『『spiritual communion』 』作者:彩介 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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無知な私ですが、アドバイスをいただいたので改良させていただきました;
ご迷惑おかけします。少々設定も変えさせていただきました。

a short prologue『stand up please!』
 見えなくていいものが見えた。
何か求めて来る幽霊達を、救ってあげたい。少しでも、力になってあげたい。
無駄なシンパシーを相手にかけていた。
それがたとえ人間でも。
代々受け継がれる霊感は、代ごとに増すばかり。
だがそう普通の日々が続くことは無く、その内周囲からは白い目で見られる。
『気味が悪い』『呪いの子供』

幽霊が見えたって、いいじゃない。別に損することなんてないのよ?
赤ちゃんや動物は霊感が強いから、本当は見えていたりするのにね。

大人になるとそれだけ、視野が狭くなる。
見えちゃいけないものではないのだから……と、自分に言い聞かせた毎日。
だからそれをデメリットとは捉えないで、自分への得点として考えた。
彷徨える魂を、私が救ってあげる。

貴方には見えていますか。















no1「by○○」
 2xxx年東京。昼の炎天下、どこの学校でも授業が行われているだろう。
少しスモッグで空が汚れている。いやでもその前に、聞こえるだろうか。
この街に響くさまざまな声が。
夜になれば昼間のような輝きでネオンが光り、人々の欲が飛び交う。
よりいっそう膨らむ、怒りと悲しみの声。
気づいていないだろうが、現実を考えればそんなもん。
人が一番恐ろしい。それに比べたら幽霊や何かなんて全然…とにかくそんな声が響き渡る奇妙な昼間。
 町外れ校外にある飛鳥学園。数百年を誇るこの学園は、つい最近コンクリート校舎建て替えたんだとか。
校庭の中心にはこの学園を誇る大きな桜の木。季節は去ったため今は緑の葉が生い茂っているがその存在は大きなものだった。
白い壁が印象的な校舎は、一階から二階まで吹き抜けで北側には旧校舎があり、気味悪いにもほどがある。
正面玄関入ってすぐの下駄箱ではここの学生達が話で盛り上がっている。なんとも清清しい光景だ。右に入って突き当たり、そこにある一年一組の教室。
 短い黒髪と縁なしのめがね。きっちり着こなした制服にいつも手放さない小説。
彼女の名前は金澤ありさ。この学年きっての秀才だった。
金澤ありさはかばんを背負ったまま自分の席につき、かばんを開く。
坦々と教科書を取り出し、いつもと同じように机へしまいこむ。
「いたっ」
バサバサと音を立てて、しまいきらなかった教科書がなだれを起こした。
彼女の手のひらからは真っ赤な血で染められている。
机の中に無造作に置かれたカッターの刃。彼女の血液は床へと垂れ込んだ。そんなに深くないキズほど、良く血は流れるものだ。誰もが、見てみぬふり。金澤ありさは完璧にイジメのターゲットと化していた。
どうしようもない状況に、彼女一人動揺して身動きが取れぬまま教師が教室へと入ってくる。おはようと元気良く言ってくる教師に、誰もが笑顔で返事を返した。
まるで金澤ありさのイジメはまったく無いと否定するように。
「せ、先生……机にカッターの刃が……」
右手を押さえて、金澤ありさは言った。眉間をゆがめ、助けてくださいと訴えているように見えてならない。
「……保健室に行ってきなさい。ではHRを始めるぞー」
教師は一瞬ギョッとしたカオをして、何も知らないようなカオで対応をした。
本当はまっさきに気づき対処してやる立場が、生徒を恐れてこれだ。
金澤ありさは少しキョトンとして、自分の席を立ち上がる。
すると隣の男子の足に引っかかって転倒した。いや、正しく言えば引っ掛けられたというのが事実。金澤ありさは必死で自分をこらえた。泣いてはいけない…と。
「莫迦だなぁ。先生に言ったって解決するわけじゃあるまいし」
騒いでる中漏れた声が彼女の耳に届いた。くやしい。けど自分には反抗できる勇気も何も無い。そんな自分が心底大嫌いで。
背後に視線を感じながら、教室を後にした。
 
 何で私ばっかりこんな目にあわなくちゃいけないの?
私、何もしてないよ。毎日普通に学校行って勉強して…何がいけないって言うの?
真面目でうざいなんて、自己中論じゃない。
もう、やだよ……

 彼女金澤ありさのイジメは進む一方で、止むことはまったく無かった。誰も助けようとしていないからだ。
彼女の表情はよりいっそう暗くなり、全体的に少しやせたように見える。
けれど彼女はどんなことがあっても学校は休もうとしなかった。最後に残った彼女の意思が、今ここに結びついているのだということだ。
 ある日、彼女はまた憂鬱な気持ちを背負って学校へ向かった。長い長い通学路を歩いて、校舎へ入る。上履きがなくて、学校のスリッパを履いた。
教室のドアを震える手で開ける。そこで少し、ここまで来れた自分に乾杯。
視線は一気に、彼女へ注がれる。その視線が、痛くて仕方が無かった。
机が無い。
金澤ありさがそれに気づくのに大して時間はかからなかった。クスクスという気味悪い笑い声が聞こえて、その場にしゃがみこむ。耳をふさいで、固く目をつむる。
今までたまっていた何かがあふれかえった。
わぁっと泣くと、数人の男女が近寄り殴ったり蹴ったりを始める。痛い、やめて。そう何度も教室に響いているのに、しっかりそれは見えているはずなのに、教室の生徒達はこれが日常だとでも言うように平然としていた。
先生の気配がして、男女とも自分の席へ戻る。金澤ありさはヨロヨロと立ち上がり、自分の机があった場所へ立ちすくんだ。
「おはよー。さぁてHR始めるぞー」
教台に名簿をドンと置いて、彼女がまるで眼中にないように事を進めようとした。
「先生………机が、ないんです」
「新しいのをもらってきなさい。はい号令ー」
信じられない。彼女の頭に、そんな言葉が流れた。一番気づいてあげる立場なんじゃないの?もうやだよ。金澤ありさは教室を駆け出していく。教室はそのままHRが始まった。
 屋上へ駆け上がる。むかつく。むかつく。みんなみんな、死んじゃえ。
生きている価値なんてないんだよね。てゆーか疲れた。
黙ってれば皆、見てみぬふり。もう、生きていたくない。痛い、痛い。
「莫迦野郎―――!!好き勝手やりやがって!!!」
いい子ちゃんぶってる自分に吐き気がする。もっと言いたい事だってあるのに。
金澤ありさは屋上のフェンスに手を絡め、ガシャガシャと揺らして叫んだ。
「ッ。もうこの低脳!てめぇ等にまともな未来はないっつーの!」
性格が変わったように叫んで、フェンスをグイッと押し込む。
金具が音を立ててズルリと床に落ち、体が前へ倒れた。
もがいても戻れない、屋上の床。その場所ではスローに思えて、金澤ありさはカオを軋める。スローになっていたと思ったら、急にスピードを上げて地面へ向かった。
何も考える余裕は無くて、ただ。浮いている…みたいな。
―――――――…

こんな事になったのも全部
お前達のせいだ。

絶対に、許さない。復讐してやる……
 
















no2「Cheer up!」the first
 初夏の生温かい匂いが、アスファルトを駆け巡る。通学路がアスファルトだらけで、学生達も朝から汗をかきながら登校だ。
今日の朝、一つのニュースがあった。女子高生のイジメによる自殺。
きっと自殺だろうということで処理されたらしいが、フェンスの破損も少し気になるところだ。
そんな事件が元になりたつ、しょうもない噂話。
復讐にやってきただの、幽霊になって呪いにやってくるだのって。
飛鳥学園もその例外ではなかった。
金澤ありさが復讐にやってきたと。
 朝学校へ行くと、パトカーの放つ赤い光線が沢山ある。
立ち入り禁止の黄色いテープが玄関先に張られ、それでも授業を続けるというこの学園は、屋上は絶対立ち入り禁止と決め、あわてる学生達は警察や教師達に押されながら教室へ向かわされた。
 ―――殺シテヤル
 
 「えーと今日は転校生を紹介するぞー。入って来い」
一方一年一組では新しい仲間を向かえ、少しにぎわっていた。
「ねぇねぇ郁。どんな子かなぁ?」
「んー…すっごい変わってる人!ほらほら、腕がロケットとか!」
「天然もいい加減にしなさーい」
笑い声と一緒に聞こえた会話は、女子高生らしくない会話だった。
ライトブラウンのくせっ毛は、左右に束ねゴムで結び、茶色の瞳は水にひたっているように潤しい。彼女は酒屋(サカヤ)郁。オカルト研究会会長でもあり、すこし霊感があるというのが自慢らしい。
 教室のドアが音を立てて開くと、うわさの転校生が現れた。
あたりは静まって、転校生が黒板の前にたつまで、その姿を目で追う。
暑い季節の教室は、少ししめっぽく、窓から見える夏景色は先日あった出来事がなかったかのよう。
「神奈川から来た、生知女也子(ショウチメヤコ)です。どうぞよろしく」
黒の長い艶がかった髪に、緑と青のオッドアイ。硝子のような肌は透き通るくらい白い。
オッドアイは、人とは思えぬ光を放っている。
その傍ら、郁は頬を赤くして、女性として女也子に憧れを抱いた。
なんて素敵な人なのだろうと。あの涼しそうな表情に、一瞬女でもドキッとしてしまう。
「だ、そうだ。仲良くしてやってくれ。いいな」
「はーい」
 「生知さん生知さんっ」
授業と授業の境目にある小さな休み時間に、郁はうわさの転校生に話をかける。
仲良くなれればいいな。そんな気持ちでいっぱいだった。
教室を出かけた女也子のシャツをぐいっとひっぱる。女也子が振り返ると郁はにっこりと笑って迎えた。
小さな雑草と何も育てていない土だけ入った白いプランター。雨の日に泥が跳ねたのか、下のほうが土っぽくなっている。
風が吹くたび熱く、直射日光のすごいこのベランダに、郁は女也子を連れて行った。
突然会ったばかりの人にここまでされたのは正直初めてで、驚いている女也子。
「あの、私酒屋郁って言います!仲良くして…くれませんか?」
この人と仲良くなりたい。何か普通の人とは違う特別なものを持っている気がして。
熱風にあおられる黒髪を押さえて、女也子は微笑んで返した。
「よろしくね。郁ちゃん」
 
 昼間になっても立ち入り禁止のテープとパトカー、警察は消える気配を見せなかった。
自殺だというのに、いつまで調査を続ける気だろう。
それは、残っている奇妙な血痕だ。
発見現場、彼女の手のひらに描かれた「呪」という文字。
生前彼女はイジメにあっていて、呪ってやるという意味で描いたのだろうと誰もが頷いた。けれど一人の警部はそうとは思えなかった。
「あ、そうだ。金澤ありさをいじめていたっていう4人を見張っていてくれ。あぁでも別室に呼んで置いたほうがいいな。事情は後で俺が説明すっから」
「はいっ」
調査用の白い手袋をつけ、冷えた缶コーヒーを口の中に注ぐと、今まで砂漠のようだった喉の熱さがやわらいだ。
ふぅ、と一息。茶色の髪からは汗が雫となって落ちる。
切れ長の細い瞳は、何か鋭いものを思わせた。
彼は水珠由(モトリ タマユ)。警視庁刑事部捜査一課特殊犯捜査係四係で地道に働く青年。
今回この事件を任されたわけだが、挫折気味である。
右手にはコーヒーを、左手には新聞の切抜きがうずまっている。
現場では被害者が発見された状態の時に白いチョークで周りを縁取られ、残る生生しい血痕は乾ききっていた。
コーヒーを持ったまま座り込み、現場を眺める。
かれこれ数十分同じことをやっている。何か手がかりがあれば……
『イジメの復讐。女子高生自殺。呪いに来たのか』
左手に握る、新聞の見出し。日付は去年のこの季節。
その事件と同じようなことが、今ここで起きていた。
まず始めに、原因はイジメで、季節は決まって夏。死んだ直後、両方の手のひらに血で描かれた「呪」という字。
さっぱり原因は不明で、この血文字は何をしても落ちないことがわかった。
去年の新聞によると、被害者江波永久子(16)が屋上から落下死。両手のひらには「呪」の文字があったという。彼女もまたイジメのターゲットだった。
死後「呪」という文字は消えずに残り、埋葬された直後、彼女の写真へ予告の文字が現れたという。
次々に起こる事件を、彼女の写真が物語った。
死んで行くのは彼女をいじめていたという男女ばかり。
永久子の写真の予告文字は、事件が起きるにつれ薄くなっていき、最終的には消えてなくなったらしい。
それは彼女をいじめていた人々を全て呪い殺したからとか何とか……
「それにしても、気味の悪い話だなぁ」
毎年同じ時期に同じような原因で殺されているのだから。

―――イナクナッチャエ。ミンナミンナ























no2「Cheer up!」the latter
 案の定、金澤ありさの写真に予告の文字が現れた。
先ほど遺族からあわてた声で水の携帯に連絡があったのだ。
真っ赤な血文字で一人目、紅色のピアノを、と。
「紅色の……ピアノォ?」
携帯を切った後、余計に頭が混乱したようだ。
とりあえず調査は一度中止という事にして、学園から外へ出た。
「女也子ちゃん!待ってどうしたの…!?」
水があの大きな門を出て、パトカーへ乗り込もうとした時だった。後ろから一人以上の足音と、声。水か振り返るとそこには、女也子と郁がいて、どうも女也子のほうは水に何か伝えたいことがあるようだ。
水はパトカーに乗りかけていた足をまた地面に戻し、何だいと問いかける。
靴が音を立てて、女也子が近づく。
髪がさぁっと靡いては、それが太陽に反射して光る。
門まで少し早足で歩いて、水の前で止まると、水を驚かせるような言葉を吐いた。

「あの、私何か協力できるかもしれません」

水はため息をついて、少しにらむかのように目線を上にあげる。
車の座席下に入りかかった足を地面に戻して、口をひらいた。
「……いいかな?君たちは民間人だ。協力してもらうまでもないよ」
熱そうなスーツに、流れる汗。イライラしていたためか、口調も少しきつくなる。
アスファルトが焦げ付く音まで聞こえてきそうな気もした。
「お願いです!話だけでも聞いてください!彼女は、彼女は何かを伝えたいんです!」
「何度言えば理解してくれるのかな。こちらも必死の思いで捜査を続けているんだ。君たち学生にとやかく言われる筋合いは無いと思うが」
女也子の吐く荒い息が、むなしく残った。
パトカーはそのまま、灰色の煙を残して消えて行く。
悔しそうに、そのカオをゆがめる。今の彼等には到底解決できない事件だと彼女は察しているからだ。
よほどの霊能力者がいないかぎり……は。
今回の事件、これは単に女也子の予想にしかすぎないが、
三年前、この季節に起きた第一回目の事件が関係しているのではないのかということ。
三年前の被害者東海林 春(ショウジ ハル)は女也子の友人で、自殺するような人ではなかった。しかし事件発生半年前、急に彼女の性格が変わったのだ。
今まで明るく、元気がとりえだった彼女の性格は、恐ろしいほど静かになり、食べ物の好みまで変わってしまった。
女也子が自殺前日に彼女を見て思ったことは一つで、
背負いきれない恐怖と悲しみだった。
明日、何かに悩んでいるんじゃないの?って聞いてみよう。
そんな甘い考えがいけなかった。
その日のうちに彼女に会っていれば、救えたのかもしれない……―――
「……どうしたら解ってもらえるかしら」
ポツリと残った言葉は、ひどい悲しみを感じた。
彼女が本当に、大好きだったから。
だから貴方を苦しめていたモノが、許せない。

「乗り込もうよ。だって女也子ちゃんがどうしても伝えたいんでしょ?」

郁に手を引かれた。そうだ自分はこんな事でくじけてはいけない。
守りたい何かがあるから。
 授業を半分終えたところで、女也子と郁の姿は教室から消えた。
じっとしていても何も始まらないことを知り、警視庁へ乗り込みにいったのだ。
 少し暗い、コンクリート壁で覆われた取調室。別に彼女らが何かしたわけではない。
パイプ椅子の音を立てて、水警部は姿勢を正した。
「で、しょうこりも無く何だい?こちらも忙しい身でねェ」
両手を組んで、机の上に膝を置く。女也子は首を立てに振り、話を始めた。
「彼女、金澤ありさの復讐も、嘘でもないかも知れないんです。私、多少霊力がありましてね。少し彼女に似たような気を感じました。まぁそれも確かとはいえませんが……」
 婦警が出してくれていたお茶の湯気が消える頃、女也子の話に区切りが付いた。
その部屋は沈黙に陥り、重いため息が広がる。
「それが、どうかしたか?そのような提案も出ているし、君たちに指摘されるまでもない」
「毎年同じ時期に同じような事件が起きるのは可笑しいでしょう?多分一番初めの事件で自殺した東海林 春(ショウジ ハル)に憑依した霊が呪いに着ているのかと。今までの被害者の遺族達に聞けば解るはずです。きっと急に好みが変わったり、性格が変わったりしているはずです。およそ、被害者は亡くなった後もその東海林 春に憑依していたモノに憑依されていると思います」
そう言って、どこへしまっていたのか3年前の新聞の切抜きを出した。
「その憑依していたものの生前、彼女に何かしら遣り残したことがあるのではないでしょうか」
鋭いまなざしで水を見返すと、水は複雑なカオをしてそうか。と言う。
その傍ら、一人オロオロしている少女が居た。
「つ、つまり何?え?」
郁は額に汗ながし、必死で今の現状を察知しようとしている。そんな郁に女也子はニコリと笑いかけ、後で詳しく教えてあげるわ。と言った。
「……ふむ、参考にさせてもらおうか」
水が立ち上がり、スーツをはおる。そしてドアノブに手をかけて、二人が出るのを待つように言う。
「気を抜いていると、貴方も殺されますよ」
「ご心配をどーも」

 事件が起こり始めたのは3年前のこの季節。
一番の被害者は東海林 春。
一年前の被害者は江波 永久子。
そして今年の被害者が金澤 ありさ。
遺族に聞いてみると案の定、性格や好みが変わっていたとか。
それも全て春の好みと似ているというのだ。
彼女の思い残すこととは、一体……

 一方違う取調室に呼び出された男女合わせて四人の生徒。
飛鳥学園の制服で、おびえきったカオをしている。
彼女彼等は金澤ありさをいじめていたという者たちだった。
水は急いでそこへ移動し、彼等を金澤ありさに呪い殺されないために見張っているのだ。
一人に放っておいたらいつ殺されるか解らない。
予告の文字はあるものの、殺されるものの名前まではない。
「殺されちゃうの……?私達」
「殺させはしない。どうにかして解決しなくちゃいけない問題なんだ」
しん…とあたりがしずまりかえる。誰もが何かをしゃべる余裕などないからだ。
紅色のピアノ…。その言葉はいまだに理解できず、水警部はそれなりに悩んでいた。
少し日が傾いたのか、取調室は先ほどより暗くなる。
苛立ちを感じる生徒の足が、パタパタと音を立てた。
「俺帰る。付き合ってらんねー」
がたんと椅子から立ち上がり、机を蹴飛ばしてうさをはらす。
いじめていた男子生徒小林 夏樹(コバヤシ ナツキ)は金髪のツンツン頭が映える、校内でも有名なヤンキーだ。キレやすいたちという事もあって、早くもこの現状に耐え切れずギブアップ。
彼のことだ、幽霊やなにやら、そんな迷信まるっきり信じていないだろう。
こういう奴にとって、いざ何かを見たとき恐怖に凍ってしまうのだ。
しかし今の彼は、実際見たことはないために恐怖におびえることなく、ただ下らないと言って水をにらみつける。
それを止めようとする仲間達をまるっきり無視。
「帰るも勝手だが、その後の責任は取らないぞ?君は今の自分の立場をわかっていないようだけど」
「はっ、知るかよ。呪いに来ただなんて莫迦じゃねーの?!」
そう怒鳴りつけてドアを閉めていった。ギシッと、ドアが少しゆがんだ気もした。
「小林……」
もう一方の男子がつぶやいて、カオを落とす。
今思えば、あんなくだらない事、やるんじゃなかったなぁ……

 「ドイツもコイツもケーサツなんかの言いなりになりやがって」
ペッとつばを吐いて、だるそうに歩く小林。
土手に囲まれる道路。そこにある短いトンネルは、少し日が傾いただけで真っ暗。
けれどまだ3時あたり。こんな早くからユーレイも出るまい。
小林的思考はそのとおりだった。
オレンジ色にぼやっと光るライトは故障でもしているのか、ついたり消えたりの動作を繰り返している。
わきに生える雑草ですら、何だか不気味に見えた。
ズボンを腰まで落とし、だぼだぼに着て、ポケットへ手をつっこむ。
そして何となくつばをゴクリと呑み込んで、トンネルの中をくぐっていく。
何にせよ彼の家に着くためには通らなくてはいけない道なのだから。
ひた、ひたり。足跡が響く。ざりざりと、あがらない足を引きずるのと同時に。
何かが自分と同じ歩幅同じスピードで、歩いている。
少し背筋に、悪寒を感じた。まさか…と冷や汗が頬を伝う。
スピードを上げて歩くと、ひたひたともう一つの足音もついてきた。
怖くなって走ってみる。必死になって、足を上げる。
どんどん迫ってくる足音。近づいてくる、恐怖。
瞬間、ズボンの裾に、足が引っかかった。
ずりさげていたズボンが、最悪の結果を生むことになるとは、自分自身思ってもいなかっただろう。
うつぶせに転がり、恐怖に狂ったカオをして後ろを振り向いた。
「金澤ァ……ッ」

 「東海林 春……と?」
門の所で車から降りた後、教室へ向かう静かな廊下で、郁は言った。
「そう、私東海林 春知り合いだったのよ。まぁ、お友達ってところかしら。唯一の友達で、彼女が今こんなことをやっている理由、聞きたくて。それに早く成仏させてあげたいし……」
少し疲れたような笑い方で、郁を見た。
周囲が白い目で見てくる分、唯一できた友達を失う時はコレまでにない悲しみを感じるものだ。それに自殺だとわかれば、何故自分がそれに気づいてあげられなかったのだろうと、恥ずかしい気持ちもある。
どうしても今回の事件を借りて、彼女に触れて話したいと思っていたのだった。
「そっか……女也子ちゃんて…」
その時、女也子のポケットに入っていた携帯がピリリリと音を漏らす。
電話に出た後、女也子は目を見開かせた。
イジメを加えていた一人、小林 夏樹は殺された。そんな連絡が水から入ったのだ。
「な……!?彼を帰したんですか!何をしているんです警部!」
 赤いライトと煩いサイレン。黄色いテープと証拠写真撮影のフラッシュ。
先ほどのトンネルは暗い雰囲気を放ちつつ、違う意味でにぎわっていた。
トンネル内には夥しい量の血液が散らばっている。時間はそれほどたっていないため、生生しい色だ。
「警部。彼、どんな死に方を…?」
「うむ、それが外傷は無く、内側から破裂させられたようにグチャグチャなんだ」
おえ、と郁は吐き気を感じたが必死に堪える。
「それと、紅色のピアノって言うのは、どうもこれのことらしい」
「……オルゴール…!?」
そこには紅い血に染められた、ピアノの形をしたオルゴールがあった。
やはり紅色のというのは、ピアノのことだったのか。
「それ、私が東海林 春にあげたものです……」

東海林 春も、女也子に会いたいと言うのか。















 ねぇ女也子ちゃん。どうしてそんな所に一人でいるの?一緒に遊ぼう?

それが、私と春との出会い。
その出会いがきっかけで、私の日常には彼女がいないだなんていうことはまずあり得なかった。
でも、それは一時の安らぎ。

no3「A past story」the first
 真っ黒い夜中のような髪は、伸ばしていると自分のカオが隠せたから、あえて切らなかった。
それが原因で、たとえいじめられたとしても。
左右色の違う瞳がイヤでたまらなくて、一度だけ目を刃物で刺そうとしたことがある。
でも自分には、そんな大それた事をする勇気なんてこれっぽっちもなかった。
そういうことをやったことで、誰かに同情してほしかったんだ。

 中学一年生。思春期。夏も終わり、少し肌寒くなってきた季節。
小風が吹くと、思わず首をうずくめてしまいそう。
木々は赤や黄色に染まり、ゆれる木の葉と風の音が絶妙にマッチしている。
その矢先、とある丘の上にある中学があった。
一見廃校にも見えてしまう木造の古びた校舎。これでも一応毎日学生が通学している、由緒正しき花森中学校。
春先に入学したばかりの一年生も、だいぶこの環境にも慣れ楽しくなってきたころだろう。
楽しく感じるというのは100%中約80%。残り25%は「ダルイ」とか「ウザイ」とか。教育のなっていない非常識な学生達だ。
残り5%は「イジメ」や「引きこもり」という、生徒や先生、親では解決のできない心の病にかかっている学生達。
その5%が、もし自分だとしたら、貴方はどうしますか?
 最初はたわいもない事だった。黒髪とか、左右色の違う目とか。
「珍しい」と言われてて、少しいい気になった。
そのうち、気持ち悪いになっていって、イツノマニカ居場所がなくなっていたんだ。
「なんかさぁー、生知さんって、気味悪いよねー」
「うんうん。だって家系が・・・ねぇ」
「うわぁー。呪われちゃうかもね、あんまりかかわるの止めようよ」

 観音開きの硝子張りの扉を入って、1〜3年生までの下駄箱が立ち並ぶ。
こげ茶色でできた正方形のタイルが下に敷き詰められ、其処のところは少し丈夫そうだ。
廊下にあがると、何年も使い込まれ、塗装が剥げている下駄箱。
そこから横に広がる廊下は、左へ行ってそのまた左のへこんだ所には今までとってきた賞状やトロフィーがならぶガラスケース。もう少し行くと、職員用玄関。
また戻って進むと、教室へ向かう階段があった。
一年生は四階で、のぼると結構きついものだ。
四階までのぼると、銀色に反射する水道が横長に広がり、左へ行くと三組があった。
 「そうだよねー。何か・・・怖いし」
眉をゆがめながらも、その会話を楽しむように笑う女子生徒3人。
女也子のハナシはいつのまにかスルーされ、次第にキャッキャッと笑い声が聞こえてきた。
そのたわいもない一瞬の会話は、勿論本人の耳にもはいっている。
聞こえてるっつの。
女子っていうのは、どうしてヒソヒソ話してるくせに声が大きいんだろう。
大体、アンタ達と友達になりたいとは思ってないから、安心して。
 女也子はこのときから、人間に対して嫌気がさしていた。
自分も人間だと言うのに。なんて人間は汚いのだろうと。

私が心をゆだねるとしたら、それは太陽でも温もりでもない、静かに去っていく雪がいい。
2005-06-01 20:52:32公開 / 作者:彩介
■この作品の著作権は彩介さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
女也子の過去の話をかかせていただきました。どうでしょうか?
誤字などがあったら是非ご指摘下さい。
アドバイス、辛口甘口かまいません。
くださったら大感謝でございます。
では、次回。


新スレッドでやらせていただきます
この作品に対する感想 - 昇順
羽堕です(o*。_。)oたぶん、二重投稿の扱いになると思うので、どちらか一方を削除した方が良いと思います。
2005-06-02 14:48:03【☆☆☆☆☆】羽堕
計:0点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。