『DOPE』作者:田中 通 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約3.45枚
「ねぇ、開けてくんない?」

クーラーどころか扇風機すら無い、鉄筋コンクリートのアパートの一室。
吉村は目眩がするような暑さの中、同じ空間にいる人間の言葉を聞こうと努力した。
「何…?松定。」
寝ころがしていた自分の上半身を起こして、問いかけた相手の手元を見た。
そこには何かの液体やら、針やらが不衛生に広がっていた。
ピアスを開けるものだと、吉村はなんとなく理解した。
「ピアス…、開けんの?」
「うん。」
微笑みを浮かべて頷きながら、松定は己の用意した、そのための針を手でくるくると弄んでいた。
「それで開ける気かよ。」
「うん。」
「でもお前、耳とかもう開ける場所ねぇじゃん。」
吉村が指差した松定の耳には、新入りを迎え入れることのできる場所などなくて。
「んー…。今度はね、ココに孔、開けようと思って。
 ね、開けてくんない?」
そう言って松定は自分の舌を出して指差した。
「ベロ?…やだよ。
 前、ヘソピ開けてもらった店で開けりゃいいじゃん。」
眉を顰めて吉村は拒否の言葉を松定に渡したが、松定は微笑を浮かべたままだった。


耳には異常な数のピアスと、ボディピアスは臍だけだが、いつも微笑みを浮かべたままの表情、何を見ているのか分からない目と、それとたまに変なことを言う、松定。
この異常者を、吉村は始めて見たとき薬でもやっているのかとおもった。
まぁ、今でも実際はどうだか分からないが。

この異常さが楽しくて、吉村は松定との付き合いを続けている。

付き合いが短いわけではないが、長年付き合って来たわけでもない。
初めて会ったときは、あまり近づかないようにしていた。

ただ、松定が臍につけたピアスを見たとき、魅せられた。
それを見たとき、吉村は自分の体が興奮しているのに驚き、そして悟った。

『何だ。オレも、異常じゃん。』

身体が震えた。
それに、快感を覚えた。

これが、オレの本質か。 と、吉村は無意識に自覚した。


そのときを、そのことを、その感覚を、吉村は今、思い出した。


「ねぇ、ダメ?吉村に開けて欲しいんだけど?」
松定が自分の左手の人差し指と、親指で舌をつまんで問いかける。
吉村は身体が熱くなるのを感じた。

下腹から上り詰める熱。

あついあついあつい。

異常な自分。  今までの自分は無い。


松定の出した舌が、吉村の異常な欲情をかきたてた。

「何で? オレ?」

吉村の目眩の中の質問に松定は問主と目を合わせずに答えた。

「吉村が欲しいけど、無理だから、吉村のアナが欲しい。」

笑いながら。

「オレが欲しい?」
「うん。でも、今は吉村のアナの方が欲しい。」

ゾクゾクした。

「他は、いらない。
 吉村が、作って。」

腹の中が、ゾワゾワと騒いだ。






「いたい?」
「へーき。」

「また、どっか開けてね。」

「もう、どこにもそんなの作ってやれねーよ。」

それでも、松定は微笑んだまま。


異常者と異常者が孔でつながり。


興奮と快感の互いが。


不始末は目に映らない程度。

2005-05-25 00:57:21公開 / 作者:田中 通
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この作品に対する感想 - 昇順
初めまして、京雅と申します。題材的に私の趣味範囲外でしたので感想を入れようかどうか迷いました、あまり役に立たない言葉しか連ねられません、ご容赦ください。異常と言うか、それはよく解りませんが、雰囲気は伝わってきました。私、ボディピアスは見るのも嫌な類の人間なんで、途中から一寸気持ち悪くなっておりましたが、まあそれは充分に雰囲気づくりが出来ているんじゃないでしょうか(好き嫌いが分かれそうですけどね)。多くなくてもいいですけど、人物の描写を書いていればよかったかなとも思います。次回作期待しております。
2005-05-25 01:35:08【☆☆☆☆☆】京雅
初めまして、羽堕ですm(._.*)m読ませて頂きました♪軽く、ボーイズラブなのかな?いやいや、松定は女の子かな?やっぱり、名前的にも(*^^*ゞ吉村の男は、たぶんあってるような気がする(^▽^;)文章自体は、固くなくて軽く読める感じでしたwピアスとか私は全くしないんです。シルバー類も軽いアレルギーっぽくて、出来なくて質素(/ー ̄;)とか思いながら読みました♪次回作も頑張って下さい(。・_・。)ノ
2005-05-25 02:25:04【☆☆☆☆☆】羽堕
初めまして。感想失礼します。臍(ヘソ)という漢字、画数が多くて一瞬読めなかったです。この漢字読めない人もいると思うので、やはり読み仮名を付けるか、平仮名等で十分な気がします。顰(しか)めて、も同じく。疑問符や感嘆符の後に一文字分空白空けてあるところと、そうでないところが、バラバラにあるのは何故でしょう。統一させた方がよろしいかと思います。内容ですが、なんか怖いです。私はピアスなんてしない(体に穴開けるなんて考えられない)ので、彼らの気持ちはわかりません。しかし、あぁ、不気味だな。と感じることは出来ました。穴フェチなのでしょうか。うーん、怖い。
2005-05-25 10:35:30【☆☆☆☆☆】あいか
初めまして。読んでまず思ったのは、蛇にピアスと雰囲気がよく似た作品でした。描写的にも、内容的にも、登場人物の関係的にも。そしてその雰囲気を抜け出せずに居るというか。二人の関係の異常さは見えるのですが、内容がそれだけで、主題が見えてきませんでした。とりあえず、あまり他の作品と似た物は書かれない方がよろしいかと思います。失礼致しました。
2005-05-25 16:30:02【☆☆☆☆☆】酉縋
初めまして甘木と申します。作品拝読させていただきました。何が異常者なのかが分からずラストで肩透かし食らったような気分です。ピアス……異常だろうか? 私自身は耳にしか開けていませんが、他人がどこに孔を開けようが、インプランとしようが気になりませんし。それを異常とも気持ち悪いとも思わないので。というか、金があったら腕にタトゥーでも入れたいなと思っていますけど。ま、戯れ言はおいて。この作品の面白さは本来自己愛行為であるピアスを他者への愛情行為として開けさせる部分にあるのかもしれませんが、ピアスの孔を開けるまでの前段部分がないのでどうも釈然としませんでした。辛口の感想になったことをお詫びします。では、次回作品を期待しています。
2005-05-25 22:24:53【☆☆☆☆☆】甘木
計:0点
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