『正反対』作者:五月 / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
全角2029文字
容量4058 bytes
原稿用紙約5.07枚
ガラガラガラガラ…… コロッ
 おもわず佑香ののどが鳴った。
 カランカラン〜! 
「大当たりぃ!! お嬢ちゃん、運がいいねぇ」
「やったぁぁ! ハワイ旅行ゲット!!」
 周りにも歓声があがる。
 佑香はその場で飛び跳ねた。束ねた短い髪が激しく揺れる。
 そして思い当たったように、急いで鞄から携帯電話を取り出して、震える手で電話をかける。
「もっもしもし!? お母さん? 当たったよ! ハワイ旅行!!」
『本当!? すごい。佑香は本当運がいいわねぇ』
「うんっ」
 佑香は満面の笑みを浮かべた。



 カッ 
「うわぁっ」
 裕樹は体をねじって転倒を防ごうとしたが、足が安定を保てずにそのまま体が倒れてしまう。
 ベチョッ
 見ている人がいたら思わず目をそらしてしまう瞬間だった。
「ペッペッ。うわぁ、気持ち悪…」
 おろしたての白いパーカはもはや模様のように茶色く色付いていて、顔にもべっとりとついていた。
 裕樹はこのままズブズブとこの濁った水たまりの中に沈んでいきたかった。
「俺、ホント運がねぇよ」
 周りにいる人も見てみぬふりをしてそそくさとその場を離れる。
 裕樹は深いため息をついた。


 あまりにも自分と正反対の人と出会うと、強く惹かれるか激しく嫌悪するかのどちらかだ。


 佑香はその日、図書館で宿題をしていた。
「数学的な数学の本は……と。…お?」
 本棚で宿題の資料を調べていると、ある珍しい本を見つけた。
 なんとカバーが真っ黄色の本。
 佑香は思わずその本を手にとった。
『人間の心理』
 そして、ぱらぱらと軽く読んでみた。

「ふぅん」
 しばらくして、ふぅと軽くため息をつく。
 なかなか共感できる本であった、と佑香は思った。
 思わずしてしまうちょっとした動作の時の心理状況とか。
「この、正反対の人と出会うと…のやつはなかなか心に残るなぁ」
 なぜだか何回も解説を読んで納得したくなる一文だった。


 最低! 大体あんたの性格は私の正反対なのわかるでしょ!? 好きになれる訳ないじゃない!


 図書館なのに大声で話す女子高校生が、ふとそんな言葉を吐き出した。
 そこで図書館で読書をしていた裕樹は考えた。
 本当にそうなのかなぁ。
 性格が正反対だからこそ、補える部分があって仲良くできそうなのに。
 その女子高生があまりにも大声で相手を罵るので、裕樹はそっとその場を離れようとする。
 しかしそこでまた、くつひもに蹴躓いて、女子高生の肩に軽くぶつかってしまう。
「すみません…」
 女子高生にきつく睨まれたので早足にその場から走り去った。

 もし、僕の正反対の人ならきっと運がすごいいい人だろうなぁ。
 裕樹はまた思った。
 それほどまでに運がないことを自覚しているのだ。
 もし……。
 何度でも考えたくなるような、印象深い事だった。



 佑香は、宿題を終えると参考文献を返しに本棚へと向かった。
 そして、ひとつひとつ正確な場所へと返していく。
 佑香はまたあの本はあるのかな、と思ったけどそこにあの黄色い本はなかった。
「めずらしい。誰も借りなさそうなのに」
 
「めずらしい、真っ黄色な本だ」
 裕樹は本を返そうと本棚のところまで来ると、ひとつ飛び抜けて明るい色の本をみつけた。
 題名を見ると『人間の心理』
 とってはみたが、裕樹にとってあまり興味のある本ではなさそうだった。
 借りていた本をまとめてそこに押し込もうとする。がしかし、さすがに全部は入らない。
 抜いてから慎重にいれようと思い、引き抜くと回りの本までが一緒に動いて。
 本の束が目の前にまで迫ってきた。

「あぶないっ」
 佑香は慌てて本のあられのなかに突っ込む。
 隣にいた人が運悪く本を変に引出したのだ。
 このままだともしかしたら重い本に当たってしまうかもしれない。
 しかし、佑香がつっこんだところでなにも変らなかった。
「だいじょうぶですかっ?」
 あられがおさまったころに佑香は座り込んだ人に声をかけた。
 その人は本が頭に当たったのか頭を押さえている 
 運良く、自分にはあまり本は落ちてこなかった。


「だ、だいじょうぶ…」
 裕樹は運悪く本のかどに当たってしまって、半泣きになっていた。
 誰かしらないがやさしく声をかけてくれている。
「とりあえず、本をなおさなきゃ」
「あっ、私も手伝いますっ」
 裕樹が手をのばした。

 そして、両方の手が同じ本をつかんだ。
 『人間の心理』という黄色い本だ。

 そこで初めてお互いの目があった。
 
 言葉では言い表しにくいけど
 
 『運命』を感じた。
2005-05-03 20:27:09公開 / 作者:五月
■この作品の著作権は五月さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
久しぶりです、五月です。
どうでしょうか? 少しは上達しているといいんですが。
またいろいろ感想をお願いします。
一応『運命の出会い』がテーマです。
この作品に対する感想 - 昇順
拝読しました。えーっと、これは続くのですか?それによって違うのですが。まあ、両方書こう。完結だとしたらひどく物足りなさを感じます。この出逢いから先の物語を描いてほしい、と裁判所に訴え出る可能性も……逆に続くのなら、一体どういう展開なのか期待します。正反対、ここでは極端な運の強弱を書かれていますが、心理学的にそれは心理の正反対とは言えないのでは、なんて思ってみたり。そもそも心理に反対もくそもない(失礼しました)。ところで「数学的な数学の本」とは一体どういう意味なんでしょうか。文章は読み易いのですが、場所や人物の描写が少ないので物語を思い描く事は出来ても場面を想像するに難しいです。足していく事で、もっと読者を惹き込めると思います。長長とつまらない事を偉そうに語りました、どうかお許し下さい。次回作若しくは続きも楽しみにしています。
2005-05-03 21:05:09【☆☆☆☆☆】京雅
正反対のもの同士の恋ですか。興味を引かれる題材ですね。SSなのでこれで終わりかな。冒頭の佑香は運がいいということのエピソードですが、これはありがちで読み手を引き込むには力不足だと思います。佑香のハワイ旅行と比較して、裕樹の運の悪さは大したことではないような気がしました。核となる部分が弱いと運命と言われても薄っぺらく感じてしまいます。あいや、辛口失礼。
2005-05-03 22:19:54【☆☆☆☆☆】clown-crown
作品拝読させていただきました。先に読まれたお二人がほとんど書いてくれていますのでなかなか書き辛いな。運・不運が一方的に続く設定は面白いのと同時に違うだろうとも感じていました。裕樹の不運はその日1日だけツイていなかったのか、それともいつもツイていないのか分からないと裕樹のラストの運命(幸せ?)の印象が大きく違ってくると思います。「禍福は糾える縄のごとし」の言葉もある通り最後に裕樹が幸せになったと思ってあげましょう。では、次回作品を期待しています。
2005-05-04 01:03:55【☆☆☆☆☆】甘木
初めまして、茂吉と申します。作品拝読させていただきました。設定、面白いなとも思いましたが、運、不運でキャラクターを設定してしまうのはいささか無理がありすぎるかも…と思ったりしました。というか、祐樹さんは不運しかないだったら生きてるのが可哀想すぎます(笑)次の展開があるとしたらそういった要素がどうなっていくのか楽しみですね。では、失礼します。
2005-05-27 10:43:57【☆☆☆☆☆】茂吉
計:0点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。