『本当に、生きていますか?』作者:ミノタウロス / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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あなたは生きていますか?
死んでますか?

何故あなたは生きていると言えるのですか。
何故死んでいないと言い切れるのですか。

生きている証はなんですか。
生きている意味はなんですか。

あなたは本当に、生きているのですか。
あなたが生きていると思うのは、
あなたの行動や言動に周囲の人間や動植物、
ありとあらゆる三次元世界の物達がリアクションを返してくれるからですか。

本当にそうですか?
あなたの目の前にある全ての物が現実だとどうして言えますか。
あなたが現実に起こっていると思っている、目の前の事が、どこかぼんやりと薄く見えませんか。


さあ、今、目を閉じられますか?

目を閉じて、開いた次の瞬間――――――――





真っ白だった。

鳥が囀るのが微かに聞こえて、美鈴は目を覚ました。
白い天井が見えた。
いつもの朝と何一つ変わらない毎日の朝の風景。
違うとするなら、囀りが聞こえた事。
突然部屋の戸が開いた。
「美鈴――――お早よう。」
「あ、お早よう。…………あのさ、いつも言ってるでしょ、ノックくらいしてよ。」
母親は窓を開けて空気の入れ替えをする。
「今日も暑くなりそうだわ。……また夏が来るねぇ。」
そう言って部屋を後にした。
「変なお母さん。」
母は昔から独り言が多い。
仏壇の前に座っている時は特に。
哀しげに遺影を見つめる母をよく見かける。
幼い少女の遺影。
「この子、誰?」
と一度聞いてみたが何も答えなかったので二度と聞かなかった。
美鈴が台所に行くと、仏壇のある客間に親戚が集まっていた。

「早いものだね。あの子が海で死んでしまってからもう10年以上になるんだねぇ」
「美鈴ちゃん、生きていれば、今年は高校生になるって義姉さん言ってたわ。」





厳かに法事の読経が流れ始める。
13回忌の席で美鈴は自分の遺影を見上げて涙を落とした。


母は12年間、毎日、陰膳を美鈴の席に準備し続けていた。

「そろそろ、いいんじゃないのか。」
翌朝、夫が声を掛けた。
「このままだと、いつまでも受け入れられない。」
妻が答えた。
「そうね、もう終わりにしましょう。」


遺影が僅かにカタリと動いた。



2005-06-13 00:42:40公開 / 作者:ミノタウロス
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■作者からのメッセージ
SF(少し不思議)のつもりで書きました。
これはホラーではないと思いますが、ジャンルってどのへんで分けるのか今一解りません。
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