『雨の日に』作者:霧谷 のあ / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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 ある日の夕暮れ、僕は湖のある森の中にいた。どうしてそこにいたのか―それは、僕の住む村はあまり雨が降らずいつも水が不足しているので、毎日どこの家も子供が近くの森の湖から水を汲んでくることが仕事だったからだ。今日はもう遅くなっていたので、僕以外には誰も水を汲みに来てはおらず、一人で少し薄暗い木々の間を、落ち葉を踏みしめながら歩いていく。

 水を汲んだ帰り道、両手に水をすれすれまで入れたバケツを持っているとさすがに疲れるので、地面にバケツを置いて僕は休んでいた。
「いいかげん、雨が降ってくれれば楽なのになぁ…。」
ふとそんな独り言がもれる。しかし、そんなことを言っていてもどうにかなることではないので、またバケツを持って歩き出そうとすると、遠くに年齢が僕と同じ位に見える少女が目に入った。僕の住む村は人もそんなに多くはないので、ほとんどの人の顔と名前は頭に入っている。ましてや自分と同じ位の少女なんて、ほんの数人しかいない。だから、ちょっと見ただけで村の人ではないということは分かった。
「どうしたんだろう、こんなところにくるのは村の人の水汲みくらいのはずなんだけど…。」
ちょっと考えてから、近づいて話してみようかと思った時にはもうすでに少女は森の奥へと消えていた。いったい何だったのか分からなかったけど、とりあえず早めに帰ろうと思い僕はさっさと歩き出した。
 その時だった。急に辺りが暗くなってきたかと思うと遠くから雷鳴が聞こえ、薄暗かった森が真っ暗になる。木の葉が風で揺られてこすれる音がだんだんと大きくなり、まるで森に住む魔女が不気味に笑う声のように聞こた。そこは、僕がいつも歩いている森とはまったくの別世界に見えた。そしてさっき僕が望んでいた…雨が降り出した。まるで滝のように、激しい雨が。
「前が…見えないよ。」
さきほどまで僕は雨が降ってくれないかと思っていたのに、今はその雨のせいで前に進めなくなっていた。

――僕がないものねだりをしたから?

 そんな言葉が頭の中をよぎる。
 どうしようもなく僕はただ地面に伏して倒れこんでから、いったいどのくらいの時間が経っただろう。周りの地面は水浸しで、当然僕の服なんかはもう完全に水を吸っている。これからどうなるのだろうと、ぼんやり考えてきたとき、ふいに腕を掴まれて誰かに引っ張られた。びっくりして起き上がると、目の前には…少女がいた。多分、さきほどの彼女だろう。
「大丈夫ですか?」
少女はあまり感情のこもってはいない声で、僕の顔を覗き込むように聞いてくる。
「あ…うん。」
突然のことに何を話していいか分からず、僕は必要最低限の答えだけを返した。
「ごめんなさい、私が確認しなかったから。」
「……え?」
少女が何を言っているのか僕には分からなかった。そして少女は僕に向かってこう言った。
「私は、雨詠み人…。この雨は私が起こしたものよ。」
 最初、僕はそこまで聞いても何を言いたいのかが理解できなかった。でも、頭の中で整理をしていく中で、やっと僕は分かった。
「君が…雨を降らせてくれたの?」
黙って少女は頷く。
「雨を降らせるのが、私の役目だから。…でも、いつでも好きに降らせられるわけじゃない。」
 不思議な少女だった。もちろん雨を降らせるなんてそれ自体も不思議だけど、話し方も雰囲気も、今まで感じたことのない神秘的な空気を感じた。



 それから村に帰ってその少女のことをみんなに話してはみたけど、気に留めてくれる人はいなかった。でもその日以降、彼女と話はできないけど雨の降る日には必ずと言っていいほどその姿を見かけた。

 名前も知らないけど、今でも雨の降る日は僕の前に少女が現れないかと思って、僕は外を眺めている。

2005-04-10 15:10:30公開 / 作者:霧谷 のあ
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■作者からのメッセージ
 どうもはじめまして〜。題名にあるように雨がメインで一応ファンタジーっぽく書いてみました。短編って実は苦手なのですが、どうでしょう…何か感想をいただけるとうれしいです(^^

 えーっと、ジャンルがファンタジーではない方が良いというご意見をいただいたので、文章表現を直すのと同時に、ジャンルを未分類に変更いたしました。
この作品に対する感想 - 昇順
なんとなく好きです。特に前半の部分がいい。特に特に最初の段落。物語の全体の雰囲気がその段落だけでも出ていて、これだけでこの作品を期待させられてしまった。FTと知らずに読んでいればもっと楽しめたと思う(いまさら仕方ないけど)。ちょっと苦言。私としては少女自ら正体を明かす発言はしなかった方がいいかな、と。あくまで私としては、ですが。
2005-04-10 00:06:25【☆☆☆☆☆】clown-crown
この設定ならばファンタジーじゃなくてもいいよなぁと独り言。と、初めまして。clown-crown様と同じですが、自分も少女は何も語らずのほうが物語に深みが出たと思います。個人的にはどこか山場が欲しかったですかね。もう少し長く書いてみればいいんじゃないかと。次回作も頑張って下さい。
2005-04-10 00:27:20【☆☆☆☆☆】影舞踊
作品拝読させて頂きました。優しい気持ちになれる良くできたお話でした。でも、clown-crownさんや影舞踊さんが書かれていますが、私も少女の正体は不必要だと思います。それと超常現象だからとFTにする必要はないと思います。このストーリーでしたら現代物でも十分に読者に受け入れられると思います。というか、もう少し長く書いても面白いのではないでしょうか。それでは、次回作品を楽しみにしています。
2005-04-10 01:03:20【☆☆☆☆☆】甘木
拝読しました。最初から中盤辺りの雰囲気はぐっと読み込んでしまう感じがします。何より雨という題材は好む所です。文章自体も読み易いですし……ただ、同じ意見になってしまうのですが、少女は不透明な存在でもよかったかなぁと。次回作に期待しつつ、今日は雨が降っているので家に籠る私です。
2005-04-10 14:06:07【☆☆☆☆☆】京雅
 ご意見ありがとうございます。前半部分が良いと批評いただき、嬉しい限りです(^^) 皆さんご指摘のファンタジーっぽくないことと、少女の正体について…そうですね、少女の正体を明かさない方が雰囲気ももっとすっきりしそうですし、ジャンルもファンタジーでなくてもよさそうですね。あと、やっぱり山場と長さに問題あり…精進しなければ。次回もがんばりますっ
2005-04-10 14:56:57【☆☆☆☆☆】霧谷 のあ
冒頭は不思議な感覚が伝わってきて、少年のリズムよい思考回路が作品の神秘さをぐっと引き立ててくれた気がします。でも、後半少女がでてくるあたりから少しづつ欠陥がでてきてしまったような気がします。「私は、雨詠み人…」と名乗ったところで、それが決定付けられていまい残念に思いました。
2005-04-15 16:49:17【☆☆☆☆☆】菖蒲
計:0点
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