『貴方に贈る言葉…』作者:石田 壮介 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約2.7枚

 私は妻として…。唯一残されたあなたの伴侶として、尋ね続けたいと思う。

「あなたは、浮気をしたの?」

 ギィ…ギィ…と柱が軋んでいる。老朽化した我が家のど真ん中で私は夫に尋ねた。夫は黙して語らなかった。

「ねぇ、浮気したの?」
「………」

 森閑とした室内。夕闇は地平線へ溶け込み。強い橙の斜光は今や消えんとしていた。そうして、夜と言う存在が、私の心に絶望と混沌を運んでくるのだろう。三度目の夜を迎え、私はうんざりしてきた。それでも、私は諦めてはならないと思った。それは、私にとっての「けじめ」だと思われたから…。

「あなたは、300万の借金があったそうね」
「………」
「私には、借金する位なら、働くって言ってたじゃない。あれはウソだったの?」
「………」

 私の声は空しく室内に木霊する。金色の畳と灰色の襖の強いコントラスト、それは時が止まったように身じろぎ一つしない。ただ、ギィ…ギィ…という軋みだけが、私の心をあざ笑うかのようで、その度に狼狽の色は深くなっていった。
 上に住んでいるおばさんの重たそうな足音がズシズシと響いた。この隅田川沿いの小さなアパートに移り住んできた当初は幸せだった。貧乏だったけれども、いつかそのうち立派な屋敷に住もうと夢を語った二人はきっとどこまでも行けると思っていた。彼のミュージシャンになると言う将来は、約束されたものであると信じていた。私はパートに勤しみ、彼は夢へと邁進した。仕事を終えた後、二人洗面器を持って向かった銭湯。なんか何処かで聞いたようなシチュエーションだけれど、私はそんなレトロが大好きだった。そうして、このレトロがやがて私達に幸福を齎すエッセンスだと思っていた。それなのに…

「あなたは裏切ったのよ」
「………」
「参列に来た人は、揃ってあなたに線香を与えない」
「………」

 私は嘆息した。そうして、私はもう何度目であろうか。自分は我に返って、気違いであるという事を自覚する。
 私は彼が黙り続ける理由を知っている。それは自分が自分で在り続けたいからだ。理想の夫として在り続けたいからだ。それが例え、隠し通せないと解っていても。だから、あなたはこうして自分を吊るしてユラユラと揺れ続けているのだ。紐で自分の首をきつくしめて、自分は喋れませんと暗に言い訳をしている。本当にずるい。
 私はあなたが大好きだった。それだけは変わらぬ一握りの事実として残っている。だから、一言だけで良いから…。

「あなたは、浮気をしたの?」

2005-02-28 03:10:59公開 / 作者:石田 壮介
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■作者からのメッセージ
 え〜、即興で書いた代物です。
 書いてて、一寸胃が痛くなりました笑
この作品に対する感想 - 昇順
ども、ねこふみです〜ヽ(´∇`)ノなんかモノクロというのか、レトロというのか、自分的にはこの雰囲気は好きdですねぇ♪えぇっと、もっとボリュームが欲しかったな〜と。即興ということですが、それをもっとエピソード、(例えば、借金した理由とか)など増やしてもらいたかったかなぁ〜、その「浮気」についても。石田壮介さんの次回の作品も期待しております(-ω☆)
2005-02-28 08:22:29【☆☆☆☆☆】ねこふみ
もう少し細かい描写が欲しかったです。(簡易感想)
2005-02-28 15:34:34【☆☆☆☆☆】夜行地球
軽く読めてよかったです。(簡易感想)
2005-02-28 15:46:55【☆☆☆☆☆】ゅぇ
初めまして、読ませていただきました。夫が返答をしない理由がオチだと思われますが、案外読めた展開でした。ですが、ギシギシとなっていたのがその伏線だったわけで、なかなかいいなぁと思ったのですが、それだけという感も否めません。何と言うか、もっと捻って複雑にボリュームのある文章ならばもっと面白かったなぁと思います。(まぁ。これはこれで味があると思ったのですが 文章としてはしっかりしてて、どこか古風で見習わなければと思わせられました。辛口ですみません。ご気分を害されたなら謝りますし、次回作からは甘口で(笑 次回の石田様の作品も期待しています。
2005-02-28 16:58:05【☆☆☆☆☆】影舞踊
お久しぶりでございます。3行目の「ギィ…ギィ…と柱が軋んでいる」で、すでにこの旦那様のぶら下がっている光景が、ありありと見えてしまいました。この妻がぶら下げたのか、自分からぶら下がったのか――その興味で情景の続きを見守ったわけですが、この妻の淡々とした血の滲むような問いかけに徐々に取り憑かれ、ちょっと名状しがたいもの狂いを覗き見てしまったような――怖くて悲しい気分です。私としては、この短文でこの情景と背景を描ききる腕は、お見事だと思います。文面そのもののビジュアル的な効果として、もう少々改行を多用しても良かったようにも思います。
2005-02-28 18:54:51【★★★★☆】バニラダヌキ
お久しぶりです、読ませて頂きました。スラっと読んで、スラっとやられたって感じです。もう一度読み直して改めて「おぉっ」みたいな(笑) オチ云々はとこもかくとして、そこへもっていくまでの細々とした描写が実に上手い。バニラダヌキさんと同意見なのですが、もう少し改行があればさらに良かったのではないか、と思います。しかし……この短さでよくこれだけの描写が詰め込めるますね。それが素ですごいと感じる神夜なのです。
2005-02-28 19:59:07【★★★★☆】神夜
お久しぶりです。私も渋太く生きてます(笑)。「ギィ…ギィ…」の時点で、ネタがバレようがバレまいが作品の出来には何の影響もない、という不思議と面白い作品でした。読者に対しては「借金苦」を想像させる雰囲気の中で、妻だけが唯一人「浮気」をしつこく追及する様が妙に浮いていて何とも不気味です。
2005-02-28 23:00:11【★★★★☆】明太子
 ねこみみさん、夜行地球さん、ゅぇさん、影舞踊さん、バニラダヌキさん、神夜さん、感想ありがとうございます。
 今回は、伏線も何にも考えずに書きました。そうして、実は問題作でもありまして、タイトルにその全てを凝縮させたつもりです。柄にもなく自分らしい小説を書かなかった事を今更ながら恥じております。
 ただ今、投稿用に長編の小説を書いておりますので、今後ともよろしくお願いします。
2005-02-28 23:02:21【☆☆☆☆☆】石田壮介
 おぉ!明太子さん、お久しぶりでございます。すこぶる懐かしく思います。実際にコミュニケーションを取るのは、ややともすると半年を越えるのではないでしょうか。ぇー、前レスの通りでございますwそんなご大層なものじゃございません。ただ、激情の果てに生まれた産物であります。
 今後ともよろしくお願いします。
2005-02-28 23:08:45【☆☆☆☆☆】石田壮介
おもしろかったです。 (簡易感想)
2005-03-01 01:06:49【☆☆☆☆☆】Town Goose
『むぅ』。本文を読んで唸りました。『むぅ』。感想を読んで唸りました。どうもお久しぶりです、村越です。いかんなあ、感性鈍ったなあと実感してしまいました。いや、正確に言うと鈍ったのは感性というよりも読解力ですかね。個人的には、最後まで柱の軋みの理由に気づきませんでした。いかんなあと思いつつ、さすがの描写力と暗い雰囲気が個人的には○でした。
2005-03-01 19:35:36【★★★★☆】村越
ほう!って感じです。ギシギシといいう伏線がなかなか来てる作品でした。
 次に指摘ですが(余談ですが最近感想の書き方を変えました)短いからいいかなーと思いましたが、やっぱりちょっと読めたというかなんと言うか・・・もう少し一ひねりあればよかったんですよね〜 自分なら…ちょっとわからないなあ(汗) 
2005-03-01 21:03:25【☆☆☆☆☆】貴志川
お久しぶりです!!覚えてますか?実はいつだか、作者検索すると私は石田壮介さんの上か下だったんですよ(知らねーよ…) こんなに短いのにストーリーは最初から最後まであって、凄いと思います。流石です。でも、私も他の方と同じく少しオチが読めてしまったので、次回は何かどん!というのを持ってくると良いと思いますv(下っ端のくせにスミマセン><) それでは、石田壮介さんの次回作も期待してます!
2005-03-01 22:05:14【★★★★☆】千夏
 Town Goose様、村越(ビールの妖精)様、貴志川様、何だかんだと縁がある(運命?)千夏様、ありがとうございます。
 こんな駄作に、これ程のレスが集まるとは正直思いませんでした。感情の赴くままに書きました。はっきり言ってしまうと妻は私です。(注:女ではありません!比喩ですよ!)その妻の訴えなのです。笑(意味わかんねー&キモイ?)
 次は長編を書こうと思っています。毎度挫折してますが…汗 かききれるように頑張りたいと思いますので、よろしくお願いします。
2005-03-01 23:16:56【☆☆☆☆☆】石田壮介
あぁー・・・。なんか、たぶんあたし、だーりんが死んだら、きちがいになるタイプなので、読んでて痛かったです。もっとボリュームが欲しかったなと思う反面、でもこの量だから、主人公の気持ちが、潔く痛切に読めてしまうのかなとも思ったり。次回作にも期待してます。
2005-03-04 02:22:26【☆☆☆☆☆】シヅ岡 なな
お久しぶりです。話としては面白かったんですけど、設定がレトロチックすぎかなと…。そこも狙いなのかもしれませんが、学生の自分から見ると「ちょっと古くない?」というのが第一感想でした。 でも、情景は頭にありありと浮かびましたし、「妻」は泣いてないんじゃないかなぁと感じましたがいかがでしょうか。 では、また。
2005-03-05 13:14:26【☆☆☆☆☆】藍
計:20点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。