『君へ。』作者:HAL / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約7.21枚
 宛先のない 手紙を書きます
 空高く走るあの飛行機雲のように まっすぐな君へ


 君の夢を見ました。いつか行ったあの海で二人、ギュッと手を握り合い楽しそうに。私のたわいもない話に、君はただ微笑んでくれました。けれど、不意に私の手を離し、走り出す君。次に見たのは真っ暗闇で、そこに君の姿はなくて―――

「行かないで」

 自分の声で、目が覚めました。何かを掴もうと宙に伸ばした両腕が、ストンと布団の上に落ち、涙が一筋流れました。
 顔を洗うのも忘れて、夢中でアルバムを開きました。わざと戸棚の奥にしまっておいた、空色のアルバム。そこには切ないほどに無邪気な、二人の笑顔がありました。

 君に初めて会ったのは、高一の春。太陽みたいなその笑顔に、一瞬にして、私の心は奪われました。
「幸せと辛いって、よく似た字なのにまったく違う意味なんだよね」
 何気ない私の一言。机の上に書き出した“幸”と“辛”の文字。君は私のシャーペンを手に取ると、楽しそうに笑って言ったよね。
「ほんの少しの手の入れようで、辛いことも幸せに変わる。なーんてな」
 私は君の屈託ない笑顔から目を反らし、机の上に二つ並んだ“幸”を見つめ、「脳天気なやつ」なんて笑ったっけ。けど本当は君の言葉に、結構ジーンときてたんだ。

 つまらないことで言い争って、ケンカもいっぱいしたよね。それでも次の日、いつもと変わらないその笑顔に、怒ってたことなんてどうでもよくなっちゃって、心の中で「弱いなぁ」なんて呟いたりした。
 些細なことが嬉しくて、些細なことで不安になって。
「焦らなくてもいいんだよ。ゆっくりゆっくり、躓いて転んで、また起きあがってさ。それが俺らの仕事っしょ」
 いつでも、欲しい言葉をくれる。そんな君の隣は、とても居心地がよくって、ただ、傍にいたかった。

 ずっと。


 誰もいない夜の公園で、二人並んでブランコに座った。親の離婚や将来のことで情緒不安定になっていた私を、君は心配して誘い出してくれたんだよね。ただ黙って私の話を聞いてくれる君に、これ以上迷惑かけたくなくて、グッと唇を噛んで涙をこらえた。
 君は少しブランコを揺らし、夜空を見上げて。
「満月の日って、涙出やすくなるんだって」
 最初は、いきなり何を言い出すんだろう、って思った。けど。
「何かの本で読んだんだ。確か、引力がどうのこうのって」
 続ける君に、私もつられて夜空を見上げた。とても大きく、綺麗な満月。きっと一生、忘れない。
「だからっ」
 君はブランコから降りると、私の前にしゃがみこんで、言ったんだ。
「我慢すんなって」
 ピンと張った糸が、音を立てて切れた。後はもう、あふれ出す涙、どうしようもなくて。声にならない声をあげて、小さな子供のように泣き続ける私。君はぎゅっと手を握って、何も言わず、傍にいてくれたね。そんな君が愛しくって、その優しさが嬉しすぎて、よけいに涙止まらなくなったんだ。

 アルバム最後のページには、夢に見たあの景色。風の冷たい十一月の海で、たわいもない話に花を咲かせたよね。散歩で通りがかったおじさんに「いいねぇ」なんて、からかわれながら撮ってもらったこの写真。
 君と撮った、最後の写真。

 あの時の言葉、覚えてますか?

「ずっと、亜紀の傍にいるから」
 君と出会ってから、涙もろくなったのかな。優しく抱かれた腕の中で、気づかれないよう、そっと涙を拭ったんだ。

 今、思い出してまた、涙が溢れてきました。こんなとこ君に見られたら、また「一人ぼっちで泣くな」なんて怒られるかな。
「泣きたい時は、隣にいるから」
 いつかの言葉、耳元で聞こえた気がしました。そうだよね、私の泣き場所は君の隣。泣きたくなったら呼ぶって、約束した。
 けど、今だけは、今日だけは、許して下さい。

 今日は隼人の、命日だから。


 海へ行ったあの日、いつものように私をマンションまで送ってくれた君。
「また明日」
 確かにそう言って別れたよね。その数時間後、一人きりのリビングに、鳴り響いた電話。いつものように、短めのコールで取りました。聞こえてきたのは、おかあさんの、震える声。
「隼人が、事故にあって……今病院で……」
 後のことは、よく覚えていません。気がついたのは、病院へ向かう拓人兄の車の中でした。突然電話の向こうから消えた声に、拓人兄が心配して駆けつけてくれた時、私はペタンと床に座り込んで、君の名前を呟き続けていたそうです。
 連れて行かれた、真っ暗な部屋。蝋燭の光と白いシーツがやけに眩しくて、まるでドラマのワンシーンのようでした。泣き崩れるおかあさんも、その肩を抱く拓人兄も、立ちつくす私も、動かない君も、本当はみんな出演者で……ドラマだったらよかったのに。
 冷たくなった君に触れて初めて、あぁもう目を覚まさないんだなって、2度と抱きしめてもらえないんだなって、ボンヤリとした思考の中で、それだけは分かった。
「なんで……?」
 ずっと傍にいるよって、言ってくれたのに。また明日って、笑顔で。
「なんで!?」
 目の前の現実、受け入れたくなくて。受け入れることなんてできなくて。目を閉じ、耳を塞いで叫んだ。

 それからの私は、一人部屋に閉じこもり、ただ布団の中で丸くなるばかりでした。だって、そうすれば君に会えたから。夢に出てくる君は、いつもの笑顔で話しかけてくれた。やさしく髪を撫でてくれた。それだけが、幸せだったの。
 きっと、心が壊れていたんです。

 けどそんなある日、いつもの様に夢で会った君は、私に向かってこう言ったんだ。

「自分を縛り付けないで。ちゃんと前、向いて」

 初めて見た君の涙は、切ないほどに、綺麗でした。
 このままじゃいけない。私がこんなんじゃ、隼人を苦しめるだけだって、そのときやっと分かったの。
 次の日、君が可愛いって言ってくれたロングパーマを、肩の上まで切りました。進もう。ちゃんと前向いて、進まなきゃ。

 私を突き動かすモノは、結局いつも、君なんです。


 あれから一年。もう一年も経ったんだなって驚く反面、少しずつ、君のいない生活にも慣れてきました。大学には行けなかったけど、塾に通って、友達もできて、私は毎日、夢に向かって頑張っています。あ、そうだ。この前のコンクール、私の絵入賞したんだよ。見てくれたかな。

 空色のアルバムは、また、戸棚の奥に片づけます。けど隼人との楽しい思い出は、私の心の端っこに、いつまでも消えることはありません。たとえ私に、君と同じくらい愛しい人ができたとしても。
 もう「会いたい」なんて言わないけど、最後に一つだけ、お願いがあります。
 
 ねぇ隼人、もし二人、いつか生まれ変わっても、また隼人の恋人にしてください。

2005-01-29 23:00:32公開 / 作者:HAL
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■作者からのメッセージ
おひさしぶりです。一年以上前に書いた作品を、ついに書き直しました。もう、「なんで!?」と言いたくなるような表現とか、矛盾がいっぱいで恥ずかしかったです。これでも一応、ちょっとは成長してるんだな。と思ってみたり。
さらに研究して改正したいと思うので、すこしでも思われた事など、教えて頂けるとうれしいです。では。
この作品に対する感想 - 昇順
読ませていただきました。本当にピュアでストレートな、恋愛作品でしたね。亡き恋人に捧げた手紙と言う形式でしたが、主人公の心情が実にわかり易く伝わってまいりました。終盤に主人公が新たな希望を持って前向きに生きていこうとする姿と、ラストの心からぽろりとこぼれ出したような一文が、とても切ない雰囲気を持って読後に残りますね。ストーリー自体にはさほど真新しさを感じなかったものの、「“幸”と“辛”」の文字のエピソードなどはとても印象的でした。この辺りがHALさんの上手さなのでしょうね。今後の作品も楽しみにお待ちしておりますのでっ。
2005-01-30 00:14:07【☆☆☆☆☆】卍丸
どうも、拝読させていただきました。「辛」と「幸」、これでひとつ何か書いてやろうと思ってた自分としては先をこされたーみたいな(それでも書くかもですけど(イヤイヤ とりあえずストレートな作品でしたね。感じたこと、かなり言い回しというか、書き方が綺麗だなぁと。空色のアルバムは〜のところは(なぜか)特にそう思いました。ありがちといわれる展開でしたけど、そのところがHAL様風味でいい味を出しておりました。次回作も頑張って下さいな^^
2005-01-30 12:12:04【☆☆☆☆☆】影舞踊
□■卍丸さん□■こんばんは。手紙形式のものはずっといつかかきたいな〜かいてやるっ!と思っていたのですが、なにやら思ったより難しかったです…どうしても説明的になってしまって。けれど、心情がわかりやすく伝わったと言っていただけて、とてもうれしいです。切ない後味を味わって頂けたならば、思惑通りです!ありがとうございました。次もよろしくおねがいします。     □■影舞踊さん□■こんばんは。「辛」と「幸」は確か授業中に思いついて、「あっいつか使おう!」と思っていたのです。先をこしてしまいましたかv影舞踊さんの「辛・幸」物語も、是非読んでみたいです。綺麗と言って頂けて光栄です!褒めて頂けた風味を保ち続けられるようがんばります。ありがとうございました。次もよろしくおねがいします。
2005-01-31 22:21:31【☆☆☆☆☆】HAL
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