『貪り(むさぼり)』作者:さるお / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
全角1940文字
容量3880 bytes
原稿用紙約4.85枚
 ある寒い国でのことだ。
必死に追っ手から逃げ回る親子がいた。真っ白な雪の上を器用に走っていく。息を切らして、坊やが言う。
「ママぁ。もう大丈夫じゃないの? あいつの姿、いつのまにか見えなくなったし。 僕、もう疲れちゃったよ」
ママは辺りを注意深く見回し、坊やの意見を聞き入れることにした。
「じゃあ、坊や、あの木の下で休みましょう」
ママが一本の木を指差し、坊やが頷いた。親子は、急ぎ足を緩め、ゆっくりと木の方へと歩いていく。その木は、この辺り一番の大きな木で、葉は雪で白化粧をしていた。木の下へ着くと、ママは坊やを抱きしめながら、幹に寄り添って坊やより大分大きい体を休めた。
 パパが撃たれたのはつい三十分前だっただろうか。家族水入らずで、寒中水泳を楽しんでいたところを撃たれた。住んでいる場所から歩いて五分にある、川だった。水はとても冷たくて、初め、坊やは水に入るのを頑なに拒んでいた。だけどパパがそんな臆病者は男じゃないって言うから、仕方なく入ってみた。あまりの冷たさにしばらく坊やは水しぶきをあげて、体を絶えず動かしていた。そしたら段々と体が暖まってきたもんだから、パパとママとで無我夢中で遊んでいた。だから周りの状況に気付かなかったのも無理はないだろう。
坊やがバンって銃声を聞いた時、パパは水の中でうつ伏せになって倒れてた。水は血の色ですぐに染まっていった。坊やとママは気が狂ったように泣き叫んだ。しかしママは、パパを撃ったやつの銃口が坊やに向こうとしているのを見て、急いで坊やを抱えて水の中から這い上がった。そして一目散に駆け出した。目的地もないまま駆け出した。そいつも追ってきたから、坊やはママの胸から飛び降り、自分の足で懸命に逃げた。

 「ねぇ、ママ。なんで、パパは殺されちゃったの?」
坊やが声を荒げ、泣きながらママに尋ねた。
「ママもわからないわ! 彼らには理由なんてないのよ。きっと楽しいだけなのよ」
ママも泣いて、坊やをいっそうきつく抱きしめた。
「そういえば、最近、友達のカールが言ってたっけ。この頃、悪いやつらがうろついてるから気をつけなって! 僕、そのことパパにも言えば良かったんだ。そしたらこんなことにならなかったかもしれないのに」
坊やはいっそう大きな声で泣き出した。ママは涙を止めて、きりっとした優しい目で、坊やを見つめて言った。
「坊やは全然悪くないわ。罪の意識をもたないでちょうだい。悪いのはあいつらよ! 命を何だと思っているのよ!」
坊やがママの大きな声でビックリして、体を大きく動かした。すると、その動きが幹に伝わって、木の白化粧が少し落ちてしまった。代わりに、坊やとママが雪化粧した。坊やはくすくす笑って、ママにもようやく笑顔が戻ってきた。
「僕、笑ったらお腹がすいちゃったよ。またこれから移動するんだから、何か食べておこうよ」
坊やが雪を顔から払いながら言った。
「そうね……そうしましょうか! パパの分も私達が生きてあげなきゃね。ママもお腹減ったわ。なにか食べ物を探しましょう!」 
ママの目にはうっすら涙がまた見えたが、坊やは見なかった振りをした。それから暫く食べ物を探していたが、近くに川はないし、何も見つからなかった。坊やはお腹がすき過ぎて動けなくなり、また座ってしまうと、あるものを見つけた。
「ねぇ、あそこに家があるよ。あそこの人に何か食べ物もらえないかな?」
坊やが、座っている場所から二百メートルほど離れた小さなログハウスを指差した。
「そうねぇ。これだけ探してもないし、坊やはこれ以上動けそうもないみたいだから行ってみましょうか。凶暴な人じゃなければ良いんだけど……」
ママは坊やを自分の背中に乗せて、ログハウスを尋ねた。コンコン、コンコンとママはドアを叩いた。
「はいはい!」
とドアの奥のほうでしなびた男の声がして、少ししてドアが開かれた。
「急にすみません。わけあって、遠い所から来たものなんですが、途中でお腹が減ってしまい、坊やが参ってしまったんです。こんな所ですから、食料も見つからず、お宅に寄らせて頂きました。よろしければ、何か食べるものを頂けないでしょうか?」
ママが話し掛けると男は驚愕して、急に家の奥へと走っていった。
「どうしたのかしら? 何か食べ物を持ってきてくれるのかしらね、坊や」
坊やとママが安堵して、ドアの前で和んでいると、男が手に何かを持って戻ってきた。バン、バンってさっき聞いた音がしたかと思うと、坊やとママは血を流しながら倒れてしまった。男の手には猟銃が握られている。男が言った。
「白熊二匹を狩ったぞ!」
2005-06-02 01:02:28公開 / 作者:さるお
■この作品の著作権はさるおさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
SS投稿三作目です。お読み頂き、ありがとうございます。パッと思いついたものをスラスラと書いてみました。辛口の評価をお待ちしております!
この作品に対する感想 - 昇順
オチつきのSSってのは皆様どうやって思いつくんだろう、京雅で御座います。読み終わって、「あー、やっぱり」と失礼ながら一言目がそうでした。ママ・坊や・パパとしているのは意図的なんでしょうか、坊やは兎も角ママとパパは母親と父親でよかったのではないか、と思います。心情描写として坊やの追われる恐怖を書き込めば、もっとオチが生きた(解りませんけれど)かもですね。それと……寒い国との事ですが、白熊じゃなくてただの熊じゃないですか?まあ知識不足の私には説得力なんて皆無です。何だかひどく失礼な事を綴ったやも知れません、気に障ったら謝罪します。次回作期待しております。
2005-06-02 02:01:24【☆☆☆☆☆】京雅
初めまして、エイルと申します。僕も羽堕さんと同じく、白熊だとは思いませんでした。SSとしては上手い具合に切り上げられてて、よく出来ていると思います。オチもよかったです。個人的な話になりますが、昔、小学校の頃、不審者がうろついているという事件が起こり、その事件を先生が話していて、「え〜、不審者に追いかけられたら、すぐにどこかの家に逃げ込め」とか言ってたんでが、そこに「じゃあ、逃げ込んだ家が不審者の家だったら?」とクラスメイトがつっこんだ。こんな思い出と重なりました。すみません。勝手に語ってしまって・・・。欠点はパパの死に対する坊やとママの悲しみが少なく感じてしまう所でしょうか。初めましてで、いきなり意味のわからない想い出を語った事申し訳ないです。では、次回作も頑張ってください。
2005-06-02 23:44:14【☆☆☆☆☆】エイル
感想ありがとうございます! やはり描写が甘いんですかねぇ〜。皆さんに見せたい気持ちが大きくて、つい先走って文章を早くオチまでに持っていこうとしちゃうんですよね・゚・(ノД`)・゚・ これからもここでSSを中心に投稿したいと思うので、よろしく御願いします!!
2005-06-03 19:03:20【☆☆☆☆☆】さるお
読ませていただきました。最初はなるほど、と感心したのですが、読み返してみると違和感を感じる点がありました。白熊の生態は良く分かりませんが、普通、ログハウスに行くのかなあ?と。人間に対する知識や警戒はどんなモンなのかと、気になりました。パパが撃たれるところは「バンっていう音」のほうが良いのかな?自信ありませんが。では、次回作期待してお待ちしてます。
2005-06-03 21:41:01【☆☆☆☆☆】ずっぽぱ
作品読ませていただきました。白熊かぁ……想像していなかったなぁ。逃走がちょっと軽すぎる感じがしました。もう少し緊張感を描いたほうがラストが生きてきたと思います。ところで、白熊ってお母さんと子供だけで過ごすんじゃなかったでしょうか? テレビでそんなのを見たような気もします……自信ないけど。では、次回作品を期待しています。
2005-06-03 23:27:09【☆☆☆☆☆】甘木
計:0点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。