『心無いきみに花束を贈る』作者:clown-crown / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
全角10173.5文字
容量20347 bytes
原稿用紙約25.43枚
まえがき 小人・男子禁制





 本文より先に読んでもらいたい文があるのだけど、まえがきみたいなのを書くスペースってないからここに書くことにしよう。大丈夫だよな。
 ヒマなときに登竜門の雑談掲示板の過去ログ読んだんだけど、あれってけっこう面白いね。今は見かけない人の名前の中に知った名前を見つけると、なんだかうれしくなる。意外な人が意外な発言をしていたりしてね。ひとつひとつのスレッドを眺めていたんだよ。その中に、どこまでなら性的描写を入れていいか、ってスレッドが立ってた。確か喘ぎ声や性器の描写がなければたいがいはO.K.と書いてあった気がしたんだ。私はそんなもの書かないから、と思ってべつだん興味もなく読んだんだけどどうしても『それ』が必要な物語を考えちゃったんだよ。それがこれなんだけどね。
 そういうわけでこれは私からの注意。ひねくれた大人になっちゃうから子供は読んじゃ駄目。性的描写があると知って興奮した男性も期待外れになるから読んじゃ駄目。大人の女性なら読んでもいいってことになるんだけど、この小説は楽しくないし役にも立たない。ちょっとした教訓になるくらいのもの。暗ーい気分になりたいっていう変で大人で女の人は読むといいかもね。これは私にとっての純愛物語。絶対に異議申し立てがくること受けあいなんだけどね。こういうもののほうが、よりリアルなんだと私は考えている。さて、長くなったかな。その代わりに、いつもの無駄なあとがきはないから許してね。
 覚悟を決めたのなら『心無いきみに花束を贈る』はじまりはじまり。










 心無いきみに花束を贈る





 花束に出会った。
 通学路の途中に見通しの悪い小さな交差点があってその角のミラーの脇に隠れるようにしてユリの花束が添えられていた。見上げれば鏡の中で僕が分裂している。昔からずっとミラーは割れている。大きく弧を描く黒く太いタイヤのブレーキ痕を彩るように赤い液体が道路いっぱいに塗りたくられている。今は干乾びているけど。
 “白かった”。それが花束を見た僕の感想だ。僕が学校に行くまでの通り道に花があった、ただそれだけのこと。足を止めることもない。
「瑞詩ーーーっ」
 背後から聞こえる叫び声のような奇声のような僕を呼ぶ声はドップラー効果の影響下にあるのだろうかどんどん高くなっていく。呼ぶ声に振り向くその前に声の主の手が僕の背中に届く。
「おっはよっと」
 低血圧を知らない我が親愛なる親友の相良晃陽(さがら こうひ)は早朝にふさわしい清々しい笑顔で豪快な挨拶をかましてくれた。
「おはよ」
 僕は眼以外で満面の笑みを浮かべて我が親愛なる親友の挨拶に応える。
「こわっ。朝っぱらからこえー顔すんなよ。昨日、付き合えなかったこと根にもってんのか?」
 ランドセルを背負っているとはいえその衝撃を受けきることのできない僕に、学年でも短距離走三位の地位を得ることができるクラス内最速の男が全速力で漕いできた自転車の運動エネルギーを謙虚に遠慮する間もなくプレゼントしてくれたせいで、噛みおわったばかりらしい粘着力の残ったガムのへばりついた舗装道路に手をついたことよりも、誰にも邪魔されることのない自由で自適で有効的な時間を過ごせたことに不満を覚えるのであれば晃陽の言うことは正しいのだろう。暴走を忘却した自転車は停車することに成功を収め晃陽はそれを引きながら僕と並んで歩いている。
「仕方ねーだろ。思い上がりに思い知らせるにはアレがいちばんいいんだよ」
 昨日、ぴちっとしたジャングルレッドのスーツを身につけ伊達眼鏡をかけた教育実習生が僕たちのクラスに登場した。彼女は何もわかっていなかった。だから“仕方ねー”のだ。
 この僕、篠葉瑞詩(しのは みずし)は成績を前から数えても後ろから数えても数えにくい一般的な小学生だ。運動神経もそこそこで基本科目以外の図工や音楽といった科目でも可もなく不可もない成績なので才能がないか、隠された才能があっても生涯隠れたままなのかそのどちらかだろう。そのことについてことさら不満はない。あるとき祖母がそんな生き方をしていてつまらなくはないのかい、と訊いてきたが人の中に紛れて漂って流れていくのはずいぶんと楽で自ら険しい道に入って行こうなんて酔狂な趣味などない僕は全然、とためらいもなく祖母に応えた。平凡こそが僕のもてる能力であってそれ以下でもそれ以上でもないのだから自分の力を大きく見せることは間抜け極まりない。自分を大きく見せようとすれば期待に押し潰されるか嫉妬に焼け焦げにされるかのどちらかだ。舐められているぐらいがちょうどいい。
 朝の会の時間になっても教育実習生は姿を現さなかった。斜め後ろに視線をやると晃陽がガッツポーズをして笑っていた。
「教育実習生のミミさんは今日お休みです」
 担任教師は明らかに何があったか知っている態度で、しかしそれに言及することはなく日直に朝の会を始めるよう促した。何事もなかったかのように──何事もなくその日の授業を終えた。口にしないほうがいい言葉は存外たくさんあるものだ。
「瑞詩ーーーっ」
 正門を潜り抜けようとする僕は朝となんら変わらないワンパターンとなった繰り返しの呼びかけに足を止めざるを得ない。その馬鹿の一つ覚えは晃陽の売りであり低能であることを示す有力な証拠だ。
「今日は瑞詩に付き合ってやるぞ」
 傲岸にも程がある。弧であることに平安を見出すこの僕には付き合ってくれないほうがよほど嬉しいことだとなぜ五年以上の付き合いのある我が親愛なる親友には気づいてもらえないのか。そのあたりは余りある無能さが原因のようなので今後も改善の余地はないだろう。
「昨日は悪かった。な、この通りだ。許してくれよ」
 朝の件で謝っているのならそれははなはだ見当違いであるし、これまでの僕との付き合い全般について謝罪したいのだと考えているのなら遅すぎる上に許す気もない。
「でも、昨日あいつを犯っといて正解だったろ? 結構大変だったんだぜ。意外と抵抗しやがるからな。そこがそそるんだけど。相手が大学生だと小学生三人じゃちょっと力不足なんだよな」
 三人というと晃陽と愉快な腰ぎんちゃくたちだろう。福と倉井。体育会系の粗雑な阿呆の集まりなので力で不足することはそうないと思うのだが、やはり子供というのはそれだけでハンデが大きいのだろう。
「もう学校に来ないかな」
「そりゃ来ないだろ。犯られておいて、また来たりしたらレイプ願望だぜ?」
「そうだよな」
 少し残念だ。
「どうした? 瑞詩も犯っておきたかったのか?」
 そうやってまじめな顔で訊ねるのはいかにも馬鹿っぽくて嫌いではないけど僕を本能巨大煩悩肥大の晃陽と一緒にされるのではいささか都合が悪い。よほど手が詰められたときでなければ犯罪行為には走らないつもりだ。
 しかし残念と思う気持ちはどこから湧いて出たものだろうか。きちんとした人間であって理性を備えている僕はそれが性欲から生じたのではないことをわかってはいるが、じゃあどこからだ、と訊かれてもとっさには答えることができない。これはどうやって説明したらいい感情であるかさえ僕自身わからない。心の中心にある浮島のような。中心にあるからといって重要だとは限らないしそれは浮島だから移動するし海面下では大きいのかもしれないしそうではないのかもしれない。ぷかぷかと漂うその感情は捉えどころがなく掴みどころがなく僕をイライラさせる。
「今日、新しいゲーム入るんだぜ。ゲーセン寄ってくよな?」
 晃陽は僕の思考を途絶えさせた。イライラを遮断されたわけなのに不快だった。
「行かない」
「どうした? 付き合い悪いな。せっかく誘ってやってるのに。──やべ、早く行かないと隣の学校のやつまで来ちまう。じゃあな」
 晃陽はべつだんあわてた様子もなく横断歩道を走り抜ける。自分で「今日は付き合う」と言っておいてこれだから開いた口がふさがらない。実際にそんな間抜けな面を僕がしたことはないけど。いまさら晃陽を捕まえてくだらない時間を過ごす気は毛頭ないしせっかく訪れた義理から切り離された時間をどうやって過ごすか考えながら朝来た通学路を逆にたどる。
 昨日、ぴちっとしたジャングルレッドのスーツを身につけ伊達眼鏡をかけた教育実習生が僕たちのクラスに登場した。僕は一目で彼女が理解していないことがわかった。伊達眼鏡。眼が悪いわけでもないのにかけるメガネに存在意義はなくただうっとうしいだけだ。かけている本人ではなくそれを見ている僕らにとって。そこには「舐められてはいけない」という意思があってその意思の下にかけられた眼鏡は権威の象徴のつもりだったのだろうけどそんなものは僕らの前では何の役にも立たない。うっとうしいだけだ。だから晃陽は何も理解できていない教育実習生に“教えてあげた”。初日だけでそれだけ学ぶことができれば充分に実のある一日だったのではないだろうか。彼女が小学生だった頃にどんな教師がいたかは知らない。でもその頃の教師を思い出してそれを僕らに押し付けるような真似はしてほしくない。僕らには僕らのやり方があるのだし彼女のやり方ではどこの小学校に行っても通用しない。学校というのは極論すれば生徒は客で教師は店員だから客に不満を感じさせているようでは店員は成り立たない。彼女はきっと教師になる夢は諦めるだろう。眼鏡を外したときにチラッと見た素顔は結構かわいかったからちょっとばかり勿体ないと思ったりもする。
 まだユリの花束があった。
 踏みしだかれて土色に汚れていたがそれはまぎれもなく朝登校するときに見たあの花束だった。その隣には朝にはなかったダンボールがでん、と構えている。それは大手家電メーカーのテレビを入れるための梱包材らしい段ボール箱でその大きさに見合った大きな捨て猫が入っていた。
「いい匂いがします」
 段ボール箱から身を乗り出してユリの花に鼻を近づけている捨て猫は猫ではない。段ボール箱から出ないままで、しかし片側に寄りかかっているためにダンボールの重心が傾いている。今にも横転しそうだ。
 それは捨てられているが猫や犬ではない。頭にヤギのような角を生やしていて背にはコウモリみたいな翼があってお尻にはクロヒョウじみた尻尾が見え隠れしていようと、それは女の子の形をしている。
「私にご用ですか?」



「お母さん。女の子を拾ってきたんだけど飼っていい?」台所で魚をさばくお母さんに訊く。
「もう家には猫も犬もいるでしょう。いつもお母さんが面倒見てるんだから」
「ポチはこの前死んだじゃないか」
「あら、そうだったかしら。新しいのがほしいから壊したんじゃないでしょうね。モノは大事にしないとだめよ」
「違うよ。それに今度はサキュパリアなんだ。ペットがだめなら家のメイドにすればいいからさ。そうすれば家事だって助かるよ」
「餌をあげるのはお母さんなのよ」
「サキュパリアは動力炉内蔵だから餌はいらないよ。手間はかからないからさ」
「でもね」
 こんな交渉を二十分ぐらいしてその果てにようやく首を縦に振らせることができた。──その間お母さんは僕らのほうには一瞥もくれなかった。お母さんは魚をさばくのが苦手でそれを克服しようと一週間前から我が家の食卓には魚料理が並び続けている。さばくのに一生懸命なのだ。
 ゴスロリとボンテージの間のようなファッションをした悪魔の彼女と僕は二階に上がる。散らかっているのは我慢できないたちなので部屋に大きいものは学習机とパイプベッドしかない殺風景な部屋だと自分でも思う。彼女はどう思っているのだろうか。
「ポチさんはお亡くなりになったのですか?」
 自分の処遇についてより家のペットのことについて興味をもつのはどういうことかと考えてみるがよくわからない。彼女らの思考は幾分僕らに似せているといってもやはり別物なのか。
「ポチさんがなくなったのなら花を手向けないと」
 頭のネジが一本抜けているのではないか。ガイノイドだし。
「ポチはきみの仲間だ。死んだと言うより壊れたと言ったほうが正しい」
「ニンゲンでなければ花を手向けてはいけませんか?」
 何を言い出すのだろうか。人間の代わりに人間でないものの死を悼む機械。墓参りするガイノイドなんて情景を想像するだけで空恐ろしい。
 サキュパリアというのはサキュバス(夢魔)とヴァンパイア(吸血鬼)のハーフのことだ。もちろん本物の悪魔じゃない。ガイノイド(女性型アンドロイド)だ。そんな彼女は今日から我が家のメイド(お手伝い)さんでもある。悪魔メイドロボット。
「瑞詩様はどんな花が好みですか?」
「花より団子。もっと実のある話をしたいのだけどいいかな?」
 花などは風流人と呼ばれる暇人が語っていればいい。サキュバスタイプもヴァンパイアタイプも男性の性欲を処理するために作られた(リビドールパターン)ガイノイド。サキュバスタイプはしなを作るお嬢様タイプで、ヴァンパイアタイプはお姉様気質の少しきつめの性格をしている。そのどちらの特徴も備えたサキュパリアはリビドールパターンとしては最新型ガイノイドだった。
「服脱いでポーズとって誘惑してみせてよ」
 最初は立ち尽くしていた彼女も意を決して口を挟まず背くことなく服を脱ぐ。従順な子は好きだ。僕は学習椅子を逆向きに座って彼女を観賞する。だけど、全然エッチじゃない。何の恥じらいもなく衣服を剥ぎ取ってしまうのだ。すぐに全裸になってしまう。ガイノイドといっても見た目はまったくの少女である。間接に継ぎ目があったりなんてしないし身体のどこかに端子があったりはしない。肌は白い。彼女の細い手足は晃陽の半分ほどの力もない僕にも折ることができそうだ。実際は上腕骨も大腿骨も頭蓋骨だって合金なのでそれを折るためにはこちらが骨を折ることになるのだけど。服を脱いだところで彼女は動きを止め考え込むように頭を抱える。どうやら悩んでいるらしい。そうしたかと思うと急に立ち上がって自分の胸を両手で持ち上げ、寄せる。一瞬、何をしているのかさっぱりわからなかった。バストを強調して僕を扇情したつもりだったのだろうがその貧しい胸では哀れさと可笑しさを演出するだけだ。
「お前はリビドールだろ。何なんだよそれ。全然気分になれない」
「申し訳ありません。瑞詩様」
 最新型リビドールだから期待してたのに。これでは僕の同級生より色気がない。──だから捨てられていたのか? 欠陥品だから道端に捨ててあったのだろうか。だとしたら、余計なものを拾ってしまった。
 明日、元の場所に捨てておこう。
 僕は階下にいるだろう家の猫タマを呼ぶ。タマはすぐに階段を上がってきて僕の部屋に入ってくる。と、サキュパリアに対して闘争心剥き出しに牙を剥き出す。
「大丈夫だよタマ。あれはガラクタだ。何も悪さはしないよ。そんなことより。さあ、いつものをやって」
 それを聞いたサキュパリアはうつむいていたようだけど、ホントのことだ。
 タマもガイノイドだ。猫人間(ワーキャットタイプ)の愛玩動物(ペットパターン)。一昔前の機種なのでミルクなど液体状の有機物を摂取しないと体を維持できないが最近のガイノイドより寿命が長くサキュパリア辺りだと保って三年だろうけどタマは家に来てからもう五年経つ。最近のガイノイドは原子炉内蔵だからエネルギーの補填ができないのだ。
 タマは僕の言いつけどおりにしゃなりしゃなり、と部屋を旋回する。ときどきその大きな瞳で僕を惑わすように上目遣いで覗き込む。しゃなりと歩きつつ着ているTシャツをゆっくりゆっくり焦らしながらたくし上げていく。さすがにタマは上出来だ。犬のくせに飲み込みの悪いポチに見切りをつけてタマ一筋に躾けたかいがあった。僕はタマを抱き寄せる。膝の上に乗せて後ろから大きな胸を両手で包み込む。はにかむようにタマは笑う。
「瑞詩ー。ご飯よー」
 お母さんの声だ。さっき僕がタマを呼んだのは知っているんだろうから、もう少し気を使ってほしい。
 今日の夕食はキビナゴの煮付けだった。あとキビナゴの刺身とキビナゴの揚げ物。お母さんの料理のレパートリーが広がるのはいいけど、同じ魚で何品も使いまわされると食欲がなくなることをそろそろ学習してほしい。ただでさえこの一週間は魚料理ばかりなんだから。お父さんは深夜にならないと帰ってこない。外で夕食を済ませてくるので夜な夜な行われる我が家の異常な食卓の事実を知らない。僕のほうでもお父さんの顔を思い出せなくなってきた。
 僕がキビナゴの煮つけをつまんでいるときも彼女はダイニングテーブルの隣に立っていて僕をじっと見ているので煮つけを食べにくいのは身に骨が残っているからだけではなさそうだ。タマは僕の足元でミルクを舐めている。
「あら、かわいい子ね。瑞詩の彼女?」
「違う。さっき言っただろ。ガイノイド。でもあんまりよくないからさ。返してこようかなあ、と思って」
「よさそうな子じゃない。かわいいお手伝いさんは歓迎よ。その子の名前は?」
「訊いてない。名前は?」
 僕は質問をたらい回しにする。
「ジャクツキョー社製・handmade・ウツロドール・ガイノイド・サキュパリアパターン・リビドールタイプ・モデルネーム『ナホミ』flopです」
「へえ、ナホミちゃんって言うんだ」
 お母さんは名前を聞いて嬉しそうにうなずくのだけど僕はflopと言われて身体が固まってしまった。寝るとか変わるとか落ちるとか倒れるとか腰を下ろすとかいろんな意味があるけど機械におけるflopとは『大失敗』。
 キビナゴの刺身を飲み込んで口を開き質問をしようとした僕を絶妙にさえぎって切実そうに彼女はつぶやいた。
「私にできることはありますか?」
「じゃあ、お母さんに魚の調理の仕方を教えてあげてよ」僕は半分冗談で言ったのだけど。
「お母様、キビナゴの骨取りは身を開いたときに中骨を付け根で反らせるようにして外すといいですよ」
 たぶん適切なアドバイスなのだろうそれを聞いたお母さんはすぐさまキッチンに舞い戻りメモ用紙とボールペンを持ってきてサキュパリアを質問攻めにした。そんな食卓風景に嫌気のさした僕は早々に夕食を切り上げてタマを部屋に連れて行く。
「おいでタマ。さっきの続きをしよう」
 僕は上半身裸になってベッドに寝転がり、そこにタマを招き寄せる。タマはしなやかに行儀よく僕の隣にちょこんと座る。タマの眼はきらきらと輝く黒曜石だ。僕はタマを寝そべらせて胸に耳を近づける。どくん、どくん。まるで生きているかのような脈動がする。生きているかのように暖かく、生きているかのように柔らかい。でも生きてない。これは、生きてはいない。冷たくて固いこのパイプベッドと同じ。僕はタマの頭を抱え込むようにして、その三角型のかわいらしい耳を撫でる。ふさふさとした毛の肌触りが心地よい。こげ茶色の耳。これは生きているかのように錯覚させるもの。タマから甘いミルクの匂いがする。擬似生命。僕はタマを抱きしめる。
「愛してるよ」
 タマは気持ちよさそうに喉を鳴らす。吸い込まれるような黒い眼で愛嬌を振りまくガイノイド。
 バタンッ。急に破壊的な音がしたかと思うと開け放たれたドアの向こうにお母さんから解放されたらしいサキュパリアが立っていた。彼女は焦りつつも悲しんでいるように見えた。一体、何でそんな表情をしているのだろう。
 またしてもタマは僕の腕の中で彼女を威嚇し、うなっている。ガイノイド同士で喧嘩なんてするのだろうか。
「瑞詩様。私にご用をお申し付けください」眼に涙をためて言う。
 彼女は一度捨てられたから。自分が必要とされないことを恐れてるんだ。タマは彼女に自分の定位置を奪われるのではないかと危惧してる。僕は普通の人間だから普通の対応をする。タマとの楽しみを邪魔されるのはこれで二回目だから僕は不快をあらわにする。
「ヤらしてよ」
 僕に依存しなきゃ生きていけないんだろう。だから僕の言うことを聞くんだろう。だったら何も言わずにさっさとしてよ。ポチが死んでもタマがいるけどそれだけじゃ飽きるんだ。僕がきみにまで飽きちゃったらまた捨てられよ?
 彼女はタマを真似てしゃなりしゃなりと──でも断然へたくそでぎこちなく──ベッドに近づいてくる。僕は彼女に手を差し伸べる。彼女は僕の手をとってベッドの上に着地する。三人で寝るにはこのパイプベッドは小さすぎるのだけど文句を言ってもどうにもならない。
「ほら、ショーツを脱いでよ。スカートはそのままでいいから」
 無理やりに彼女にお尻を突き出させる。僕はスラックスのファスナーを下ろす。タマは不服そうに「にゃあ」と鳴いた。



 タマは何度鳴いただろう。ベッドが軋んだ回数は無限に近づいていく。彼女は咽びながら咳き込むように吐息を漏らしていた。

 ──タマは何に憤っている。

 ──彼女は何に嘆いている。

 なかなか絶頂を迎えない。身体がゴムであるかのように重い弾力をもっている。触覚がない。狂ったように前後運動を繰り返す。壊れたようには爽快になれない。必死に生き延びるかのように間断なく続き同情心で慰めるかのように容赦なく終わらない。お世辞を言うようにお互い様でお節介を焼くかのように貸し付ける。背中合わせである夢見心地の摩擦は気味悪いほどに空理している。叢林では寒月にも似た象牙の蛆が湧き死相にそねんだ遠巻きの鈍痛に艱苦させられる。逮夜に編みきった遅まきの堰が対症療法に窮するのなら同位元素を場慣れしようとせむしにかかった蛇蝎のごとく私怨を寸描しつつ別懇していても私情がシフトし廃業してしまう。彗星の尾をさておいて部分食を天寿に感じ適宜に口頭試問とするが粘性のもつれはオーバーヒートするそうだ。毒するバズセッションに復刻の誠心が破調しそこから蹌踉するどころか形のない名目が旗色の悲境を見て憫笑しだす。桜湯に浸かる石蕗のみおつくしには採決する間もなく再三手に手を取って本降りからはじき出す。
 衰乱に秀でた枢密の褐夫は吹聴するフィクサーとなって古びた館舎に漁歌を慮る。魂胆が逃げ惑うのか木偶の薄荷に亀裂を入れて膝送りに目礼するのは混食の末のこと。端人が競う強意していることに再診の斂葬は被るけれど寺格にちなんで諌められる。発色の悪いパッケージに核武装する後天的な孤児たちがいつものように曇天の下で卑猥な目端を作付ける。先だって称徳された寝刃を焼き場で洋もくと共に乙を提起するほどに愛唱しては給う。健啖な鴬張りは拒絶反応を起こして事態の屠殺を図る。貧乏くじを引くばかりだった処暑のとき床の金繰りは放歌高吟し芳紀の宵闇を待つ。
 超脱した巣篭もる注意人物は尿瓶に入れるなり等号の魔性によって瀕死となる。しわがれ声の電文に恬としてスノビズムを酌み交わしている。残務の非常線はフロックで把捉するので綻んでいく。難事が産卵し専断にたむろする。一抹の大敵を引き回す。背徳を創見する。



「瑞詩様。私の内蔵炉は長時間の横置きに向いていません」

 ──終わらない。

「瑞詩様。このままでは炉心溶蝕します」

 ──終わらない。

「放射能漏れをしてしまうかもしれません」

 ──終わらない。

「瑞詩様?」

 ──終わらない。

「瑞詩様のお身体が危険です。お止めくださいっ」

 彼女は僕を引き剥がそうと胸板を叩いた。

「お止っ──めっ──……」

 彼女はさっきより強く何度も僕の胸板を叩く。だから僕ももっと強く彼女の腰を固定する。

「止めてください……」

 泣いて懇願する。そうだ、晃陽も言っていた。“抵抗されたほうがそそる”。

「私はもう、人を殺したくは」

 終わらないんだ。



『内部機構の異常のため人格プログラムを強制終了しました』

『このガイノイドはメルトダウンを起こしています。すみやかにガイノイドから離れてください』

『ジャクツキョー社に緊急信号を送ります。回収されるまでこのガイノイドに近づかないでください』







































                                        “過ちの過ちの誤り” closed.
2005-06-09 00:46:04公開 / 作者:clown-crown
■この作品の著作権はclown-crownさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
作者からのメッセージは「読んだんだったら感想ほしい」です。
この作品に対する感想 - 昇順
初めましてりおと申します。clown-crownさんの小説は今までいくつか読んでいました。そこで思ったのが、clown-crownさんと猫舌ソーセージさんは、登竜門のはみ出し物なのではないか。ということです。このはみ出し物というのは、悪い意味ではなく、なんていうのでしょう。他の小説よりも一歩はみ出した部分にあるというか(って説明できてないですね)インパクトがある。ということですね。序盤の前書きでまず読ませられます。普通の開始方だと、二、三行読んでやめちゃう人多いんですよね。だからこそ、序盤にこそインパクトが必要で。それを理解してらっしゃるようで、もうあとはぐいぐい本編にひっぱられるのみでした。私は中学生でしかも学校ほとんど行ってない子供なので、条件にあっていませんが読んでしまいました^^とっても変でした。次回作もぜひ一風変わった小説を期待しています。
2005-06-09 01:25:15【★★★★☆】理央
なんなんだこの読後感。clown-crown様の作品は読後に残るものが異常なのですが、この作品もまたそれでした。しょっぱなから飛ばしてる意味不明さが徐々に分かってきた時、物凄い快感を覚えましたとさ(誰だ 小学生なのにこの思考力、性への無頓着(ちょっと(いや、大分か)違うけど)、この吸い付ける力が凄い。途中で出てきた単語の意味は初めわからずに調べましたよ、結局この物語の言葉だったのですが(笑 頭の悪い影舞踊はラストの纏まりで振り落とされたわけですが、それでも十分楽しめました。さて、他の皆さんの感想が見たいなぁこれは。アホ丸出しなんでこの辺で止めます。次回作はどんな風に来るんだろう。
p.s AIに出てきたセックスロボットのことを思い出しました。
2005-06-09 01:35:46【★★★★☆】影舞踊
 何はともあれ、読了感がいいと言えばよいのやら毒量感が良いと言えばよいのやら。
 影舞踊さんの言うように『吸い付ける』ものがありますね。釘付けになるとかそういう表現よりも、吸い付けるという言葉が何よりも適していると思います。しかし、こういうちょっとダークはいった終わり方好きだなぁ。何はともあれ好きだなぁ。
 こういう独特な世界観を成形できるというのは良いですなぁ。何か言い表しがたい魅力を感じました。次回も楽しみにさせていただきます。
2005-06-09 01:45:00【★★★★☆】炎天下9秒
ほら、だから言いましたでしょう?くらうん様の作品は印象のレヴェルが違うんです。だからこういう系統でもいいんで力を振り絞って連載ものを書いてほしいと切実に願う京雅、推参。とまあ突如偉そうに意味の解らない事を語りながら感想を書き込んでいきます。この文章力すごいなぁと感嘆します。整っていない文があるとか「、」をもっと打ってほしい箇所があったとか初め指摘しようと(結局書いてますが)思っていたのですが、このリズムが素晴らしいんじゃないかなと。と言うか前書きの時点で既にやられました、変な私。途中のやたら難しく書かれた文、Dir en greyの曲を思い出しながら(知らなくても受け流してください。京雅はV・Rが好きなんです)一瞬頭を悩めて、しかしこれがあるからこそ最期がすかっとしているんじゃないでしょうか。って、気になるのはこういう話をどうやって思いつくのかなぁと。私みたいな愚か者には無理ですね。うーん、独特だなぁ。もしやすると裏に隠れた意図は見落としているかもしれませんね、それはそれでいいか。面白かったから。純愛というより、自分の考えている何かを純に書き綴った気がしました。長長と失礼な事を語りました、ご容赦ください。この感想の冒頭をそのまま京雅の願いという事にして、次回作もお待ちしております。待ってていいですか?待ってますよ?
2005-06-09 02:05:10【★★★★☆】京雅
自分がガキだった頃の感覚を忘れています。こんなに世の中を斜めに見ていたろうか? 子供に純真さを求める気はありませんが、少なくても私はもっと単純馬鹿だったよなぁ……読み終えて、余韻と共にふと自分を振り返っていました。全体を通して自壊していくような雰囲気が凄く好きです。でも作品のもつ毒気に当てられたようで、心地よい麻痺感のような得も言われぬ感情が尾を引いています。これ読んでいるの朝っぱらなのに……今日一日、気分はダークサイドだな。馬鹿なことを書き散らしていますが、異常感のあるこの作品は面白かったです(ちょっと違うな、興味深いだろうか?)。さて、もう8時半です。ダークな1日を送るため私はアパートを出ましょう。では、次回作品を期待しています。
2005-06-09 08:31:11【★★★★☆】甘木
連続して失礼します。「三年生」は忘れて下さい。小人が書きました。
2005-06-09 08:44:27【☆☆☆☆☆】明太子
ん、よし、と作品を読み終えて自分の脳みそを感想バージョンに取り替える恋羽です。うん、これは素直に面白かった。今まで読んだclown-crownさんの作品の中で最も面白かった。だが、ここまで壊れてしまっていては(まぁ自分もそれを望んだのだけれど)きっと胸が潰れ、しばらくは自ら平静を保つことができなくなっても仕方の無いこと。ここまでやっていただければもう満足です。こちらサイドに戻ってきてください、そう切に願います。もし僕がこれと同じ作品を無から創り上げるなら、きっと壊れている。それどころでは済まないかもしれない。このランクの作品を常時書けたなら、貴方にかなう相手はこのジャンルではどこにもいなくなるでしょうね。異端中の異端。素晴らしい。傑作と呼ぶにふさわしい。……この作品に感想を書くと、もう止まらなくなるだろうから、ここで終わりにしておきます。暫く何も出来なくなりそうな、ダメージの非常に大きい恋羽でした。それでは。
2005-06-09 16:27:24【★★★★☆】恋羽
拝読いたしました。読みながら、文章を通して異様な雰囲気はひしひしと感じました。ただいかんせん、中盤以降主人公の感情が最も昂ぶっているだろう辺りで意味のわからない単語が大量に並び、調べながら読み進めたものの文章にこめられた意味を理解するには至らなかったため、異様な雰囲気が本当にただ異様なだけで終わってしまったのが残念でした。前半部の主人公は、小難しい言葉遣いの割りに感情は読み取りやすく、中盤以降は意味不明……言葉が悪いのは重々承知の上で、感じたままの感想を書きました。何か主人公の思考をトレースする手がかりのような物が欲しかったです。絶妙の比喩より直球の一言の方が好きという個人的な嗜好の問題もあるかもしれません。主人公の抱えるものが僅かでも垣間見えていれば、この話は楽しめたのだろうなぁと思いました。
2005-06-09 23:22:13【☆☆☆☆☆】ドンベ
すれ違いすみません。
【ドンベ様】こういうときにはバニラダヌキ様直伝の殺し文句を述べたいと思います。「clown-crownは新しすぎたのさっっ」。一度言ってみたかったのです。清々しい気持ちになれました。……すみません。一言一句逃さずに小説を読む習慣がある方だと強引さを感じてしまうのかもしれないです。その部分は一種の賭けで、今までそこを真っ向から指摘されることはなかったので大丈夫だと思ってたのですが、だめでしたか。すでにすれ違いレスで書いていますが印象を感じてもらいたかった、と言うところです。文章そのものより視覚効果を狙った、と言いますか。──はっきりと言ってしまうと、異様さを感じてもらえればそれでよかったのです。今回ばかりはどうしても読み手に優しくない書き物をしたかったのですが、私にはバランス感覚が欠けていたようです。精進します。
2005-06-10 00:40:01【☆☆☆☆☆】clown-crown
うふふふふ、挑発するとどんどん面白くなりそうなclown-crown様ですので、何を言っても許されるでしょう(おい)。もう少々SEXに肉薄してくれるかと期待したのですが、どうも男のマスターベーションを観念的に表現する作品だったみたいな。前書きにある『大人の女性』に、男への正しい猜疑心を与えるには、効果的かな、と思いました。その意味で、ポイントは充分。
余談ですが、自分は創作や読書とはテレホン・セックスのような物だと思っており、見知らぬお方とのジャスト・タイミングでのタガの外れたエクスタシーを目指しているのですが、clown-crown様のお声は、どうも整いすぎてやりにくい。いっぺん本気でタガを外してほしい気もします。
2005-06-10 02:37:34【★★★★☆】バニラダヌキ
男子禁制とあるので、文字女装して潜入しました。ふぅ、危なかった、何とか侵入できた。単純で適当で簡単な名前でよかったぜ。しかし、いつかまえがきやってやろうと思っていたのに先にやられてしまった。ちょっとショック。さて、真面目に感想を。私は、前半に比べて後半の方が好きですね。前半も必要だったんでしょうけど、ちょっと気だるい感じ。特に悪い男の子との会話とか。でも、後半は淡々とした会話の中に変な雰囲気を感じて好きだった。最初の文章と、後半が好き。感想としたら、そんな感じか。物足りない? そうかもなぁ、みんな語っているし、私も語ろうかなぁ。生涯反抗期を掲げる私としては、この小学生達は逆になんか素直すぎて気持ち悪いですね。こんなに性に素直ってちょっとねぇ。居ましたけどさぁ。行動に移すかどうかはともかく、こういう系統の思考をする奴らは。主人公、についてはあんまり言うことないなぁ。でもなんか、アレですね、おそらくこいつはclown-crown率20%ぐらいの人物でしょう。もうちょっと、パーセンテージ増やしたキャラ見てみたいかも。そして、後半のあの文章。適当に書いてるでしょ? ふふ、ふふふ。……私も時々やる。雰囲気みたいな。……さて、最後に一言。これだけは言うぞ。「危険なオナニーですね」
2005-06-10 21:19:09【★★★★☆】うしゃ子
むう、私はこれを『メイクラブ』だと思って書いたんですけれど。これは純愛ですよ?
【バニラダヌキ様】「そんな眼で私を見てたのねっ!」。だから期待してはだめだと書いておいたのですよ? 今までのコメントもチョット見は優しいけれど、読み返してみるとなんとなく鈍い痛みを感じたのは、やはり挑発が含まれていたからですね。声が整っていると言うのはわかるような、わからないような。一回、しっかり教えてください。
【うしゃ子様】まえがきは、やむなく入れたんですけれどね。そうですか、これを素直と見ることもできるのですか。私にはない視点ですね。ひとりの作中人物に実際の人間と同じ人格パターンを与えてしまうと物語に収拾がつかなくなってしまいますので、数ある中の一面を取り出した性格付けですね。ですが、もう少しclown-crown度が高いキャラというのも考えてみましょう。そのときはまたダークな話になりますね。あと、あまり的確に図星を指すのは自重してくださいね。

読んでいただき、本当にありがとうございました。
2005-06-10 23:58:33【☆☆☆☆☆】clown-crown
すみません、言葉が足りなかったみたいで。『声が整っている』というのは、知的文章制御のほうが情動より勝っていて、本来のテーマである情動の方を軽く見せてしまっている、そんな感じです。クールさを狙った、意図的なものなのでしょうが。
でも今回メイク・ラブを描こうとしたのだったら、失敗している気が。結局は瑞詩も、他者への感情移入(感情推測とか憐憫ではないですよ)はなんら存在していない。人間が相手でもドールが相手でもシビレフグが相手でも、メイク・ラブは可能ですが、やっぱり相手の人格(物格?)無視だと、マスターベーション止まりと思われます。ちっこい男の子800人を○しつつ八つ裂きにしたジル・ド・レーは、泣きながらナイフを振るい○精したと言います。困った人ですし、○され殺された子供たちも可哀想ですが、その涙は『ラブ』だったのでしょうね。でも当然、たかちゃんが「しけい」と言うので、死刑になりました。
もし今回そこまでの境地を描こうとしたのだったら、あの言語の本流部分は、明らかに逆効果と思われます。交わりではなく、乖離を感じるので。
2005-06-11 03:51:53【☆☆☆☆☆】バニラダヌキ
二度もコメント頂きありがとうございました。
軽挙な発言をしてしまいました。申し訳ありません。
2005-06-11 14:33:29【☆☆☆☆☆】clown-crown
さてさて。しかしもう遅い? 遅いですかねえ。オレ、スピーディかつリアルタイムに感想つけるのって、得意じゃないんだよな。まあとりあえず気づいたらclown-crownさん読んでくだされ。
さてねえ、まずテクニカルな部分から。
冒頭にぎこちなさがあるんですよ。多分これ、作品意図がね、文をアタマで書かせているんじゃないかなと。中盤以降落ち着いてきて、この文体がね、フィットしてきますね。一人称語り手の演出効果としての文体という面では、言うまでもなくハードルをクリアしています。これは一人称の書き手さんが見習うべきものですね。語り手のキャラクターが確立しているわけだから。ただ冒頭のぎこちなさはfeelよりもthinkを露呈してしまうかなあと。
これは僕の自戒なのだけれども、文というのはアタマでは書かない。ハラで書くものだと。アタマのうちでこねくり回しているうちは、文は生きてこないと思うんですね。中盤以降リズムがつかめている=これは短絡的な意味での文章の美しさというのみじゃなくて、書き手の思惟の整除によるところ大です、という様子を見ている限りでは、この過剰文体をあと数本やってみたら、もうスラスラだと思うのですね。
さてねえ、しかしねえ、続きを書く前にオレ、ひとこと文句言わせてもらいたいね(笑) アナタはアタシの作品や文章に、わけわからんとようのたまうくせに、どうしてこういう作品を書くのよ(笑) あのね、「オトコには自分の世界がある」と歌の文句にもあるでしょう(笑) オレも傍若無人に書きたいよ、全く(笑)
この作品が印象としてスタティックで、思念的で、「作品をしてその世界に没入せしめる」タイプのものとは異なると感じるのだけれども、これは意図したものですかね? 事前にそこまで計算して書き進めるとなると難儀なのだけれどもね。ただやはり性というのはね、テーマにするのは難しいものがあるのですよ。生理的な面と幻想的な面の密着と乖離というものもあるし、書き手自身のスタンスもね。この作品は化学実験的ね。精密に言葉によって置換しようとしていますね。ただ性というより、やっぱり自慰を濃厚に感じるわけなのですよ。シチュエーションとしてではなく、作品構造的、性へのアプローチに対してね。双方向型の性じゃない。もっとも、双方向型の性をテーマにした小説なんて、すさまじくむずかしいか、凡庸なエロ小説のどちらかになるんだろうけれど。
アタシとしてはね、これが純愛だというの、アタシなりに理解できると思う。でもさ、これ勿体無いね。性の平明なグロテスクさっていうのはね、性なんてグロテスクであるし、それがまた面白いというシロモノでもあるからね、むしろね、より純愛ということばに踏み込んで作品を展開させたほうが面白いと思ったのですよ。純愛というのが、つまるところ自慰であり自慰に過ぎない、というのは一面の真実であり、また一面のみの真実であると思いますが(多方面にわたる真実なんてないし、それがあるならブンガクなんぞやらずに多方面真実=宗教をやればいいのだ)、そこまで踏み込んで純愛(形式的純愛)と自慰的性欲との両天秤を展開するとかね。読み手の純愛の概念をぶち壊し、精神的に危機を与えるくらいの衝撃が描写できるかもしれない。
或いはね、低年齢化された性というものがあるのならば、リビドールとこれとの対比の関係性をもうひとつ考え込んでみるとかね。あのね、恋でも愛でも性でもそうだけれども、そのスタートは模倣からでしょう。それは自発的概念、自発的欲求と必ずしも言えないところがあってね。殊に性は、性欲というものの所在が、内発的であり、また外因により作られたイマジネーションでもあるわけでね。その外因を取り込んでいるのみのタイミングと、自慰の対象としてのそのようなものとの関係性はね、これは別の角度から考えると面白いものですよ。
さてさて、この作品は様々なポテンシャルを有していると思うのですね。まあコレをベースにして内部探求を行っていくには絶好の素材だと思う。clown-crownさんがそれを望むかどうかはさておくとしてもね。ただ、性を取り扱う上で、書き手に緊張感がなくなったら単なる露悪趣味のエロ小説になるからね。これまでアマチュアさんの作品をいくつか見たけど、性をはじめて扱った作品は、禁忌に触れ合うっていう実感が書き手にあるから、いい緊張感がある、志もあるんです。未熟だけれどもそれは伝わってくる。だけれどもすぐに堕落しやがるね。三本目くらいにはエロ小説になってるね。ダレるんだね。性をテーマにすることのしっぺ返しを受けちゃうんですよ。そういうのを読者に読み取られると、アタシャものすごく恥ずかしいんじゃないかと思うんだよね。割り切れば楽しいだろうけどねえ。
2005-06-22 23:18:28【★★★★☆】タカハシジュン
今晩は、ミノタウロスです。一言、興味深いお話でした。ちょっと下記のレスにビックリして感想書くのに躊躇いを感じています。次回作、楽しみにしています。
2005-06-26 03:17:18【☆☆☆☆☆】ミノタウロス
 なんだか両極端な感想ですな。
【タカジャシジュン様】私はロジカルな人間なのですよ。今回はfeel全開で書きましたが、それでもthinkが出てくるのは仕方ない。好きなジャンルはミステリですから。
 でも、プロットを考えるときというのはthinkではないかな、と思いますね。他の方の書き方は知りませんが、物語をthinkし、書いてfeelする。あらすじは「あの人物をこう動かそう、ここの場面をこの視点から見て……」と考えるのですが、書くときはまた違う。「このときは主人公を動かす予定だったけど、これよりいい見せ方があるぞ」と無意識レベルで感じるわけです。考えてみれば物語を考えるときにはthink、書くときにはfeelというのが書き手であれば。物語を読むときはfeelで、読み解きはthinkな気がします。書き手がthinkから入りfeelで抜け出すのに対して、読み手はfeelから入り、thinkで評価する。これはなかなか面白い。言葉というロジカルを媒体としていながら、伝達される瞬間はメンタル部分で行われる。あぁ、もちろん文字を読み書きするのはロジカルなものですが、日常的に行われる行為はメンタルに切迫すると思うのですよ。なんだか自分にしか理解できないような発見ですみません。感想を書こうとしたら思わぬ収穫。(ロジカルの対義語はメンタルではないよなぁ)。
【ミノタウロス様】もっと多く語ってもらってもよかったのに。ミノタウロス様の感性には私も注目しているのですよ? ミノタウロス様にしか書けないこともあったのではないかな、と思うのです。あ、もちろん感想を下さったことは感謝しています。

読んでいただき、本当にありがとうございました。
2005-06-26 21:30:41【☆☆☆☆☆】clown-crown
お久しぶりです。気付くかどうか分かりませんが、以前から改めて時間をかけた感想を書き直したくて、やっと参上しました。新しく何かお話がアップされるのを楽しみにしていたのですが、京雅様とのやり取りを読んでしまいまして、9月まで登竜門にいらっしゃらないと知って寂しい限りです。私は作品もさる事ながら、色んな方の作品に寄せる、気になる作者の方々のレスを読むのもかなり好きで、clown-crown様のコメントは最も気になる方の一人です。コメント一つとってもその方の人となりが現れているので―――と言う事で、前置き長すぎましたが、【感想】です。先ず出だしから、注目を集める<注意書き> 以前自分が途中でアップを断念した作品が、この部分でしたので。clown-crown様が何処まで描写してくれるのか、指標にさせて頂こうとずるい事を考えていました。で、素直にこのレベルで危険ラインの描写であるなら、某3大新聞の連載小説の方がよほどNG。これ以上の描写ってここではNGなんですかね。ラブストーリーでも、ある程度の描写がないと、朝チュンじゃ物足りないし、気持ちそそられない。つまり、注意書きが必要なほどの描写は無かったと思うのは、私の感覚が、ズレてるのですかね。物語の異常性を出す為に色々されていたようですが、【読者に優しくない書き物】いいですね。そう言う自由さ。吉行エイスケを思わせる異端さ、まで行くと干されるのでダメですが、個人的にはそう言う異端者大好きです。異端な作品を書いて、これ分評価高いのですから、羨ましい限りです。私の感覚はグロいほど面白さを感じてしまうので、異端というより変○なのですが、この作品の異様ぶりは、最後架橋に入り加速度増しますが、それが私にはジェットコースター的面白さで、しかも終点はブレーキ壊れて座席から吹っ飛んだ感じでした。私の感想なんてこんな愚にもつかない変なものなので、書き込むときいつも悩みます。消して退散なんてしょっちゅうですし;;
つまり何が言いたいって、面白く興味深く、壊れた世界観がGOODだったと言う事です。長々と失礼致しました。うーん迷った挙句……投稿します。“ポチ”
2005-07-31 06:48:38【★★★★☆】ミノタウロス
計:40点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。