- 『と・い・き』作者:liz / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
- 全角1500文字ポーン。
容量3000 bytes
原稿用紙約3.75枚
どこからか透明なピアノの音が聞こえてきた。綺麗な音色だな、と耳を傾ける。
ポーン。
たった一音だけ。だけど、とても耳に残る。どうしてだろう。心に残る。
私にとって、この一音が彼と出会うきっかけになった。
彼と出会ったのは、そう、とある旅先。小さな中庭のある邸宅で。私は知人の紹介でそれとなく訪れた旅先の邸宅に1ヶ月ほど仮住まいさせてもらうことになっていた。その邸宅は思ったよりも広く、プールもあり、中庭もあり、広い敷地にはテニスコートもあった。この邸宅の主は、人柄のよい老夫婦で、私を温かく迎え入れてくれた。広い家なので、家政婦を2人ほどやとっているという。私は、2階の1室を借り受けることになった。木の温もりが感じられる暖かな部屋。大きく取り付けられている窓辺からは、さんさんと輝く太陽の光が室内を明るく照らしていた。きちんとベッドメーキングされたベッド、机。ウォーキングクローゼット。全てに温かみが感じられる。
しばらく室内を見渡した私は、淡い水色に統一された室内の壁に、1枚の絵がかけられているのを見つけた。
「なんて、綺麗なんだろう。」
ただ、青く塗られたキャンパス。それが壁際にかけてあった。青。私は、こんなに綺麗な青を見たことがない。澄んでいて、深みがあって。今まで見たことがない。
青とは、こんなにも美しいものだったのだろうか。
私は、旅先で、大切な何かを発見したことを、ほほえましく思った。
初めてここの部屋に来て、1週間が経とうとしていた。ここでは、時がゆっくりと流れている。私は、言い忘れたかもしれないが、詩人であり、画家である。ここには、新しい詩集を作りに来た。窓を開けた。光とともに吹きそよぐ風は、私の心も体も癒してくれているようだ。
ここに来たのには理由がある。
私は、スランプに陥っている。
というのも、自然の声が聞こえてこない。私は、子供の頃から、自然の声が聞こえてくるたびに彼らの声を友達や、両親に語って聞かせていた。
「私ね
たんぽぽさんの
お話声が
聞こえたよ!
今年は
泣き虫空さんが
笑ってばっかりだから
こっちは喉がカラカラになっちゃって
大変じゃないか!
タンポポさんもね
愚痴ばっかり言ってないで、
笑えばいいのに。
て私が言ったら
タンポポさんが
目を丸くしたの!
おもしろかった!」
子供の頃の私の詩集ノートは詩じゃなくて、おしゃべり。だけど、今の私よりもずっと、ずっと無邪気で。自然の声が聞こえてた。
目を閉じて、私は自然の声を聞こうとした。だけど、全然聞こえない。
今日も、私の真っ白なキャンバスに、言葉が描かれることはなかった。
次の日、私は、虚しさを抱え込みながら、中庭を散歩することにした。
ポーン。
空耳かな?
ポーン。
ピアノの音かな?私は、辺りを見渡した。そして、一音。間をおいて聞こえてくるその一音を手繰り寄せるかのように、音のするほうへ、近寄っていった。すると、そこは、私のいる建物の1階の窓の向こうから聞こえてくるものだった。私は、窓の向こうの人影を覗き込んだ。
一人の東洋人が真剣な眼差しでピアノと向かい合っていた。
私は、ピアノを真摯に引き続ける彼を、息を殺して見守った。
ポーン。
ポーン。
と、急に、彼は手を止め、こちらを振り返った。 - 2005-03-26 04:06:17公開 / 作者:liz
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短編です。いやー、短すぎるかもしれませんが、また書かせてもらいます。よろしくお願いします。
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私も人のことは言えないのですが、少し描写が少ない気がします。ですが、文章の独特の雰囲気がすごく良い小説だと思います。
では、続きを期待しています。2005-03-26 15:24:07【☆☆☆☆☆】小田原サユ続きも期待しています。 (簡易感想)2005-03-26 23:21:00【☆☆☆☆☆】影舞踊計:0点 - お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。