義務教育中は働いてはいけません”なんて誰が考えたんだろうな」
「不器用なあんたが働いても、他人に迷惑を掛けるだけよ」
海は濡れたタオルを片付けながら言った。

海はバイトに関して空には一つも話していなかった。
姉想いな空はいつも海のことを気遣っている。そんな空に海は余計な心配を掛けさせたくなかった。

電話の事について嘘をついたのも、全ては空のことを思っての行動だった。


「あんたは私においしいご飯を作ってくれていればいいのよ」
「料理だけはうまいからな!」
「レンジをショートさせるほどのメカ音痴だけどね」
「うるせぇな〜」


海は笑っていた。

空の笑顔に反射される様に、笑っていた。




この先どんな運命にあるかも知らずに・・・







2003-11-03 19:19:43公開 / 作者:森々
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■作者からのメッセージ
長いブランクがありましたけど、やっとこさ第三弾です。
因みに海のお父さんは敬語が癖です。仕事は弁護士をやっていて、お母さんの職業は看護士さんです。
お父さんはお母さんよりも6歳年下で、かなり仲の良いラブラブ夫婦でした(笑)。
この作品に対する感想 - 昇順
何だか空と海の関係が気になります。(^-^)これからも頑張ってください。
2003-11-07 16:44:14【★★★★☆】流几
計:4点
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