『冬なのに麦わら帽子』作者:朱華 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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変なのにすごく気になる。

変だからすごく気になる。

でもこんな気持ち恋じゃない。

あいつが変わり者だから、気がつくと目で追ってるだけ。



学校から帰って、着替えて買い物に出かけた。
今は2月。外がひどく寒いからニット帽を被って。
やっぱり街を歩くと、マフラーをしてニット帽を被っている人が多く見えた。
いつもと変わらない街並み。一つだけ気になるものが見えた。
麦わら帽子を被っている。冬なのに麦わら帽子。
「深沢っ」
私は麦わら帽子を見た瞬間走り出して、男の頭にのっている麦わら帽子を奪った。
男は驚いて振り向いた。思ったとおり、正体は深沢昇。
「あ、相見さん」
「あ、相見さん。じゃないよ!何これ」
思わず声を張り上げてしまったので、周りの視線を少し感じた。
「麦わら帽子だけど」
深沢はきょとんとしている。
「そんなの分かってるよ!今は冬だよ、なんで麦わら帽子っ?おかしいって。周りの目とか気にならないわけ?」
手に持った麦わら帽子を動かして、身振り手振りで一気にまくしたてた。
「………………」
深沢は黙りこくってしまっている。
「言いすぎたかも…ごめ」
「返して」
深沢は特に怒らず気にもせず、いつもの声のトーンでそう言った。
「あっ、うん」
急に言われてとまどって、素直に帽子を返した。
「ありがとね、じゃあ」
そう言うとあっさり、麦わら帽子を深く被り直して歩いていってしまった。
わからない。本当にわからない人。
でもこのままだと、らちがあかないので、深沢を追いかけた。
「待ってよ」
深沢はまた振り返った。
「今度は何?」
「何って…」
しばらく続く沈黙。その間に二人の横を五人は通った気がする。
「俺相見さんに何かした?」
いつものきょとんとした目ではなく、少し怪訝そうな顔をした。
「何もしてないけど、でもその帽子…」
なんだか怖かった。深沢がすごく大きな人に見えた。
「なんでそんなに俺のことかまうの。迷惑かけた?」
「かけてない…ごめん、なんでもない」
もう何も反論できず、声も小さくぼそぼそとしか喋れなかった。
あっそう、と言って深沢はまた歩いていった。
私は追いかけることもできずに、ただ後姿を見ているしかできずに。
すると、私の横を通った女の子達が、あきらかに深沢のほうを見て笑った。
「なに、待って!あれ麦わら帽子?」
「えっ、わけわかんないあの子」
「冬だよね、ほんと変だよ、おかしいって」
指をさして笑いながら、曲がり角を曲がっていった。
どうしてかわからないけど、悔しくて。
笑われているのに気づかない深沢の後姿を見ていると、なんとも言えない気持ちになった。
なんでだろう。私に迷惑かけたわけじゃない。変だと思うならさっきの子達みたいにバカにして笑ってればいい。
なのに、そんなことできなくて。


少し早歩きをしたら深沢に近づいた。
年季が入った麦わら帽子。何かあるんだろうか。
注意されても笑われても被っていたい麦わら帽子。
その意味は分からないけど、なぜだか分からなくてもいい気がした。
そんなことよりもっと大事なこと。
私は深沢の肩を叩いた。
「相見さん…何」
「さっきのことはごめん。余計なこと言って。今度はちゃんと言いたいことがあるの」
深沢の目はまだ厳しい目をしている。
「好きなの。好き、すごく好き」
「え……」
「好きでいていいですか?」
深沢の目が優しくなった気がした。
「俺、変だよ」
「いいの」
「麦わら帽子だって被るよ」
「いいの」
「本当に変だよ、なんで俺なんか…」
「私も相当変わり者みたい」

夕方の道を並んで歩いた。
麦わら帽子をかぶってちょっと照れた人の横を。


おわり。

2005-02-01 19:40:46公開 / 作者:朱華
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■作者からのメッセージ
はじめてなんで話の展開も変です…。
この作品に対する感想 - 昇順
ほのぼのしていて「ちいさなこいのものがたり」っぽいと思いました。主人公が何故深沢君に惹かれるかを、もう少し表わして良いと思います。
2005-02-01 20:56:30【☆☆☆☆☆】メイルマン
はじめまして。卍丸と申します。読ませていただきました。女の子の微妙な恋情が描かれていて、とても微笑ましい物語だと思いました。タイトルのセンスも良いですね。雰囲気もほんわかして気持ち良いものがあったのですが、全体に少し淡々とし過ぎているようにも感じられたので、ストーリーにあともう少し起伏があれば更に良い掌編に仕上がったのではないかと思われます。今後のご執筆もぜひぜひ頑張ってくださいっ。
2005-02-01 22:20:28【☆☆☆☆☆】卍丸
コメントとアドバイスありがとうございます。確かにその通りですっ、話も曖昧だし、まだまだ未熟者ですが、次はもっと良いものが書けるよう頑張ります☆★
感想すごく嬉しかったです。
2005-02-02 20:57:50【☆☆☆☆☆】朱華
計:0点
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