- 『白海の巡り <下>』作者:圭太郎 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約5.48枚
禽馬(キンバ)空晶(クウショウ)は駆ける。
時折聞こえる砂を蹴る音から、跳躍をしているのだと分かった。しかも長く、速く。
風を切って走る為に、眼が完全に開けられない。璋(ショウ)は薄目で辺りを伺いながら庵に体を支えられていた。
庵(イオリ)は、なんと不思議な少年なのだろう。
振り返って彼を見るわけにはいかないが、空晶に乗り、白海を巡る彼の姿は古の若い長を彷彿させる。その若い長は国同士の小競り合いに颯爽と現れ、勝利に導く。
頭上で括り上げた長い髪を靡かせ、彼は地を馬に乗って駆けるのだ。
「璋、あれが白海の中心だ。」
ぼんやりとそんな事を思いながら彼の声を聞き、指し示された指の先を見る。そこは蜃気楼でうっすらと霞んだ、オアシスが見えた。
庵は手綱を軽く引き、方向を整える。地図もコンパスもないのにここまで、かなり長い距離を空晶に乗って駆けてきたが、辿り着けるなんてやはり彼は不思議だ。
白海の中心へ向かいながら璋は、ぼんやりと思考する。妖魔も、悪くない。ふんわりと柔らかい毛並みを手先に感じながらふと思った。
白海の中心と言う、オアシスは中規模なものだった。
オアシスとはただわき水の事を示す。どういう仕組みかは不明だが、刻々と水がわき出る所を示してオアシスという。水があるので植物が生える。
オアシスは水と植物、両方にとって有益なものだ。
「凄い・・・」
璋は感動で深い溜息を吐きながら言った。
短い草のようなものも生え、サボテンの種の一つである植物も生えている。
何より、樹が大きい物で5メートル近い。
「白海の中心。・・・白海の心臓部と言って良いだろう。」
「こんなに高い樹、初めて見ました。これはシダ植物の一種ですか?」
「あぁ。」
「どうして、このように高く?」
「・・・知っているだろう。樹は長い年月をかけ育つ。」
「知っている。しかし、」
「しかし何故ここまで大きくなったのか、ということか。」
璋は黙った。樹に近づき、掌を樹へと当てる。見上げればザワザワと葉が鳴った。
「樹が育つには長い年月と清い水と大地が必要だ。」
「水も地も汚染されていないものを与えています。」
「人の手が加わった物は駄目だ。自然に、微妙なバランスが必要なんだ。微妙な有益物と栄養、それが樹を育てる。今の地と水では樹は大きくならない。」
ギュッと拳を握る。
育たない理由が今分かった。簡単だったのだ、人の手が加わってはいけない、と。
そう思うと情けなく、悲しくなった。
この世界に、人はいらない。頭を鈍器で殴られた衝撃が走る。
「・・・璋。」
「庵、ありがとう。これは樹だけのことだけでは無いんですよね。」
「・・・あぁ。少なくとも啓翁はそう言っていた。」
「そうかぁ・・・・・・」
わき出す水は、樹を、植物を育てる。
長い年月をかけて、それらは育ってきた。研究室のような狭く、風も自然に吹かない場所なんかではなく、人の手が入っていないオアシスで。
少年の肩に手を置く。その手は庵のものだ。
「それでも私達は生きていくんだ。この世界で。」
彼の声が、いつまでもいつまでも耳に残った気がした。
一頻りオアシスを観察して、再び空晶に乗り庵の家へと戻った。
一晩でも泊まっていく事を庵は勧めたが、璋はすぐ帰ると遠慮した。すぐにでも研究室の土を、水を違うものにしたい。完全に自然な物は出来ないだろうが、少しでもそれに近い物を造りたかった。
樹の為に、生物の為に。
新たな目標が、決まる。
それを庵に言うと渋い顔をしながら承諾した。しかし、せめて送らせてくれと言うのでまた空晶に乗る。
荷物を持ち、ふと思い出したのは地図の事だった。
無くした時用に、と2つ持ってきている。庵の家の座標を登録し、1つはザックに入れた。もう1つは庵にあげる、と手渡す。
「これは?」
「地図。3D、僕が造ったんだ。」
へぇ、と庵は凄いというように地図を眺める。ここ、と指さして璋は笑った。
「僕がいる所。地図で見ると結構近いんだね。」
「あぁ、でもお前は3日かかったけどな。」
2人は笑う。貰っておく、と庵はそれをポケットへと仕舞った。
禽馬は膝を折り、前と同じようにして璋を乗せる。それに続いて庵が乗り、走り出す。徒歩で3日かかった道のりを空晶は1時間弱で駆けた。
白海のほとりまでつくと璋は飛び降りる。名残惜しそうにフカフカの毛並みを撫でて庵を見上げた。
「お世話になりました。」
「いや。」
「あの・・・さ。」
「何だ?」
「また来ても良いかな。」
庵はこの質問にきょとんとする。軽く笑った。
慣れてくれたのか、空晶が璋にすり寄ってくる。琥珀色の瞳は璋を映し出す。金白の毛並みはそよそよと風に靡いている。
「良いぞ。迎えに来てやる。」
「空晶で?」
あぁ、と庵は笑いながら手を差しだした。その手を璋は固く握る。
一人は慮の、璋。
もう一人は悟であり、導でもある、庵。
璋、庵、16の年の事である。
≪ 了 ≫ - 2003-08-11 11:14:38公開 / 作者:圭太郎
■この作品の著作権は圭太郎さんにあります。無断転載は禁止です。 - ■作者からのメッセージ
最後まで読んでくれてありがとうございました。
はじめて投稿させて頂くのですが、感想をもらえると幸いです。
上中下で少し長めなので不安ですが・・・
小説は短編から長編までサイトの方にいくつかあります。
興味を持たれた方がいれば、サイトの方にも遊びに来て下さいませ。
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結構世界観が不思議なカンジでした。続きもありそうなかんじ
2003-08-15 19:23:30【★★★★☆】raiuraiuさん、感想有り難う御座いました!非常に嬉しいですvvv続き、というより同じ世界観でいくつか書いています。もし宜しければ、サイトの方にありますので読んで下さい。ありがとうございました!!!2003-08-15 23:28:28【☆☆☆☆☆】圭太郎中国独特のセンス感を受け、「太公望」辺りを思い出させて頂きました。このような作品に出会え、ここに来てよかった。そう素直に思いました。2003-08-17 11:03:12【★★★★☆】かんかかんかさん、感想有り難う御座います!そういって貰えると非常に嬉しく、書いて良かった、と思いました。2003-08-21 13:37:01【☆☆☆☆☆】圭太郎計:8点
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