『くらやみの跳躍』作者:明太子 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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 飛んでけ。
 飛んでけ。
 秀人は夜の浜辺に一人佇んで、昼間は海があった方向を眺めながら念じる。空は分厚い雲に覆われていて星ひとつ見えない。もちろん雲だって実際に見えているわけではないが、それは雰囲気でわかるし圧迫感でわかるしある意味見えている。
 はじめは当然真っ暗だ。しばらくすれば目が慣れて周りが見えてくるようになるはず、と根気よく目を見開きながら、時折ゆっくりと視線を動かしたりしてじっと目が慣れるのを待つ。しかしなかなか暗闇はその正体を現さない。やがて、この場所はいつまで経っても真っ暗であることを理解する。理解した次の瞬間に身体じゅうの血が逆流し、顔が熱くなる。ここには本当の闇がある。
 闇の中で百メートル先を目測し、その一点だけを凝視すると、次の瞬間にはその場所にいる。また百メートル先を目測する。その場所にいる。そんな一人遊びを繰り返しているうちに、やがて自分がどこにいるのかわからなくなる。
 不意に紛れ込む理由なき邪念に従って目を瞑ってみる。まぶたの裏で火花が散った。これでは明るすぎる。暗闇を求めて再び目を開ける。するとせっかく気持ちよく飛んでいたのにまた元の浜辺に戻っている。飛ぶためには集中力が大切だ。
 しかし今度は先にも増して全神経が研ぎ澄まされているのがわかる。それはまるで、皮膚を形成する細胞ひとつひとつから長い長い糸が生えているかのような感覚。その無数にのぼる糸に引っ張られて、秀人は再び百メートル先へ向かって浮遊する。そこには痛みはおろか引っ張られるという感覚さえない。それは一本の糸が引っ張られると同時に、その裏側にある糸が同じ力で、同じベクトルで、彼の身体を押しているからだ。そうした数億本の糸の、文字通り一糸乱れぬ働きの先にあるものが“動く”ということなのではないかと彼は思う。
 歩く。走る。手を挙げる。シャドウボクシング。女を抱き寄せる。バイクに乗る。
 バイクに乗る。

「ヒデトオー」
 遠い声が彼を闇から隔離する。異国の呪文のように聞こえたその言葉が自分を呼んでいるのだと気づくまでにしばしの時間を要した。声がした方を振り向くと、闇の中で小さな光がぼんやり浮かびあがっていた。光を運んでいる人物の足元一点のみを照らしていたそれは、彼が振り向いたのが合図であったかのようにせわしなく円を描いたり水平移動したりしている。由佳が懐中電灯で自分の姿を捕らえようとしているのだろう、と秀人は思った。 
 だから彼は返事をしなかった。
 小さな灯りは道草を食うことなく、ほぼ一直線にこちらに近づいて大きくなってくる。彼は、自分から生えている数億本の糸のうち、由佳と結び付いている一本をつかんで手繰り寄せる動きを見せる。しかしその行動は誰にも見えない。伸ばした腕を肘から引く際に起こる衣擦れの音も波音にかき消される。
 秀人は見えない糸を手繰り寄せて由佳をひっぱりこむ。
 ひっぱりこむ。

 懐中電灯の光が自分の姿を捕らえようとする直前に、秀人はその動作をやめて慌てて海側へ向き直った。
「いた。見つけた」
 果たして由佳の声だった。秀人は慣れない革靴をはいた両足を前に投げ出し、両手を後ろについて海を眺めたまま微動だにしない。
「おーい、無視するなよ」
 由佳が秀人の肩を軽く押してから、彼はそこで初めて由佳に気づいたかのような反応を示した。
「なんだ、由佳か」
「うそつけ」
 彼女は笑いの混じった声で言った。
「よくここがわかったな」
「絶対ここだと思ったよ」
 ここは元々、由佳の弟である英司が中学生の頃に見つけて皆を連れてきた場所だった。岩場に囲まれた小さな砂浜で、夜になると視界の範囲内に船が全く通らない。漁火も見えない。月が隠れれば完全な闇に支配される場所だった。人を殴ることにしか興味を抱いていないと思っていた英司がこのような場所を好む、という事実が秀人にとっては衝撃だった。最初、子供には欠かせない秘密基地のようなものか、と秀人は英司の純粋さにどこか安心したような気持ちを抱いていたに過ぎなかったが、いつの間にか秀人自身がこの場所の虜になり、以後幾度となくこの場所を訪れていた。
「で? 何しに来た」
「『何しに来た』とかよく言うよね。秀人が急にいなくなるから、みんなに呼んでこいって言われたんだっての」
「『探してこい』じゃなくて『呼んでこい』?」
「たぶん居場所わかる、って先にあたしが言ったから」
 秀人は苦笑した。自然と大きな鼻息もひとつ漏れる。
「読まれとるなあ」
「トーゼンですよ」
 由佳はそう言いながら、制服が砂にまみれることも気にせぬ様子で彼の隣に腰を下ろした。親たちから与えられた当初の目的を果たす気はさらさらないらしい。彼は由佳のその行動に満足して何も言わなかった。
 彼女が点けっぱなしの懐中電灯を二人の間に置くと、凝縮された光が砂地にフリスビー大のステージをつくった。
「おい、懐中電灯消せよ」
 秀人は自分でそれを消す気はなかった。
「え? でも、真っ暗になってもあたしのこと襲わない?」
「あのな、もしお前が襲われるとしたら、こんな人気のない場所にノコノコやって来た時点でアウト」
「にゃはは、そりゃそうだね」
 由佳が懐中電灯のスイッチを切ると再び安息の闇が訪れた。

 風は気まぐれに、秀人のまぶたを裏返さんばかりに強く吹く。しかし波音と風音は闇の忠実な僕であり、決して沈黙を破っているわけではなかった。
 しばらくして、人心地ついたかのようなタイミングで由佳が口を開く。
「和人の……その……見た?」
「いや」
 秀人は、由佳が遺体のことを訊いているのだとすぐに気づいた。
「だよね。私も。そんなの見たくないよ」
 誕生日が来て、すぐに中免を取って、すぐに先輩から借りたバイクで二ケツして、すぐに事故った遺体なんて、想像できない姿に決まっていると秀人は確信していた。世の中には見なくていいものもある。
「親父とお袋の表情見たら、もう見る勇気がなくなった」
「だよね……親って大変だね」
 その発言が適切なのかどうかはともかく、疑う余地のない由佳の内面を推し量った秀人は何も指摘を入れなかった。
 由佳がとりとめもなく一つ溜息を漏らしたあと、浜辺は再び沈黙に包まれた。秀人にとっては、横に由佳がいて沈黙が保たれるこの空間が、一人の時にも増して心地よい。この空間はこのまま時間を止めてくれるはずだという信頼感さえ生まれる。
 不意に、押し寄せる波が今までのものよりも大きな音を立てた。二人の足元近くまで迫っていると感じて、秀人は伸ばしていた足を少しだけ引っ込めた。足は濡れなかった。
「ここにいたら、昔学校で聞いた話思い出しちゃった。ブラックホールの話」
 由佳が長い沈黙を破り、時が再び刻まれる。
「ん?」
「ブラックホールって、質量が小さくて引力がめちゃくちゃ大きい星の存在が原因なんだって。ってことはさ、地球と原理は変わんないじゃん」
「まあ……」
「だからね、ほら、こうやって、ぽんっ……て、跳んだら地球に戻されるでしょ。あたしは今ブラックホールに吸い込まれた」
「お前今たぶん立ち上がってジャンプしたんだろうと思うけど暗いから何も見えない」
「いいの見えなくても! 話聞いてよ!」
「聞いてるよ。でもその話オチねえべ」
「ねえよ。ねえべよ」
 ヤケクソな発言を残して由佳は再び砂地に腰を下ろした。
 彼女が何でもいいから話をして気を紛らせたいのだろうということは痛いほどわかったから、今度は俺が何か話題を作らなければならない、と秀人は焦りを感じる。しかし当然ながら話題は何も出てこない。
「じゃあさ、今動いたのは由佳か地球か、どっちだと思う?」
 彼は意に反して、昔出来の悪かったクラスメイトの由佳に勉強を教えていた頃の癖が出て、彼女に考えさせるような問いを出す。しかしそれでも一時の気の紛れにはなるだろう。彼女は彼女で、昔彼に勉強を教わっていた頃の癖が出て必死に答えを探そうとする。秀人にとっては、今ここで彼女が考え込む姿をこの目で見ることができないのが残念でならなかったが、その姿がすでに脳裏にしっかりと焼きついているのが救いだ。それを映し出すスクリーンは三六〇度無限に広がっている。
「え? あたし……じゃないの?」
 しばらくの黙考ののち、由佳はすぐに出るはずの答えを自信なさげに口にした。
「俺が由佳と全く同じように飛び跳ねたら、由佳は全く動いてない。地球が縦に動いてる」
「それ、秀人の目線だけの話でしょ」
「動きってのは主観なんだからそれでいいんだよ」
「シュカン……シュカンク」
 由佳は小さく呻くと再び黙り込んだ。秀人は眉を顰めて彼女を見やるが彼女の顔は当然見えない。一方で眉を顰めた秀人の表情も、誰からも見られることはない。その場はただ「シュカンク」の言葉の余韻が中空を彷徨うばかりだ。
 しばらくして彼女が動く音がする。うなだれていた頭を勢いよく振り上げた音だ。秀人にはよく見えた。
「……で、オチは?」
 由佳が挑むような口調で尋ねる。彼女の精一杯のカウンターパンチは、秀人にとっては肩叩きのように気持ちが良い。
「オチは、英司と和人が死んだのも同じってこと。俺らから見たらあいつらが消えたことになるけど、あいつらにしてみれば消えたのは俺たちのほうだ」
「うーん」
 いつもは秀人の屁理屈にも過剰に納得してしまう由佳が、珍しく彼の話に納得しない。今宵は平穏な夜ではないのだ。彼自身も自分の言葉に信頼を置いていない。英司と和人が自分たちの前から姿を消したのか、それとも二人の前から自分たちが姿を消したのか。このような完全なる闇に溶けていると、森羅万象に対する現実感が薄れ、思考回路から“常識”というテンプレートが消えてしまうので、あらゆる思索は真っ白の状態からスタートしなければならない。そんな長い旅路はごめんだと、秀人は自分の思考もそこで止める。
「でも」由佳が強い抗議の念をこめて口を開いた。「それじゃあ慰められないよ」
 秀人はその言葉にいたく傷つく。
「どうせ和人は帰ってこないんだよ。英司が無理やり誘わなきゃ……」
「おい、そういうことを言うな」
「だって!」
 そして由佳は突然声をあげ、秀人の肩に頭を埋めて泣き出した。彼女の肌の熱が伝わってくる。

 この温もりは要らない。

「……おかしいよ」
 秀人は思わず口にしてすぐに後悔する。しかし由佳は、気づかなかったのか聞こえぬふりをしたのか、そのまま秀人の胸で泣き続けていた。
 秀人と由佳は同級で、それぞれの弟である和人と英司は四つ下の同級。由佳と和人という組み合わせはどう考えても「おかしい」んだ。それを考える度に秀人は吐き気を催す。彼は吐き気を堪えながら、そっと彼女の頭に手をやって後ろに撫で付けてやった。しかし彼の手は彼女のうなじあたりで止まる。
 シルクのような手触りが、背中まで続くはずの手触りが、そこで途切れていた。通夜の場で視認したものの、頑なに拒んでいた現実が今再び、今度は彼の掌の触覚に訴える。
 由佳は秀人に身を預けたまま、肩を揺らせてまだ嗚咽している。秀人は身じろぎもできぬまま不思議な感覚に襲われていた。
 由佳が誰を好きなのかはともかく、弟を失った者同士、由佳に先に来たこの感情が秀人には未だ襲ってこない。未だ現実として目の前に現れない。襲ってくるのは一体いつになるだろう。まだまだ先のことになるような気がしていた。

 ひとしきり泣き続けると、由佳は元の彼女に戻る。
「……はあ、ちょっとスッキリした。秀人、ごめんね」
「ん」
 秀人は曖昧に返した。
 由佳はしばらくの間、おそらく目をゴシゴシとこすっているのだろう、断続的な短い摩擦音を立てていたが、しばらくしてから手探りで懐中電灯を探し当て、そのスイッチを入れて点灯した。
「もう戻ろう」
 由佳の声が高い位置から聞こえた。彼女はもう立ち上がっていた。
「その髪」
 秀人は座り込んだままその場を動こうとしなかい。
「にゃはは。切った。和人が好きって言ってくれてたんだけどね」
 由佳は元気なく笑う。腰まで伸びていた絹糸のような髪はもうない。
「俺も好きだったんだけどな」
「ねえ、もう行こ」
 由佳は秀人の呟きには返事をせず、彼にその場から離れるよう促した。無視されたことが秀人の癪に障る。
「いいわ。俺ここで寝る」
「え、ほんとに?」
「ああ」
 由佳は立ったままおそらくこちらを見ている。懐中電灯を自分に向けないのは彼女なりの気遣いなのだろう、と秀人は思った。
「……うん。じゃあそう言っとく。なんか気持ちわかるような気がする」
 由佳は秀人の気持ちを汲んだと言わんばかりのきっぱりとした口調で答えた。秀人は暗闇の中で自嘲的な笑みを禁じ得ない。
 彼女は何もわかっていない。

 おやすみ、と彼女は確かにそう言ったはずだが、言葉が風に飛ばされて秀人には幻聴との区別がつかなかった。一応立ち上がって、懐中電灯で自分の足元を照らしながら去っていく彼女を目で追い、残された秀人は本当にここで朝を迎える気になっていた。
 遠ざかる灯りが視界から消えるのを確認してから再び闇の一部に戻ると、秀人は不意になにか突拍子もない行動に出たい衝動に駆られた。しかし何も思いつかなかったので、とりあえず勢いよく跳ねてみる。
 地球が動く。
 跳ねてみる。
 闇が動く。

 二度目の着地の衝撃で嗚咽が漏れた。
 いつ襲ってくるのだろうと思っていた、あの感情なのかどうかはわからなかった。それどころか、誰に対するどんな感情を何にぶつけたらいいのか、何もかもわからない。
 彼は、すでに緩めてあった安物の黒いネクタイを外して、黒い上着も脱いだ。黒い革靴も黒い靴下も脱ぎ捨て、黒いスラックスを膝の上まで捲し上げると、昼間は海があった方向へと駆け出した。
 すでに闇の一部ではなく、闇と静寂の世界に抗うただの謀反者と化した彼は海に向かって走る。引き波に足をとられても、転倒しそうになるのを堪えて必死に前に進む。
 もはや彼は自由ではない。もう飛ぶこともできない。糸は全て切断された。一本残らず、全て。
 だからせめて念じる。
 さらってけ。
 さらってけ。



<了>
2005-07-16 02:17:42公開 / 作者:明太子
■この作品の著作権は明太子さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
最近、期せずして“3作品集に1回”という超ハイペースで投稿させていただいている明太子と申します。
感想などいただけましたら嬉しいです。よろしくお願いします。
この作品に対する感想 - 昇順
 いいもの発見! 明太子さんの新作だ。
 明太子さんの『現実世界における非現実での少年と少女の会話』は結構好きです。雪ダルマしかり、ちいちゃんしかり。ふたりの思考パターンの違いが、切ないような気分とともに伝わってきます。いや、いちばんの理解のズレを起こしているのは読み手かもしれないなぁ。ふたりの過ごした時間のほんの一時を共有しただけでそのすべてをわかった気になりつつも、やはりわかっちゃいない。そうそう、『人間らしい』のではなく、『人間じみて』いる。
 冒頭の『仮想の跳躍』部分。とても丁寧に描かれていると思うのだけど、もっと精密に書き込まないと秀人の感覚は認識しづらいなぁと思う。でも、興味深いね。この書き物は私に勉強させてくれます。
 ……超ロングスペースの間違いなんじゃないの?
2005-07-16 11:03:24【★★★★☆】clown-crown
初めまして、京雅と申します。拝読しました。人並の読解力を得ていない私で御座いますから明太子様の意図するところを理解していないやもしれませんゆえ、発言に何かしら気に障る箇所があったら申し訳御座いません。と前置きを垂れますのも、幾分か解り難い書き物であったと思ったからで御座います。物語の中で書き手(明太子様)は読み手(ここで言う私)を突き放して書いている時とぐっと惹き込もうとして書いている時に、その異なる二つがあったように感じられました。途中の掛け合い、面白いのだけれどもどこか曖昧であるように、そして徐徐に現実味を増したかと思っていたらふらっと感覚描写が多くなったり。とは言いつつ、読み終わったあと何かが凝っています。切なさもあるのですが、兎角不思議な感覚で御座います。気に入りましたのは(京雅が気に入ったからと言ってどうというわけでは御座いませんが)冒頭と後半に置かれた短い文で御座いますね。ぐぐっときました。長長と失礼な事を綴りました、ご容赦を。超ハイペースで紡がれる次回作をお待ちしております。
2005-07-16 11:49:37【☆☆☆☆☆】京雅
何となくわかった気にはなっていますが、この手の読み物は苦手です(笑 面白いとは言いがたいけど、しっかりした小説だと思う。影舞踊には書けないし、読み取れない。曖昧な恋愛感情と苦悩とか、そんなようなものを感じました。きっともっと深いんだろうけど、すいません、読み取れませんでした。糸がどういう意味で使われているのかが鍵な気がするけど、どうだろう。あぁ、真に勝手な感想ですね。すいません。コメントには笑わせていただきました(マテ 超ハイペースにばてないでくださいね(笑
2005-07-16 13:03:02【☆☆☆☆☆】影舞踊
この作品は万人受けしない作品ですね。と先に失礼な事を申し上げる事を謝罪致します。私個人が思ったのは、難解で退屈。最後まで読んでもいまいち理解できず、どっと疲れが押し寄せてきました。途中まで読んで一回戻って、意味を確かめる為に読み返すの繰り返し。しんどかったです。んーせっかく読んだのに楽しめていない自分に腹が立ちますね。これが明太子さんの普段の書き方であれば、私の趣味とは合わなかったということで^^;ただそれだけの事ですので、気にしないで下さい。
2005-07-16 17:10:25【☆☆☆☆☆】鈴木太郎
待ちに待った明太子様の新作、読ませていただきました。いやしかし、明太子様が作品を投稿するのは、空から宝箱が降ってくるような、海岸にふと宝箱がうちあげられたような、そんな感じですよね(どんな感じだ(汗))。もはや明太子様の感性は不朽。今回も楽しませていただきました。この手のお話は、頭で理解するというよりも、心で何かを感じる類のものなのではないのでしょうか。「明太子様が何を狙っていらっしゃるのか」はあまり深く考えずに、作品から溢れ出ている雰囲気を十分に感じる。そういう読み方もありだと思うのですが、そういう読み方はいけないのでしょうか。さて、内容についてですが、私はもう「だって!」にやられました。作中、ほぼ均一に保たれた感のある登場人物の感情が、ここで一気に爆発してますよね。死とか恋愛とか、色々な理屈に感情。これだけ短い作品の中に、たくさんの色々なネタを詰め込んで、しかもそれをある一点でぶつけてくる勢い、凄かったです。検討違いなことばかり書いてしまって申し訳ありません。次回作も楽しみにお待ちしております。(「シュカンク」この言葉、しばらく忘れられそうにありません(笑))
2005-07-16 18:52:57【☆☆☆☆☆】エテナ
『考えるな、感じるんだ』という境地を、作者が考え尽くすことによって現出させるのが文学だと思ったりしている自分は、今回も見事に『感じさせて』いただきました。媚びのないリアルな情動を写実化する技巧は、いつもながら感服です。ここまで尽くしても感じられない方の場合、それは単に感じたものに無意識に同意できなかっただけではなかろうか、みたいな。
2005-07-16 20:16:19【★★★★☆】バニラダヌキ
はじめまして、明太子様。チェリーと申します。読んでいくにつれ、不思議な感覚が体を取り巻き、とても惹かれている私がいました。よかったですぅ♪でもちょっと難しい漢字で、う〜ん、なんていえば良いんだろう。2回繰り返す言葉はなんだかとても気に入ってたりです♪でもなんていうか読み終えたとき、とりあえずさらに不思議な感覚ですねぇ。う〜ん、なんていうか読み取れないというか、でも私はまぁ良かったと♪ではでは、次回作期待してお待ちしております♪
2005-07-16 22:41:34【★★★★☆】チェリー
作品読ませていただきました。凄く上手に作られた作品だとは思いますが、秀人の不快感がいまひとつだった感じがしました。私も友人をバイクの事故で一人、自殺で一人、病気で三人亡くしていますが、その度に感じるのは悲しみよりも、言葉にしづらい不快感だけでした。怒りとも後悔ともつきかねる感情があり、葬式のあとは「じゃあな」という気持ちぐらいしかわきません。感情が鈍いのかもしれませんが……途中で描かれる秀人と由佳の禅問答のような問いかけは答えがない感情の堂々巡りのようでよかったです。長々と戯れ言を書いてすみませんでした。では、次回作品を期待しています。
2005-07-17 12:56:25【☆☆☆☆☆】甘木
二回目のコメントすいません。でも皆さんの感想を読んでわかったので、点付けついでに(嫌な言い方だ 考えるのではなく感じさせる。なるほどと思わされて、ならばこれは良いだろうと思った次第であります。つか今更こんなこと言い出すなんて根本的に読み方が可笑しいのかもしれないですね(苦笑 どうかお許しを。よかったです。すごく感じることは出来ていましたので。
2005-07-17 13:35:38【★★★★☆】影舞踊
やはり感想をもらえるというのは嬉しいものです。では長くなりますが。

clown-crownさん>
まいどです。「人間じみている」とのお言葉、実は個人的に異常なこだわりを持っている部分なのでありがたく頂戴いたします。おそらくご推察の通り、冒頭は何度か書き直した結果ではあるのですが、改めて全体を俯瞰してみると、おっしゃるようにもっと揉んでみるべきだったか。相変わらずのグッドアドバイスありがとうございます。
京雅さん>
お名前は存じ上げておりましたが、初めましてですね。一応、全編通して読者を惹きこもうとしておりますが(笑)うまくいっている部分といっていない部分のバラツキが激しいようですね。ワンシーンのみの作品なのだから浸らせるべきところに、邪魔が入るというようなイメージでしょうか。ご指摘ありがとうございます。
影舞踊さん>
異常に複雑な感情を書こうとしたので、頭で理解しようとすると文字通り“お話にならない”作品と化す可能性大、という自覚はありました。影舞踊さんの二つの感想はたいへん示唆に富んでおりまして、本当は読者のFeelの部分を、自然と感想に転化させるような力を作品自体が持っていないといけないのだと思います。その点まだまだということですね。苦手な作品に対する率直な感想もまた貴重です。わざわざお戻りいただき感謝です(笑)。
鈴木風太郎さん>
別にどんな感想でも気にしませんし謝罪の必要もありませんよ。「難解」「退屈」は厳粛に受け止めなければいけませんが、「疲れる」。これ独特の表現ですよね。こういう珍しい感想をまさか二度ももらうことになるとは思いませんでした。読者には読むのを途中でやめる自由があり、従って「疲れる」というのは、通常“それをどうしても最後まで読まなければいけない状況”でしか感じないものだと思うのですが、なにか使命でもあったのですか(笑)。
エテナさん>
とんでもない、海岸にうちあげられるのはワカメです(?)。このワカメは、過去のワカメにも増して様々な評価に触れているので、実に投稿した甲斐がありました。分析して指摘をもらえるのは次作への参考になりますし、一方でエテナさんの読み方は我が意を得たりで次作への活力になります。しかし何より、エテナさんにブルース・リーの精神が宿っていたのがたいへん嬉しいです(笑)。
バニラダヌキさん>
たった3行で、長々と書いた拙作が読者に与える以上の衝撃を作者に与える読者なんて聞いたことがありません(笑)。しかし書くほどに課題が出てきて、なんだかハマりますね。読者に挑戦状を叩きつけるような作品を書いているつもりはないのですが、なかなかうまくいきません。
チェリーさん>
はじめまして。いやもう、「う〜ん」と考えこみながらも「よかった」と言っていただけるのが本作にとっての理想なのかもしれません。自分の言動さえうまく説明できないこともあるし、感情を正確に読み取ったら逆に冷めてしまう場合もあるし、キーワードは「なんとなく」です(笑)。「難しい漢字」の「漢字」がもし「感じ」の誤変換でなければ、これは申し訳ない。読みやすいように漢字を“開く”作業を怠りました。以後気をつけます。
甘木さん>
友達死んだ自慢はさておき、(友人と肉親の違いはあれ)死に直面した感情が「悲しい」の一語で片付けられないことには同意です。これに、同時にもう一本別の糸を絡ませて、正に「言葉にしづらい不快感」を書こうとしたものが本作でありますが、秀人が「単に悲しんでいる」ととられたのであれば、これはもう作品として大失敗ということになります。甘木さんの受け止め方をよく叩き込んでおきます。

皆様、お読みいただきまして本当にありがとうございました。ではまた忘れた頃に(?)機会がありましたらよろしくお願いします。
2005-07-17 23:49:24【☆☆☆☆☆】明太子
主人公の心情にシンクロできないのがどうにも歯がゆく感じます。足りないのは作中の情報か、私自身の経験か、と小一時間悩みました。具体的に同調できない――けれど触れたい、知りたい、と感じてしまう主人公の瑞々しい心情描写が素敵です。情景が鮮明に浮かぶ描写はやっぱりお見事。もう一歩降りてきて欲しいと願うのは読者の我侭でしょうか。
2005-07-18 01:47:10【★★★★☆】メイルマン
あ、ごめんなさい。本当にすいませんでした。
2005-07-18 16:54:09【☆☆☆☆☆】鈴木太郎
メイルマンさん>
そんな、高い所になんかおりませんってば(笑)。本作は、決して読者の想像を巡らせるために肝心な部分を伏せたわけではなく、簡単に言うと“これ以上はっきりさせることができなかった”というのが本音でございます。扱った題材に対する小生の限界といいますか。次はもっとシンプルなものに挑戦しようかと(笑)。いつもお付き合いいただいて本当にありがとうございます。
2005-07-18 21:34:38【☆☆☆☆☆】明太子
すごく狭い世界について書かれているけど、なんだか壮大!哲学チックな物語を楽しませていただきました。二人の会話がなんだかリアル。中でも「オチは、英司と和人が死んだのも同じってこと。俺らから見たらあいつらが消えたことになるけど、あいつらにしてみれば消えたのは俺たちのほうだ」の台詞がすごく好きです!!

2005-07-19 02:41:54【☆☆☆☆☆】律
おこしやす。「壮大」とのお言葉、もし世界の真っ暗ぶりが伝わったのなら光栄です。意識されているのかいないのか、私的にテーマを端的に表している(つもりの)台詞を、律さんはいつもひょいと拾い上げるので呆気にとられております(笑)。お読み下さいましてありがとうございました。
2005-07-19 22:42:46【☆☆☆☆☆】明太子
計:20点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。