『Oneself  Hunting   第1話』作者:枸橘 / t@^W[ - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約7.7枚

 
 ここはドコ?
 あなたは誰なの?
 どうしてあたしはここにいるの?
 探さなくちゃいけないモノって何?
 それを見付けてどうするの?
 何が分かるようになるの?


 第1話

 夜中近く、スーはベッドの中で自然に眼を覚ました。ハッとでもなく、物音に起こされたわけでもなく、ゆっくりと瞼が開いたのだ。耳を澄ますと、遠くの方で狼の遠吠えが聞こえる。訳も分からず眠りを妨げられた彼女は、ベッドから立ち上がり窓辺に向かった。カーテンを引き、両手で窓を押し開ける。今日の月はどうやら下弦。柔らかい光がスーの部屋に差し込み、薄い影を作る。
「何だろう…。」
最近よくこうして眼が覚める。しかも大体同じ時間。悪夢に魘される訳でもないし、不眠症な訳でもない。ただ、何かに呼ばれるような…。そんな感覚は、2ヶ月ほどこうして夜中に眼を覚ますたび、ずっと感じていたのだった。そして、こうして起きてしまった夜はその後眠れた例しがない。諦めるように、スーはスタンドに明かりを灯し、本でも読んで夜明けを待とうと決めた。
 夜が明けて、1階で母・ロアンが食事の支度をし始めた音を聞き、スーは部屋を出る。
「あら、早いのね。」
片手で鍋をかき混ぜながら、ロアンは言い微笑んだ。
「おはようママ。」
その笑顔に笑顔を返し、スーは顔を洗いに行く。
「今日の朝食はフレンチトーストに、ミネストローネだわ。」
シャワーに向かいながら、スーは笑った。
 顔を洗い髪を整えると、スーはロアンを手伝って朝食の準備をする。先ほどの予想は、サラダが抜けたが的中であった。
「ねぇスー、昨日病院から連絡があってね…。テオの具合が良くないみたいなの。」
スーが座った向かいの椅子に腰を下ろし、ロアンは暗い顔をする。テオは、スーの双子の弟であった。双子故の未熟児で身体が弱かったテオは、幼い頃から入退院を繰り返している。最近は肺炎が酷く、それが原因で少し遠くの病院に入院していた。
「本当?大丈夫なの?」
フレンチトーストをかじり、スーは言う。
「…それがね、だいぶ危ないみたい。人工呼吸器を付けないと呼吸もままならないって先生仰ってたわ。」
悲しそうに瞳を伏せるロアン。そんな彼女を見て、スーは席を立ち肩に手を回してやる。「ママ、大丈夫よ。今日一緒に病院に行って来よう?」
娘の顔を見つめ、ロアンは微かに微笑みを浮かべ頷いた。

 スーの暮らす家から、テオの入院する病院までは車で2時間ほどかかる。州を跨いでの移動であった。朝食を終えた2人はなるべく早く用意をすませ、急いで病院を目指した。
「ねぇスー。あなたにね、頼みがあるのよ。」
車で1時間ほど走った頃だろうか、ロアンが急にそんな事を言った。
「あたしに出来ることなら。」
助手席に座り、前の車のナンバーでゴロ合わせをしていたスーは、急に言葉をかけられロアンを振り返った。
「しばらく、イギリスのおばあちゃんの家にいてもらえないかしら?」
「どうして?」
いきなり予想もしていない事を言われ、戸惑うスー。
「ずっと考えていた事なの…パパが死んでから。テオの具合は悪くなる一方だわ。きっとこれから、ママはテオにかかり切りになってしまう。そうなれば、家の中の事をするのは自然とスーになる。」
信号を右にハンドルを切り、ロアンは続ける。
「そうなれば、スーの大事な将来が台無しだわ。家の事は、ママ1人なら何とかなるから、あなたにはイギリスで自分の事に集中してほしいと思ったの。」
「ママ…。」
「あなたは優しい子よ。目の前に苦しんでいる人がいたら、ためらいなく手をさしのべる優しい子。自分を犠牲にすることをちっとも厭わない子。」
ロアンはチラリとスーを見て微笑む。
「でも自分を犠牲にし過ぎて、スー自身、自分が分からなくなってる。自分は何がしたいのか。自分と言う人間はどんな人間なのか。」
ロアンの言う事に耳を傾け、スーはその言葉を反芻する。
「ママ、あなたに甘えすぎたわ。これからは、スー。自分の事を良く考えてみて。あなたが、幸せな人生を送るためにね。」

 お昼を回った頃、ロアンの運転する車は病院に着いた。ロアンが担当の医師と話しをしている間に、スーはテオの病室に行く。彼は呼吸器を付けて眠っていた。身体から機械に繋がる何本ものチューブと、点滴の後が痛々しい。スーは、優しく弟の手を握った。
「頑張れなんて言わないわ。あなた、十分頑張ってるもの。」
泣きたくなるような、細い指と腕。どうして自分じゃないんだろう?どうして、自分はこんなに健康なんだろう?同じ双子で生まれてきたのに…。神様は、なぜテオにだけこんな苦しみをお与えになったのだろう?スーは、テオの手を自分の頬に持って行く。熱があるのか熱かった。すると、テオがその手をギュッと握り替えした。驚いて、スーは閉じていた目を開く。
「テオ。」
弟の名前を呼ぶ。すると、テオが反対側の手で呼吸器を指差し、外してと眼で訴えた。
「ダメよ。」
スーは首を振る。しかし、テオは頑として外してと訴えていた。
「…分かったわ。少しだけよ。」
溜息混じりにそう言い、スーは呼吸器を外してやる。
「ありがとう。」
嬉しそうにニコリと笑い、テオは言った。その呼吸は苦しそうである。
「大丈夫?」
その言葉にテオは頷く。
「スー。俺と代わってやりたいって、そう思ってるんだろう?」
テオはスーの手を握った。
「見え見えだよ。」
テオの笑顔に、スーは苦笑する。この弟だけには、なんでも見透かされてしまうのだった。
「神様はさぁ、ちゃんと平等にスーにも苦しみをお与えになったよ。」
その意味が分からず、スーは首を傾げる。
「自分を探すっていう苦しみを。」
「なぁにそれ?」
「周りばかりに気を配るな、スー。もっと自分を見つめてあげなきゃ。俺なんて、自分を見つめる事しかできないからさぁ…ケホッ…ケホッ…。」
話の途中、テオは顔を歪めて苦しそうに咳込んだ。
「ちょっと!大丈夫?!」
テオの額の汗を拭うスー。
「スー…お願いだから、自分と、ちゃんと…ケホッ向き合って。自分を探す事は、きっと、きっと病気を闘うより、苦しい……。」
だいぶ間を開けて呼吸を整え、テオは続ける。
「今のスーは、ただ優しいだけの…イイ子。目覚めさせてよ。ホントのスーを。そして…俺の分もいっぱい生きて、幸せになって。」
テオの青い瞳が、ジッとスーを見つめていた。
「俺の分もって…テオ。」
「…逃げ切ることは、誰にも出来ないんだ。それが早いか…遅いか。ただそれだけ。」
テオは弱く微笑む。スーは確信した。あぁ、この子はもう覚悟が決まっているんだと。
「ママにも同じ事を言われたわ。」
そう言いながら、スーはテオに呼吸器を付けてやる。
「もっと自分の事を考えなさいって。テオにも言われるとは思わなかったわ。」
苦笑し、スーはテオの手を両手で包んだ。
「分かったわ。自分を探してみる。ホントのあたしってどんな人間なのか、気になるしね。」
そう言って笑ったスーを見て、テオも優しく微笑んだ。
 その夜、家に帰ったスーはロアンにイギリスへ行くと伝えた。何をどうすればいいのか分かるわけでは無いけど、自分と向き合う決心は付いた。探してみる価値は十分にある。自分と言う人間を。  
2005-08-05 18:33:14公開 / 作者:枸橘
■この作品の著作権は枸橘さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
初めて書かせていただきました。
駄文で申し訳ありません。
皆様とても素晴らしい小説をお書きになっている中、自分の書いたものを公開するのが少々恥ずかしかったのですが、文の質を上げたいなぁと思い書かせていただきました。
なんでもかまいませんので、感想をいただけると幸いです。
名前は『カラタチ』と読みます。
宜しくお願いします。
この作品に対する感想 - 昇順
初めまして、ゅぇでつ。読ませていただきました〜★とりあえず一番最初に、スーという名前が気に入りました、とお伝えしておきます(笑)スーの自分探しの物語になっていくんでしょうか。適度な分量で読みやすかったですし、内容も続きが気になる感じで良かったです。あとは細かいことですが、もう少し(あくまで個人的な要望ですが)――もう少し心情描写が欲しかったような気も。そしてイギリスへ行く、自分という人間を探そうと決心するまでのくだりが早かったような印象を受けました。この内容は、ちょうど二話分くらいで構成するのがボリュームもあって良かったのではないかしら、とふと思ったことを書き連ねてみたり。さて、これからは完全にスー中心でいくのでしょうか。楽しみにお待ちしてます♪
ps.「……。」←カギカッコの中の句点はいらないのが正規表現なんですって→「……」こんな感じに。正規表現に慣れた眼には、そっちのほうが見やすかったりします(笑
2005-08-05 19:27:13【☆☆☆☆☆】ゅぇ
初めまして、菖蒲(アヤメ)と申します。
そうですね、文の質を上げたいとおっしゃるのなら、まずはここの利用規約をしっかりお読みになり、正規表現を目指してみてはいかがでしょう?括弧の最後に句読点は打たないのですよ。文の初めも、何だか空白で空けてあったりなかったりで不定期ですから、きちんと全部空けられたほうがよろしいかと。指摘といえばそんなところでしょうかねぇ。外国の情景が背景であるだけにリッチな感じが致しました。雰囲気は私が拝読させていただいてきた作品の中で、今までにあまりない感じで良かったのですが、スーが一体どんな女の子であるのかをもっと明確に説明されたほうが良いでしょう。(将来と言われましても、「あたし」という台詞からしかわからないので)基本的に周囲の物や状況の描写が少ないので、読み手としましては物語の内容を理解したり思い浮かべたりすることが難しい。それから何分、話の内容が急であると。母親がスーをイギリスにやる理由として、彼女を重んじているのはわかりますが、それにしても子供を遠くにやるにしてはそのことに対してもっと悩む場面が必要だと私としましては感じます。一話はまだ続くのか、それとも次に進まれるのかわかりませんが、起床から転じるには短く、物足りなさを覚えてしまいました。台詞などは状況に応じていて素敵なのですけれどね。弟も姉の出発を心配しているとなると、彼女がそうしなければならないとこちらにも初めのうちにはっきり認識させなければならないと思うのです。このままではどうして、スーが自分を探さなければならないと周囲が思うのかが不明確ですからね。長々と失礼を書きましたがお許しください。それでは、次回更新お待ちしております。
2005-08-05 19:43:36【☆☆☆☆☆】菖蒲
感想ありがとうございます。
正規表現に従っていない文章で、かなり読みづらくしてしてしまった事をお詫びいたします。

ゅぇ様>
スーと言う名前、気に入っていただけて幸いです。ありがとうございます。私も何度か読み返して見たのですが、やはり心情描写が少ないですね…。読む方に頼り切った文章になってしまいました。もっと勉強します。これからは、もう少しスーの性格や、彼女の人との関わり方などを書いていきたいなぁと思ってます。率直な感想ありがとうございました。

菖蒲様>
たくさんのご指摘ありがとうございます。確かに展開が早かったですね…。次からはもっとゆっくり進めて行こうと思っております。スーの性格などについてはこれから書いて行こうと思っていたのですが、こう言う話しならば、やはり読む方にとってそれが最初に分からないと読み進めていけない文になってしまうんだろうなぁと、かなり考えさせられました。話しの内容を知っているのは書いてる私自身だけなので、それをどう伝えて行くかがかなり難しいなぁといつも感じます。ここに投稿させていただいて、意見をいただけてとても勉強になります。ありがとうございます。
2005-08-06 08:00:58【☆☆☆☆☆】枸橘
感想ありがとうございます。
正規表現を守っておらず、読みづらくしてしまったことをお詫びいたします。

ゅぇ様>
スーと言う名前、気に入っていただけて幸いです。ありがとうございます。確かに心情描写が少ない文でした。読む方に頼り切った文章になっていたと思います。これからは、スーの性格や彼女の人との関わり方などを書いていくつもりです。よろしければ、また意見をいただけると嬉しいです。率直な感想をありがとうございました。

菖蒲様>
たくさんのご指摘、ありがとうございます。じっくり考えながら読ませていただきました。展開、確かに早いですね…。次回から、もっとしっかりと話しを組み立てて行こうと思います。スーの性格などは、これから書いて行こうと思っていたのですが、こう言う話しの内容ならば、それを一番最初にちゃんと書いておかないと、読む方にとっては先に読み進めづらい文章になってしまうんだなぁと反省いたしました。また次回も感想をいただけると嬉しいです。ありがとうございました。
2005-08-06 08:43:17【★★☆☆☆】枸橘
初めまして、京雅と申します。拝読しました。スーがどのような子でこれからどういう物語になってゆくのかを匂わせているのは、先の展開を読みたいなと思わせてよかったです。些か流れが速いかな。後半も科白によって進んでおりますし、心情面の動きも書き込んだほうがよいですね。おそらく書き手のイメージが先行してしまってはやくこの場面を見せたいと急いているのではないでしょうか。読者側に外観や内側を能く伝えるにはその気持を制御して、出来得る限り情報を提示してゆく必要があると思います。内容は味があるだけに噛み締めさせる時間が要りましょう。掛け合い等は魅力的なだけにそう感じます。失礼な事を語りました、申し訳御座いません。次回更新御待ちしております。
2005-08-06 12:23:23【☆☆☆☆☆】京雅
初めまして甘木と申します。作品読ませていただきました。会話だけで物語を進めるのは、背景が見えないだけに文章が硬く淡白なものに見えてしまいます。スーの心情や背景描写をもっと書き込んで、読者とスーを同期させ共に自分を捜す旅をさせた方がいいと思います。テオのセリフなどは非常にいい物があるのに、描写が少ないためさらっと行き過ぎた感じで非常に勿体なく思いました。もう少し描写を増やしましょう。長々と辛口の感想を書いてすみませんでした。では、次回更新を期待しています。
2005-08-06 22:46:25【☆☆☆☆☆】甘木
計:2点
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