『病陣 (ヤマイジン)』作者:永遠 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
全角1016.5文字
容量2033 bytes
原稿用紙約2.54枚
病……やむこと。生物の全身または一部分にに異常をきたし、正常な機能が営めない現象。
陣……兵士を並べ隊伍を整えること。またその隊列。いくさ。合戦。






 ――こうして寝ているとね、病気に囲い込まれていって、もう駄目になってしまう気がするのだよ。

 その足には鉛の弾を入れたまま、左腕は神経をやられて動かせないまま、戦場でもらった流行り病を抱えて。
彼はらしくなく弱々しげに笑って言ったのだった。
そのせいか、医師の診断を下す声は言外に、彼がそう長くないことを告げている気がした。
 それでも、彼は、峰はまだ笑っていた。  峰が負傷した、と言うのは噂で聞いていた。
あの峰がまさか、と全くれんは相手にしていなかったのだが、軍会議で峰が負傷者病棟に運び込まれたと知らされた。
 軍の参謀として一戦から引いたところにいたれんとは違って、峰は戦場でその地位を上げていた。
機転を利かせたその力はどこの戦闘でも重宝がられた。本人もそれを楽しんでおり、尻込みもせず戦場に身を投じた。
 いつも戦場から帰ると、場違いに土産をくれたり現地での話を面白可笑しく話したり。
戦場と言う場で、それでも峰は快活に、何よりも峰らしく居たのだ。
 それが、この様だ。
 いつかは、こうなると分かっていた。いくら峰が賢しくても、避けられないことだったのだ。戦場にいる限りは。
 けれどそれが酷く不条理に思えて、れんは無性に悔しくなった。

 窓辺で白いカーテンが揺れている。
病に蝕まれた峰の体は貪欲に睡眠を欲していて、柔らかな午後の日差しと涼しい風の中、安らかな寝息を立てていた。
れんは手持ち無沙汰に、何をするでもなく峰の寝顔を眺めていた。
 この病室は向かいに別棟が迫り、変に囲まれた庭というか空き地に面していて、
静かだが時折風が模糊とした賑やかな声を吹き上げてくる。
 平和で優しい雰囲気が、逆にれんを締め付けて、悲しくなる。
この静寂の中で、やがて峰は死んでいくのだ。それが淋しくて、白いシーツに包まれた少し熱っぽい峰の頬に触れた。
 
 ――突然風がカーテンを激しくひらめかせ、その直撃を受けたれんは腕をかざし目を瞑る。
風が止んで目を開けると、目の前のベッドは無人だ。
 風の吹き上げる声も何かの気配もない静謐に満ちた病室の中一人、れんは峰が一年前に死んだのを思い出した。
2005-06-21 17:22:08公開 / 作者:永遠
■この作品の著作権は永遠さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
二人と、優しい沈黙の話です。
話はこれで終わりで、峰の話も終わりですが、まだれんの世界は終わりません。
この作品に対する感想 - 昇順
感想記事の投稿は現在ありません。
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。