- 『文化コミュニケーション』作者:昼夜 / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
- 全角3790文字お願いですから、私に近づかないで下さい。
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原稿用紙約9.48枚
◆
私は人間が嫌いなんです。だって私を嫌うから。
人間はおかしいです。だって自分たちだって生きていく為に何かを口にしている癖に、ライオンなんかがシマウマなんかを殺して食べちゃうと可哀相なんて言うから。
でも、私も人間なんです。
「長嶺さーん」
嫌いな人間の声で嫌いな人間な私は振り返ります。長嶺って言うのは私の名前です。苗字。ながみね。綺麗でしょう。
「これね、先生が渡してって言ってた」
ごくり。私の喉が唾を飲み込みます。聞こえませんでしたよね。うん、多分大丈夫。
今私が話している人は上野良子さん。よしこじゃなくってりょうこさんね。結構ふくよかで、つやつやの肌をしてる。嫌いな人間の中で三番目に好き。
「ありがとう」
私は気持ちを悟られないように笑顔でプリントを受け取ります。私が嫌われてるっていうのは、私の本質であって、学校での私や他人と接する私が決して嫌われてるわけじゃありません。
新入生歓迎会、か。プリントはポップな写植でアピールしています。
めんどくさいけれど、行かなくちゃ。ううん、本当は行きたい。
ごくり。
私にも一応友達はいます。でも名前も曖昧。興味がありませんから。
人間でいるための隠れ蓑なのかもしれません。私は人間ですよー、普通に友達とも喋ってますよー、って。ふふ、馬鹿みたい。
「優子聞いてる?」
ああ、聞いてませんでした。聞いてたよー、なんつって。
優子は私の名前です。優しい子。きっと私と嗜好の合う人には優しく出来るんだろうな。けれどきっといません。だから私は冷たいんです。
「もう〜、絶対聞いてない、あんたの肌の話だよ〜」
あらあら、すいません。
「肌?」
「そうそう、ものっすごい綺麗だよね、って話。化粧ほとんどしてないからかもしんないけど、ほら、こんなすべすべしてて」
友人B子ちゃんの指が私の頬に。ああ、やめて。あなたの指細過ぎるよ。
「たんぱく質と鉄分とカルシウムがいいのかも」
「なあに?」
「サプリメント」
私は鞄からサプリメントのケースを取り出した。
「ああね〜、あたしもやろっかな」
う〜ん、サプリメントが効くかは判らないですよ。
あ、目が合った。
教室で私と対角線向こうに座った和中勇馬くん。さらさらの黒髪。鋭い瞳。つやつやの肌。
ごくり。
すてき。嫌いな人間の中で一番好き。
「ちょっと、聞いてる〜?」
ああ、聞いてませんでした。
◆
和中くんとはあまり話したことがありません。
というか、私は気に入った人とはあまり話さないようにしています。
人間でいる為に。
きっと意味が判らないと思います。勘のいい方はもう私の嗜好にお気づきかもしれませんね。
でも気付かれたら、私の射程範囲外の方でも私は行動せざるを得ません。人間でいる為に。
とにかく、気に入った人が近くに居ると駄目なんです。
私のリミッターがいつか外れてしまいます。もう、既に外れかけているけど。
学校ではまだ人間で居たいんです。どうしてでしょう。和中くんに恋をしているのかな。
何て報われないの。
◆
「長嶺」
前身総毛立ちました。
「……はい?」
明らかに動揺してしまいました。だって和中くんが声をかけてきたんだもの。
「一緒に帰らない?」
「――はい?」
“YES”なのか疑問なのか曖昧な答え方をしてしまいました。でも断る理由はありましょうか。いや、あるんだけど。
人間の部分の私が一緒に帰りたがって居ます。
「嫌?」
さらさらの髪が頭を動かす度にはらはら動きます。きれい。それから、つやつやの……。やめてください。私は今こそ人間でいたいのです。
私は自分の考えを吹き飛ばす意味も込めて首を左右に振りました。
「やったね」
友人ABC子ちゃんがピースサインを私に出します。私が和中くんに恋してたって知ってましたから。恋してたことだけしか知らないけれど。
何だか緊張します。
靴もこんなに履きにくかったかしら。
「……ごめんなさい」
もたもたしてしまったので謝りました。
「何で謝る」
そんなに真顔で言われると困ります。
「あの、なんで帰ろうと思ったの、ですか?」
変な敬語になってしまいました。和中くんは照れ笑いします。
「帰りたかった、っつうか。俺、長嶺のこと好きなんよ」
うはあああ。顔が一気に熱くなりましたよ。
「あ、あの、私、顔赤くない?」
「赤い……俺も赤くない?」
「――赤い」
和中くんがくすくす笑ってます。私もくすくす笑ってしまいます。嬉しい。嬉しい。楽しい。ごくり。
ああもう、邪魔しないで。この人は違う。やめよう。
「返事はそんな焦んないから」
和中くんが背を向けます。
「…………」
私は何も言えずに後を追います。どうしたらいいのでしょう。私も好きなのに。
でも、ここで好きって言ってしまったら私たちは付き合うんでしょうか。それはどうしても避けなくちゃ。
他愛もない話をして私と和中くんは帰路を歩きます。
「今日、一緒に帰れるだけでかなり嬉しい」
本当に照れます。彼はこんなこと言う人だったんですね。
「ストレートなんだね」
「……照れるけど、今言っとかなきゃ後悔するし」
嬉しい。のに。
「でもね」
和中くんは私の声で少し赤みがかった顔をこちらへ向けます。
ごくり。
「どうした?」
ああ、もう駄目。やっぱり一緒に帰るんじゃなかった。
「長嶺?」
ほんのり赤い肌。くるくるした瞳。つやつや。きらきら。
ごくり。唾が溢れて止まりません。まだ私の家まであと十分程ありますよね。駄目だ、駄目だああ。
「こっ、ここまででいいよっ」
私の必死の懇願に彼は首をかしげます。当然だ。
「何で?」
「うんと、ええと、とにかくっ。いいの」
「……断るならはっきり断ってくれていいから」
捨て犬みたいな目です。ごくり。ああ、もう本当に駄目だ。もうリミッターが外れかけてる。
「違うの、私、和中くんが好きなのっ」
言ってしまった。
「ほ、ほんとに?」
私の様子がおかしいのでいまいち信憑性にかけるようです。でも、ほんと。好きなのはほんと。
「でも、でもね」
「でも?」
「私、きっとあなたと上手くやって行けない」
これもほんと。
「……よく解んないからさ、えっと、ほら、そこの公園でちょっと話でもせん?」
何てタイミングで公園があるの。(創作だから)昼夜とかいう人の突っ込みはいらないの。私はテンパってるの。
だって、そうでしょう? これ以上一緒にいたら。
「ほら」
さりげなく彼の手が私の手に触れました。
じゅるり。
リミッター外れちゃった。
「うわっ――」
もう、声出せないでしょう。声帯を先に食べることにしてるから。
大丈夫よ、見つかる前に全部食べてあげる。丁度お腹も空いてたの。タイミングよく公園があったからそこでゆっくり頂くことにするね。
う〜ん、男の子ってやっぱり重い。びくんびくん跳ねないで。運びにくい。
ぷりっ。
やっぱり、この肌は弾け方がいいと思ったのよ。
ちゅる、ちゅる。
はあ〜っ、この味がたまんない。一滴も零せない。
こりっ。
和中くんて運動部だったもんね。筋がほんと美味しいよ。
かしゅ、かしゅっ。
骨もいい歯ごたえ。人間って全部食べれちゃうから魚なんかよりすっごくいいわ。
それからデザート。
脳、脳味噌。のうう〜。
ぐしゃぐしゃ。おいしいいい。
もうびくびくしなくなったね。あ〜あ、零さないつもりなのにいつも地面には赤いジュースが広がっちゃうんだ。
ふう、私にもかかっちゃった。勿体無い。ちょっとくらい舐めとこう。
あ、涙出てる。
私は悪いの?
だって、そんな美味しそうな体を私に近付けるなんて、食べてくれって言ってるようなもんじゃない。
ごちそうが目の前にあって我慢できるほど私人間じゃないの。
私は悪いの?
だって、あなたたちだって他の生き物を食べて生きているんじゃない。
人間が一番偉い生き物だと思ってるなら大間違いなんだから。
偉い生き物なんていない。
醜い生き物ばかりよ。
◆
私には好きな人が出来ます。
それは食としての魅力なのか、異性としての魅力なのかはまだわかりません。
ただ、その人に近づいて、唾を飲み込んでしまったらきっとそれは食としての魅力なのね。
でも確かに好きだという想いはあるのです。
それを感じながら食べるのは辛いです。
だけど、私は食べることを辞められない。
◆
お願いですから、私に近づかないで下さい。 - 2005-04-14 03:04:55公開 / 作者:昼夜
■この作品の著作権は昼夜さんにあります。無断転載は禁止です。 - ■作者からのメッセージ
ほんとはタイトル食文化コミュニケーションにしたかった昼夜です。ちょっと訂正したのでUPになりました。
なんてことでしょう。ショート書いてしまいました。
さあ、これでいよいよ物書きが停滞すると思われます。ロックを着々進めねば。
ていうか、かなり脱力感溢れる御話ですいません。ちょっとホラーですか?(聞くな
読んでくだされば感謝。批評・感想頂ければ狂喜乱舞。
これはコミカルさ重視でラフに書いたものなので、細かいところは甘いかもしれませんね。それでは。
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怖ぁ……あ、すみません、勝手に心の声が出てしまった京雅です。一言でまず面白いと宣言しておきます。普段読み慣れない女の子口調だっただけに受け入れられるかどうか心配だったのですが(ほら、中途半端に女の子口調の小説って偶にあるじゃないですか)そんな危惧も必要なかったです。ギャグか恋愛かを予想していたのですが裏切られるってのは楽しいものです。予想の範囲外だった、ってのがこの京雅を一番喜ばしてくれるもので御座います(いや、そんな事はどうでもいいのですが)ちょっとクスっときたのは貴方に突っ込みをいれていたとこで……いいなぁ、そういうのはちゃんと他の部分が纏まっていないとおかしくなるもんなぁ。ではでは、暫く停滞するとの事ですが、次回作にも期待してますので、ロック(私には何の事やら解りませんが)の方も合わせて頑張って下さい。
2005-04-14 03:31:00【★★★★☆】京雅うわぁ、朝っぱらからスプラッター。朝ご飯食べながら読んでいたから長嶺と同期していました。ひょっとしたら私ってもの凄くラッキーな読者じゃなかろうか……あぁ朝ご飯が美味しい。ところでホラーとコメントされていますけど、リミッター外れて以降はなんだかギャグを読んでいるようでした。そこはかと可笑しいです(私の感覚がいかれているのか?)。でも、ひと一人食べ尽くせる胃袋ってどんな胃袋なんだろう? では、失礼します。レイヴァー達の活躍を期待しつつ新作も待っています。2005-04-14 08:10:28【☆☆☆☆☆】甘木ぐぇっふ。何だ、ただの天邪鬼な可愛い女の子の話かと思って読みすすめていたあたしは寝ぼけていたのか(笑。いやしかし、何、学校へ行く前にのぞいてみたらこんな何ともいえない作品が。まぁでも、まあまあグロイ表現が苦手なあたしではありますが、そこまではホントすらすら楽しく読めましたよん♪凪とコミュニケーションと、作風の違う作品を読ませていただいてありがとですっ★それではロックライフ執筆、頑張ってください。2005-04-14 10:10:30【☆☆☆☆☆】ゅぇおぉ、なんじゃこりゃな一作。楽しく読ませていただけました。どうせならもっとはじけまくって、もう何でもありというか、ラフさ溢れまくりな感じに仕立て上げてもよかったんじゃないかな、とも思います(意味不(無視してください 新手の吸血鬼とかそんな感じの話かと思っていたら、普通に人喰いでした(笑 ラフに書かれた作品と書かれていますが、読みにくいこともなくショートならではの何も残らない(超失礼)読後感でした(いや、実際は人の食と言う概念に対して色々と考えたりするわけですが(笑 ロックの方も焦らずお待ちしてますので。2005-04-14 15:08:15【☆☆☆☆☆】影舞踊……えげっつないスプラッター書きよんなあ、マジでぇ(何弁?(マテ) ゲフンっ。何なんだろうか、これは。これもほのぼのラブ・ストーリーのショートかと思って微笑みながら読んでたら唐突に食われちまったよ……。うおおい、長嶺ちゃん、君は一体なんだ、UMAか、UMAなのかっ!?未確認生物バンザーイ!!(黙れ) 長嶺ちゃんの正体は誠の人間で人を食うのか、それとももっと別の理由があるのか、そんなことを真剣に悩みつつ、神夜でした。2005-04-14 16:18:38【☆☆☆☆☆】神夜私も人間に限らず子犬・猫・ハムスターなど、思わずうるうるしてしまう生き物を見ると、「美味そう」と感じるたちです。誰も見ていない時には、あぐ、と頬張ったりしますが、やはり噛みちぎって嚥下すると入院させられそうな気がしますし、人間の赤ん坊などだと逮捕されてしまいそうなので、食べないようにしています。ハムスターは、あぐ、の段階でパニックに陥りますが、人間(主に赤ん坊)・子犬・猫あたりは、あんがい気持ちが良さそうです。――論点が違うかもしれません。しかし、美味しそうでチャーミングな作品だと思いました。2005-04-14 17:04:26【★★★★☆】バニラダヌキ穴があったら、入りたい。床があったら、ぶち抜きたい。川があったら、飛び込みます。どうも、訳の分からない前置きですいません。さて、感想を。自分としてはもうちょっと騙し感を入れて欲しかった。例えば、喋れなくしたのを「私は彼の唇をふさいだ」みたいな。そんな直前まで勘違いできるような。面白かったのですが、ちょっと終りまで一直線みたいな感じがしたのが残念でした。言い方を変えれば、もっとドキドキさせて! みたいな(どこの恋する乙女だ、おっとこれはセクハラか)。あと長嶺さんの語り口調が個人的に大好きです。あ、私もタイトル食文化コミュニケーションの方が良かったです。読んだあとほのかに香るスプラッタの香りみたいな。でも個人的にはコメディ作品だと信じています。私はコメディ大好きだし。では2005-04-14 18:42:52【★★★★☆】うしゃとてもおいしかったです。オカワリありますか?
人間はおいしいそうです。人間と知らずに食べればおいしいのかと思います。語り口も絶品です。これがラフなら本気はもっとおいしいでしょうね。ご馳走さまでした。2005-04-14 22:14:28【★★★★☆】clown-crown皆様こんなグロコメ(新ジャンルみたくすんな)をお読みくださり誠に有難う御座います。
京雅様--怖いだなんて嬉しいじゃないですかあ。歓ぶとこ違った。長嶺が受け入れられて安心安心。和中を殺すのは情が入っちゃって無理かなあなんて思いながら書いてたら意外と流れに沿って殺せちゃいました。あれ、何か怖いコメントだな。あそこの突っ込みは読者様の気持ちも代弁できるかな、という意味も含め。説明を省いたみたいなもんですね(笑 ロックとは過去ログに入ってる作品で御座います。うわあ、宣伝。ごめんなさい。
甘木様--朝っぱらから美味しい食事の助長が出来た(のか?)ことに嬉しく思います。私としてもコミカルさ重視で書いていたのでホラーだとは思わないですが、読む人によるかと。想像してしまったらやっぱりグロホラーかな。ということでグロコメです。長嶺は胃袋が進化しています。
ゅぇ様--うわあ、『ぐぇっふ』ってそんな(笑 寝惚けておられたことに感謝です。学校行く前にお目汚し申し訳ありません。というか、苦手なのに読んでくださって(まあ知らずに読ませた訳ですが)作者冥利につきまする。物凄く美味しい食べ物だと思って後半を読んで頂くとコミカルかもしれません。ロックの応援まで有難う御座います。
影舞踊様--なんじゃこりゃな作者です(マテ あんまりグロくするとグロコメじゃなくなってしまうので(しつこい これぐらいのハジけ具合になったのはですね。ぶっちゃけネタバレ怯えてました(コラ いやあ。しかしネタバレはしなかったようで自己満足ではあります(笑
神夜様--えげっつない作者です(ヤメレ 微笑みも冷凍させます。長嶺、ほんと何なんだろう。作者にもわかりません。というか、親が見てみたいよ、親が……あ、あんまりこんなこと言うと後ろからがぶっといかれますのでやめておきます。神夜様も食われないように程々に悩んでください(ぇ
バニラダヌキ様--そうですね。人間である限りやめておかねばならないでしょう。人間やめたら仰ってくださいね(マテ 美味しそうでチャーミング。私のことでしょうか?(ぇ
うしゃ様--穴があったら埋めてしまいたい、床があったらはがしてしまいたい、川があったら全部水飲むぞコンチクショウ。え、お題じゃなかったんですかごめんなさい。もうラフですからね。全てラフのせい(コラ 引き伸ばしたら私の腕じゃあきっと上手く纏め切れませんでした。力不足也。普段からせざるを得ない日常のボケ突っ込みがここで生かされたようです。あう、ネタバレ怖い。とりあえず、うしゃ様をセクシャルハラスメンツで訴えようと思います(ぇ
clown-crown様--おっと、本日品切れとなっております。次回は貴方様をメインディッシュにしたいと思います。御覚悟あれ。栄養満点人間サマサマ。本当にラフに書きましたが、本気も解っていない作者です。
皆様食文化コミュニケーション講義に参加頂き誠に有難う御座いました。2005-04-14 22:48:25【☆☆☆☆☆】昼夜計:16点 - お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。