『とろろこんぶ』作者:むた / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約7.96枚
 彩は必死の思いで、田んぼの用水路から自転車を引きずり出した。
ジ―ワッ、ジ―ワッ、ジ〜〜〜ッ。
 
 アブラゼミの窒息寸前の声が聞こえる。

 通りがかったタクシ―の運転手が、なにか珍しい動物を見るような
目つきで彩を見て、そのまま通りすぎた。

 とろろ昆布のような藻がショ―トカットの頭に張りつく、全身びしょ濡れで左半分がベッタリ
ヘドロまみれのドブ臭い身体、落ちたのだ、用水路に。

 ほんの二時間前。

 今日は終業式、今回の主人公、狭山彩は、
ここんとこ連続のくそ暑い熱帯夜で脳が溶け、明日から始まる夏休みの事で、残り少ない頭が一杯になり、机の中の道具箱と置き傘を、忘れていた。


 「急いでもしょうがない、」
たっぷりの牛乳と砂糖に浸した、フレンチト―ストを食べながら、み○もんたの脂ギッシュな
顔をゆっくり堪能した後、取りに出かけることにした。

 午後2時、カンカンに、高く暑くなった日差しの中、彩は自転車を走らせた。

 通りすぎる田んぼのあぜ道、お線香のCMに出てくるようなの入道雲に、むすような土の匂いと暑さ、それがじんわりと、ビ―チサンダルを履いた足からワンピ―スの裾に昇り、
身体全体蒸すように熱す。

 2時5分、学校到着。

 ペタパタとはだしで走る校舎、薄暗い廊下、床の感触が、冷たくて心地良い。

 階段を昇り三階に、階段からすぐの教室が、5-3組彩の教室。
 誰もいない教室に、誰も居ない校庭、いつもいる場所なのになんだか新鮮だ。

 道具箱を両手に持ち、黄色い置き傘を右腕に引っ掛け、ついでに、体育帽を、頭に
かぶり教室を後にする。

 自転車のカゴ一杯に道具箱をいれると、ハンドルに置き傘を掛けた、

何気なく掛けたこの置き傘が、悲劇の始まりだった……・。

 ガタッガタタタッ…、
道具箱の中身が踊る田んぼのあぜ道、小さい砂利砂を蹴散らしながら彩は進む。
途中トラックとすれ違う、トラックは邪魔そうに大げさに彩をよける、熱い熱気と排ガスが身体にかかり、ワンピ―スのスカ―トが、薄手のカ―テンの様にめくり上がる、でも彩は気にせず走る。

 彩は、額の汗を手で拭いながら自転車を走らせた、近くの民家からは午後のワイドショ―の音が聞こえてくる、
何処にでもある平和な昼下がり、彩は鼻歌まじりでペダルをこぐ。
忘れ物を取りに行くついでの、ちょとした昼下がりの散歩、
いつもこんな忘れ物なら悪くないと思う、彩の口元が緩んだ、次の瞬間!

 ゴインッ…・!
いきなしハンドルにはしる鈍い衝撃。
 瞬く間に、暴れ牛のように自転車の後輪がグンっと跳ねあがり、彩と自転車、そして中身を撒き散らしながら道具箱が宙を舞った。
 綺麗な前方宙返りだった。

 彩は、突然のことに状況を把握できないまでも、目を見開いてこう思った。
 「綺麗な青空」

 そのまま用水路に吸いこまれるように着水、
一瞬の騒がしさの後、また、いつもの静かな田園地帯の風景にもどる。
 もしこのまま、一時間二時間と時が流れたら、明日の朝刊は、
 終業式の深夜、○○市内の小学生女児が溺死体で発見、辺りには散乱した道具箱、
誘拐殺人の可能性も在り、
 の小見出しが、新聞の隅を飾ってしまうに違いないと思った次の瞬間。 

 「バシャァッ!。」
ホラ―映画のように、水飛沫とともに用水路から砂利道を掴む手、

 彩は、鼻や口から水を吸いこみながらも、必死に水路の淵に足を引っ掛け這い出た。
濡れた身体に、泥と砂利砂が張り付く、お気にの水色のワンピ―スもドロドロになった。

 目の前に落ちていたのは、糊やら絵の具やら、中身を派手にぶちまけた道具箱と、軽くくの字に折れ曲がった置き傘、多分コイツの仕業だろう。

 彩は、道具箱の中身を片ずけながら、それを手に取る、小さく「交通安全」と書いてある、
彩は鋭く舌打ちすると、それを田んぼの中に、思いっきり放り投げた。

 道具箱は粗方かたずいた、
しかし、これからが大変な作業だ、
このくそ重いスチ―ル製の自転車を、この深さ1メ―トルは在ろうかという用水路から
引きずり出さなければいけないからだ、
 彩の額からは泥水とともに汗が流れ、あごから落ちた、乾いた地面に黒い点がつく。

 考えても仕方が無いと、
取りあえずまた、生ぬるくヌルヌルした用水路に入り、ハンドルに手をかけた。
 「っ、うっうううううんっ、…・よっ、うんっ、くうううううっ。」
 持ちあがるが、深い用水路のせいでまた落っこちてしまう。

 三回ほど繰り返してから一休み、彩は肩で息をしながら呟く、
「重い、重すぎる、」。

 今回ばかりは、五年生の進学祝いに買ってもらった自転車が仇となった。

 真新しい22インチ、リボンタイヤのお洒落なママチャリは、
142センチ、胸もお尻も何処もかしこも薄くてペッタンコの、彩の身体には大きすぎたし、重すぎた。

 彩は、大きくため息を着いく、しかし、そこであきらめる彩ではなかった。
そう、諦めたらそこで試合終了だから。(笑)

 「っ、しゃああああっ!」
彩はプニッと柔らかい頬っぺたを、両手で叩いて気合を入れると、ハンドルに手をかけた、

今度は水路の上から引っ張ってみた。

 「っ……・、くうううっ。」
少しずつ自転車が這い上がって来る、ハンドルが、ニョッキリ水路の淵から顔を出した、
しかし、つらいのはここからだ。

 自転車が水路に引っかかる、両腕が、だるくなり痛くなり始める、
そして、細い肩や、鶏がらのような背骨が、ワンピ―スから浮き出て軋みはじめる。

 でも、彩は歯を食いしばり耐えた、

 右手を、ハンドルからスポ―クに持ち替え、一瞬、身体の動きを止める。
 目を閉じ深呼吸しながら荒くなった息を整える、
彩の周辺は、彼女の集中力で静まり返り、用水路を流れる水の音だけが聞こえる。

 そして、

「うっ、くああああああああああっ!。」
 彩は、力いっぱい、仰け反る様に引っ張った、
腕が!足が!腰が!キシキシと悲鳴を上げる、半分ほど上がっていた前輪がさらに三分の二ほど浮き上がった、だんだん腕がだるくなり、頭の筋もピント張りすぎたのかクラクラしてきた。
 でも、
「安○先生〜〜!!」彼女の鬼気迫る気迫に勝てるものなど、無かった、
右のペダルに引っかかる用水路の壁も、左のペダルに引っかかる、藻や水草、
ザリガニメダカフナetcなど邪魔する用水路の住人は、残らず引き抜いて。
「っしゃッ、コノヤロッ!。」

「ズルッ、ズルガシャガシャッ。」

 バウンドするような自転車の音、砂利砂の上に煙が立つ、へたり込む彩、
その手前には、用水路の端から電車道が引かれた土と、自転車が横たわっている、
救出成功である。

 「ありがとう、安○先生」
 彩は、大きく息を吸いこむと、空を見上げた、
綺麗な青空だった。

 自転車は、激しく汚れた以外は、何処にもおかしな所は無かった、
流石はメイドイン、カ○ンズである。
そんな彩の横を黒いタクシ―が不思議そうな、でも邪魔そうな顔で通すぎた、
これが今から丁度二時間前の話である。

 「帰ったら、ちゃんと綺麗にしてあげるからね。」
そ う独り言を呟くと、ひょいっと、自転車を起こし、
エメラルドグリ―ンのフレ―ムを、指で弾いた。
 チ〜ンと、澄んだ音が返ってきた。
    

2005-08-01 22:54:47公開 / 作者:むた
■この作品の著作権はむたさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 あははは、新しい挑戦のつもりで、
主人公を俺から、ニュ―キャラの狭山彩ちゃんを投入し、ラブコメ路線で行こうとおもったわけですが、なぜか知らずに、また途中から
というか最初から、俺系の話になってしまい深く反省中であります、
それと、前回の投稿では、7レスも着き大変
驚き感謝しています、皆様本当にありがとうございます、これからも生暖かい目で見ていただければ幸いです。

この作品に対する感想 - 昇順
はじめまして。ころくと申します。よろしくお願いします。読みましたので禄でもない感想をば書こうかと思います。なにやら、「、」と「。」の使い分けが最大の弱点であるように思われます。他の方にもこのような書き方をされる作家を知っていますが、彼はスピード感や流れを区切らないために、ある程度わざとやっている部分があると仰っておりました。むたさんも、その状態が見られる部分の内容を鑑みるに、そのような意図がおありかもしれません。しかしながら、批判の対象になる事がしばしばで、他にその意図を形にする方法を模索されたようです。自分には具体例を出せませんが。未熟者です。参考になれば幸いです。主人公の傘と自転車に対する態度の違いが非常に良かったです。失礼な感想を申し訳ありません。次回更新、またこれよりの作品を楽しみにしております。
2005-08-02 00:19:58【☆☆☆☆☆】戮煦
初めましてモンバイと申します。み○もんたの脂ギシュな顔、にはただただ同意するしかありませんね。それをゆっくり堪能なんて……
独特の陽気さがあっていいと思います。読んでいて気持ちがよかったです。
次回更新を楽しみにしています。
2005-08-02 14:56:25【☆☆☆☆☆】モンバイ
拝読しました。客観的に己の文章を見る事って物書きにとっては大切な事で御座いますよ。些か改行に難が御座います。おそらく文量の少なさを補おうとしておられるのでしょうけれど読み難さのほうが際立ってしまっておりますね。内容は面白可笑しく書かれてはいると思いますが、物語性に欠けておりどうにも不完全燃焼。同じ内容でも地の文章に重きを置く事によって随分違ってきます。書き口切り取り方はよいので、少し読者へ読ませる事を意識して書いてみてください。読み手は書き物を通じて書き手も見ているのですから。
2005-08-03 08:32:29【☆☆☆☆☆】京雅
作品読ませていただきました。作品の雰囲気、彩の奮闘ぶりは読んでいて楽しかったです。ただ、文章の行間をやたらと空けるのは私は好みませんので違和感がありました。句読点の使い方が独特なのもちょっと気になりました。早い話が句読点など作者の自由なのですが、読んでいて文章のリズムが悪くなっている印象があります。心情が少ないため感情移入がしづらい部分もあり、全体的に見れば秀作を良作に留めてしまっている感じですね。勿体ないです。長々と戯れ言を書き散らして済みませんでした。「綺麗な青空」のシーンは印象に残りました。では……。
2005-08-03 22:21:03【☆☆☆☆☆】甘木
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