『ずれる世界』作者:森川雄二 / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約5.5枚
 もし僕がまだ狂っていないのなら、あるいは僕が現実だと感じているこの世界そのものが夢でないのだとするならば、世界は確かにずれていっている。
 ずれるという表現が適切かどうかはわからない。ただ、毎朝僕が目覚めるたびに世界はずれるのだ。
 ずれる、というのは朝目を覚ますと世界がほんの少し違っているのだ。 それは自分が住んでいる場所がかわっているとか、総理大臣がかわっているとか、あるいは友人が女になっているときなどもあった。
 
 ある日なんかは僕の職業自体が変わっているときもあり、非常に困ったときもあった。だが不思議なことに、その仕事自体はまるで体がおぼえているかのようになんなくこなすことができた。
 しかもどれだけ世界がずれても僕以外は誰もそのことに気づかないのだ。いや、それどころか最初からそうであったことになっているのだ。
 学生のころ使っていた歴史の教科書などを見返しても、見るたびに内容が変わっていたが現在の僕らの生活に影響が生じるほど変わることはないようだ。いつからこんな風に世界がずれだしたのかはよく覚えていないが、今では僕はすっかり慣れてしまい、どれだけ世界がずれても驚かなくなっていた。

 むしろ僕はこの、おそらくは僕にしかわからない奇妙な現象を楽しんでいた。今日は何がずれているのか、何が変わっているのかを知ることは僕にとってささやかな刺激であった。
 ある日、僕は大学のときからつきあっている芳子と買い物に行くことになり駅前で待ち合わせすることになった。芳子は大学の後輩でショートカットの活発な子だ。僕にはちょっともったいないくらい可愛い子だ。しばらく仕事で忙しかったので今日はすごい楽しみにしているようだった。
 僕は腕時計で時間を確かめた。予定の時間よりもう大分過ぎている。おかしいな?芳子が時間に遅れてくることなんてなかったのに。僕は何か事故でもあったのかと心配に思い、電話をかけた。しかし、つながらない。その後も何時間も待ったが、結局芳子は現れず、電話にも出なかった。

 次の日、芳子の住むアパートに向かった。インターホンを鳴らすとドアが開き、芳子が出てきた。
「あの、すいませんがどちらさまですか?」
芳子はさっきまで寝ていたのだろう。まだパジャマ姿で、眠そうな顔をしている。芳子は休日の日は大抵昼近くまで寝ているのだ。
「何寝ぼけてんだよ。僕だよ、僕」
まったく……約束をすっぽかされた上これだ。僕は少し腹が立った。
「あの……ですから、どちらさまですか?」
芳子は怪訝そうに尋ねる。言い知れぬ不安が僕を襲う。 
「おいっ! ふざけるのはやめろよっ! 僕だよ。昨日も買い物の約束をしただろう? もう怒ってないからさ、ふざけるのはやめろよ」
「いい加減にしてください! 私はあなたなんか知りません。これ以上騒ぐと警察呼びますよ」
芳子は本当に怯えた顔でそう言うと、バタンと勢いドアを閉めた。
 
 僕はしばらくドアの前で呆然と立っていた。そしてこれが、世界がずれたことによって生じたものだろうということを理解するのにしばらく時間がかかった。僕はこの狂った世界を呪った。この世界がどれほど異常で、狂った恐ろしい世界なのだということが今初めてわかった気がする。
 僕が芳子と過ごした楽しかった日々も、僕が今まで生きてきてつくりあげてきた何もかもが、ひとたび世界がずれてしまえば全て消えてなくなってしまうのだと思うと、何もかもがどうでもよくなってきた。

「あの、芳子に何か用ですか?」
突然男が尋ねてきた。20代の半ばくらいの若い男だった。
「あんたは、芳子の彼氏かなんか?」
「ええ、まあ……」
男はそう答えると少し照れくさそうに笑った。僕はその笑顔を見て頭がまっ白になり、男の顔面を思いっきり殴りつけた。男の顔からはおびただしい量の鼻血が流れた。僕は男の髪をつかむと地面に何度も叩きつけた。3、4回叩きつけると男は動かなくなった。男が蘇らないかと少し不安になりその後も僕は男を何度も叩きつけた。
 
 僕は逮捕され、今は刑務所の中にいる。ここは比較的世界のずれを感じにくいので僕にとっては案外落ち着く場所だった。だが、ここにいてもやはり世界はずれていった。僕はあの男を殺して逮捕されたはずなのだが、ある朝起きると僕の罪状は詐欺罪になっていたり、また別の日には僕は連続殺人犯で死刑が決まっているといわれた日もあった。
 でも、そんなことはもうどうでもよかった。僕が何をしたとしても、そんなものはこの狂った世界の気まぐれでどうにでもなるのだから。
 
 ただ、最近思うのだ。ずれているのは世界ではなくて僕のほうではないだろうか?世界はずれてなんかいなくて、僕の記憶や認識が毎日ずれていってるだけではないだろうか?僕は狂っていて世界がずれていると勘違いしているだけではないのか?
 そういえば、世界はいつからずれだしたのだ?……思い出せない。最近のような気もするし、もっとずっと以前……初めからずれていた気もする。わからない……思い出せない……それは、やはり僕が狂っているからだろうか?世界がずれているのか……僕がずれているのか……。

           ずれているのは、どっちだ?
2005-05-26 00:11:29公開 / 作者:森川雄二
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この作品に対する感想 - 昇順
拝読しました。人形、ビデオ、次はズレ。うんうん、オカルト趣味?文章的な事なんですけどね、SSだからかも知れませんけれどもうちょい人物の描写があればいいなあとか思っています。文章それ自体は読み難くなかったので惜しいかな。最後の一文で御座いますけれど、個人的には物語を濁す感じがして嫌ですね。あくまで京雅の趣味ですよ、他の方は心地好く思うやも。もっと奇想天外的なオチがあればなあとか、自分には考えつかない欲求をぶつけてみます。長長と偉そうに語りました、気に障ったら謝罪します。次回作もお待ちしております。貴方の趣味(いや、趣味じゃないとは思いますけど)を生かした連載ものも見てみたいなあと、一寸思う私でした。
2005-05-26 01:12:57【☆☆☆☆☆】京雅
ズレ、ねえ。いいテーマだ! そのズレって一度ズレてしまうと補正されないのでしょうかね。その辺の設定がよくわからなかったです。そのズレが一日限りのものなら、主人公がそこまで取り乱したりするのは違和感があるのです。私も最後の一行はないほうがよかったかな、と。なんとなく子供っぽくてそれまでの文に合わない気がしますな。
2005-05-26 22:26:52【☆☆☆☆☆】clown-crown
作品拝読させていただきました。面白いです。ズレの規則性のような設定はよく分かりませんが、惹かれるテーマでした。でも、どうして刑務所に入ってからのズレで無罪とか、犯罪そのものを犯していない状況はないのでしょう? 単に描写していないだけかもしれませんが、ちょっと気になってしまいました。ラストの一文は皆様と同じ感想です。せっかくの雰囲気を壊してしまっている印象です。長々書いてすみません。では、次回作品を期待しています。
2005-05-27 00:09:57【☆☆☆☆☆】甘木
初めまして、茂吉と申します。作品拝読させて頂きました。テーマ凄く面白いと思います。文体も柔らかく読みやすかったです。ただ如何せん結に向かう動機が急すぎたかなと思いました。ズレの歪にとらわれていく主人公の描写を増やせばまた深みが出てきたかも知れません。では、次回作も楽しみにしております!
2005-05-27 10:58:24【☆☆☆☆☆】茂吉
>京雅さん
読んでいただいてありがとうございます。描写苦手なんですよねえ。これからがんばります。連載はするとしたら昔の探偵小説のような少し怪奇じみたミステリを書きたいと思ってます。(ただいま構想中)
>羽堕さん
読んでいただいてありがとうございます。
>clown-crownさん
読んでいただいてありがとうございます。
>甘木さん
>茂吉さん
読んでいただいてありがとうございます。うーん、最後の一文不評ですね。確かに改めて見返すと蛇足かも……。
2005-05-27 23:23:53【☆☆☆☆☆】森川雄二
初めまして、あいかです。私も似たようことを考えたことがあります。今いる自分は本当の自分なのだろうか。今までの出来事は実は何か偽りの記憶で、実際は全く違うのではないか。とか。まぁ、記憶なんてものは、ほんとあやふやで、すぐに不安になりますよね。刑務所に入ってから、ズレが刑務所内だけで起こっている。刑務所に入る前、殺人を犯していない所から始まらないところから、私は世界がズレているのではなく、主人公の頭がおかしいのだと判断しました。皆さんと同じように私も最後の一文は邪魔なだけの気がします。テーマはとても面白かったので次回作も期待しています。
2005-05-27 23:26:40【☆☆☆☆☆】あいか
読ませていただきました。面白い題材ですね。起きるたびに世界がずれていくとは、恐ろしいものです。昼寝して起きた時にはどうなのかな?とか、ずれる範囲(一回でどの程度ずれるのか)はどれ位なのかな?と、裏設定のようなものが気になりました。どうでもいい気もしますが。最後の一文は別にいいと思います。主人公の心境を簡潔にあらわしていると思うので。しかし、空間を空けて真ん中に寄せるのはどうかと。普通に左寄りでよかったと思います。それと、前の文といまいち合ってないと感じました。あと、罪状が変わるというのも何か違和感が。主人公以外はおかしくないのに罪状が変わるというのは?(主人公がおかしいからいいのか?)
長々と失礼しました。次回作に期待大です。
2005-05-28 22:01:44【☆☆☆☆☆】ずっぽぱ
計:0点
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