『思ったよりも…　【読みきり】』作者：影舞踊 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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忘れてきたもの
置いてきた
取りに戻るのもおっくうで
今だけ綺麗に…わかってる
そんなことはありえない
今はこの先過去になる
なくしてわかる
忘れ物

　☆　　　☆

　昔の曲を聴くと思い出す。あの頃の自分。がむしゃらで、悩みはあったけど充実してた。
　未来は夢で、大人は憧れで、学校はクソだった。変わらない日常で出会う友達、築きあげた友情、新しい音楽。覚えなきゃいけない英語の単語、覚えても忘れる数学の公式、上手くいかない恋事情。
　なんだかんだ言っても楽しくて、笑って、怒って、また笑った。それぞれ秘密の話で盛り上がり、面白話も沸いて出た。いつでも隣に誰かいて、苦しい時には声を出し、悲しい時には涙した。何でも話せる友達も、話したことない知り合いも、先生達は怖かった。



　どこにでもある学校で、鉄筋コンクリートで出来た壁には落書きを消したペンキの後。ものすごく悪いやつも、ものすごく頭がいいやつがいる学校でもなかった。中学校からの知り合いも多い公立高校。新しい出会いと一緒に訪れる入学式。そしてそこから始まる１学期。
　新しい出会いというのは嘘。本当言うと改めて出会い。彼女と初めて会ったのは中学校の演劇部で、合同練習をした時。当時の僕の淡い恋心に彼女は強烈に眩しくて、何度も何度も火照った。
　新しい学校で同じクラスとまではいかなかったけど、同じ部活。楽しかった。理由はもう一つ、幼稚園からずっと一緒の大親友。彼も合格して同じ部活。毎日毎日学校に行くときも、帰る時も一緒に馬鹿な話をしながら。最高だった。よく３人で話をした。休み時間、部活の始まり、部活の帰り。部活がなくても集まって遊んだりした。淡い淡い色も混ぜると、どんどん濃くなってゆく。濃くなりすぎると自分がわからなくなりそうで、だからといって薄めることもできず、自分を少しづつ彼女色に染めてゆく。
　演劇の腕ももちろん上達。２年生の終わりに僕らは初めて舞台に出ることになった。台本はオリジナル。配役はミラクル。僕が彼女の恋する男、彼女は僕に恋する女、彼は彼女の元男。演技は日に日に上達して、とても楽しかった。たまに出されるダメだしすら楽しかった。文化祭まで後数日。ノリも上がって会話も弾む。演技のきれも最高潮だった。
　いつものような朝、今日もあいつと学校にいく。自転車をしこたまこいで学校までは２０分。僕らは何でも話せる間柄だった。でもお互い好きな人の事は言ってなかった。なんだか恥ずかしくて、それに何より彼とは他のことを話している方が楽しかった。
「ごめん、いこうや」
「遅いわ。遅刻したいんかっ」
　取り止めのない会話で笑いがうまれる。学校に着くまでの２０分間、基本的に話しっぱなし。
「あんな、言うことあんねんけど笑うなよ？」
「笑えへんわ、はよ言えや」
　さっきからこの調子。何かを言おうとして、やめる。いつもよりも声に覇気がない。
「昨日な。告られてん、×××さんに」
「マジで！ええのう」
―そうなんや
「ほんでな、断るんも悪い思たから付き合うことにしてん」
「ええんちゃうか、もてる男は辛いねぇ」
「真面目に聞けや」
―真面目に聞いたら僕を許してくれますか
　その後もそれまでのいきさつ、告白された場所、言葉。「普通」に興味があるように聞いた。
　学校に着いた時、唇が痛かった。



　文化祭は大成功。僕も彼女も彼も、自分の務めを十二分に出し切った。
「どうしてだ。どうして僕じゃダメなんだ！」
「ごめんなさい。好きな人がいるんです」
「謝るのは僕の方だよクリスティーナ、本当にすまないハウゼン。友情を破る形になってしまったのは申し訳ないが、僕らは愛し合っているんだ」
「クリスティーナ！僕を最後に愛してると言ってくれ…」
「ごめんなさい…ハウゼン」
　高校生がやるには幾分濃い恋愛物語だが、同年代の僕らがやってるってことで好評だった。
―ミスマッチの配役でここまで出来るなんて僕らは天才だな
　冗談もほのめかし、僕はその後部活をやめた。大親友と彼女には、「勉強頑張らなあかんねん。僕アホやから」と嘘を言って。
　僕はそれから何かとつけて彼らから離れた。学校に行くときの自転車も無言なことが多くなった。

　僕は彼らに心を開かなくなった。
　つまりそれは、その当時の僕にとって、誰にも心を開かなくなったということで。

　今の僕のうわべの付き合いのうまさはそこからきているんだと、最近知りました。

　☆　　　☆

　走って走って帰る道。流れる光景は見慣れたもので、僕は自分の愚かさに少し笑う。わざわざこんなことするんなら、始めから忘れなきゃよかった。否、ちょっと違うかも。自分でわざと忘れた振りして置いて来た。アパートのドアを開けて、机の上でヒラヒラと舞っているチケットを掴む。エアコンの暖房を点けっぱなしにしていたみたいだ。今の自分の焦り具合にも笑えるが、この家を出た時の焦り具合も同じぐらいか。
　チケットを持って今度はエアコンも確認して家を出る。走って走って流れる光景、さっきの流れに逆らうと人もずいぶん変わって見える。走りついた先は大きなホール。今日ここで自分の最愛の初恋の人と、自分の最大の親友の舞台がある。
―どうしても来て欲しい
　言われるまでもないことに目を伏せて、自分をいかに騙しても、今日はこれを見ないで眠れない。

　舞台はとっても感動的な話で、彼らの演技がさらにそれを高めていた。
―いい
　伝えるものが大きすぎて、僕の心には収まりきらない。それでも無理やり詰め込んで、僕は舞台に拍手する。綺麗な女優に、たくましい俳優。彼らの姿が教えてくれるものを受け止め、我慢する。

―溢れたものが誰にも見えないように



―忘れ物は取りに帰ってみると案外軽いもんだ



2005-01-14 23:08:52公開 / 作者：影舞踊
■この作品の著作権は影舞踊さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
正確な読みは、「思ったよりも…」(おもったよりもてんてんてん)です(ハイどうでもいい
やっぱりショートはムズイですねぇ。
いろんな理由があって避けてきた恋愛に関するお話なんですが(今回はおまけ的に恋愛要素入ってますね)、いい考えも思い浮かばず、まだ自分ではこういう系書いてなかったなぁということで書いてみました。
いかがでしたでしょうか？
まぁ今回も一番最後の文が言いたいこと的な(なんか偉そう(ｽｲﾏｾﾝ
感想・批評等頂ければ幸いです。
拙い部分もありますが読んでくださった方々は神です(何！？
この作品に対する感想 - 昇順
読ませていただきました。切ない物語ですね。語り口も、今までの影舞踊さんの作品群とはまた違ったテイストで、独特のリズムを持っておりました。毎回思うのですが、影舞踊さんは最後の締めの一文が上手いですよね。自分も見習いたいところです。もう少し起伏があれば更に楽しめたと思うのですが、主人公のお人好しとも取れるピュアな心情は読んでいて気持ち良かったです。影舞踊さんの本格的な恋愛物も読んでみたくなりました。今後の作品にも期待しております！
2005-01-15 00:42:32【☆☆☆☆☆】卍丸
面白かったです。話が軽快に進むのですらすら読めましたし、最後のしめに向かう流れも楽しめました。主人公が部屋に戻った時と、また走り出すあたりがわかりにくい、と思いましたが、＜今の僕のうわべの付き合いのうまさはそこからきているんだと、最近知りました。＞から最後までのしめ方は素敵でした。爽やかさと軽さに「良い」です、
2005-01-15 04:03:49【★★★★☆】メイルマン
こんにちは。冒頭部分の「昔の曲は」から「先生達は恐かった。」という部分で、あ、やられたな、と思いました。そうですね、高校ってこういう感じですよね。短い話ながら、まとまりがあり、軽快な文章であるので読みやすさもありました。独特のリズムもいい感じです。ただ、見つけてしまいました。「どこにでもある学校で、鉄筋コンクリートで出来た壁には落書きを消したペンキの後。」……後じゃなくて、痕ですね（ふふふ）。頑張って下さい。
2005-01-15 10:08:28【☆☆☆☆☆】EastEnd
すごく素敵な話でした。最愛の人と親友だと思っていた人・・・。その２人が女優と男優になっているなんて。そして、その舞台のチケットを彼らが送ってくるのは、とってもひどいと思ってしまったんです。どうして主人公の気持ちに気づいてあげられなかったんだろうって思いました。でも、主人公は彼らの舞台に拍手を送る。すごい素敵な人。私だったら、彼を好きになるのになー、なんちゃって（笑）。とても素敵な文章でした。これからも、頑張ってください！
2005-01-15 12:40:16【★★★★☆】liz
面白かったです。やっぱり影舞踊さんの作品はスピード感＆爽やかさがありますね。冒頭の歌詞？が個人的にかなり気に入りました。次回作も頑張ってください！
2005-01-15 12:41:46【★★★★☆】流浪人
ども、読ませてもらいました。テンポが良くトントン拍子で読んでいけました。切なさ溢れる小説だと、私は思います。ではでは
2005-01-15 12:45:01【★★★★☆】rathi
どうも、昼夜です。スムーズな流れに乗るようにすらすら読める文章に爽快感を感じました。何だか短編として綺麗に出来上がっている作品を読ませていただいたように思います。
2005-01-15 14:57:54【★★★★☆】昼夜
自分はアレですね、影舞踏さんのショートに弱いらしいです（笑　　流れるような文体が読みやすく、ゆっくりとグッと来るこの物語がただ純粋に楽しかったッス。またの次回作、楽しみにお待ちしております。
2005-01-15 15:28:27【★★★★☆】神夜
短い文章の中に、ほろ苦さが凝縮されたような良い作品でした。自分もこういうストレートなショートを書いてみたいな、という気分になりました。それでは、次回作も楽しみにしています。
2005-01-15 16:23:36【★★★★☆】夜行地球
今回の作品で影舞踊が伝えようとしたことは、懐かしさでもありました。切ないことを言葉で表すのはなかなか難しいことで、大人になるにつれて変わっていく心に刺激はなくなっていくもので。そんな時懐かしさが無性に恋しくなります(まあそんな大それた事を言える歳じゃないんですが(笑　それでは、感謝のレス返しです。
＞卍丸様　卍丸様に最後の１文が上手いと誉めていただけるとはっ。大まかな構成を考えて最後の１文はきっちりみたいな(笑　だからそれまでの過程が少し弱くなってしまうんですかなｗおそらく自分が恋愛モノ書いたら王道からはちょい違う感じになってしまいそう(というか恋愛要素が徐々に消えていきそう(笑　感想ありがとうございますっ。
＞メイルマン様　面白いと言って頂けて感激です。「主人公が部屋に戻ってまた走り出すシーン」、そうですね、そこは書こうか書くまいか悩んだ所で(というか違う方法にしようかと　よく考えたら結構重要なとこなのに曖昧ですね。締め方がうまく出来ていましたか！？感想ありがとうございました。
＞EastEnd様　初めまして。冒頭は思うがままにって感じで描きました。はっ！ペンキの「痕」ですね。ご指摘ありがとうです(恥　でも直すと更新で上にいってしまうのでこのままで(ｺﾗ　
＞liz様　ステキでしたか！？お褒めの言葉嬉しく思います。結構ありそうなお話でしょ？どんなものでもちょちょいと手を加えればドラマになるもんで(笑　これからも頑張ります！
＞流浪人様　今回のお話でスピード感があったのは、おそらく書き方のせいですね(笑　冒頭に書いてある詩的なものは自分も大好きです。考えるというより手が勝手に動くって感じですかね(こういうのは(自分的に
＞rathi様　切なさ溢れましたか。そうですね、切ないです。誰もがある初恋で、今回の主人公は中学校で初恋。ちょっと遅いかなとも思いましたが、まあこんな子もいるよということで。コメントありがとうです。
＞昼夜様　すらすら読んでいただけたなら、今回の書き方が成功したということで、影舞踊にとってはやったという感じです。短編として綺麗に仕上がっておりましたか！？ありがとうございます。
＞神夜様　なぬっ！影舞踊のショートに弱いと。なんと嬉しい言葉。純粋に楽しんでいただけたならこれほどうれしいことはないです(＾＾　でもショートはムズイですね(笑
＞夜行地球様　凝縮されたほろ苦さ＝伝えんがしたことです(笑　書きたい気分を誘う作品でありましたか。いやぁ影舞踊も進(黙れ　少しでもこの作品を気に入っていただけたのなら幸いです。
皆様、貴重なご意見(＋お褒めの言葉)本当にありがとうございました。
2005-01-15 18:17:12【☆☆☆☆☆】影舞踊
影舞踊さんの作品いつも心に何かを語りかけるような気がします。今回の作品も心境や文章もスラスラと読みやすかったです。
次もがんばってくださいね！
2005-01-15 19:23:00【★★★★☆】朱色
またまた直球のモチーフが素敵です。ただ前回の視覚障害の少年の話にも言えたのですが、感動的ラストを盛り上げるための事前のテコがひとつあれば、このラストは何倍にも光ったのではないかと思いました。時節柄不謹慎なたとえになってしまいますが、津波の前の引き潮が、感情的にタメとしてあれば、まとめて最後にドッと来る、みたいな。
2005-01-15 21:58:19【☆☆☆☆☆】バニラダヌキ
す、素敵・・・。素敵です。何と言いますか、繰り出される比喩が、心地よく胸に染みてきます。どきどきしている時の、あの肌を刺すような心地よい刺激を、自分まで感じてしまいました。影舞踏様の次回作も期待大ですよっ。次回はどのような話でくるのか、楽しみにお待ちしております。
2005-01-15 23:23:04【☆☆☆☆☆】エテナ
思ったよりも……、というタイトルを読んだあと見ました。そういうことか！最後まで、というかメッセージの部分を読んでやっと気づきました。ああ、こういうのは大好きです。しかし、全体の感じは私としては、そんなに楽しめませんでした。何でしょう、影舞踊さんの作品は大好きなのですが、もっと長いものを読んでみたいかな、と少し思いました。いや、勝手に思ってみただけですけどね。では、これからの執筆頑張ってください。
2005-01-16 02:09:03【☆☆☆☆☆】うしゃ
読んでくれてありがとうございます。それではレス返しです(もう見ないかもだけど
＞朱色様　お褒めの言葉ありがとうございます。何かが心に伝わりましたか！？いやぁ作者としては嬉しい限りですね。でも朱色様の心が綺麗であるからでもございますよ＾＾
＞バニラダヌキ様　適切なアドバイスありがとうございます。なるほどなぁって感じで。ラストを盛り上げるためのテコ入れかぁ。それが足らないんですよねぇ、今度書くときは意識してみたいなぁ。(たぶん無理だろうけど(苦笑　感想ありがとうございます。
＞エテナ様　いやぁーそんなに期待しないでー(＞_＜?　比喩を誉めていただけてちょっと鼻高々(笑　何か心に感じてくれるものがあったなら、影舞踊は幸せですｗ
＞うしゃ様　盛り上がりが少なかったんですかね？影の作品を大好きと言って頂けてなんか調子に乗りそうｗ(殴　もうちょっと長い作品…今度かいてみますね(無理かも　そろそろ連載モノでも書こうかなぁなんて気持ちだけ持ってます(笑　
皆様貴重なご意見ありがとうございました。とっても励まされます(笑
2005-01-16 13:20:53【☆☆☆☆☆】影舞踊
うーんかなり感動ぉ〜（このレスみてくれるのかな？）爽やかってわけじゃないかもしんないけど、なんというか・・・あーーうーーって感じですかね（←アーもうゴメン。恋愛系は大抵意味わからんこと書いてしまう・・・）でもそれはいやな感じじゃなくてすごく「うをー恋ってアレだなぁ・・・」って感じのすげー気持ちがいい感じ・・・みたいな。　こんどは長編も見てみたいです（『うしゃ』さんの受け売りですが）次回作、期待してます。
2005-01-16 23:02:19【★★★★☆】貴志川
＞貴志川様　おぉレスありがとうございます。そして初めましてｗ悶えて頂けた様で(えっ違う？　基本的に恋愛物は苦手な気のする影舞踊です。長編物ですか…書けたら書きたいですね(笑　そこまでの力量が自分にはおそらくないので。感想ありがとうございました。
2005-01-17 01:39:13【☆☆☆☆☆】影舞踊
計：36点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。