- 『裁け！ 【罪と罰】』作者：ミノタウロス / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
- 全角2056.5文字「何で彼がここにいるんだ」
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誰かが言った。
「どうして人殺しがここにいられるんだ？」
また誰かが言った。
どこかに向かって歩き続けている彼を、人々が遠巻きに見つめていた。
海老沢 和義、享年５２歳。
人を殺し、公判中、その判決を聞かぬまま、彼は自ら命を絶ってこの世を去った。
ここは人間の分け方で言うところのあの世であり、仏教で言うところの『極楽』である。
人の世で罪を犯した者は、例えこの世で露見しなくとも、あの世では通用しない。
よってここに『罪人』はいない。
和義には娘がいた。
男手一つで育てた一人娘だ。目に入れても痛くない、心からそう思える、何にも替え難い愛しい娘だった。妻を亡くし、悲嘆していた彼にとって、娘は心の支えだった。
娘が３ヵ月後に結婚式を迎える、そんなある日の事だった。
「じゃあ、行ってくるね。」
「おい、嫁入り前だぞ、あんまり遅くなるなよ。」
「はあーい。」
和義の娘、真理子は今の内にと、飲み会を頻繁に行なっていた。
そんな娘を不安げに見守った。
夜遅くに帰ってくる事だけではなく、ある青年の事が気になっていたからだ。
真理子は今回の結婚が決まる直前まで、別の男と付き合っていた。
彼の名は友也。小学生の頃からの幼友達。
３年程付き合っていたが、突然、友也以外の男と結婚すると真理子が言った時、父はさっぱり分からなかった。
「真理子、何でだよ！」
「もう止めてよ！ 帰ってってば！！」
数ヵ月前まで、真理子と友也が何日も言い争っていた。
和義は知っていた。
友也がこの３年間、どれ程娘の為に尽くしてきたか、我儘な娘をずっと好きでいた事を。
和義が見て取れるほど、惚れ込んでいる事を。
和義は友也が好きだった。
小さい頃から優しい子だった。
いつも真理子を暖かく見つめていた。
彼と付き合い始めたのを知った時も、反対はなかった。
「真理子、もう少し、言い方って物があるだろう？ あれじゃあ友也くんが気の毒だ。」
門の外で言い争っている声は、家の中にいた和義にも丸聞こえだった。
「父さんまで止めてよね。私、もう別れたんだから、鬱陶しいのよ！」
友也と付き合いながら別の男とも付き合っていた、娘の不誠実な振る舞いが悲しかった。
諦めきれない友也は、毎日のように海老名家を訪れていたが、ある日パタリと来なくなった。
真理子は、ほっとしたようだった。真理子にも罪悪感はあった。
それでも、一度離れた心が友也の元に戻る事は無かった。
飲み会に出掛けた真理子の帰りが遅いので、和義は心配で寝れなかった。
今日よりも、もっと遅い日はあったが、時折、胸騒ぎのようなざわめきが、和義を襲った。
夜中の１２時を回った時だった。門を開ける音と真理子の声が聞こえた。
「友也何してんの！」
揉み合う音と真理子の助けを呼ぶ声がした。
「嫌ぁっ！ 父さんっ、誰かっ！！ きゃあああああ！」
和義が表に飛び出した時、佇む友也の足元に、大量の血溜りの中に横たわる真理子が見えた。
「真理子――！！」
真理子に駆け寄った和義は娘が既に絶命してる事を知った。
慟哭が響き、和義が友也に掴み掛かった。
友也は泣きながら和義を見つめていた。
友也に馬乗りになって何度も殴り付けた。
友也は一切抵抗しない。
騒ぎを聞き付けた住民が、殴り続ける和義を羽交い締めにした。
友也はピクリとも動かなくなっていた。
和義の拘留中に友也は脳挫傷の為死んだ。
初公判の日、「息子を返して」と小さく呻く声が聞こえた。
殺人を犯した息子が悪かったとは言え、顔が変わる程殴られた哀れな姿を忘れられない母の悲しみが溢れていた。
その夜、和義は舌を噛んで死んだ。
和義は何故自分が『極楽（ここ）』にいるのか分からなかった。
無性に居心地が悪かった。
血だらけの娘と哀しい顔をした友也の姿が、そして彼の母の言葉が消えなかった。
『極楽』を統べる者がそんな彼の様子を眺めていた。
側に仕える者が尋ねた。
「何故彼をこちらへお連れになったのですか？」
静かに答えた。
「彼は十分裁きを受けています。ただ、自ら命を絶っていますから、縁の者達とは二度と再会できません。」
歩き続けていると、蓮の池が見えてきた。近づいて覗き込むと『地獄』の底が見えた。
血の池の側では牛頭・馬頭が右往左往しているのが見えて、和義はうっすらと笑った。
次の瞬間、彼は血の池目がけてその身を投じた。
しかし、その顔は安らいでいた。
『統べる者』がその痛みを和らげてやる為に、手に持った蓮の花びらを血の池に向かって撒いてやった。
そして限りない慈愛でもって見つめ続けた。
さあ
あなたは、彼を裁けますか？
あなたは、【誰】を裁きますか？ - 2005-06-15 16:50:00公開 / 作者：ミノタウロス
■この作品の著作権はミノタウロスさんにあります。無断転載は禁止です。 - ■作者からのメッセージ
情に流され易くマスコミに踊らされ易い日本人にはそぐわない、陪審員制度導入を、こう言う視点で考えた時、正義とは何かを真面目に問い掛けてみました。【誰】を裁きの対象にするかは人それぞれ違うと思います。
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羽堕です(o*。_。)o読ませて頂きました♪これだけの状況からだと何といえませんが、私は真理子は完全な被害者だと思いますね(*゜ー゜)(*。_。)和義と友也は同罪だと思います！『統べる者』は、和義が地獄に行くことを許すのかな？と思いました。極楽にいる方が和義にとって苦痛だと思うからこそ、極楽に来させたと思っていたので(・Θ・;)冤罪は今でもあると思うので、誰が裁こうが余り変わらないような気がします(ーー;)ただ、確かに私は感情に流されやすいと自覚しているので、一生のうちに一、二度だと思いますが陪審員は断れる物なら断りたいですね(T▽T)では次回作、頑張ってください(。・_・。)ノ
2005-06-15 21:34:11【☆☆☆☆☆】羽堕声高なものはあまり好まないけど、これはちゃんと物語になっているから読めました。深く考えさせるものを書きたいのなら極楽で統べる者の行動はないほうがよかったのではないかな。統べる者の行動が書かれていると、読み手は素直な反応がしにくいのではないか、と。代わりに事件を細かく描写し、複雑化すればいく通りもの意見が出てきて面白いと思います。
ちなみに私は裁きません。他人について自分が決定を下せるとは思わないので（責任感がないとも言う）。なのでミノタウロスさんも、この感想を受け流しといてください。2005-06-15 21:54:53【☆☆☆☆☆】clown-crown羽堕様＞
毎回ご意見有難う御座います。題材重たすぎですかね。社会風刺は、古の作家たちがよくやっていた事なのでやってみました。ここにアメリカ人的考え方が出来る人がいれば、きっと裁きを与えるでしょうね。貴重な意見有難う御座いました。
clown-crown様＞
私自身は誰も裁けません。というか、誰もが罪びと。和義も智也も智也の母も真理子も多かれ少なかれ罪を犯している。裁き切れないので、統べる者に任しています。結局、裁かれない罪人を誰かに裁いて貰いたくて、人間はお天道様に任せるんです。…ご意見有難う御座いました。2005-06-16 00:27:35【☆☆☆☆☆】ミノタウロスはじめまして。タイトルに引かれて読んでみたのですが、興味深かったです。真理子は嫌な女だなぁ…というのが読んだ直後に思った感想でした。これは友也に自分を重ねてしまったせいかもしれませんが（＾＾;）。和義の裁きは難しいところでしょうね。うーん、自分には裁くことはできませんね…。色々と考えさせられる作品でした。（個人的には、凶悪犯罪を犯してる輩はみんな極刑でいいじゃん）、と思ってます（ぉ2005-06-16 04:29:22【☆☆☆☆☆】灰猫作品読ませていただきました。裁判がワイドショウ化しそうだな、日本人に陪審員制度は危険だと思います。作品の感想ですが、「統べる者」はいらないように感じました。絶対的な判定者である「統べる者」を出さず、あくまで読者に判定を委ねる形で物語を展開させた方がよかった感じがしました。では、次回作品を期待しています。2005-06-17 00:22:10【☆☆☆☆☆】甘木拝読しました。私は誰も裁きません、愚か者京雅に他者を裁く権利もなければ意味も無い。和義と友也、如何な事情があろうと人を殺す理由にはならないと思います。まあ、殺されそうになったらとりあえず抵抗はしますけれど。って、私の考えはどうでもいいですね。問い掛け(と言うかテーマ)を先行するのは場合によりますが物語性に欠いてしまうやもしれません。この作品も事件というか、その部分をもっと書き込んでいれば自ずから問い掛けもついてくると勝手に推測します。失礼な事を語っております、ご容赦ください。次回作期待しております。2005-06-17 01:42:46【☆☆☆☆☆】京雅灰猫様＞
はじめまして。私も真理子みたいな女って大嫌いです。でもこう言うことしてる娘って結構いるので、お気をつけ下さいって感じです。陪審員制度はかなり問題のある制度なので、皆さんにこんな話とは別によく考えて頂きたいですね。貴重なご意見有難う御座いました。
甘木様＞
はい。陪審員制度は危険すぎる制度です。冤罪と、罪人を無罪にしてしまう、危険極まりない制度です。海外であれ程失敗しているのにわざわざ導入した意味が分からんと言った感じです。「統べる者」を出したのは作者が和義に対しどう思っているのかと言うのを入れてみようとしたのですが……難しいですね。ご意見有難う御座いました。
京雅様＞
いつもご意見有難う御座います。陪審員制度の事が頭にあってつい問いかけを重視しすぎた感が否めません。最後の問いも入れない予定でしたし、タイトルも『裁き』にしようかとも思っていたのですが……まあ難しい所です。貴重なご指摘有難う御座いました。2005-06-18 00:37:08【☆☆☆☆☆】ミノタウロス計：0点 - お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。