『女神』作者:天告 / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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本当は羨ましかったんだ、すごく。




女神




「強いよね」

揶揄を含んだ問いを知りもせず、君の前に咲き乱れる沈丁花。

雨に打たれたそれらも雨に沈んだ君も世界のものと思えないほどに美しい。

白い手が其れに触れて、茎を柔らかに引き寄せて口付けた。

甘い蜜を吸うような仕草は艶かしいというよりは神々しくて。

君の掌はけして戯れに命を奪わないことを承知で。

唇が捧ぐのはたんなる気紛れだと承知で。

夢想する少年のように惚けて見蕩れた。


「…に?」

雨の音に鈴の音が混じった、然し其れは聞き取れず。


「え?」

「なに?」


もいちど欲しがる俺に君は答えた。

其の問いの意味を理解しつつ、意地悪で。


「なにが?」


問い返して、絶望の意味は君の唇に捧げて欲しくて。


「なにが、強いの」

長い真紅の髪が肌に纏わりつく、ずぶぬれになってまるで赤い血を流しているようだと想った。

濡れて重くなった俺の金色はいったいどんな色に染まったか。

「神楽が」

名前で呼んだのなんて初めてで。

然し違いに途惑うことはなかった。

俺が君を呼んでも君は俺を呼ばないから、怖くなんかないんだ。

傷つけられても傷つけはしない君は本当に愚かで美しいよ。

ひとの痛みを一瞬の驟雨で流してしまわないきみは本当に強いよ。

「…どうして」

「普通は喚かない?」

「哀しいのが先」

「俺が嫌いじゃないの?」

「嫌いよ」

「じゃあ」

「でも、あのひと幸せそう」


ゆらり、花の笑み。

十何年の想い人を奪われた始末が花の笑み。

あのひとが幸せなら自分も幸せと、憎い俺に謂った。


「琴はずっと傍に居てくれたけど何時も哀しそうな顔してたの」

「、」

「あたしじゃ本当に笑わせてあげられないの、だから」

やめろ、と叫びかけて雨脚が強くなった。

強がって嘯くと信じた、頬に真紅の涙がこぼれないことに絶望して。

嫌いだと、嘘を吐いたのは俺で、本当はずっと羨ましかったんだ。

その凛とした横顔の儚げで傲慢な強さが。

本当に大切なもの一度も奪われたことのない俺は欲しがってばかりで。

ただひとつにしがみ付く君から奪ったんだ。

強い雨に打たれた沈丁花が首を落としたのと同時で。

「だから、」

白い手が其れを掬って口付けた、倒れた花まで愛しむ慈愛。


知っていたんだ、君が戯れに花を摘まないことを。
知っていたんだ、君がなにも奪わないことを。
知っていたんだ、君が俺にすらまく慈愛を。
しらないふりをした、君が泣いていることを。


「だから、ね」

やめろと謂うより先に擁いて。



「ありがとう」



掌の花弁を見詰めて、

腕の中の女神が確かに微笑んだ。





2005-04-24 11:32:02公開 / 作者:天告
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■作者からのメッセージ
え、と、オリジナル小説です。
要望があれば連載とかさせて頂きたいです。
この作品に対する感想 - 昇順
天告さんに語彙があるのはわかった。小説書いていくのにも向いているだろう。でも、ほかの人の作品を見てから投稿したほうがよかった。
2005-04-24 14:20:18【☆☆☆☆☆】clown-crown
初めまして。第一印象としては、やっぱり詩に近いものを感じたかな、と。詩としてならば非常に言葉も綺麗で洗練されていて、美しいものだったのですが、小説と呼ぶには少しばかり無理があるような気がします。他の方の作品を読んでみるなり、利用規約又は正規表現を読んでみるなりしてから執筆してみると、また何か変わってくるかもしれません。頑張ってください。言葉はホントに綺麗だと思いますよっ。
2005-04-24 14:52:43【☆☆☆☆☆】ゅぇ
初めまして甘木と申します。作品拝読させていただきました。皆さんが仰るように私もこれは詩だとしか思えません。詩としては綺麗だと思いますが、小説としては小説技法を放棄した単語の羅列に感じられます。これだけ綺麗な言葉を書けるのですから、描写や世界観にこれら美辞麗句を織り交ぜて書かれることを期待いたします。辛口に書いてしまいすみませんでした。では、次回作品を期待しています。
2005-04-24 17:12:46【☆☆☆☆☆】甘木
拝読致しました。皆様が仰るのと同じく小説ではなく詞に近いものを感じたので、そこは私のコメントでは省かせて頂きます。しかし、この技量を活かさない手はないです。この二人を主に持ってきて読者も二人に感情移入出来たところで、こういった表現を使うと、至極良い雰囲気が出るように思います。この作品はこれ一つで、というよりは、小説の中の添え物的に感じるのですが。
2005-04-24 18:15:07【☆☆☆☆☆】昼夜
拝読しました。あー……書く事とられたなぁ。辛口トークは皆様とそれ程相違ないのですが。淡淡と紡がれ洗練された言葉は綺麗と言う他ありません。しかし肉付けして行くにつれ霞む華やかさをどこまで止められるか、それが詩的な小説であって、詩とは全く違うものです。個人的に古い短歌・俳句・漢詩を読んでいる様な気がしました。次回作にこの美しさが生かされ、小説と成っている事に期待します。
2005-04-24 22:10:04【☆☆☆☆☆】京雅
作品と皆さんのご感想を読ませてもらって、つい書き込みしたくなりました。うん、あのですね、映画作りをイメージすると、あの世界には監督がいて、役者がいて、カメラさんがいてライターがいて演出家がいて、音楽監督がいて、大道具さん小道具さんがいて、エディターがいると。いや、もっとたくさん人がいますよね。それぞれがそれぞれの仕事をするわけです。
小説というのは、僕のイメージですと、そういうのを全部ひとりで作家がやるわけですよ(笑) 
この文章は、素材も感性もいいですね。でもそれは映画でいうならば、役者の芝居のみであったりだとか、カメラワークであったりだとか、単品ですね。今そこにある素材を、いろんな要素から眺めてみて、狡知に使いこなすことを企画して、それを統合する。僕個人としてはそういう作業が必要なんじゃないかと思うんですね。
2005-04-24 22:37:45【☆☆☆☆☆】タカハシジュン
読ませていただきました。言いたい事は他の方と同じですね。雰囲気作りが抜群に巧いなぁと思いましたが、それは詩的だからかもしれません。これをもっと膨らませて描写云々、ストーリー云々を練り上げれば淡い雰囲気の作品になったと思います。では、次回作を期待しております。
2005-04-24 23:17:58【☆☆☆☆☆】影舞踊
みなさんご感想ご意見有難う御座いました。
皆さんのアドバイスとても為になりました。
注意書きなど、きちんと読まずに執筆してしまって…。
詩ぽくなるのはわたしのコンプレックスでもあったので…。

お褒め頂いたことは伸ばし注意を受けた点は補えるように精進します。

では、有難う御座いました稚拙な文ですがまたお付き合い頂けると嬉しい限りです。
2005-04-25 19:48:01【☆☆☆☆☆】天告
計:0点
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