『小さな預言者』作者:PAL-BLAC[k] / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約6.9枚
 昔々、あるところにポールという、少年がいました。
ポールには、大酒のみのお父さんがいて、毎日、仕事から帰って来ては、
遅くまでずっとお酒を飲んでいるのでした。




 ポールとお父さんは、山で焚き木を拾ってきたり、山菜をとってきて、それを売って
暮らしていました。


 ポールには不思議な力がありました。
ある朝、ポールは、山に焚き木を拾いに行きませんでした。
お父さんは、不機嫌になってポールに聞きます。
 「ポールよ、なぜお前は焚き木をとりに行かん?」
 「だって、これから雨が降って来るんだよ」
窓の外の空は、雲一つない、いいお天気でした。皆が外に出て働いています。
 「何を言っているんだ。外はあんなにいい天気なのに雨だなんて!」 
お父さんは、怒ってポールに言いました。
 そのときです。
急に、山の方から雲が広がってきて、あっという間にお日様はかげってしまいました。
お父さんが驚いていると、ピカッと雷が光り、雨が降り出しました。
 あっけにとられているお父さんにポールは言いました。
 「ほらね」


 他にも、ポールは不思議な事をしました。
ある夜、ポールはいつになっても寝ませんでした。
お酒を飲んでいたお父さんは、不思議に思って聞きます。
 「ポールよ、なぜお前は寝ん?」
 「だって、これからどろぼうがやって来るんだよ」
家の窓は、すべて鍵がかかっていました。外の通りには誰もいません。
 「何を言っているんだ!泥棒がやってくるだなんて!」
 そのときです。
急に、家の暖炉から、ドサッと何かが落ちてくる音がしました。
みんな寝静まっていると思って、煙突からどろぼうがはいってきたのです。
あっけにとられているお父さんにポールは言いました。
 「ほらね」




 ある日、お父さんは、大変な事を思いつきました。
ポールを町のみんなに見せて、お金を集めよう!
そうすれば、一日中、働かないでお酒を飲んでいられるぞ!
なんと、お父さんは、息子のポールを見世物にする気になったのです。


 翌日、お父さんはポールを連れて町に行きました。
町の広場の中心には噴水があります。お父さんは噴水の淵に立ち声を張り上げます。
 「さあさ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!」
何事かと、広場にいた人はぞろぞろと集まってきます。
呼び声を張り上げ、広場にいた人の大半が集まったのを確かめると、お父さんは、
隣に座りこんでいるポールを指差しました。


 「こいつは儂の倅のポールだが、こいつには他には見れない不思議な不思議な力があるんです」
歌うように朗々と、お父さんは始めました。
 「何の変哲も無いこの息子、皆さんの前で予知をしてご覧にいれましょう!」
宣言すると、お父さんはポールを立たせました。
 「ポールよ。お前の不思議な力を見せておくれ」
集まった人達をグルリと見渡し、続けました。
 「さあさ、どちらの旦那が試されますかな?」
ざわざわと群集はざわめきました。そのうち、一番前にいた、恰幅の良い紳士が名乗り出ました。
 「ひとつ、ワシの将来を占ってもらおうかな」
お父さんは、揉み手せんばかりに喜び、ポールの肩を叩きました。
 「さあさ、息子よ!どうだ?」
ポールはにっこり笑って言いました。
 「おじさんは、これから笑い物になる」
言われた紳士は真っ赤になって怒りました。
 「このワシが笑い物だと?!この生意気な小僧めが!!」
と、言った瞬間―
 

  ポトリ


 なんと、広場を飛んでいた鳩が、紳士の頭の上に落し物をしたのです!
紳士はののしり声をあげながら、頭の上の帽子を取ろうとしました。
 「ええい、くそっ!」
そのとき、乱暴にしすぎたために、紳士の黒髪の鬘が取れてしまったのです!
群集は大笑い。身を折って笑う労夫達。指差してはしゃぎ回る子供、羽扇で顔を隠しながら
ご婦人方もさんざめきました。
 紳士は、頭から湯気をあげかねない調子で、広場を足早に去っていきました。
お父さんは、紳士からお恵みを貰えず、がっくりと肩を落としました。



 騒ぎが収まると、ポールの前に、羽扇を持って、小間使いにかしずかれた貴婦人が立ちました。
 「私の未来を予測してくださらないこと?」
お父さんは、今度こそお恵みがあると思って、ポールに言いました。
 「息子や、はよう占って差し上げなさい!」
ポールは、またもやにっこり笑って言いました。
 「あなたも笑い物になる」
そのとき、先ほどの紳士を指差して笑い、はしゃぎ回っていた子供達が、貴婦人にぶつかりました。


  バシャーン


 絹を裂くような悲鳴をあげ、貴婦人は噴水に水音高く、落ちてしまいました。
  水を吸ってしまったために、綺麗なドレスはしぼんで、くすんだ色に。
  高々と結い上げた髪はぐしゃぐしゃに乱れ、そこにカエルがちょこんと乗っていました。
  そして、お化粧が落ちて、どろどろになった顔は・・・おお神よ!
貴婦人は、金切り声で上品な婦人にあるまじきののしりをあげながら、小間使いを見捨てて
行ってしまいました。


 こうも続いて、お父さんは、もう、かんかんに怒ってしまいました。
ポールの事を叩こうと、手を振り上げたところで、ポールは群集に向かって大声で言いました。
 「今度はお父さんが笑い物になる!」


 今、まさにポールの頬を手が叩こうとした瞬間、その手首はがっしりした手に押さえられてしまいました。
先ほどの紳士が、護民兵詰め所に行き、「町を騒がせているものがいる」と告げ口したからです。
あれよあれよという間に、お父さんは護民兵に曳かれて行ってしまいました。
護民兵の登場で広場はシン、と静まり返ってしまいました。しかし、誰ともなくクスクスという笑い声が
しだし、みんなドッと笑い出しました。
ポールは、それを尻目にさっさと家に帰ってしまいました。




 翌日、こってり油を絞られてお父さんは帰ってきました。
ポールは、朝から山に入っていたために、家の中に誰もいませんでした。
むっつりと黙り込んだお父さんは、机の上の酒瓶に手を伸ばし、酒瓶の下の書置きを見つけました。
ポールの筆跡で、たった一行だけ書かれていました。


    これから酒を呑む



 ますます不機嫌そうな顔をして、お父さんは酒を口に運び出しましたとさ。
2003-10-28 23:40:26公開 / 作者:PAL-BLAC[k]
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■作者からのメッセージ
なんか軽い預言者ものを書こうと思ったらこうなりました。

・・・あれ?
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