『耳から鰻  一〜四』作者:恋羽 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
全角26661文字
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原稿用紙約66.65枚



            一、耳から鰻 

 念願の一人暮らし。それが今、現実的に僕の目の前に横たわっている。
 いや、それはむしろあまりに現実的過ぎて、長年の想いもたった一週間で醒めてしまうほどに呆気無く俺の手の中にあった。

 見えているのは小さな台所に溜まりどこか芸術的な構図を形成している洗物と。
 荒んだ生活を送っていることを一目で理解させる散々に埋まった灰皿の吸殻と。
 次第にインスタント食品に移行していった食生活が垣間見える溜まったゴミと。
 それから僕が項垂れかかる壁の正面に掛けられた薄汚れて所々ひび割れた鏡と。
 そしてそこに映る疲れ果てて今にも死んでしまいそうな程やせ細った俺の虚像。
 
 ……現実はこんなものかもしれない。それが随分長いこと自分の生活を改善しようとしていた俺の導き出した、薄汚れた結論。しかしそれが結局、現実という奴なのだろう。俺はそう思うことに決めた。
 立ち上がるのも億劫で、俺は朝日も夕日も望めない隣の家と数十センチまで迫った窓の方を見つめる。家賃四万八千円だと、こんなところがせいぜいなのだ。そしてそれ以上は俺の収入ではまかなえなかったし、この年になって親を頼るのもまたどこか申し訳ないような気がした。
 薄暗く、湿っぽい春のこの街。その湿度は俺に、否、俺の部屋に致命的な打撃を与えている。……あちらこちらの壁に我が物顔で蔓延る、黴だ。黒黴と緑の黴と、そしてゴミ周辺では黄色の粘菌らしき生物も見え隠れしている。ここは生物実験室か、と見紛う程に我が城は微生物共の脅威におびやかされていた。
 しかし我が城以上に、俺自身ももっと強力な攻めを受けている。
 所謂兵糧攻めという奴だ。……これほど残忍な攻城法は他にあるだろうか。おかげで俺は逼迫した状況に追い込まれている。
 ……まあ自業自得、だ。今月のバイト代が入るまでの期間を考慮に入れず、好き放題金を使い、遊んだ。仕舞いには親から渡された「どうしても困った時開きなさい」封筒にまで手を掛けてしまったのだから、それは蔓延る黴や粘菌や、古代からその姿を変えない原始昆虫――時折姿を現すようになった――のせいでもない。それは結局俺の計画性の無さのせいだ。
 だが、それでも。このところは金が無いという理由もあるが、どこにも遊びには行かず、バイト代が入るのを今か今かと待っていた。そして今回のこの失敗の反省を生かし、もう二度と不真面目で自堕落な生活は送らない、と決心していたのだ。
 しかし、それがどうだろう。どうにも俺は要領が悪いらしい。それを痛感させられる。
「……二十三円……」
 俺は財布――モノグラムのデザインの、よく若者が持っている代物――の小銭の部分を覗いて、疲れた声を漏らしてしまった。……これほど悲哀感を漂わせる二十二歳が他にいるだろうか。いや、探せばいるのだろうが。
 二十三円で何が買えるんだ。
 二十三円でどうやってあと二日生き抜けと言うんだ。
 二十三円で今時まだ口座振込みじゃない給料を電車で三駅向こうのバイト先で受け取るにはどうしたらいい。
「二十三円で……」
 掠れた声が喉から零れているのに気付くと、俺は溜息でその言葉を紛らせた。
 水を飲んでいれば一ヶ月は生きられる。そう聞いて試してはみたものの、やはり仕事をするとなれば話は全く別なのだと悟った。まして肉体労働ならば尚の事。そういえばその話は船の上のことだったかもしれない。
 俺は、毎日をモヤシと鶏の胸肉で過ごした。米などという高尚な物は俺の身近には存在しない。存在してはいけないのだ。甘えてはいけない。味付けは塩のみ。これがなかなか美味く、体中が潤うような気がした。
 だがその至高の美味ですら、もう味わえなくなってしまったのだ。二十三円ではモヤシすら買えない。いや、安い店ならば買えるのだが、新聞の折り込み広告無しに近所のスーパーを渡り歩くだけの意欲も、最早俺の体から消え失せてしまっていた。近所、とはいうものの最寄のスーパーですら二十分以上かかるのだから。向かう間に倒れてしまうという結果を招く可能性は十分にあった。
 だが犯罪に手を染めるまでの度胸や無謀さも無い。それはこれまでの人生で培われてきた倫理観によるものかもしれない。
 しばらく思考を巡らし、その後再び溜息をつくと俺は壁に頭を付けたまま横に倒れこむ。無駄な体力を使うのは賢明ではない、そう判断したのだ。
 頭を安物のカーペット――ピンク色のリサイクル品――に付けると、もうどうでもいいような気がしてきてしまう。もしこのまま死んだとしてもきっと後悔などしないだろう、と考えてしまうほどに。

 その時だった。俺の体が確かに異常を伝え始めたのは。
 まず指先が、凍るように冷たく微かに震え始めたのだ。
 次には腕や、足先までもが震え始めて冷や汗が流れる。
 それから首、顔と来てその感覚は目的地に蠢き至った。
 ニュロン、と不気味な感覚が俺の耳の内で暴れ始める。
 起き上がっては暴れてみても、全ては耳の中のことだ。
 なんだどうした、と自分の耳に問い掛けても答えない。
 むずむずニュロン、な感覚が俺の耳朶に至って止まる。

 びちゃびちゃ、と水音。それと共に耳から床に何か重い物が落ちる音。
 右耳の中の粘液のような不気味な水に鳥肌を立たせながらも、俺は薄目を開けてそれを見た。
 それは……、鰻。中々立派な鰻が、カーペットの上でうねうねと動いている。黒い背と青いような白いような腹が印象的であった。
 俺は呆気に取られるばかりだ。
 なんで突然鰻が……。それも耳から、生きたままで。
 一体、何なのだ。どういった現象なのだ、これは。
 俺は、うねうね動き、戻るべき水辺を求めている鰻を見ながら、少しの間考え事をしていた。
 そもそも。人間の耳から鰻が出てくるものだろうか。もしそうだとしたなら一体何故に。
 鰻はカーペットの上に蛞蝓の様な粘液を残しながら地道に蠢いている。
 そんなことはありえない、そう結論付けようとして自分がまだ二十歳そこそこの世間知らずであることに思い至る。思えば先程まで空腹に喘いでいたのも、それが原因ではないか。
 そんな思考はお構い無しに、鰻は中古品なりに新しいカーペットに己の粘液染みた体を擦り付けている。
 ……少しは常識がある方だと思っていたが。これはもしかしたら自然現象なのか。本当は誰しもが経験することなのかもしれない。
 そう考えて、はっと気付く。
 もしかしたら、あんなに好き放題遊んでいるフリーター達が食べているのは、本当はこれなのではないか。それだから一ヶ月の収入を全て使い切ることが出来るのではないか。そう考えれば合点がいく。いや、それほど明瞭な論理ではないが、しかしそう考えられないことも無い。
 そうして、自分の今の現代社会では考えられないほどの空腹を思い出すと。
 俺は。

 その掴み所の無い鰻を生きたまま強引に台所へ連れて行き
 丁度実家から持ってきていたアイスピックを鰓の横辺りに
 一突き深々と突き刺し悶える鰻をひとしきり鑑賞してから
 腹を割き腸を取り出して軽く水洗いをしてまな板に置くと
 腹の方から皮一枚を残すようにして骨引きを少し雑に行う

 味付けは塩。塩焼きだ。今まで使ったことの無い魚焼きグリルに鰻を寝かせるとまるで火葬の時のように哀しさを感じつつもその蓋をそっと閉めた。
 その時からだ。俺が変わったのは。


 その日から俺は、他人を食い物にすることを何とも思わない人間になった。親兄弟に対してもすまないと思うことも無い。俺は自分が生きているだけで精一杯なのだ。親や兄弟はもちろんのこと、他人様に構っている余裕など自分には無いのだと気付いたということである。
 そしてそれが幸いしたのか、俺は今は管理が行き届いたスペースで暮らしている。あの荒んだ環境へ戻る気もさらさら無い。一日三度の飯と暖かな寝床。それが与えられている。……大した苦労もせずに手に入れたこの幸せに、俺は心から満足している。

 だが俺は毎日のように考えていた。
 あの鰻は一体なんだったのだろう。
 あの鰻を食った事に後悔は無いが。
 何故にか耳から現れた鰻は不味く。
 疲れ果てた味がした気がするのだ。

 しかし暗い鉄格子の中に密やかな喜びを感じている俺にとっては、今はどうでもいいことなのだけれど―――。





           
二、鰻と女

 木漏れ日。不可思議で一瞬ごとにその表情を変える影は、夏着に包まれた私の体に気まぐれな模様をつける。緑の芝生は上質の絨毯の様に私の眼前を染めていた。
 私は肩まで伸ばした栗色の髪を風に靡かせながら、ただ一人僅かに冷ややかな木陰に座り込んでいる。遠くには様々な遊具が見え、まだ幼いのだろう子供達が遊んでいた。その無邪気さを眺めていると、ずいぶん長い間忘れていた優しい感情に心が満たさせる。
 しかし私はそう長くその微笑ましい情景を眺めていることは出来なかった。
 それは、奥村という存在が私と子供達の間に滑り込むことによって。

 ぬめり。にたり。舐める様な視線に。
    ぐらり。がたり。心が悲鳴を上げる。
 ぬめり。ふらり。男の視線が舐める。
    ぐらり。きしり。壊れた音がした。

「よく来てくれたね」
 その笑みは私の露になっている腕に鳥肌を立たせるのには十分だった。
 ……奥村。
 この男の顔を見る度に、私は自分の体がいかに汚れているのかを思い知らされる。
「来てくれないかと思ったんだよ」
 ――そんな筈、無いじゃない。来ない訳、無い。
 昨日の仕事の後に携帯電話が珍しく公衆電話からの着信を告げた時、私は不審に思った。……気付いてはいた。彼と最初に話した時私の番号の書かれたメモを、いかにも大事そうに受け取ったことを覚えていたから。
 『この間の証拠を持ってるんだ。それと交換で、もう一度、君と』
 汗とは違う物でぬめぬめと濡れた肌の質感。不健康な浅黒い肌。私は思わず後ずさる。
 醜く痩せ細った体つき。骨張った鋭角の顔立ち。所々に残った無精髭が不潔感を助長している。
 そしてみすぼらしく萎れたシャツと皺だらけのスラックス。吐き潰した革靴が妙にてかてかと光っている。
 何より、その表情。人間味の欠片も無い、ぬめりとした生温い笑顔。気味が悪い……。
 私は両の二の腕あたりを少し強く握った。自分自身を抱きかかえる様に。そして寒さに凍える様に。少し遅れて、肩に掛けたポーチが脇腹を突く。
 その私を見て、奥村は笑う。
「相変わらず綺麗だ。君ほどの女はなかなかいないよ」
 四十を超えた奥村の目には、その年代特有のいやらしさが込められている。
 私はとにかく全身の震えを抑えつけようと、指先に力を加えた。肌からは暑さによるものではない汗が噴出し、頭はすでに平静さを失う寸前だった。
 その私の腕に。

 ぬめり。ぐちゃり。触れる男の指。
    ぐらり。くらぁり。薄れゆく意識。
 ぬめり。にちゃり。この男の指先。
    ぐらり。ふるふる。怯える私の心。

 気を失う寸前、辛うじて奥村の声を耳が拾い取った。
「早速、行こうか」
 私の腕を掴んだ奥村は、一体どこへ向かうのだろう。私にはわからない。
 否。分かっている。理解して、そしてこの公園に私は赴いたのだ。だが心は理解できていなかった。
 向かう場所は、あの日と同じ様に。何十年前に建てられたのかすら想像も付かない程に薄汚れ、そして鬱蒼と茂った林がその姿を重く包んだ暗い家。子供の時分であれば幽霊屋敷とでも呼んだであろうその建物。つまり、奥村の家。
 真新しい希望に満ちた住宅街を抜け、細い川に架かる橋を渡り、しばらく歩いたならその姿を見つけることが出来る。
 そう――、あの日私はあの家で。腐りかけた畳の上で。遥か遠くに都会の騒音を聞きながら。――粘着質な奥村のあの腕に抱かれた。……強引に。巻き付けるようにいやらしく触れる指先は粘り気を含む人とは異なる生物の様に、私という人間を悉く甚振り尽くした。
 昼の陽の下においてなお薄暗く、得体の知れない生き物達が蠢く雑木林。その雑草の群れを裂いて伸びる獣道の様に細い土の地面を辿り、奥村と私は再びあの日、異世界を織り成した古惚けた住居に行き着く。
 土に成りかけた木片が折り重なっただけの様な簡素な外壁は全てを苔と菌類に包まれ、かつて瓦だったのだろう屋根は散々に朽ち果てていた。誰がここに、人が棲んでいると思うのだろうか。
 私の腕を放すことも無く、奥村はその家へと私を連れ行こうとする。微かに覗いた奥村の顔には、人とは思えない顔立ちの上に異常な心理を浮かんでいた。
 中に入れば、そこはまるで土蔵の様に暗く、一切の光源は今入ってきた腐りかけの戸口だけ。この古代めいた住居には、家具の様な物が一切無く、湿り切った布団と、この場所には些か不釣合いなプラスティックの衣装ケースが置かれているだけ。……しかしそれを見ても私の心に彼に対する同情心などは湧いてはこなかった。
「……さあ」
 彼は私の体を布団の方に押しやり、慣れた手つきで蝋燭に火をともすと戸を閉めた。
「あの時の様に」
「……先に、証拠という物を」
 私は覚悟をしたように今日初めて奥村に言葉を投げた。
 ああ、と言いながら奥村はポケットからか小さな布地の物を取り出し、私の方に向ける。
 ……私の下着。あの日、逃げる様に飛び出した時に残していった物。
 ――こんな物が、何の証拠になるの。
 私の下着を、一体誰が私の物と判断できるのだ。そんな物、ありふれたデザインで少し探せばどこの街でも手に入る。そんな事で私をこうして、連れてきたのか。私はその子供の様な脅しに、笑うよりもこの男とそして自分の低脳さに腹が立った。
 それ以上に……。
「さあ」
 男は迫ってくる。楽しげに。

 ぬめり。ぬめぇり。舐める視線。
    ぐらり。…………。睨む眼差し。
 ぬめり。ぬめぇり。近づく足音。
    ぐらり。……。取り出す刃。

 ひっ、と短く上がった太い悲鳴。
 私の手に握られたサバイバルナイフ。
 
 ぬめり。ふるふる。震える男。
   ぐらり。にやぁり。笑った私。
 ぬめり。さらさら。流れる液。
   ぐらり。うふふふ。笑った私。
 ぬめり。ぬめり。

 首を一突きにして、倒れたところをまた刺す。流れる血液は止まる素振りを見せず、ただその勢いを増すばかり。暗がりで蝋燭の明かりに照らされるその黒く濁った液体を見つめていると、なんとも表現し難い感情が巻き起こった。
 思えば私は。何であの川縁に立って泣いていたのだろうか。何でこの男と言葉を交わしてしまったのだろう。何で彼の誘うままにこの家へ足を踏み入れたのだろう。そして、何で――。
 私の体はもうすでに奥村というこの男に支配されつくしていた。私はその恐怖に震えることしか出来ずに、ただ彼の常人とは異質な腕に抱かれる事を受け入れるしか無かった。
 それは私に大きな恐怖と、そして、……ほんの少し――否、強大な――。
 私が自分の理性と動物的本能との間で悩んでいた、その時だった。

 ぬめり。ぬめぇり。男の体を成していた物が。
 ぬめり。ぬめぇり。その細く長い体が伸びて。
 ぬめり。ぬめぇり。何本もの太い糸のように。
 ぬめり。ぬめぇり。蠢く鰻の塊となったのだ。

 やがてそれぞれが生命を持った鰻となり、地面にのたうちまわる。私は絶句した。
 なんと奇妙な光景だろう。何匹もの鰻が暗い家の中を這いずり回り、その鰻が部屋中に散るのだ。気味の悪い絡まりあった異常な状況は、私を困惑させ、意識を混濁させ、そして吐き気を催させる。
 やがてその数が段々と増す様な感じがし、しかし鰻――奥村の成れの果て――を踏み越えて入り口に向かう勇気など、私には無かった。例えそれが彼のほんの一握りだとしても、私にはぞんざいに扱う事は出来ない。

 膝の高さまで増えた鰻達。その感触に意識が遠のく。
 腰までも嵩を増した鰻達。私は強い圧迫感を覚える。
 胸にまで至った鰻の群れ。増幅した圧迫感にあえぐ。
 口、鼻を包む川魚の臭気。私は埋もれながらも考える。

 ――奥村は、鰻だったの。
 ――私は鰻を。
 ――愛してしまったの。
 
 私は朦朧とした意識の中で、奇妙なまでに充足した気分を味わっていた。
 それはきっと、究極の愛。そして最大の肉欲の調である。
 しかし私は肉体と精神それぞれの愛が物理的な死に瀕した時、ふと考える。
 究極の愛は死にも勝る存在であるのかと。
 ――私は一体、誰であったかと――。

 ぬめり。
 ぬめり。




          
    
            三、嘘は鰻の様に

 優美な印象を受ける街並――。車窓を流れていくそれは、深夜に差しかかった今どこか寂しげであったが、しかしそこから確かな鼓動が車を走らせる僕の所まで届いてきていた。
 ハンドルを握る手は汗ばみ、腰の辺りは同じ物で殆ど濡れてしまっている。
 ――この手に触れてみて。
 僕は少し落ち着こうとゆっくりと息を吐くと、彼女がそう言った時の情景を思い浮かべる。
 秋の肌寒い夜、白い壁が発光でもするようかのだった彼女の家。驚くほど綺麗に整理された彼女の部屋。
 それから。……私は思いを巡らす。
 真智。まるで白粉でものせたかのような、白い顔立ち。それが昔の真智に対しての僕の感想だった。
 だが彼女は今日あの部屋で語ったのだ。僕の中でかつて彼女に憧れていた感情は脆くも崩れ去った。それは突然の出来事でもあり、しかし必然と言っても支障無いことだったのだ。
 今日五十里真智と僕の間に訪れたこの複雑な何かは、何年も前に僕自身が抱いた淡い愛情の決して早くは無かった結末であり、そしてそれはおそらく後の僕の何物にも代え難い大切な財産なのだろう。
 思い出は美しいまま。だが爛れた僕の中の何かは腐れ、結局僕はその痛み切った体を引き摺る様にこの道を走るしかないのだ。……救いを求める彼女の為に。
 なあ、真智。君は本当に―――。




 風が様々な色を為し、秋の木枯らしとやらが冷たく吹きつけていた。
 車をとめ、街を歩いていた僕はその街並に酷く戸惑ってしまっている。
 何年も前に家庭の事情で出て行った街。その所々に自分の知らない建物や自分の知らない顔が溢れ、僕は何とも言い難い違和感と、時の流れの早さを痛いほどに感じていた。どこか昔ながらの空気を残していたあの街の影はどこにも見出せない。
 友達と通った学校への道や、学校。木造の校舎など見る影も無く、新設されたのであろう鉄筋コンクリートの学び舎は実に尊大に僕を見下ろしていた。
 あの頃のほぼ唯一の楽しみだった駄菓子屋での買い物も、今その跡に立っているマンションでは叶いそうに無い。駄菓子にむしゃぶりつく、薄汚れてはいるが性根の素直な子供達も見当たらなかった。
 見えるものは全て現実や時の流れに染められ、静かに一人思い出に浸る為にこの地を訪れた僕には残酷だった。
 閑散としてかつて賑わっていた頃の面影すら残さない商店街。シャッターが下りている店もあちらこちらに見られる。
 街を歩く人々の表情にも、現実的な痛みが薄らと見え、僕はやるせない気分になってしまった。思い出の中の街には意味も無く笑顔が溢れていて、たとえどんな窮状にも屈しないような芯の強さが感じられたのに。
 ――時代は、僕を置き去りにしていくのか。
 僕は浅はかな自分の現実逃避を、今更ながら笑い飛ばす。都会の生活に疲れたから、心地良い思い出に浸ろうなどと、本当にばからしい。誰がお前の心などを気にして昔のままでいるものか。
 時の移ろいに打ちのめされた僕はただしばらく立ち尽くし、しばらく考えてから歩き始める。
 目的地は……自分でもわからない。わからない、というのは。
 僕の足自体が自然そこに向かっていた、ということだ。かつて歩いた街並とはずいぶんと変わってしまったが、僕は昔と変わらない道路の様子から記憶の糸を無意識に手繰り、そして昔と全く同じ姿を残しているその家に辿り着いたのだ。
 その家は……、周りの街並が古い姿を必死で脱ぎ捨ててしまおうと苦闘している横で、それを嘲うようにただ同じ姿でたっていた。
 しかし、それはかつての街並に溢れていた古臭く黴臭い建物ではなく。そして今の街に立ち並ぶありふれた建物でもなく。西洋的で洗練されていながら古風であり、重厚感がありながら柔らかに自らのありのままの姿を残していた。
 その古めかしいが真新しい木造建築は、僕を見下ろしながら同時に天をも見つめている様に思えた……。
 その家の門柱に備えられた呼び鈴を人差し指で押すと、改めて僕は自分がどのような経路を辿ってここにいるのかを考えている。
 しかしその考えが結論を持つ前に。僕は自分の犯した失敗に気付かされてしまう。
 彼女がこの家にまだ住んでいるとは限らないではないか。
 だが、それはどうやら無駄な考えだったらしい。しばらくして門柱の奥から現れた顔と白いワンピースを見て、僕は溜息と安堵を吐息に混ぜた。そしてそれは彼女を呼ぶ声になる。
「真智」
 変わらない。かつて少女と呼ばれる年頃だった彼女の顔は大人の女になってはいたが、しかしその少女の頃の名残は確かに真智の顔の中に残されていて、それは今日僕がこの街に求めていた満たされない願望を埋めて余りあるものだった。なにより僕の無意識がこの家へ足を運ばせたのはそれが目的だったのかもしれない。
 新ちゃん、そう呼ぶ彼女の細く柔らかな声からは驚きのような表情は見出せず、まるで僕が――何年もの年月を経て大人と呼ばれる年齢に達した僕が――ここにいることが必然であるかのように、自然に僕をそう呼んでいた。その声も昔とは幾分変わって、生きる事の苦悩を含んでいるような気がしたが。
「どうしたの。入ってきて」
 彼女はそう言うと僕に背を向けて家の扉をくぐり中へと入っていった。
 しかし僕はその真智の表情に僅かな違和感を覚えたのだ。
 ――何故彼女は僕がこうしてここにいることを変に思わないのだ。
 普通ならば驚くなり、若しくは近況を聞きながら家の中に誘うのではないか。何故彼女は僕がここにいることに対して何の感情も抱かないかのように家へ誘い入れようとするのか。
 だが、かつて真智と共に過ごした日々を思うと、その違和感も大した事ではないのかもしれないと納得してしまう。……彼女は些か、特異な種類の人であったのだ。
 何も奇行を繰り返していた、などという意味ではない。彼女の名誉に誓って違う。
 そう、言うなれば彼女は落ち着き過ぎていた。それが彼女の特異さであり、そして僕が愛した女性の魅力的な一面である。更に言えば、彼女から離れる時に僕が真智に言った別れの言い訳……。
 僕は鉄製のこじんまりとした門を通って彼女の家に足を踏み入れた。
 

 それは不思議な感覚だった。
 目の前に広がる彼女の部屋。それはあの懐かしい日々のまま、そこにあった。それは少し異様な光景だった。
 だが。僕はその部屋をまじまじと眺める事は出来なかった。それ以上に、僕の方を真剣な眼差しで見つめる真智を無視する事は出来ないから。彼女はベッドに腰掛け、立ったままの僕を見上げている。
「久し、振りだね」
 僕の言葉に彼女は何の反応も示さない。ただ僕を見つめるばかりだ。
 その視線が僕にはどうにもかつて彼女の元を去っていった自分を責めている様にも思え、なんとも言えない不快感が心を満たしていた。
 僕は部屋の扉の前に座りこんだ。……真智との距離は三メートルというところか。だがそれ以上に心の壁が彼女と僕の間に立ちはだかり、近付く事は許されない様子だった。
「……何も言ってくれないのか」
 彼女は僕の問い掛けに答える気も無いらしく、ただ睨む様に見ている。
 僕は何も語り掛ける事は出来なかった。それはつまり、彼女と僕の間に重い沈黙が訪れることに直結する。女性らしいとはいえない、簡素で飾り気の無い部屋の中は二人の息遣いだけに支配されていた。
 そのまましばらく時間は流れていく。昼下がりの時間にこの家を訪れたのだから、おそらくはもう少しで日が暮れ始める頃だろう。
 もう、帰ろう。そう思い立ち、僕は今まで逸らしていた視線を彼女に合わせ、そのことを伝えようとした。
 が、僕は一瞬後、そんなことは全く忘れ去っていた。
「なんで、泣いてるんだ」
 僕が自分の中に数々溢れてきた言葉の中から選び出せたのはそれだけだった。
 真智は泣いている。部屋が暗くなったからだろうか、やや青味を帯びたような彼女の顔からはまるで生気が感じられず、彼女の目から零れる涙だけが彼女がそこにそうやって座っていて、そして間違いなく僕がここに存在している事を認識させてくれているような気がした。
 彼女の涙を見たのは……、あの別れの日以来だ。十年前になるだろうか。その時と全く同じ涙が彼女の目を潤し、清潔そうなシーツに滴り落ちている。だが彼女の表情は先程とほんの少しも変わることはなく、絶えず僕を見つめている。
 僕はようやく、彼女が少しおかしい事に気付き出した。再会の瞬間に感じた違和感が違和感以上のものになる変わり、僕の脳が彼女の存在を危険なものなのではないかという疑念を抱き始めたということだろう。
 落ち着いてなどいられない。僕は言い知れぬ恐怖が心の中に不思議に満ち始めている事に驚く間もなく、この部屋を後にしようとしていた。
 だが。
「ねえ、新ちゃん」
 そう語りかけた声を裏切れるわけは無かった。理由など無い。彼女の声に悪意のようなものがこもっているとは到底思えなかったのだ。彼女の声から恨みや怒りなどをほんの少しも感じ取れなかった僕は、彼女の続くのであろう言葉に耳を傾けてしまう。
「……なんで人って変わってしまうんだろうね」
 その言葉は寂しげであり、そして同時に僕ではなく自分自身に言い聞かせているようでもあった。だからというわけでもないが、僕は黙ってしまうより他ない。
「新ちゃん。私はね、新ちゃんのことが大好きだった。他の人が言っても嬉しくなかった誉め言葉でもね、新ちゃんに言ってもらうとすごく嬉しかった」
 僕の中に切なさが巻き起こった。嵐の様に心の中を吹き荒れ、僕は平静さを保つ事に必死にならざるを得ない。
「新ちゃんが私を嫌いになってもね、私は好きなままだった。だから新ちゃんを遠くから見ているだけでも十分だって自分に言い聞かせてたの。でもね」
 彼女は言葉を切ると、今まで僕からはよく見えなかった左の手首を僕の方に見せた。
 そこにあるのは。
「貴方がいなくなって、私はわからなくなったの。自分が何の為に生きてるのかも、なんで私がこんなに変わってるのかも。……昔、私の全部を好きでいてくれた新ちゃんのことも」
 彼女の手首に碁盤の目を描く様につけられた傷。肌の内側の桃色の肉が僕に無言で語りかけてくるような気がした。……それほどまでに。
 僕はただ、立ち上がって彼女を抱き締めたいほどの切なさに心を支配され、それに抗う理由も力も無かった。
 だが僕が彼女に触れようとすると、彼女は僕の目の前に手の平をかざし、拒んだ。
「駄目なの。新ちゃんは私に触る事なんて出来ないのよ」
 彼女はそう言って、僕が止まるのを見ると白い手を下ろした。
「なんで」
 僕の言葉と視線に彼女は少し目を逸らし、小さく吐息を漏らす。
 そして彼女は真摯な目を向ける。
「新ちゃん、お願いがあるの」
 なんだ、と僕が聞き返すと彼女は更に真剣な眼差しで僕を見つめた。
「松菜川という川が、夫董山に流れているの。その上流に行って、私を見つけて」
「……見つけるって。君はここにいるじゃないか」
 じゃあ、と言って彼女は辛そうな表情を浮かべながら右の手を僕の方に向けて突き出した。
「この手に触れてみて」
 僕は意味がわからなかったが、しかし彼女の言う通り、彼女の手に触れようと自分も手を出して……。




 僕の手が彼女の手に触れることは無かった。僕の手はまるで彼女の手が存在していないかの様にその手をすり抜け、そしてその先にある彼女の体に触れる事すら無かったのだ。
 僕は今もまだその時の嫌な感覚が頭から離れず、信じがたい真実を噛み下す事が出来ずにいる。
 だが。確かにその経験は僕の記憶に残されているし、寝惚けていたのでもないことは間違いない。
 現実がいかに不可思議であろうと、人間はそれを受け入れざるを得ないのかもしれないな、そう思いながら僕は車を降りてドアを閉めた。
 彼女に聞いた通り、確かに松菜川という川が夫董山にその源を発しているのは間違い無いようで、林道が始まる場所にたてられた大きな看板にもそれが記されている。そして僕はすぐに真夜中のハイキングを開始した。


 一歩踏み出す度、足元からは枯葉の砕け散る音がする。乾燥した枯葉は寂々とした夜の山道に響く。
 僕は革靴のまま山に足を踏み入れたことを少し後悔してはいたが、そんなこと以上に真智を見つけ出したい感情に突き動かされていた。汗が滴るのも気にせず、体力が消耗していくことも何とも思わず、ただ一足ずつ歩いていく。
 不気味な鳥の声がどこからか聞こえてきたが、気味が悪いというよりもむしろ応援されているような感覚になる。
 三日月程度の明るさに道は照らし出され、露わになった地面の色が何とも言えず僕を誘っている様に思えた。


 そうして歩き続け、僕が川音に出会ったのはもう東の空が僅かに紫に染まり出した頃だった。
 僕は流れた汗を拭う事も考えず、ただその音を探す。
 藍色の空間にそれより幾分明るい水面が姿を現した時、僕はもう殆ど走り出していた。何よりもまず水が飲みたかったのだ。
 余りにも澄んだその水面に両の手の平を差し入れ、そして掬い上げる。その何物にも勝る清水の輝きを、僕は感動する暇も無く飲み下す。


 林道の次は岩場を歩く。彼女を見つける為に。
「川に突き当たったら、また上流を目指して。しばらく行くと洞穴があるから……」
 真智の言葉を思い出しながら、ゴツゴツと大きな岩ばかりが並ぶ川原を歩いていく。
 僕は歩きながら思いを巡らせていた。
 ……彼女が言った「私を見つけて」という言葉は、一体どんな意味を持っていたのだろうか。
 あの家にいた彼女が彼女自身ではないとしたら、彼女は一体。
 真智。
 見えない。答えが。見えてくるのは、僕がかつて彼女の元を去ったことが、彼女に対して最悪の結末を齎したのではないか、ということだけ。
 真智。
 真智の幻影の家を後にして、近所の人間に聞いてみるとあの家は確かに空家なのだという。何故かといえば。
 ――娘が行方不明になったから。
 真智。
 ……本当なのか。触れられない君と話した事。近所の人間が話した事。それは本当なのか。
 だとしたら。……僕は一体どうしたらいいんだ。
 真智……。答えてくれ。


 朝焼けが空を異常に赤く染め上げ、それがどうにも血の色に見えて仕方ない。
 思考の末重くなった足を引き摺り歩く内、それは明らかに僕の目の中に飛び込んできた。
 あれが……。
 僕は居ても立ってもいられず、走り出す。真智から語られなかった結論が僕の考え通りである事を願って。
 その洞穴は小さな口を開いて待っていた。
 僕はその口を覗きこむ。が、中は思った以上に広く、そして暗く、とりあえず僕は中には言ってみるほか無かった。
 そして、それは余りにも容易く見つける事が出来たのだ……。
 暗い岩壁に凭れ掛かるようにして固まっているそれは、人の肌の様に見えたが余りに白く。
 土に汚れてはいるが何とも無機質な美しさを持って。
 暗い窪んだ空間に見えない瞳を持ってこちらを見つめていた。
 それを見た瞬間。僕はその表情などあるわけも無い白い物が。
 ……真智なのだと気付いてしまった。彼女の言葉も自分の考えも必要とせず、ただ一瞬で僕はその骸が真智なのだと気付いたのだ。
 
 
 それから、しばらくの間。僕は彼女に寄り添っていた。真智の横に座り語りかけ、一人笑ったり怒ったり。とにかく彼女と語り合っているつもりで話し続けた。
 それ以上、僕には何も出来なかったのだ。彼女を死に至らしめるほどに、淡く幼い愛情によって苦しめ、それからの彼女の事は何一つ知らない僕には、それぐらいのことしか出来なかった。
 そうして日が空の頂点に達するまで、僕は真智の横にいた。
 しかし少し疑問が起こる。
 ……なんで彼女の心と体が別々の場所に存在しているのか。
「……なんでだろう、なぁ、真智」
 僕が思わずそう口にした時。
 目を疑うほどの光が薄暗い洞穴の中で奇跡の様に起こったのだ。
 眩い光に目を閉じながら、僕はこの光が何かを知っている気がした。いや、僕の真横にある真智の残骸を見つけた時ほど早くはなかったが、その光が一体何であるかに気付いたのだ。
「真智」
 そう問いかけると、光が笑ったような気がした。
 瞼越しにも感じるほどの強い光が弱まった時、僕はその瞼を引き上げ、光の変化を見つめる。
 光が暗い閉塞的な空間で揺れ動き、最後に至った形態は。
 ――鰻。
 僕は変化した光が、黒く細く長い鰻になった時、少しの戸惑いと大きな納得で心が満たされる気がした。
 そう、彼女の心は鰻になったのだ。
 元々彼女が鰻であったわけではない。しかし彼女を僕が見つけたことによって、真智は鰻になったのだ。
 鯰でもなく、鱒でもなく。鰌でもなく、他の何でもない。彼女は鰻になったのだ。
 僕は彼女の体を掴みあげると、川まで歩いていって水の中にそっとつける。昼の光が鰻の体をキラキラと輝かせた。
 すると真智は、ゆるゆると体を揺らめかせ、そして川の流れに乗り下流を目指していく。
 僕はそれを見送り、何とも言えない情が心を締め上げるのを感じながら、しばらくの間動けなかった。





 近所の人の話を聞くと、彼女は学校でいじめを受けていたのだという。彼女は少しもそんなことは教えてはくれなかった。
 だから僕は思ったのだ。彼女は嘘をついたのだ、と。手首の傷も、僕と別れた後も僕が好きだったということも。ただ感傷に浸っているだけなのだと。それは久々に子供の時分を過ごした街に傷を癒しに来た僕と同じことなのだろう。霊となって、自分が暮らした部屋を――おそらく生きている僕には想像もつかない方法で――再現し、自分を思い出していたのだ。
 ただ彼女が何故嘘をついたのか、それを考えると少し不思議な感じがした。それは僕自身がかつての彼女の印象を引き摺っているからなのか。いや、違う。そう僕は考える。彼女はきっと嘘をつけなかったのだ。
 嘘をつけなかった彼女が、死んだ後僕に嘘をついた。だから彼女は鰻になったのだと思う。
 僕は帰りの車の中で黄昏の時間にさしかかった道を走りながら、考える。
 彼女は器用さが無かったのだ。人と人の間をすり抜ける器用さが。
 だから、彼女は鰻になった。
 人生に次があるのかは知らないが、もしあるとして。
 次回人に生まれてくる時、もっと器用に人の間をすり抜けていける様に――。
 

   



        番外「鰻雨」



「現実は残酷だよね」
 言葉を漏らして、彼女は虚ろな目を空に浮かぶ月に投げかけた。
 僕は何も言わずに、しかし同じように窓の外の月に目を向ける。
 赤い月は何も言わず、その姿を僕と彼女、美紗緒の前に晒していた。
 明かりを消したアパートの一室。窓際に置いたテーブルから見える深い青色に染まったアスファルトが、街灯の寒々しい冷たい光を照り返している。もしかしたらそれが美紗緒を、現実を嫌悪する方向に導いたのかもしれない。
 僕と向かい合って座る彼女は、夏の薄いシャツを開かれた窓から吹きこむ風にはためかせている。以前に「楽な格好が一番好き」なのだと言っていた通り、彼女の着ているシャツの下に下着の気配を感じ取る事は出来なかった。だからといってこれから二人に何が待っていると言うわけでもないのだけれど。……ただ僕は、彼女に異性として意識されていないのではないか、そう思ってしまう。
 彼女の言葉の意味はわからない。彼女の漏らす言葉の一つ一つには、僕のような人間には決して至る事の無い領域の深みがある。それがもう二ヶ月同じ部屋で暮らした僕にも解るようになった事実なのだ。だから僕は彼女の言葉を肯定も否定もせず、ただ彼女と同じように、同じ方向に浮かんでいる月を見つめる事しか出来はしない。
 現実は残酷。その意味は僕のような人間が思うそれと同じ意味なのだろうか。「働かなければ生きてはいけない」その重み。「死はいつか訪れる」そのもどかしさ。……そんな、全く平凡極まりないことを、彼女が言うだろうか。僕にはわからなかった。
「……こうしている時にも、沢山の人が死んでるのよ。私達がこうして月を見ている時に、同じ月の下で」
 彼女はしばらく経ってから言葉を続けた。
 やはり彼女が言っているのは普通の事らしい。いつものような僕には理解できない話ではなかった。それが僕には無性に嬉しかった。
「そうだね。今も地球のどこかで、人々は争っているのだし」
 僕は初めて発言することができた。心から胸を張りたいような、そんな気分に陥る。まるで彼女に自分の存在を認められたような気分に。
 しかし彼女は僕の言葉を全く無視し、再びやや雲の浮かんだ空に目を戻す。僕は居た堪れない気分に戻される。
 僕の声は、彼女に届いていたのだろうか。僕の喉は確かに空気をふるわせただろうか。それが心配になった。そんなことは心配する必要もないと言うのに。
「……現実の一番の残酷さって言うのは、何だと思う?」
 彼女は僕に目を向けた。ああ、と僕は心から安心してしまう。その時僕は初めて自分が生きているのだと感じる事が出来る。彼女の瞳に映る僕は、確かに生きて彼女を見つめていた。
「覆らないことじゃ、ないかな。死んだ人間は元には戻らないし、過去をもう一度やり直すことも出来ない。それは、考え様によってはすごく残酷な事だと思うんだ」
 彼女は僕の言葉を受け止めて、……またしばらく月を見つめた。赤い、暗い月に無言で何かを語り掛ける様に、彼女は僕ではなく月を見つめていた。
 そのままで、僕を見つめようとはせず、彼女は口を開く。
「確かにね、それも残酷な事。ゲームみたいに簡単にやり直せたらいいのに。でも……、ある意味ではそれが人生の楽しみでもあるわけよね」
 美紗緒はうなじを隠すほどまで伸びた黒髪を、やや冷たい風にふるわせ、その香りを僕に贈った。
「君は……? 君は何が残酷だと思う?」
 僕は質問する。僕みたいに普通でありがちな言葉じゃなく、彼女の不思議で理屈の通らない考えが聞きたかったのだ。
 彼女は、ふ、と小さく鼻で笑った。それは嫌味を含んだ物ではなく、むしろ優しさと悲しさを少しずつ含んだ物に感じられる。
「私が思うのは……、人の心のことだよ」
 その一言はまたすぐには理解できないような、難解な要素をはらんでいる様に僕には思えた。
「人の、心?」
「そう」
 彼女はそう答えて、潤んだ瞳に月を映した。「現実は人の体じゃなくて、心を壊してしまうような気がするの。心は何にでも惑わされるでしょう? お金や、肉欲や……。そんなものに惑わされて、それでも。そんなどこにでもある沼を避けながら私達は生きてる」
 彼女は少し涙を目に溜めながら、顔を僕の方に戻した。その時に涙が一滴、テーブルの上に零れてしまう。
 美紗緒はその滴の後を指でなぞり、何かを書こうとしてやめてしまう。何を書こうとしたのだろう、それが僕には疑問だった。
「そして生きて生きて、最期の時になったら。……一体何が待っているのかな? 悲しさに包まれて死んでいく時、私達を待っているもの。それは何なのかな? 誰も知らないのは解ってるの。でも、それを知らないのに皆生きてる。なんで?」
 美紗緒の言葉は少しずつ最初の残酷さから離れ出しているような気がしたけれど、僕はそれを口にはしなかった。
「……きっと、死ぬのが怖いからじゃないかな。生きる事に意味を探して苦悩して、それでも答えなんてわからないまま皆死んでいくんじゃないか?」
 僕がそう言うと、彼女は氷の入ったグラスを少し傾けて、酒を一口飲み込んだ。唇が少し湿り、それがどこか官能的な印象を抱かせる。
「そう、誰も知らないんだと思うよ。だから宗教は人の世がある限り消えないし、宗教同士の争いも人の世が続く限り終わりはしないんだと思うの。……だって皆自分の考えが本当に正しいと思ったなら、自分の神に命を捧げて楽園に行きたいと思うんじゃないかな。周りの人を自分の考えに賛同させようとするんじゃないかな」
 彼女の言葉がようやく帰着した。彼女が言いたかった事はこれなのか。僕は彼女の考えを理解できたことに少し喜びを覚える。
「確かに……、残酷だね」
 僕は彼女と感情を共有できた嬉しさを心に隠しながら、俯いた。「弱いからこそ、人間以外のもっと強い何かに縋ろうとするのが人間なのかもしれない。……もし神様や仏様がいるとしたら、そいつらはきっと残酷な奴なんだろうね。それを信じている人がいるなんて、なんだか下らないな」
 僕が解ったような顔で笑うと、美紗緒は冷たい表情を僕に向けた。
「……そういう事、あんまり言わない方がいいよ。軽々しく他人の信じている事を否定するのは、人間の悪い癖だと思う。例え誰も聞いていないとしても、何も知らない人がそんな事を言うのは違うと思う。犯罪だって人殺しだって、正しいなんて事はもちろん言っちゃいけないと思うけど、でも自分勝手に否定するのはおかしいよ」
 やや強い言葉に、僕は困ってしまう。しかし彼女の顔がそのままいつまでも冷たい表情であり続けることも無く、すぐに笑顔が戻ってきた。
「自分の考えがあるっていうのはいい事だと思うけど、それを吐き散らかすのはかっこ悪いと思うけどな。そんなのはテレビに出てくる偉そうなおじさんに任せておけばいいんだよ。ヒロはヒロの考えに従って生きればいいしね」
 美紗緒はそう言いながら、椅子から立ち上がる。「お風呂」と言った彼女の目は微笑に満ちていて、風呂から出てきた彼女との、これから起こるであろう展開を期待させるには十分だった。
 彼女は自分のグラスを流しに置きながら、ユーティリティ・スペース、浴室と続く扉をそっと開き、そして締めた。
 僕は汗を掻いたグラスの中の褐色の液体を喉に流しこみ、そしてまた月を見上げる。
 赤い月は空にいつの間にか広がった薄雲の向こう側から、そのほとんど光度を失った姿を朧げにスクリーンに映していた。
 思えば。……何故僕達はこうして語り合ったのだろう。それはほんの数十分だけの気紛れではあったけれど、しかし何故この日この時を僕達は語り合う事に使ったのだろう。彼女が現実について口にしてから、僕達は考える必要も無いような事を語り合った。その目的は一体なんだったんだろう。
 僕は自分がきっと酔った目をしているんだろうな、と自嘲するような笑みを浮かべつつ、明日の空の姿を密やかに推理する。
「明日はきっと……、鰻が降るでしょう」
 僕は独り、そんな言葉をこぼす。
 そんな訳は無いのだけれど。きっと明日は梅雨空の齎す嫌な天気なのだろうけれど。僕はそう言いたかったからそう言った。
 その言葉の意味を自分で考えながら。僕は美紗緒を待ちながらほんの少しの眠りに落ちた。
 眠りの果てに待っている物がなんであるかも知らず。
 眠りが僕に与える物の意味も知らず。
 僕は鰻が降る空を思い描いていた。




             
    四、川神



「お父ちゃん……」
 喘ぎ泣くつうの表情に男は苦悶した。いたいよう、と繰り返し続くつうの声は男の心を悪夢へと誘う。
 囲炉裏端。寒くない様にとその間近に布団を敷き、出来うる限りの栄養のある食べ物を与えていた。淡い雪が舞うこの村外れに住まう男にできる、せめてもの娘に巣食う病魔への抵抗である。
 だが彼女の顔から苦痛が消える事は無かった。
「お母ちゃん……」 
 娘は暗い萱葺きの天井を仰ぎながら、見えるはずの無い母の姿にそう言った。彼女に優しく柔らかな手の平で触れる母はもう、ずいぶん前に男やつうの前から消えていったというのに。黒煙となって風に紛れていったというのに。
 余りの痛みに虫の鳴くような声を出す事にすら疲れたのだろう、つうは眠りに落ちてしまった。
 ……嘉平はその痩せた小さな顔を撫でる。武骨なその手は百姓から農民と名を変えた後も、相変わらず泥土をこねくり回すことぐらいにしか使えず、まして目の前で病魔に苦しめられる愛娘を救うことなど叶う訳もない。
「……行くしかねぇ」
 嘉平はそう決意をしたように言葉を漏らしてから、薪を囲炉裏にくべた。自分が去った後にもこの隙間風が吹きこむ家の中で娘が凍えないようにと。
 そして嘉平は身支度を整えると、立て付けの悪い引き戸をいつものような力任せではなく、そろりと開け、そろりと閉めた。
 嘉平は雪が湿らせた道を歩き出す。ただただ、つうを救う為に。
 白い息がみすぼらしい嘉平の口から空に舞いあがる。だが彼はそんなものは見えはしないとでもいう様に歩く。
 ――神様仏様、どうか娘を救って下せぇ。
 その一念のみが彼の体を突き動かし、冬の風を打ち払った。何物にも代え難き、何物にも勝る宝を非情な病から守る為だけに、嘉平の体は存在しているかのようである。
 もはや彼に残された道は。抗う術を失った彼に残された道は、嘉平に思いつく限りでは一つしか見当たらない。つうの病を知った村の者達も揃ってそれを勧めた。
 それとは。
 太く、まるでうねる蛇の様なそれは、鬱蒼とした木々に抱かれながら、多くの恵みを民に与える。しかし時にそれは多くの人の命を奪うほどに膨れ上がり、何もかもを飲みこむ存在。
 ……川。宇土川と呼ばれるその川は一時としてその姿を留めず、いつも優しげな表情を人々に向け、恵みを与え給う。それが故に隠し持つ牙が如何ほど鋭いかを見失わせてしまう。
 だからこそ人々は、この太き川をまるで神の様に奉り、その心無きものに大いなる魂を感じようとするのだ。それが全くの徒労であろうとも。
 そして……。川が生まれる場所、山深き水源には名高い僧が建てたという祠が存在しているのだと言う。嘉平が道無き道を蔦や背の高い雑草達に阻まれながらも向かっているのは、そこだった。
 もうしばらく、嘉平は食事を摂ってはいない。彼は愛娘に対する危惧が為に食事など喉を通らないほどになってしまっていたのだ。
 否、少し違う。
 彼の体が食事を受け付けないのは。
 彼がこうして水神の祠へ向かっているのは。
 ……何もかも全ては嘉平自身の犯した罪によって、自身を苦しめているだけの事なのだ。

 ――水神様の祟りに違いねぇ、何かしたのかぇ、嘉平。

 ――水神様を疎かにすると、祟りがあるってぇのは知ってるだろぉが。

 つうの病を知って嘉平の家を訪れた村の衆は、口を揃えて嘉平を責めた。その真意など知れている。

 ――おめぇさんの娘がどうなろうが知りはしねぇが、水神様のお怒りは村の衆皆に降りかかるんだで。

 村長が言ったその言葉が思い起こされる。
 それこそが彼らが暗に言いたかった事なのだろう。しかし嘉平にしてみればそんなことはどうでもいい事だ。平時ならばそうも言えないが、今この時に彼に先々村が被るであろう害を考えろと言う方が無理な事である。
 だが。しかし村の衆の意見を聞いて嘉平は確信したのだ。
「水神様の、祟りか……」
 嘉平の口から漏れる言葉は、すぐに白い靄に変わり消えていった。
 米を作る。それこそが嘉平に与えられた使命なのだというのに。毎年の実りを齎す河に感謝せねばならないのに。
 何がいけなかったのだろう。
 ……嘉平にはわかりはしない。だからこそ、嘉平は歩く。
 それはただ、愛娘に対してのみ発揮される切なる情愛が嘉平にそうさせているのだ。
 美しいなどとは言えはしない。彼が負った罪によって、今つうは死の危機に瀕しているのだから。






 あの時は、そう、今日のこの森の中の様な雪ではなく凍りつくほどに冷たい氷雨が降り、湿った空気が周囲の全てを密やかな愚鈍に染めていた。
 肩を上下させ、嘉平は黒く日に焼けた顔を眩しい訳でもなく、しかしいつにも増して顰めていた。それは丁度森が夜の青に近付き始めた頃。
 嘉平は横たわる彼と同じような風体の、しかし随分彼よりも年を食った男を見下ろしていた。生成りの衣は夥しいまでに溢れた茜に染められている。否、染められているのはただ首筋からうなじ辺りだけで、他はほんの少し前にその男の体が流したのであろう多量の汗に濡れているだけだった。
 ――何故。
 嘉平はどこか虚ろな瞳をその動かなくなった男に向けている。その瞳からは全く慈悲深さなどは感じられない。そんな人間らしい心情など、その時の彼には浮かぶ訳も無かったのだ。
 ――何故。
 彼はただ答えの返らぬ問を繰り返すばかりで、それ以上の思考を抱くだけの力すら持ち合わせてはいない。眼前で少しずつ静物へと姿を変えつつある男の、その陥没した血の滲む頭部を見るだけで、彼の心からはもう何かしようという意欲が掻き消えていくのが彼自身にもわかった。
 ここでこうして男を見つめている事自体が、もう彼方の世界の事の様に感じられ、悪夢よりも苦く、正夢よりも現実的な影が嘉平の心の端で巻き起こっているだけである。
 ……嘉平と男の亡骸の傍らを、ただ滔々と川が流れていた……。
 その淀み無き清き流れが、素朴を絵に描いたような嘉平を変えてしまったのかもしれない。否、彼の内に長い間溜めに溜められてきた善意の澱のような物は、その毒気によって嘉平を犯し、人の心を持つ者には決して思い浮かばぬ行動に彼を駆り立てたのだろう。


 足を踏み出す度、露わになった脛を地を這う草が刃物の様に切り付けていた。そこから淡く流れ出す血液は気味が悪いほどにゆっくりと彼の足を染めていく。
 だが嘉平が自らの足に目を遣ることは無かった。そこから流れる紅を直視するだけの気力も無く、嘉平はそのこそばゆくひりつく感覚を受容することしかできはしない。
 いつの間にか速くなり始めた嘉平の足取りは決して軽快という訳ではないが、しかしその一足一足には確かな意志が込められていた。
 ……逃げる理由など、どこにも無かった。何から逃げる必要があるのだ。この獣のみが行き交う森で。
 あるいは彼の中に眠る何か知覚を超越した何かが、未来を朧気に察知していたのかもしれない。
 目に見えぬ、耳に聞こえぬ、しかし確かにそこにいる何かを密かに畏怖していたのかもしれない。
 何をしたというのだ。
 嘉平は独り、不気味な藍に染まった森の中を逃げていた。





 虚ろに変わりつつある記憶の旅路を辿り、しかしその中の自分以上に道を急いでいた。
 目に映る木の幹はざらざらと、触れただけで傷を負うほどに刺々しく見える。彼自身の内なる恐怖心がそうさせるのかもしれないし、彼との対面を拒む水神が何かの力によってそうさせているのかもしれない。ただその木肌は余りにも、……嘉平自身に似ていた。
 ――水神様よ、それほどまでにこの俺が嫌いですかぇ。
 無言の嘉平は、随分高く上がった筈の太陽すらも隠す一塊の雲を睨みながら、ただ吐き出す息に苛立ちを織り交ぜるばかりだった。
 森の木々を枯らし尽くした寒風は、嘉平からも纏った衣を奪い取ろうと激しく吹きつけている。その風にどこか憎しみのような物が含まれているのが確かに感じられ、それが嘉平の心を著しく萎えさせた。恰も永久に続くかの様な道を歩む嘉平には、実に耐え難い事である。
 その時折雪を孕みながら舞う風が唐突に止んだ時、嘉平はその存在を瞬時に悟らざるを得なかった。
 ……祠。
 凍える森には相応しくない小綺麗な、真新しい木造の祠。地蔵尊でも祭り上げるのが適当な、嘉平の胸程度までの高さのそれは、しかしそれでありながらも、決して目に見えぬ威圧感を確かに発しながら森の枯れ木の間に鎮座していた。
 漸く見つけた祠。話に聞いていた通り確かにその脇に小さな泉があり、そこから宇土川が始まっている。全ての恵みの源であり、全ての災いの元凶でもある川が。
 それを見た時、嘉平はつうの病が治った幻視を味わっていた。……春の麗らかな日差しの中で、嬉々として蝶と戯れるつうの無垢な笑顔が、彼の心をすでに埋め尽くしてしまっている。
 その逃避の世界から彼を悲痛な世へと引き戻したのは、風の中に混じる……、経の声。
 不気味な、抑揚の無い、人の発する物とは思えない無表情な囁きが、嘉平の耳に届いてくる。たったそれだけのことでも彼を先程までよりも更に重い現実を思い返させて余りあった。
 経の声が近付いてくる。声と共に、枯れ果てた草を踏みしめて進み足音が聞こえてきた。
 その方角に目を向けると。そこにいたのは。
 修験者の出で立ち。不精に伸びた髭と髪は黒く、太い眉の下の瞳が嘉平を睨みつけている。三十路を過ぎた僧が、手に数珠を持ってこちらに近付いてきた。
 嘉平はその異様な出会いに些か混乱し、しかし水神の怒りを解くのには丁度いい事かもしれない、と彼自身も僧侶に歩み寄る。
「坊様、どこへお行きになられる」
 このところ誰にも見せなかった笑顔を向けて、嘉平は声をかける。
 その声に、僧侶の読経が止まった。だがその眼光は少しも緩みはしない。
「……お主……、お主かぁ」
 突然叫ぶように声をあげ、僧は物の怪でも見る目で嘉平を睨む。
「お主がぁ、宇土川を散々に荒らした男じゃなぁ」
 その声は上擦っていて、寧ろその僧形の男こそが魔性にも思える。
 しかし、男の声がどれだけ嘉平を縮み上がらせたかは言うまでもなかった。ひぃ、と小さな悲鳴を上げながら、嘉平は一歩後ずさる。しかし凍ってはいない土は柔らかく、そこに足をとられて倒れてしまう。
 その姿を見て……、僧侶は笑った。高笑いは雪の降る森に響き渡る。
「どうやらぁ……、当たりかのぅ」
 落ち着いたその低い声は、倒れてなお震えの止まらない嘉平には酷であった。



「嘉平ぇでねぇか」
 赤土の道をとぼとぼと歩く嘉平を、家の前で薪を割っていた男が呼び止める。
「どうしただぁ、どこさ行ってただ」
 だが嘉平は答えようとはしない。ただ手に風呂桶位の桶を持ち、視点の定まらないまま目の前に伸びる道を辿るのみである。
 男が近寄り覗き見ると、桶の中には……、鰻。
 そして彼は一人呟き続けていた。
「……こいつを食わせぇ……こいつを食わせぇ……」
 男はただその異様さに、彼を見送るだけであった。



 家に帰り着くと、嘉平は呆としながらも、鰻を鉈でぶつ切りにして鉄鍋に投げ入れた。それをつうが悶え眠る囲炉裏の火に掛ける。
「……こいつを食わせぇ……こいつを食わせぇ……」
 彼の視線は中空を舞っている。
 森で出会った僧の言葉が、すでに彼の精神を壊してしまっていた。
「……こいつを食わせぇ……こいつを食わせぇ……」
 ただ繰り返す、その言葉。それは亡者の呟きの様に弱々しく、そして不気味な響きを持って狭い家を支配している。
 その声はつうの痛みに混じる寝息を切り裂き、しかしそれと一切交わろうとはせずに、凍える部屋中を飲み込んでいた。
 鍋の煮えたぎる音。
 異常なほど荒い娘の吐息。
 色の黒い男の独白。
 それらが為に、家中が不気味に揺す振られる。
 嘉平は無表情のまま、眠る娘の口元に煮えた鰻を運ぶ。
 熱湯と共に匙の上に乗った鰻は奇妙に白く、その白さはつうの青白い肌と重なり合い、……娘の口にあと何寸かのところで嘉平の手を止めてしまうだけの威力を持っていた。
 彼はは、と息を呑み、つうの顔を見つめて自分が今一体何をしようとしていたのか、その不可思議な行動に思わず驚いてしまう。眠る娘の口に煮えた鰻を押し込もうとしていたのか、と。
 何故だ、そう嘉平は考え、森の中で出会ったあの僧侶を思い出す。その時に感じた恐怖も。
 彼は手に持った匙の上の鰻を口に入れて飲むと、肌が粟立つのを感じながらもすぐに家を飛び出した。
 

 
 辿り着いたのは貧相な村では最も大きいその屋敷。村の長の屋敷である。
 その戸口を無作法にも叩きつけ、そして戸を勝手に開けた。そこには嘉平の家とは比べ物にならない広さと暖かさの板の間があり、そこに据え付けられた囲炉裏の端で寝転がる村長が見える。
「なんじゃ嘉平、何の用じゃぁ」
 上体を起しながら驚いた様子で嘉平を見つめる村長の目には、不思議な狼狽が浮かんでいた。
「……鰻が」
「鰻……。鰻がどうした」
 嘉平の言葉はそこで切れてしまう。……何から話していいのやら。彼は首を傾げた。
 しかし、もうこれ以上嘉平には自らの内にこの一連の出来事を留めておくだけの忍耐など備わっていなかった。
 結局彼は事実を語ろうと心に決める。それは単にこの悪夢のような日々からの脱出を狙う目的によるのではなく、寧ろ嘉平に宿る親としての使命感がそうさせていたのだ。
「おらぁ、水神様を怒らしちまっただ」
 その一言に村長はまたも驚き、そして考えられないほどに冷や汗を流し始める。……その態度はどうにも嘉平が想像していたものとは異なり、何とも言えぬ違和感を感じざるを得ない。
「……お前はほんに嘉平かぇ」
 そんな言葉が長の口を突いて出る。へぇ、と聞き返す嘉平の顔には困惑が明らかに浮かんだ。
「まさか、お前」
 皺だらけの老人の顔が蒼白と化す。そしてあの森の中で嘉平が僧侶に対した時の様に、後ろ手を付いてわなわなと震えるばかりである。
 その様子を見ても、嘉平には何が何やら訳もわからず、ただその様子を不思議そうに見つめていた。
 嘉平が老体を気遣い、その体を寝かせてやろうと近付いて行くと。
「……来るな、来るでねぇ」
 激しい声を発し、彼を押し返そうとする。その老人とは思えぬ力強さに、嘉平は驚かされた。
 そうして長に近付けないまま、彼のこの行動に首を傾げていると、ただ一刹那。
 ……嘉平はあの経を、その耳に捉えたのだ。 
 遠く、遥か遠く。微かに、しかし確かに。
 その経を聞いた、ただそれだけで森での恐怖が彼の体中に巻き起こった。
 その声は……、嘉平の中から響いている。
 嘉平はそのことに恐怖と不快感が入り混じった感覚を得たが、彼の目の前にいる老人は彼とは全く違う反応を示す。
 嘉平を指し、
「誰じゃ、誰じゃ」
と喚く姿は、まるで読経に追い遣られる悪鬼の様であり、嘉平の中にある違和感を大きくより不気味なものに変えた。
 そうだ。
 この老人は、誰なのか。
 何故彼はこうまで怯えているのか。
 強く、疾く。経は流れる。
 それは。

 ……川の流れの如く。

 その読経が明らかに嘉平の喉を揺らし始めた。彼はまるで耳元で暴れる蟲を飲み込んだような錯覚を覚える。
 それがどれだけ続いた時であろう。
 老人が白目を剥き、口からは泡を吹き、それと共に経の声は掻き消え、……嘉平が残された。
 今目の前で繰り広げられた出来事の意味は全くわからず、しかし彼にいくつか理解できたこともある。そのいくつかの理解が、心地の悪い味を嘉平の心に残していった。
 ……川は流れるだろう。
 そして、恐らく。
 あの川は、……鰻なのだ。





 あの日の出来事を愛娘と語ることができるのも、全ては嘉平がその心を清く強く持ったからであろう。
「お父ちゃん、なんで村長さんは死んだの」
 無邪気な顔でそう聞くつうの顔には血の気があり、愛らしいその頬は頬紅でも塗ったようである。
 嘉平はその問に困惑しながらも、自分なりに考え上げた答えを持っていた。
 しかしそれは余りに馬鹿げていて、その上滑稽で、そして何よりも彼自身すらも騙せぬほどに説得力に欠けていた為、彼は敢えてそれを口にはしなかった。
「わがらねぇな」
 嘉平は前歯の欠けた不細工な、しかしそれ故に愛嬌のある笑顔を娘に向ける。娘もまた、彼に笑みを見せた。
「なぁ、つうよぅ」
 うん、と聞き返す娘に今度は申し訳なさそうな顔を向ける。
「母さんがいねぇで、ほんにすまねぇなぁ」
 心から、彼はそう零した。
 つうは、幼い娘は、父に気を使うでも無くうん、と頷いた。
 


 ぇえーぇぇ、やぁさぁぁ、あぁよぉー……。
 
 冬が通り過ぎた、春の暖かい日。嘉平は歌を歌いながら鍬を振るう。土からは蚯蚓だの、げじげじだのがのたのたと眠りから目覚めて這い出てくる。
 蓄えの余り無かった父子二人は、それでもどうにか長い冬を越えていた。
 家の事を可愛い娘に任せきりにして、しかしその分嘉平は今まで以上に仕事に精を出している。
 この分ならば、またこの年の冬も乗り切ることができるであろう。そして先々、つうが嫁いでいったならばもう、彼には思い残すことも無い。
 
 やぁぁああぁさぁぁよ、はぁぁなぁぁ……。

 歌を口ずさみながら、鍬を硬くなった土に振り下ろす。何度も何度も振るう内、そこから随分と長い蚯蚓が姿を現した。
 それを見て、嘉平の手が止まる。
 長細いものを見て、冬の日の鰻を思い出したのだ。 
 今更ながら、彼は思い返す。
 ……あの僧侶は、川の神が姿を変えたものなのではないかと。
 そうして、川の水を汚した嘉平を殺そうとしたのではないかと。

 ぇえーぇぇ、やぁさぁぁ、あぁよぉー……。

 だが。川の神には本当に憎むべき人間が誰なのかわかったのではないか。彼が自らまやかしを打ち破り、彼の娘を守ったのを見ただろう。そして深くわかったのだろう。
 ……嘉平がどのような思いで村の教えに背き、顔を見知った血を流して倒れ息絶えていた川の船頭を、水葬したのかが。
 あの船頭は、村長と同じ歳の頃に見えた。もしかしたら彼等の間に何かの諍いが起こったのかもしれない。それは時を遡らぬ限り彼には窺い知れぬことである。
 とにかく。今も嘉平は生きていられるのだし、もしかしたならあの日嘉平が熱いまま食べ、後に冷ましてつうに与えた鰻は水神の力の一部だったのかとも思える。

 やぁぁああぁさぁぁよ、はぁぁなぁぁ……、っとぉ。

 しかし嘉平には真を知る由も無く、また知る気もさらさら無かった。何故今の貧しいながらも幸せな生活に、そんな不可思議で無為な答えがあるとも思えない考えを押しはさむ必要があるというのだ。
 彼は汗を手拭いでぬぐいながら、握り飯でも食おうと畦道へ歩いていく。
 空は抜けたように青く、きっと今日も宇土川は澄んでいるのだろうと嘉平は静かに思い描いていた。
 その川を汚す者は、もうこれからもいない。






                         完

2005-06-09 14:41:47公開 / 作者:恋羽
■この作品の著作権は恋羽さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 うーん。本当に。本州の梅雨っていつの話なんだろう。教えて欲しいです。いつまで続くものなんですがねぇ? 来月頭にまた本州の方に行くことになっちゃうと思うんですが。……溜息です。
 さて。作品の方です。この作品にばかり気合を入れてました。色々と変なところも在ると思いますが、しかし気合だけは入っているな、とわかっていただければうれしいなぁ、と思っております。今回のは割と自信があったりしてしまっているので、出来る事なら辛口を頂きたいです。恋羽のプライドを踏み潰してしまってください。
 それではもしお読みいただけましたなら、ご感想などお聞かせ願えたらと切に願っております。

 ……ってか、川の神ってことは民族的な宗教なんだから、坊さんの格好してるのはまずいかな(汗 でもそれなら何の格好を……?
この作品に対する感想 - 昇順
どうも、拝読しました。えっと、一先ず感想を書き入れる事に躊躇しています。自らの読解力が劣っているせいで、受け取り間違えているのではないかと。とりあえず勘違いしたままで進めます。最初、冒頭から鰻が耳から出てくるまでの文章と、「その日から〜」の意味が巧く繋がっていない気がして、戸惑っていたのですが、締めの言葉から読み取るに「食い物にすることを〜」ってのは、ほんとに物理的な意味で食っちまったって事でしょうか(違っていたらすみません)。だとしたらすっかり騙された、面白い、と頷けます。何故「鰻」なのかは未だに解らないのですが。「一、完」となっていますが、続くのでしょうか。感じたままに書いたのでこの感想は一から十まで間違っているかも知れないのですが、とりあえず個人的には堪能しました(いいのかなあそれで……)。自信があるというのも納得です。では、次回作も恋羽様節が効いたものを期待しています。ところで、「強力なな攻めを受けている。」は誤字でしょうか、それとも「な攻め」という言葉があるのでしょうか、未熟者で疎い私には読めなかったので。では。
2005-05-02 20:07:33【★★★★☆】京雅
京雅さん。読んでいただいてありがとうございます。いやはや、そう読むか、と驚いてしまいました(苦笑 それも全部僕の説明力の無さが悪いんです(こいつめ、こいつめ! さて。冒頭の部分と鰻が出てきてからの部分の論旨が違うのは、彼が鰻を食べたからです。というより、むしろその鰻が一体何であったのかを考えてほしくて、あえて結論付けない結末を用意したんです。あまり言うと自分の愚かしさが露呈してしまう可能性が高いのであまり言えませんが、僕なりには「羅生門」なんぞの結論と同じものを書いたつもりでした。というか、わかるはずないよな(汗 ちなみに食い物にする、はまあ俗的な言い方の通りの意味を含めたのですが、それはそれであり、読者様の読み方に委ねた部分が多かったので解釈の仕方はいずれでも問題ありませんよ(作者が無責任なもので)。誤字の報告、ありがとうございました。あとメッセージに今回の投稿の方法を書いておきました。すみません、分かり難くて(汗 ありがとうございました。
2005-05-02 20:39:45【☆☆☆☆☆】恋羽
いつもお世話になっておりまする。さて作品拝読しましたが、イイ! アタシはこういう書きっぷりは好きですな。特に鰻の解体の部分の描写が淡々としていながらも(おそらく)敢えて詩的に表現されているのに目がいきましたねえ。さてさて鰻は何のメタファーか。自分がシンドくて苦しくて世の中がいやでいやでしょうがなくて、自暴自棄に陥りそうになる時、耳からにょろりとやつが出てきたら、仰天するより「ああ出てきちゃったか」って落胆するかもなあ。そんなわけで、これは万人の回答があるでしょうが、あたしにとっては根性だとか自尊心だとかの象徴なのだと。
後は、寓話に近しいものがあるから、もっと徹底的に寓話でもよかったかなという気がしますねえ。鰻は一匹でおしまいじゃなくて、親兄弟を裏切ったらその都度鰻が出てくるとか。土用の丑の日にやたらと裏切るとか。ああ、そうするとコメディか。それでは失礼致します。
2005-05-02 20:50:12【★★★★☆】タカハシジュン
拝読いたしました。ああ、うなぎ。個人的に有栖川はうなぎが大嫌い(すみません)なので、耳から出てくるなんて想像するだけでもぞーっときました。というか耳から鰻、という設定を思いつくその想像力に拍手です。深読みすればいくらでも深読みが可能なお話でしたが、わたしの理解は合っているのかいないのかちょっと不安^^;主人公が葛藤のすえ食べた『うなぎ』、そのまんま『うなぎ』だけの意味じゃないですよね……?最後の一文はそのまま刑務所、と思っていいのでしょうか。あぁ読解力なくなってるわとため息しつつ、なんだか高校くらいの国語の教科書に載ってそうなお話でしたね。山椒魚とか開高健『任意の一滴』とか、こういう不可思議な物語を読んだ記憶があります。あれこれ考えながらひとりで読むには面白いと思いました。次回も頑張ってください!
2005-05-02 21:07:52【☆☆☆☆☆】有栖川
あ、ホラーになってる(苦笑 間違った……。SSです。すみません。タカハシジュンさん、お読みいただきありがとうございます。詩的な表現というより、全部の文章の長さを同じにしようとしてたのです。結果的に妙にずれてまして、失敗に終わりました。そうですか、こういった作品がお好みなのですね。土用の丑の日にやたらと裏切る、それいいなと笑ってしまいました。読み方も大体当たりでして、よくもこんな作品から拾い上げることができるなぁ、と感嘆いたしました。妙に難解な作品、お読みいただきありがとうございました。それでは。
2005-05-02 21:12:52【☆☆☆☆☆】恋羽
うなぎのながさは? とんちクイズを思い出しました。ホラーですか? 怖さより面白さを感じましたけど。私は極論理的な人間なんで、脳みそをイメージして読んでました。広げていけば長細くなるんじゃないかな。いや、あれはしわが刻まれているだけだから長細くはならないか。今度試してみよう。私には前作よりこちらのほうがココハさんらしいと思っとります。
2005-05-02 21:13:05【★★★★☆】clown-crown
ああ、すれ違ってる、だめだなぁ、この馬鹿作者(苛苛 
有栖川さん。僕も食べる方も見る方も鰻は好きじゃありません(汗 長細いしぬめぬめしてるし。仕事してると、特に単純作業の類は色々考えてしまうんですね。それでこんな妙な考えに至った次第であります。刑務所ですね。その通りです。こういうオチが好きなもので。高校の教科書には載りたくないなぁ、と偉そうなことを言ってみたりしました。ちなみにそこに書かれた作品は読んだことがありません。好きそうな題なのに読んでみようかな、と思っております。ありがとうございました。
 clown-crownさん。ホラーじゃないんです。間違ってホラーにしてしまいました。そんな意図は含んでいないのに……(あほだ、俺はあほだ 脳みそですか、そんな風になっちゃうかなぁ、とどこか納得してしまったり。試したら結果教えてくださいね(笑 この作品好きですよ、やっぱり。ありがとうございました。
2005-05-02 21:29:48【☆☆☆☆☆】恋羽
ダークな話しですね。ラストの一行が何かの比喩に思えて、そのまま受け取ることができませんでした(読解力なくてすいません 耳から現われた鰻を食して変わる。そこから一気にラストへ持っていかれているのが味だなぁと。いろいろと読者に考えさせる感じで。京雅様と同じようなことを思ったりもしましたが、その恋羽様の返答を見て納得しましたので控えます。面白い作品でしたぁ!
2005-05-02 23:04:39【★★★★☆】影舞踊
なんかもう今日は徹夜で明日の仕事に行こう、と無駄に決心している恋羽です(苦笑 影舞踊さん、お読みいただいてありがとうございます。……なんか余り言いたくはないのですが、以前に目を通した作品の中に「勝手に考えろ」的な作品があり、それに対して少し反感を抱いたのもあって今回の作品(というか投稿分)となりました。考えさせる、というのならこのぐらい方向付けしたほうがきっと読者の方も読みやすいだろう、というのも狙いではあり。ラストの一文、二つの意味を含んだつもりでした、というよりも最後の文章だけリアリティが無い印象を受けるように書いた部分もあって、比喩と描写の両面に使ったのです。以前に失敗した「一つの言葉に複数個の意味を与える」狙いもどうやら成功のようですね。ありがとうございました。というか、今回はずいぶん調子がよかったなぁ(笑
2005-05-03 00:47:42【☆☆☆☆☆】恋羽
拝読致しました。なるほど、鰻を絡めた掌編集ですか。いいですね。一作目は何か漠然としたものだけが残ったように思います。個人的な見解としては今後の作品で生きてくる今作なのではないかと。他の掌編と関連するものが鰻だけだと少し弱いと思いますが、それはこの先を読んでからにしようかと思います。
2005-05-03 01:44:31【☆☆☆☆☆】昼夜
ムムム、拝見致しました。今回の作品は前回と打って変わって、難しい。私は二十日前に一人暮らしを始めたばかりなので、多少主人公に共感を覚えました。耳から鰻……鰻は大好物です。鰻は主人公が壁に頭をつけて倒れている間に耳に入ったのでしょうか? うーん、全然わからないよ。鰻は何を意味しているのだろう。鰻=何かの感情。なのかな。その感情を食べて、感情が消えたから、性格が変わった? 相手を思いやる気持ちかな、とにかく自分以外はどうでもいいと、それがなきゃ思うようになってしまうモノが鰻だったのかなぁ。 でもなぜ鰻? うーん、鰻について詳しい訳じゃないからさっぱりわからないや。鰻はにゅるにゅるねばっこくて気持ち悪いからかなぁー。最後の文もまた難しいですね。なぜ鉄格子に……、やっぱり相手を思いやる気持ちがないから、悪さして、捕まったってことなんですかね。牢屋のほうが、自宅より居心地がいいとは。一人で生きていくよりも、誰かに依存して生きていた方が楽だよ。ってことでしょうか。あー難しくて考えるの楽しいや。恋羽さんからのレスを楽しみに待つとします。以上猫舌ソーセージでした。
2005-05-03 10:30:57【★★★★☆】猫舌ソーセージ
どうも、またもや来ました勿桍筑ィ です。
わたくし勿桍筑ィ は、読解力というものがなく(今鍛えてますが……)、このままではまだ分からないのですが、深いなっということを感じました。うん……はい。
鰻……食べたい。蒲焼きですか?それと……そのまま!? 
鰻を絡めた次作待ってます。そのときまで、読解力を鍛えておきます。(間に合うかなぁ?; では、失礼します。 
2005-05-03 14:00:22【☆☆☆☆☆】勿桍筑ィ
 ああ、体だりぃ(溜息 昼までの仕事がしんどい。今日は三時間しか寝てないからとくにしんどかった。などという個人的なことは置いといて、と。
 昼夜さん。漠然としたもの。なるほど、そう言われてみれば確かに。作者としての意図が余りにも入り組んでいたものですから、そう思われるのも頷けました。なるほど、弱いかぁ、と少し首を傾げたりして(苦笑 鰻ってだけで僕は気持ち悪さ最高潮なんですが。でも『耳から鰻』はあくまで表題で次回はこのネタを使えないのを考えると、確かに弱いかもしれませんね。貴重なご意見ありがとうございました。
 猫舌ソーセージさん。難しかったでしょうか。むしろ作者としては前回の作品の方が難しかったのですが。猫舌ソーセージさんの考えを書かれているので作者の意図したことを押し付けるようなことはしたくないのですが、僕の中ではとりあえず鰻=倫理観、だった、と言ってもわかり難いかなぁ(苦笑 彼が生活していた荒んだ状況と逼迫した状況とにおいて、倫理観ほど無用な物は無かったのではないかな、と。鰻、生きたままの状態だと(僕は蒲焼にしても)気持ち悪いものですね。それを食する、という段階まで至らせるにはそれなりに時間、手間等々が必要で。行動に移した主人公の心の中で何かがふっ切れたのだ、と自分なりには考えています。ちなみに何故鰻か、は……。まあ漠然とした閃きとそして鰻が持つイメージ、と今回は述べさせていただいて終わりにしましょう。長くなってしまいますから。ここに書かれたことは別に気にする必要ないですので、猫舌ソーセージさん独自の見解を大事にされてください。ありがとうございました。
 勿桍筑ィさん。いやいや、読解力が無いなんて。そんなことはありませんよ。単純に僕の説明能力が稚拙なだけです。それほど深くは無いかもしれませんよ? もしかしたら、勿桍筑ィさんが先々より一層成長なされたなら「なんだよ、くそつまらねえ作品載せやがって」と思うかもしれません(そこまでいかないか(汗 蒲焼ですら躊躇してしまう恋羽が生のぬるぬる鰻を食べたら死んでしまいます、ショックで(笑 お読みいただいてありがとうございます。
 今日はとりあえず更新はしないどこう、といつになく疲れている恋羽でした。
2005-05-03 15:23:38【☆☆☆☆☆】恋羽
拝読させていただきました。私も一人暮らしの身なので、前半部分の主人公の姿は想像し易かったです。ただ、初読の際、鰻を食べた後の主人公の変貌がどうにも理解し辛く思いました。が、最後まで読みきり、鰻が「何か」を暗示していることを理解できると、思わずなるほど、と唸ってしまいました。
私も昼夜さん同様、「鰻」が今作のように様々な意味を表しているキイワードになっていると踏まえることによって、これからの掌編が活きてくるのではないか、と思います。 
2005-05-03 21:42:22【☆☆☆☆☆】豆腐
豆腐さん。お読みいただきありがとうございます。好き放題文章を書きつけている恋羽ですので、文章の趣旨を理解していただけただけでももう、満足してしまいそうです。ちなみに僕は一人暮らしではなかったりして、親の脛は齧らない程度に実家に居座っています。一人暮らしの様子を想像して書いたのですが、違和感が無かったなら幸いです。それでは、豆腐さんの次回更新を待ちつつ失礼させていただきます。
2005-05-03 23:04:18【☆☆☆☆☆】恋羽
はじめまして、夕空と申します。「耳から鰻」拝読しました。読解力のない私にとってはなかなかに理解しがたく、みなさんの見解や意見を参考にしてようやっとぼんやりながら意味が分かりました(いろんな意見を参考にして分からなかった物事をなんとか分かるように考える……こういう作業がとても好きなのです)やはり「鰻」=「主人公をせめて人間的たらしめていた大切な何か」なのでしょうね。鰻を殺し、口に入れ、消化することで、主人公は大切な何かをなくしてしまったと……なんて、曖昧なことしか分からなくてごめんなさい。でもとても面白かったです。「鰻」シリーズが続くということで……楽しみにしています!
2005-05-04 10:21:12【★★★★☆】夕空
夕空さん。初めまして、恋羽(ここは)と申します。お読みいただいてありがとうございます。鰻、いかがでしたでしょうか。また更新したのですが、今回は割りと酷いものが出来ました。ですが読んでいただけたなら幸いです。さて。……その見解、正解だと思います。というか、誰の見解も全部正解です(苦笑 人間たらしめていた大切な何か、いい言葉をお使いになりますね。それを失わないように生きていきたいものです。でももうすでに鰻を食した後でして(嘘です(汗 ありがとうございました。
2005-05-04 19:22:21【☆☆☆☆☆】恋羽
どうもこんばんわ(?)。先ず、あれは私も同じ事を考えていたので恋羽様の行動に賛同します。さてさて。読解力の乏しい私には難しい話だなぁ。文章も整っているし場面を想像するには易いし、何より気持ち悪さは充分伝わってくるのですが、それらが何を意図しているのかを掴む事が出来なかった。摩訶不思議奇妙な物語って事だけは理解出来ても、人外の快楽・悦楽に浸ってしまった哀れな女の末路は解っても、それが遠回しに何を伝えたかったのだろうと思考してしまう京雅です。失礼な事をつらつらと書きましたが、一番言いたいのは、印象深さはある作品だなぁってとこです。擬音語なんかは気持ち悪さ倍増、私、鰻を嫌いになってしまうかも。視野領域の狭いこの愚か者に、何を伝えたかったのかヒントくらいは与えてほしいなぁと思っています。ところで途中、「奥寺の目には、」とありましたが、奥村ですよね? ではこの不思議な話の続編を待っています。すみません、私の知恵が浅いためにぐだぐだな感想になってしまって。では。
2005-05-04 19:47:21【☆☆☆☆☆】京雅
わからないなあ。作中の背景やら心理やらは、嫌というほどわかるんですがね。全体を通してこれはどういう物語なのかを考えると、はてさて。なんとか『一』と絡めることで納得はしましたが、どうも気持ち悪いですな。物語の表現は精神衛生上好ましい状態になるclown-crownですが、どうもラストがはっきりしない物語はウニャウニャ……。気になったとこピックアップ。【夏の寒さに凍える】わざと? 【裂く様にして伸びる獣道の様に】ようが二つは読みにくいような気がするようです。【異世界を織り成した】『が』か『の』じゃないですか? 【原始人めいた住居】原始でとめるべき。次回作を待ってます。
2005-05-04 20:09:49【☆☆☆☆☆】clown-crown
こんばんは。二話読みました。ドロドロと生々しい描写が、うまいですね。ずっと顔をしかめっ面にして読んでいました(笑)。正直な感想を一言で表すと「ひぇぇ、気持ち悪い」ですね。なまじ想像力があると、結構キツイです。今回の鰻は「憎悪」とか「羞恥心」とかに見立てました。まぁ、思いっきりハズレていると思いますが、次回も頑張って下さい。以上、猫舌ソーセージでした。
2005-05-04 20:15:37【☆☆☆☆☆】猫舌ソーセージ
すみません、京雅さん、clown-crownさん。ちょっと文の完成度が低かったように自分でも思ったので、もう一度読み直してみて書こうかと思います。というか、これはオチがついたショートだったのを前回の流れに合わせて曖昧に終わらせたものですから。直しますので、ちょっとレス返しは控えておきます。とりあえず読んで頂いてありがとうございました。
2005-05-04 20:17:25【☆☆☆☆☆】恋羽
二、読ませていただきました。グロイなぁ。前回とは打って変わってホラータッチでしたね。ラストの鰻が出てくる以前に既に嫌な感じでした。奥村が怖い、きもい。私がなぜ、そこまで奥村に溺れて(愛して)しまったのかを読み取ることができませんで、何となく曖昧な読後感となりました。(読解力なし ともあれ、続きはどのような話が来るのか純粋に楽しみなわけですが。
2005-05-04 20:19:04【☆☆☆☆☆】影舞踊
あぁぁ〜〜ぁぁあ。気持ち悪い!いや〜……(鳥肌; 体に鰻が……気味が悪い!
――どうも、取り乱しました勿桍筑ィ です。
やはり深いですかね――いいですね〜。体感できました。鰻が体にまとわりついている……。気味が悪いです。でも、良いです(意味不明; 
ただ、京雅さんがおっしゃているように、途中‘奥村’が‘奥寺’になっていました。
もう一つびっくりしたのは、人間がまさか!鰻だったなんて。はい。

では失礼いたします。次回も待ってます。
2005-05-04 21:33:20【☆☆☆☆☆】勿桍筑ィ
拝読いたしました。もううなぎが嫌いとか個人的なことはどうでもいいです。なんだろう、私はこの作品すごく好きです。もともとこういうホラーとかダークとか、正直読まないんですが、ここまで奇異だと四の五の言わずに読めって言われてる感じ(笑 純文学の香りがしますね。やっぱり高校の教科書に以下略。でもここまで難しいのは載らないかな。せっかくものすごい雰囲気を醸し出しているのだから、ところどころもう少し言葉を練るともっと良くなるかな……なんて思わず生意気なことを申し上げてしまいますが、これはいい作品です。読ませます。次も頑張ってください。
2005-05-04 23:16:56【★★★★☆】有栖川
拝読致しました。恋羽様、この作品いいですよ。やはり二作目で一作目が活きているように思います。理性と欲望・狂喜の狭間を鰻がよく示しています。もしかして当初の予定にはなかった?と失礼ながら思うくらいベースとなる思想が一致して思わず鳥肌が。こんな薄気味悪い小説大好物です(ぇ
2005-05-05 01:53:46【★★★★☆】昼夜
こんにちは、夕空です。二作目を拝読しました。とにかくもう鰻の描写が絶品で、気持ち悪さ、グロテスクさ、いまにも自分の横から鰻がにゅるっと顔を覗かせそうな臨場感がすごいです。っていうか、今晩のうちのおかずは鰻らしいですぎゃーどうしよう(涙)で、でも蒲焼きの状態で来るからまだまし……ですよね、うん。と、関係ないことをお話ししてしまって申し訳ありません。次回作も期待しつつ……これからも頑張ってください。
2005-05-05 09:28:20【★★★★☆】夕空
 散々に酒を飲まされ、ぐったり気味の恋羽です。遅くなりましたが、ご感想のお返しを。
 京雅さん。どうでしょう、今回の修正を見ていただければ分かるかと思うのですが。というか、読解力が無いなんて、そんなことありませんよ。むしろ読解力がありすぎているのかと。深く考えなくても大丈夫な気がします。だって恋羽はそれほど説明が巧くもなく、ましてやメッセージ性を巧く盛り込むなんて事は出来ないのですから。そこまで読み取っていただけて、作者としては嬉しい限りです。ありがとうございました。ちなみに賛同していただいて嬉しかったです(笑
 clown-crownさん。たくさんの誤字誤用等、教えていただいてありがとうございます。……一話完結と先に述べているわけですから、一と絡めなければ理解できない作品を書いてしまって、申し訳ない限りです。そうですね、最終的には作者の意図をはっきり述べることも必要であり、何より今回の話はどうもラストがいまいちだったので、何とか直してみたのですがどうでしたでしょうか? もしよければ次回作品の感想のついでに教えていただけたら幸いです。ありがとうございました。
 猫舌ソーセージさん。生々しい表現がうまい、というのはきっと褒め言葉ですね(苦笑 まあそういうものが大好きなので嬉しい限りなのです。想像力が優れていることはいいことです。それがあって初めて僕のような作者の作品を読むことが出来るのですから(ショボ作者)。なかなかいい見解を出されますね。誰に対しても正解と言いたい恋羽ですので、もちろんそれも正解ですよ。というか、小説を読む時に「正しい読み方」なんて物に縋るのが大嫌いなものですから。自分なりに読んでいただけるのが、作者としては嬉しかったりして(笑 ありがとうございました。
 影舞踊さん。前回期待させてしまった部分もあるので、少し期待を裏切る結果になってしまったこと、お許しください。というか、このネタが浮かんだ時点で、書かずにはいられなかった単純な恋羽、小説家として失格ですね(汗 そういえば奥村ですが、まあ自分で思う最高に気持ち悪い人間にさせていただきました。僕としては多分、酒を飲んだ後に読むと吐くかも(苦笑 奥村に対する依存についてですが、本当なら性描写を用いるのが最も簡単な方法だったのですが、やはり良心が許さず(それに規約に違反してしまう(汗 読む人によっては曖昧に感じてしまうのも無理ないことかな、と反省しています。お読みいただいてありがとうございました。
 勿桍筑ィさん。気持ち悪い表現ばかり使ってしまって申し訳ありません(汗 書いているときは楽しかったのですが、読み返してみると気持ち悪い(苦笑 それでも読んで頂いてありがとうございます。深いですか、いや、前回も言ったみたいに、未熟者の描く物語ですのできっと思っているほど深くは無いですよ。でも嬉しかったりして(笑 次回はわりとライトな展開を書いてみようと思っていますので、また読んでいただけたなら嬉しいです。ありがとうございました。
 有栖川さん。気に入っていただけて幸いです。何となく至らない部分が多々あり、申し訳なく思っています。次回はもう少し練ってから投稿しようと思います。というか、こういったしつこいほどに気味の悪い表現を使うとどうしても自分の語彙が狭いことを思い知らされます。文字の先にあるものを武器に書く僕としては、そんなものはどうでもいい、などと思っていたのですが、やはり必要ですね。より多くの作品を読み、語彙を広めたいと思います。古風な表現が多く使われている小説(しかも面白いもの)がありましたら、もし次回読んでいただけたなら感想のついでに教えていただけたらな、と勝手なことを思っていたりします。いい作品、との感想、甘んじて受けさせていただきます。ありがとうございました。
 昼夜さん。そうですか、楽しんでいただけましたか。うれしいなぁ、と珍しく素直に喜んでしまう恋羽なのです。確かに今回の文に一の概念を絡ませてもみました。結局のところ、今回こうして描いている鰻と言うのは……(ネタ晴らしは最後の最後までとって置きます)。薄気味悪い小説、お好きですか。夢に見たらきっと最悪ですけどね(笑 ちなみにプロットは書きながら作るタイプの人間ですので、今後の作品に対してもまだ浅い漠然としたイメージがあるだけなのです。なので、最初からコンセプトなど存在しなかったりします。ありがとうございました。
 夕空さん。こんな小説を読んだ後で鰻はきついなぁ、と(笑 しかも生で出てきたら逃げてしまいますね、きっと。グロテスク、好きな言葉の一つです。気持ち悪いはそれほど好きではありませんが、何にしてもやっぱり褒めてもらうのは嬉しいなぁ(笑 ウチの近辺に鰻屋さんがあるんですよね。この小説を書き終える前にむりやりにでも食べて、その不快感を書き付けてやろうか、などと思っていたりします。ありがとうございました。
 ……結局。奥村を下手に気持ち悪くしてしまったが為に、「私」という存在の異常さが目立たなくなってしまったんだろうな、と反省しつつ、失礼しようかと思います。次回更新は少し遅れるかもしれませんが、ご容赦いただけたら嬉しいです、それでは。
2005-05-05 21:30:48【☆☆☆☆☆】恋羽
遅れながらも、拝読いたしました。情景描写が実に見事で、臨場感が溢れる文章だったと思います。ただ、私は最後の最後「私は朦朧とした〜」の部分を上手く読み解くことができませんでした。一の終盤と同様に深いメッセージが隠されているのでしょうか。 
2005-05-07 21:02:46【☆☆☆☆☆】豆腐
 豆腐さん、お読み頂いてありがとうございます。あのレベルの高い文章を読ませていただいた後で作品について語るのはものすごく恥ずかしいのですが。最後の部分は読まず、純粋に気味の悪い小説と読んで頂いても問題はありません。最近直したばかりなのでもしかしたらまずかったかもしれませんね、御指摘ありがとうございます。それでは。
2005-05-08 22:06:37【☆☆☆☆☆】恋羽
今回は私の様な読解力の劣る愚か者の為に解り易く書いてくれた、と思っていいのでしょうか。嗚呼、感激して涙が出るなぁ。でも認識が間違っていたらどうしようとも思考します。若しかすると本当は深い意味があって、見せてくれたのは表の顔ではないかと。でもとりあえずは恋羽様の言葉を鵜呑みにして、そのまま受け止めていたいと思います。気持ち悪さもなかったし。どうかこうかすれば鰻の話じゃなくても普通な物語に出来たと勝手に想像するのですが、そこが一枚も二枚も違うとこですよね。長く語ってしまいましたが、読み易かったです。では次回更新も楽しみにしております。
2005-05-08 22:29:42【★★★★☆】京雅
感服いたしました。素直にうらやましいです。『鰻』であること、それだけでこの物語が凡人の手のとどこかないところにあるような。ある意味ずるいですね(笑 回を重ねるごとにどんどんレベルが高くなっておられると思います。今回はもう、最高のキャストを揃えたドラマで観たいと思わせてくれるほどでした。次回も期待しておりますので!
 p.s開高健『任意の一滴』→『任意の一点』、の間違いでした。すみません。こちらは現代文学なので古風表現はないですね。硬い文章で面白いものとなりますと、少々ベタですが山椒魚や山月記などは身になってくれると思います。あるいは森鴎外や芥川龍之介なども良いと思いますよ。『舞姫』『鼻』『蜜柑』などですね。やや難解ですが梶井基次郎の『檸檬』もお薦めいたします。あくまで主観まじりですので参考になったかどうかわかりませんが、こんなものでよろしかったでしょうかっ(>_<)わずかでもお役に立てればよいのですが。それでは失礼いたします。
2005-05-08 23:03:14【★★★★☆】有栖川
拝読させて頂きましたが、今回は凄かったです。鳥肌がたちました。なんだか、この鰻シリーズ、どんどんと進化していっているように思えます。三は、とても清々しく、そして切ないお話でしたね。近頃めっきり虜です。次回も楽しみにしています。
2005-05-08 23:14:36【★★★★☆】豆腐
あぁ、かなり良かった。でも最初の一人称で「私」となってるところがありましたよ。と、まぁそれは置いといて。物語を客観的に見てやろうと必死になって読んでいたのですが、とんでもない吸引力で吸い込まれ抜け出せぬままラストまで。テーマというか、それも前回よりもわかりやすく書かれていて、頭の悪い影舞踊には嬉しかった。とりあえず良かったなぁ。次回も期待しております。
2005-05-08 23:30:57【★★★★☆】影舞踊
 あぁ、感想を付けて貰っていた。書くのにものすごい時間が掛かったので、読むのも時間がかかるかな、と勝手に思っていたので少し驚きました(苦笑
 京雅さん。いえいえ、むしろ自分のレベルを強引に超えて書きました。京雅さんに自分で狙って書いた作品にいい評価を付けて貰えるのは実に喜ばしいことです。確かにもう一捻りするのが本来の僕ですが、しかしこれはこれ以上書くとどうにも読後感が悪くなるかな、と判断し今回のような形に決着しました。逆にそれが良かったのか、と喜んでおります。わざわざ持ち上げた物を叩き落すのもな、と。ちなみに途中で何度も鰻からはずそうかと考えたりしてました(汗 ありがとうございました。
 有栖川さん。……それほどまでのお言葉、僕のような未熟者が頂いてもよろしいんでしょうか(受け取らせていただきますが(苦笑 本当に嬉しく思います。鰻であるが為に簡単には捕まえられませんが、それでも次回までにまた一匹の鰻を捕まえておきたいと思います。……作品の紹介、ありがとうございました。遅読な僕ですが、何とか探し出して読んでみたいと思います。ありがとうございました。
 豆腐さん。鳥肌、ですか。すごいなぁ、とむしろ作者が感激しています。進化しているとのお言葉、嬉しく思います。清々しい作品というのはあまり書けないジャンルなので、今回はいい機会でした。鰻に絡ませる部分については最初からあったのですが、それ以外の部分は難しいながらも無理やりに書き上げました。お読みいただいてありがとうございました。
 影舞踊さん。今回は大分ライトに仕上げてみました。かなり良かった、と(嬉 きっと客観視されていたら色々な所が引っかかって仕方なかったかもしれません。部分を切り抜いて書いたり、不必要な部分をうまいこと削ったり、なかなか四苦八苦しましたよ。今回は。誤字の報告ありがとうございました。……頭が悪いなどと、とんでもございません。この登竜門で一番頭が悪いのは自分だと自負しておりますので。ありがとうございました。
 次回更新は来週になってしまうかもしれません。お待たせしてしまうこと、お許しください。それでは。
2005-05-09 00:54:01【☆☆☆☆☆】恋羽
遅れましたが拝読致しました。この読後感、今までの恋羽様の作品では初めて感じたように思います。切なかった。ハマります、鰻。人と人の間をすり抜ける象徴に鰻を使ったのが巧かったですね。他の物質でも大丈夫だろうと言う声はいいのです。これは鰻話ですから(笑 いや、ほんと良かった。
2005-05-09 03:18:21【★★★★☆】昼夜
わーい、鰻シリーズ第三弾だぁ。一話からずーっと読んでいて思ったのですが、鰻は作者の心である。みたいに感じました。心という表現は適切じゃないかも、うーん、でも私の頭の中には他に当てはめられる良い言葉が見つからない。誰にでももしかしたら、鰻が存在しているのかもしれませんね。それぞれ、味は違うと思いますが。以上、猫舌ソーセージでした。
2005-05-09 11:12:25【☆☆☆☆☆】猫舌ソーセージ
 昼夜さん。ハマって頂いてありがとうございました。あえて鰻、ですね。本当に。というか、その一言が書きたいが為にこんなに書いてしまったのです。本当ならもう少し鰻を綺麗なものとして描きたかったのですが、無理でした(苦笑 先に気持ち悪い鰻を描いたからこそ、と言う部分もあるのではないかと思います。ありがとうございました。
 猫舌ソーセージさん。いい読みですね。いえ、当たりと言っても問題ありません。誰もみな正解です。大丈夫ですよ、僕個人の考えはこの鰻の最後に述べますので。気にせずご自分のお好きなようにお楽しみいただければ幸いでございます。五回程度でラストを向かえる予定ではありますので、お付き合いいただけたら作者として感無量です。ありがとうございました。
2005-05-09 14:56:24【☆☆☆☆☆】恋羽
なるほどぉ、そちら方面へお進みですね(?)
感想をパクってみた。ずいぶんとまともなものを書きますね。個性的な小説のいびつさが好きな私にはちょっと。この小説が悪いということではないですので気にしなくていいのですが、私の嗜好からは外れている、ということで。
二、ですが。ラストいいと思いますよ。脳内をウナギが泳いでいるようで。
2005-05-09 19:09:33【☆☆☆☆☆】clown-crown
 clown-crownさん。……そんなぁ、と呟いてしまいました。clown-crownさんならこうやって普通の作品を僕が書くきつさを解ってくださると思っていたのに(泣 ……まぁ、今回の文は甘味所で食べる小梅のようなものであって、感覚を麻痺させないように、という意図もありましたので、次回、もしくは最終話にてとことんダークに突き落とすことになると思いますよ。その時まで楽しみに待っていただけたなら幸いなのですが。好みに合わない作品でも目を通していただき、ありがとうございました。
2005-05-09 19:31:19【☆☆☆☆☆】恋羽
番外編拝読しました。……「手紙」のほうを親切って言ったわけはここに集約されております。難しい、難しい。鰻である意味を見い出すのが難しい。やはりまだまだ読解力が足らないんだなぁと痛感しております。まさに鰻、うねうねうねって意味を掴ませてくれない。鰻が降ってくるって何ですか、一応の答えみたいなものを掴んでいるとしてもそれは合っているのかどうか(連戦連敗ですからね)解りませんし、勘違いしている可能性のほうが高いですね。しかしそれもそれで答えなのかな、読み取ったもん勝ち、みたいな。ふう、だいぶ落ち着いてきました。私の中で雨=憂鬱なんでね、もう鰻も憂鬱でいいです!(やけ)それにしてもパソコンって怖いですねぇ。失礼な戯言ばかりつらつら連ねました、申し訳御座いません。次回更新若しくは次回作お待ちしております。
2005-06-07 16:57:12【☆☆☆☆☆】京雅
な……難解だ。拝読いたしました。今回は全編とおして村上春樹の香りがものすごく感じられたのですが、気のせいでしょうか(すみません)。たいへん雰囲気のあるお話でしたが、正直申し上げましてよくわからなかった、という感じです^^;『彼女』が言っていること、あるいは言わんとしていること、そして最後『鰻』でなければならない理由がどうしてもつかめませんでした(残念っ)。次回、鰻本編でリベンジを誓います。それでは更新頑張ってください。
2005-06-07 17:24:07【☆☆☆☆☆】有栖川
はうぅ……。初めましてりおです。ため息が出てしまうぐらいにすごいですね。色々と考えさせられました。私なんかの小説と天と地程も文章力、表現力、構成共に上で、羨ましいです。皆さんの素晴らしい小説を読んでいると、ここに投稿するのがとてもおこがましく恥ずかしい行為だと思ってしまう程です。拙い感想で申し訳ありません。もしよろしければ、これからも感想書かせて下さい。失礼致しました。
2005-06-07 19:02:23【★★★★☆】理央
「やってみたかったから、やった」って感じがした。とりあえず、応援する。ココハさんの思う鰻というやつの正体が凝縮されていて、今までその認識を読み手に植えつける土台があったからこそできた書き物だと思う。植えつけると書いたけれど、それは書き手から読み手への期待だ。強制力はなく、好きなように読ませる。しかし、自分をもっと知ってもらいたいとの欲求は必ず生まれ、そのジレンマに苦悩する。書き手が高みを目指そうとすればするほど、ついていける読み手は減る。傾向として、最近はハードルが高くなっている気がする。ココハさんという人格を知っていなければ読み解くことができない書き物になっている。
なんとなく読んでて思ったことを偉そうに書いてみた。書き物の感想より物書きへの感想が増えてきたなあ。
「劣等感は人一倍あるのでね。私には響くのだよ」
2005-06-07 19:10:42【☆☆☆☆☆】clown-crown
感想に何を書けばいいのか分からない、という現状。つくづく自分の読解力のなさが悔やまれます。恋羽様はおそらくものすごく力があるんだろうなぁという感じでした。みんなが分かるように書くことも出来るけど、それは俺の書き方じゃねぇって感じです。きっと影舞踊なんかでは感じることの出来ない苦悩でしょうか。何か読んでてそれを感じました。恋羽様の小説を読むと、小説だという感じがより強く感じます。なぜかは分かりませんが、文章が洗練されているからでしょうか。読んでいて申し訳ない気分に陥りました。読解力のない読者ですので切り捨ててください。それでも勝手に読みますので。次回更新をお待ちします。
2005-06-07 23:20:30【☆☆☆☆☆】影舞踊
 さて、漸く書けた本編をのっけ終わり、感想のお返しのお時間です(苦笑
 京雅さん。……すみません、番外編の方なんですが、あれは全く考えの浅いネタだったのです。だから他の作品と肩を並べるには下らな過ぎるので、一応番外という形を取ったに過ぎませんので。短編を集めているのに番外なんておかしいですよね(汗 だからほとんどメッセージ性はありませんでした。むしろ雰囲気を楽しんでいただきたかった、ってわからないよなぁ(溜息 だって鰻な意味が恋羽にもよくわかりませんもん(いや、そこそこのものはあるんですけどね、それを書き表すことは出来ませんでした)。怒らないで下さいね(赤子の様な笑み)。ありがとうございました。
 有栖川さん。繰り返しになってしまいますが、番外の方はそこまで深いネタでは無かったんです。有栖川さんの読み方、つまり雰囲気を楽しんでいただけるだけでもう満足なネタでした。ちなみにこの感想を拝見した後本屋に立ち寄る機会がありましたので村上春樹さんの小説を見てみまして(それまで全く読んだことが無い恋羽でした)、確かにあちらもそういう不可解な雰囲気を醸しだしていましたね。でも、きっと彼には彼の描きたいことがあったのでしょう、僕の様な下らない人間にはよくわからなかったですが(汗 ありがとうございました。
 理央さん。初めまして、ここはと申します。お読みいただきましてありがとうございました。……実は理央さんの作品には少なからず興味があり、ほんの少しずつではありますが読ませていただいております。感想を書くことが出来るかは時間との戦いの結果によりますが、頑張りますのでよろしくお願いいたします。ありがとうございました。
 clown-crownさん。……そう、この番外は正にそれでした。書きたいから書いた、でも本当は載せるつもり無かったんだけどなぁ、何でこんなの載せちゃったかなぁ、と今更ながらに苦悩(笑 ……ハードル、高いでしょうかね。それだったらあの書き方はまずやめなきゃならないな。小説が読み手を選んでどうする、と自分の小説を腹立たしく思いました。恋羽の人格を理解して読まなきゃ読めないなんて、もう……駄目駄目だなぁ。僕はもっと理解されやすい書き方をしたいのになぁ。もうちょい考えます。ありがとうございました。
 影舞踊さん。……まず。謙遜でも何でもなく一言言いますです。「俺、レベル高くないですぜ、旦那」と(苦笑 人の目からそう見えてしまうのはきっと、無駄に肩肘を張っている恋羽もまた存在するからでしょう。それに理解されやすい作品と理解されにくい作品を同時に書けるのは、きっとまだ文体も固まっていないし、それこそ首の据わっていない赤ちゃん状態だからではないでしょうかね。文章が洗練……嬉しいですけどね、いろいろな人がいて、その中には僕の文章が洗練されていると言ってくれる人もいるということが。ただ、多分そこまで磨き上げてないと思うのです。まだまだ甘いし、無駄も多いし、艶も無いと。日々精進ですねぇ、と。感想に何を書こうか悩まれる程度の恋羽、これからもよろしくお願いします。ありがとうございました。
 ……あぁ、と溜息をついてみたり(苦笑
2005-06-09 15:09:46【☆☆☆☆☆】恋羽
さてさて、漸く読み終えた。何だか長く感じてしまったのは私がいつの間にか物語に呑み込まれていたからなのか、それとも番外編に比べてただ文量があっただけなのか。兎に角四話拝読しました。もうこの京雅の読解力の無さは理解しておられるかなと思うので、勘違いも甚だしい感想を書き綴ってしまうやも知れません、けれどきっと恋羽様はお許しくださるでしょう。読み取ったもん勝ちです。と前書きを既に長く語って本題へ移ります。本来なら「あの川は、……鰻なのだ。」で締めてしまっていてもなぁと京雅なんかは思うわけですが、それだとあまりにも言葉が足らないかなとも感じます(何が言いたいんでしょうね)。嘉平に男を水葬させたのは長だったのだろうか。長が嘉平を見て怖がったのは、彼が川神に見えたからだろうか。鰻は、まあこれについては私なんかが計り知れる領域じゃないのであれですが、鰻を川と喩えて、つまりは川神の力をわけてもらったと。解らない事づくめな上に、大切な事だけ読み零している様な気もします。嘉平が娘を救いたかった、その心に打たれて救ってやった。物語自体はそうやって掴んでも、何やら裏がありそうで。まあ愚か者の京雅にはこれくらいで精一杯。あとは他の皆様の見い出した答えでも眺めつつ、最終的には貴方から語られないであろう答えを何とか掴んでみようと頑張ります。それでも総合的に面白かったと思うのは、何よりも文章力のなせる技かなと。「無い」ものを「在る」と見せ「在る」ものを「無い」と見せる力ではないかと(これはいい意味ですよ?)。ところで「せめてもの娘に巣食う病魔への抵抗である。」は「娘に巣食う病魔へのせめてもの抵抗である。」のほうがテンポがいいと思いました。では長長と失礼極まりない事と意味の解らない事を語りました、重ねて謝罪します。次の鰻も待ってます。
2005-06-09 15:40:15【☆☆☆☆☆】京雅
二回読んでやっと理解です。拝読いたしました有栖川です。鰻シリーズは背筋が伸びますね。間違っても2ℓウーロンらっぱ飲みとかしながら読んじゃいけませんね(笑 さて、男を殺したのはアノ人だったんですね。水葬の理由がちょっとばかりつかめなかったんですが、なんとなくはわかりました。すみませんこんな読者で。自信作とおっしゃられるだけあって、いつもより多めに難解で(褒めております)いつもより多めに読後感が不可思議でした。このシリーズはほんとに何なんだろう。すごいなあ。さて、なんとなくなのですが、ところどころ『ん?』と思ったりしてしまったのがやや残念だった、と感じました。ふと我に返ってしまう瞬間がちらほらとあったような――あたしだけかもしれないんですが。多分あたしだけですお気になさらずに。それと時代考証的にも、やはり言葉をもう少し練ると完成度がぐんと上がったかと思います(すみませんえらそうに)。でもお待ちしてたかいがありました。面白く読ませていただきました!失礼なことを申し上げてしまいまして、大変恐縮です。次回もお待ちしております。
2005-06-09 16:35:59【☆☆☆☆☆】有栖川
あれ↓?点数入れたつもりが!!!ご、ごめんなさい!申し訳ないです!
2005-06-09 17:00:32【★★★★☆】有栖川
 余りにも的を得たご感想が述べられていたので、思わずご感想を返させていただこうと思います。
 京雅さん。……わかります。どこでこの話を終えようか考えて、そして京雅さんが言うところで一度終わろうと思ったのです。ですが……読み返してみて余りに意味がわからないじゃないかと(苦笑 これでは明らかにまずいよな、と思いなおし、無駄に自分の結論に誘導する形になりました。それがどうにも……ですよね(切れ味無し作者 文章力があれば、そしてもう少し文語の知識があるなれば、もう少しマシな物になったはずなのに。自信がある、というのはあれですよ、あれ(まぁ、そんなものはどうでもいいのですけれど)。お読みいただきありがとうございました。
 有栖川さん。そうですよねぇ、その「ん?」が問題なんです。柄にも無く古い時代背景を用いたものですから、どんなに頑張っても(元々得意じゃないんです、こういった文章)これが限界でした(なんて言い訳ですよね)。「村の長」とか色々なところで作者がまず打ちのめされてました。その上、聞いたことも無いような言葉を使いやがります、村の衆(お前が書いたんだろ(ごめんなさい 辛口全然オーケーです。ぶちのめしてやって下さい(パパにも殴られたこと無いのに、とか言いません)。なんか色んなところで拙い今回の鰻、こちらこそ恐縮の極みでありました。それでもお読みいただきありがとうございました。
 ……無茶したなぁ、俺。
2005-06-09 17:10:04【☆☆☆☆☆】恋羽
さてさて、とりあえず最近小説の書き方が分からなくなってきた影舞踊は、これを読んで学ぼうかなぁとかも思っていたりもします(照 でも読めば読むほど影舞踊と書き方が違うわけで(苦笑)、そこんとこどうするよって感じです。憧れはあるのですが、書けない。さぁ今回の感想だ。なんつーか、今回は優しかったですね恋羽様。京雅様も仰っていますところで終わるのかと思ったら、分かりやすく最後まで書いてくれた。個人的にはこちらのほうが好みでいいと思うのですが、らしくないなぁと(勝手な恋羽様像です まぁその言ってるところで終わってしまうと、物凄く分からない作品になるのですが(影舞踊には)、どっちがいいのでしょうね。ラスト一行は少し首を捻りました。次回も楽しみにしています。(読み違い多々ありかもです、すいません
2005-06-09 21:13:19【★★★★☆】影舞踊
知らない世界を書くのは徹底的なリサーチと、ときとして利己的にも見えるイマジネーションが必要なのではないかと思いました。でして、私はいまひとつ物語世界に入り込めませんでした。(あくまで私の読解力レベルで言えば、ですが)今回もまた、難解にできていました。細かく見れば理解できる範疇であっても、全体を通してみたときにちぐはぐな印象を受けます。どこに腰を据えて読めばいいのか判断がつきませんでした。物語の全体像を思い描きながら書き物を進めていくと、解消できるのではないかと思います。辛口でと言うことで今回もまた偉そうな感想ですが。では、次の鰻で。
2005-06-09 21:41:25【☆☆☆☆☆】clown-crown
 お読みいただきありがとうございます。
 影舞踊さん。……駄目っすよ、絶対駄目っす。目標にすべき人が、ここに感想を書いてくださっている中にも、というか全員すごい人ばかりじゃないですか(影舞踊さんも含めて)。有栖川さんの作りこまれていながら飾らない書き方、京雅さんの圧倒的な、それでいて儚げな書き方、clown-crownさんの濁流の様に読者を飲み込む書き方、そして、影舞踊さんの読みやすさとテーマをより明確に読者に伝える書き方。どれもすごいと思うのですが、ねぇ(溜息 さて、……いや、優しいというよりも寧ろ恋羽の限界がここだった、という(笑 でも書きたいことが書けた気がするのです。どこにメインを置いているか、……わかんないかもしれないんですけどね(汗 最後の一行が結構ポイントになっていたりします。でも気にしないで下さい。お読みいただきありがとうございます。
 
 clown-crownさん。……あの作品を読ませていただいた後で自分の作品を読むと恥ずかしいことこの上ないのですが、それはまぁいいでしょう。納得させられました。と同時に、「細かく見れば理解できる範疇であっても、全体を通してみたときにちぐはぐな印象を受けます。どこに腰を据えて読めばいいのか判断がつきませんでした。」この感想。これが一番大きかった。もっと練ればよかったし、もっと一本筋を通せばよかった。それはスムーズに書けない時に無理に書いて作者としてのリズムが崩れたということが一番大きいのだと思います。それと書くのに時間が掛かりすぎている。最後に、少しずつ書いている内に話が変わってしまった部分があったことも重要な部分だと思う。……あぁ、こういう作品を書くなら、普通もう少し調べ物するよなぁ、と題材によって書き方を変えられない不器用な恋羽でした。お読みいただきありがとうございました。
 ……長。
2005-06-10 15:02:08【☆☆☆☆☆】恋羽
恋羽さん恋羽さん!こんにちは、菖蒲です。
雑談掲示板でお世話になっているあの(?)菖蒲でございます。
申し訳ありませんでした!いえ、別に何か取り返しのつかないことをやらかしたというわけではないのですが、それでもこの作品に感想を寄せるのが遅くなったことを謝ります。ゴメンナサイ。
以前から読みたい読もうと思っていたのに、どうしても時間を長く空けられなくて先にとっておこうなどと考えていた愚かしい私です…。
【耳から鰻1〜4】目を通させていただきましたようやく。ということで1〜4それぞれに個別で感想を述べさせていただきます。じっくりと。なので点数も個々につけ、その統合が作品へ抱いた私からの合計だと理解していただけますか?それではまず一話目、耳から鰻。何で鰻なのかなぁと読み終えた今でもわかっているのかいないのか。(たぶんわかっていません)彼は今まで自身へ対する徳心というようなものに長い間向かい合い、是否の自説自答を繰り返していました。それが彼の追い詰められた心境を示し、細かな状況の描写などが大変魅力的で脳のない頭でもその現状を想像するに困りませんでした。二十三円でバイト先…どうしたらいいのか考えましたが思い浮かばずです。鰻は私も好物なのですが、さすがに耳からでてきたらその現状把握と仕組みに悩まされ頭が焦げてその時点でEND、終わるのではないかと…。鰻の出現には、明確であり謎めいた文章力についお風呂のお湯が耳に入って出てくるジワリとした感覚を思い起こしました。発想の豊かさにはMTめいたものも感じましたし。ただ一つ気にかかったのが、家賃には水道代やら何やらは含まれないのに、ガス代は…払えていたのでしょうか。鰻焼くのに、ライターとかは使えないですよ、ね。よくそこのところの仕組みはわからないのですが、全体的に読みやすくそして面白かったです。
2005-06-14 19:47:38【★★★★☆】菖蒲
それでは続いて二話目、鰻と女。この話は特にスラスラと読めていけました。しかしその為か、ストーリーに込められた意図や目的なんかをところどころ見失いそうになってしまうこともありました。主人公となる女性の冒頭前から抱いていたであろう殺意。それが実際あらわになりましたのは、後半彼女が奥村を刺すところで、それまでの流れや当人の心境から想像できないことではありませんでしたがわずかにそれを仄めかせる部分がどこかにでもあったなら、より納得がいきましたと思います。と言いましても端から結末がバレバレというのも良くありませんので(失礼なことをスミマセン)もう少し前文での脅されているという印象を引き立たせて暴れるような面があるなどしてもいいかなぁ…そんな展開もあるかなぁ(勝手ですね)と考えたりしました。この作品の読みどころは奥村の人間離れした気持ち悪さ、擬音でも表現されているようなところがいかに鰻とつながっているかだと思ってます。彼が鰻だったのかそれとも鰻が彼だったのか、それに囚われた哀れな女性は、一体最後どうなってしまったのでしょうか。いえそれは、私の読解力が至らないせいですので、気になさらずに。
2005-06-14 20:42:56【☆☆☆☆☆】菖蒲
三話目です。嘘は鰻のように。毎度タイトルに登場する鰻の文字…今回はどのような、と楽しみにしながら読み始めました。
思い出の場所に思い出の人を求めて帰ってきた男性。作風からセピア色に彩られた寂しげな情が伝わります。離れたことを後悔してか、自虐的な主人公が真智に謝罪の念を抱き彼女の様子に戸惑う場面場面…切なさと時間の残酷な経過を思われ何だか浸るものがありました。短編の中で感情をめいっぱいに表現しようとなされているのがわかります。白い手に触れようとしても触れられなかった新ちゃんの心がどんなに痛んだことか。真智の一筋の涙に込められた真意は、量るのが難しいですけれど。最後のまとめの、「彼女は僕に嘘をついた」ですが、手首の傷も嘘だったとなると何だかそれまでの展開に疑念が生まれてしまい、少々意味を悟り誤ってしまいそうでした。理解力が足らなくて再び申し訳ないです。前の二作とは違い幻想めいた話でしたね。私的には、鰻が最後登場せずの終わり方でも…と、何言ってるんでしょう。
2005-06-14 21:11:42【★★★★☆】菖蒲
番外編です。感想を述べさせていただきます。
全景からの印象は、難しいものがありますね。現実を語る登場者の女性には、哲学といえるような大人の理論と、願望めいた幼い倫理を想いました。
それに惹かれた男性の口にする言葉は、彼女に合わせるためだけの必死な台詞ですので、それが彼の深い思考からではないことを彼女の方はちゃんとわかっていたと思います。だから自分の意見を押し付けることもせず、静かに笑っているのかな?本人としては、鰻のように掴みにくい自分の思想を追いかけてくれているだけで満足なのかもしれませんね。話に織り込まれた一言の中での、答えを知らない人間のうち宗教者という立場でありながらも互い(別の宗教者)を否定し合い自己の信じるものだけを主張するという部分は、確かにそうだなぁと現実問題をしみじみ感じました。明日は鰻が降る、というのは、やっぱり解釈するのに頭をひねりそうです。
2005-06-14 21:26:33【☆☆☆☆☆】菖蒲
ついに四話目です、川神。ここでタイトルから鰻が消えました。いよいよ終わりを迎えるのでしょうか…終わっちゃうのでしょうか?(プレッシャーになってしまうかなぁ)ということで感想です。
一気に時代が錯誤致しまして、日本昔話のように謎めいた部分が残された作品だと感じております。これまでとは異なり、主な登場者が対峙する物が明らかに大きくなってスケールが伸びていること、そこから結末がまとまるのを意図的に避けたようなふうに受け取れました。恋羽さんの凄いところは、冒頭から終わりを一切想像させない隠し玉のような運びとその構成力にあると思います。ただ、今回の始まりでは、嘉平が自分が川神へ行った誤りをすっかり自覚しているのかと思ったのですが(何もかもすべては彼自身の犯した罪によって、の部分で)どうやらそうでもないのでしょうか。そしてその後の思い返す段落では、一体倒れている人がどんな人間なのかが後半までわかりかねました。結末では村長が悪い方の立場だったと気がつくのに、申し訳ながら時間がかかってしまい…私の考えが及ばずです。
これまで長々と大変抜け抜けと書き連ねて、それにお付き合いいただいたこと、見過ごしてやって下さい。しかしこの鰻シリーズで、すっかり恋羽さんの作品に魅せられましたのは確かです。ですので一読者の意見として受け入れてくだされば嬉しいです。次回も期待してます。
2005-06-14 22:00:00【☆☆☆☆☆】菖蒲
ご感想を頂いておりましたのに、お返しが遅れて申し訳ありません。恋羽です。一話一話きっちりとしたご感想を賜り、嬉しい限りです。それではもう随分書き上げてから時間がたったネタもあるのですが、一つ一つにお返しを。
 耳から鰻。これがこのお話たちを書こうと思い立ったきっかけなわけですが、何故耳から現れたものが鰻であったか……。なるべくならば言いたくなかったことを言ってしまいましょう。今更ですし、それに後の「嘘は鰻のように」の方にも繋がる部分ですので。……鰻って気持ち悪いでしょう?(笑 見た目。細長くててらてらしてる。なにより重要なのが、彼等は一体どこでどのようにして産卵をしているのか、はっきりしたことがわかっていないらしい、と言う部分ですね(うろ覚えですが、養殖の鰻も川を遡上してくる稚魚を河口付近で捕らえて行われる、とか)。これが一番ミステリアスで、何よりもこの作品に対するインスピレーションの帰着点として余りある部分かと。ガス代などの部分ですが、まだ主人公がこの部屋で暮らし始めて一ヶ月弱しか時間が経過していないとお考えいただければ(汗 
 鰻と女。うーん、殺意の伏線は唯一つだけでした。それは「少し遅れて、肩に掛けたポーチが脇腹を突く。」の部分だけでした。要するに、重い物がその中に入っていて、しかも鋭利なものを予測させるような表現を入れようとして入れた部分です。わかり難い、ですよね(苦笑 この作品については、いやぁな読後感を感じていただければもう、感無量でございますですはい。
 嘘は鰻のように。これは鰻を嘘や人の間をすり抜けていく柔軟さに例えた作品なわけですが。一筋の涙。これはもう、人に嘘をつくときの常套手段といってもいいほどのものですよ。泣き落としは単純ながら意外に効果的だったりしますから。それに彼女は女性です。そこらへんかな、恋羽の独りよがりは(苦笑 手首の傷の部分ですが、これも嘘と考えていただければ。いじめによって死んだという彼女ですから、手首に傷を付けていたとしても、と考えていただいても結構ですし、彼女は幽霊なのだから、その上昔のままに自分の部屋を作り変えることができるほどの力を持っているのだから、と考えていただいても。うん、鰻に絡めることでなんとか作品と呼べるレベルまで引き上げているんです。そこまでの過程においてたまたまこの恋愛まがいの部分が生まれてくると思っていただいてもいいぐらいでございますよ(苦笑 
 鰻雨。これはもう、何を意味してるかってもう。この下らない作者と崇高な読者様方との駆け引きをごらんになれば自然とお分かりでしょう。そして他の鰻と並べなかった意味も。本当は載せるつもりは無かったんですけどね、嫌味臭くて(汗
 川神。これは……本当に申し訳ないと思います。難読この上ないと(汗 なんだか嘉平の感情その他の動きが掴みにくいですよね。うん、本当に駄目作者だなぁ、としつこいぐらいに感じさせられた作品でございました。もうちょい方向付けをうまく出来たらな、とわれながら情けなく思います。……娘の容態を心配し村の長の言葉に従って川神の元に赴く、この時の村長の真情を書くとしたなら、「自らの罪を嘉平に着せ、あわよくばその罪を消し去ろうとしているのだ」とかそんな単純な感情なんですがね、嘉平一方向からの視点で書いたためになんだかうまくいかなくなってしまったようです。
 ここまで話があれこれ出ている中、わざわざこんな難読な作品群をお読み頂き、ありがとうございました。今後もお付き合い頂けたなら幸いです。
2005-06-20 16:55:16【☆☆☆☆☆】恋羽
計:76点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。