『あたしの触覚』作者: / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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 寒い。
 あたしの眠りを妨げたのは…この寒さか。いや、なんだかそれだけじゃない。まぶたの裏が真っ赤に染まっている。眠いあたしが大量にかもし出すこの気だるさが流れる狭い空間の中で、少し身震いしてからうっすらと目を開ける。目を開けようとすると、あたしの狭い視界を何かが覆って、うまく目をJけることができない。一面にあたしの目の前を包み、あたしの眠りを妨げたもの―――それは、誰もが美しいと感じる、夕焼けの光だった。
 けれどあいにく今のあたしは、その美しさにうっとりとする余裕もなければ、美しいと感じる人間の心の、本当に基礎になりそうな感情も持ち合わせていない。この夕焼けがあたしの眠りを妨げるくらいならいっそのこと、世の中から消えてしまえば良いとさえ思う。あたしにそんなことを思われていると知ってか知らずか、夕焼けはさっきよりも赤みを増して、暗くなりかけた空に浮かんでいる。あたしにはそれがまた、気に食わなくてしょうがない。

 まだ起きる気がしないあたしは、目を硬く瞑って、何度か寝返りを打ってみたけれど、あたしの脳細胞は、体に、「寝ろ」という信号は出してくれなかったらしく、ベッドの上でのあたしの努力は無駄となったようだ。それに、目が覚めた時から、なんとなく自分の中でごまかそうとしてごまかせきれなかった寒さも、さっきよりもいっそう気になるようになって、あたしはなんだかベッドから出て、寝る前に閉め忘れたらしい、開けっ放しの窓を閉めなければいけないような気がしてきた。
 なんだかベッドに追い出されるようで、なんとなく悔しかったけれど、この、少し気になる寒さや、眠いのに寝ることができない状態の微妙なもどかしさに負けて、しぶしぶベッドから出た。
窓を開けていたはずなのに、まだ部屋中にバニラのお香の匂いが残っていて、その、お香を焚いている瞬間のとは違う、甘い部分だけが残ったような残り香に少し酔った。頭の中にお香の残り香がふわふわと、形を定めずに舞っているようで、うまく物事を考えられない。このまま、お香の煙があたしの頭を蝕んで、あたしが何も考えられなくなるようにしてくれたら楽なのに。

 「ああ、今は何時だっけ。」
 誰も答えてくれるはずなんてないのに、ついつい出てくる独り言にうんざりしながらも、あたしは携帯電話を見ようとした。が、ない。どこに置いたのかわからない。あんなに小さいものをこんな部屋から探さなければならない。
 あたしの部屋に時計があれば、いちいち携帯電話を探して時間を確認する必要なんてないのに。どうしてあたしの部屋には時計がないのだろう。どうしてあたしは時計を置いてないのだろう。
 あたしの部屋の状況と、時計を置かなかった過去のあたしの愚かさに文句を言っても仕方がないのに、次々と頭の中を回っては消えていく、自分への中傷。それをあたしごと飲み込む、大きくて散らかったあたしの空間。
 あたしのものたちが集いあう、この部屋は、なんだかとてもグロテスクで、それは、霊安室のような、墓場のような、とにかく、あたしが使っているものすべてが死んでいて、それを囲っているような空間で、そして時々、あたしも死んでいるような、そんな感覚に陥る。そんな、他人からしたら、息の詰まるような、居心地の悪い部屋。
 そんな部屋から携帯電話を探し出すのは、とてつもなく困難なような気がしたし、やる気も出なかったけれど、なんだか自分が何時間寝ていたのか気になって、携帯電話を探して、それを知らなければ、気になる気持ちが増大して、後々、厄介なことになりかねないので、仕方なく探し始めたけれど、どこにもない。携帯電話の捜索は、あたしにイライラを募らせるばかりで、しないほうが良かったのかもしれないけれど、やっぱり時間が気になって、でも、一向に現れない携帯電話を思うと、イライラして、枕を投げた。
 
 結局、枕の下にあったあたしの携帯電話は、あたしが嫌いなのか、あたしに見つからないようにひっそりと隠れていたようで、その携帯電話の様子は、ごていねいにあたしをイライラの絶頂に導いてくれた。
 あたしの携帯電話は、その面に、「新着メール1件」という文字を写し出し、あたしはそれを見て、少し、「あぁ、祐輔かもしれない」なんていう、綿菓子のような、無駄に甘い期待を抱いてしまった。
 そんな自分をふがいなく思いながらも、メールを見てみると、沙織からで、結局祐輔じゃなかった、よかった、なんて、思ってもいないことを自己暗示のように何回も何回も心の中でつぶやいた。なんだか、こうでもしないと、あたしの中の何かの回線がどうにかなりそうで、それは、あたしの人生を簡単に否定するような、あたしの世界が崩壊するような、そんな重要性を持っていたような気がして怖かった。
 沙織のメールを読んでみると、「祐輔君と別れたん?いける?」という、イライラしているあたしにとって、最高のタイミングの最高のプレゼントだった。
 あたしは沙織に返事もせずに、携帯電話をベッドに投げつけ、今度は時間を気にせずに眠ろうと心に誓って、さっきの携帯電話より少し遅れてベッドに入り、そのままゆっくり瞳を閉じた。
 遠くのほうで、カラスが鳴いているのが、かすれた意識の中で聞こえた。

 翌朝、学校をサボろうかどうか悩みながら、結局学校に行くと、沙織は何もなかったかのように接してきた。いつものように。
 はっ。これが沙織の気の使い方?世の中の男はこういう気の使える女がいいって?あたしみたいなエゴの塊は要らないって?ご入用じゃないですか。はっ。やめてほしいね。他人に気使って何が楽しいの?そんなことしなくても一人で生きていけるじゃない。他人に気使ってばっかりの女なんて、そんなの負け犬じゃない。
 あたしは誰にも依存しないで生きていける。あたしにはこの美貌がある。そんじょそこらの女とは違う。だから祐輔もあたしに好きだって言ったんだから。あんなのあたしの一時の玩具だから。あんなのと別れて悲しんでるなんて、クラスの女たちに少しでも思われてたらあたしの一生の恥だ。あたしは少しも悲しくない。ただ、腹が立つだけ。
2005-01-20 11:20:51公開 / 作者:8
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この作品に対する感想 - 昇順
なんというか・・・今時のってかんじですねえ〜(笑
もてない俺としては女の子の考え方ってよくわかんなかったりするんですけどね。
これには続きがあるんでしょうか?もしあるのなら結構見たいです。

という感想。
2005-01-10 11:35:33【☆☆☆☆☆】貴志川
はじめまして。卍丸と申します。読ませていただきました。実に現代的な主人公ですね。一種の引き篭もり傾向があるような。今作は連載作品でしょうか? それとも単発の読み切り作品でしょうか? 後者であるとしたら、まとめきれていないような印象を受けてしまいます。途中でぷっつりと強制終了されてしまったような。辛口になってしまいましたが、少しテーマが把握し難い感じを受けてしまいました。
2005-01-10 12:24:14【☆☆☆☆☆】卍丸
続きあります★連載です。感想ありがとうございます。まだまだ駄文しか書けませんがよろしくお願いします。
2005-01-10 13:22:11【☆☆☆☆☆】8
物語の先行きが全く見えませんが、今時の子って感じでしたね。自分の身近にもこういう寝すぎてるやつがいますから。「」のなかの最後の「。」はいらないらしいですよ。それと・・・は…にしたほうがよいっぽいです。(この2点は自分も始めに来た時に指摘されたので(笑 次回の更新も頑張って下さい。
2005-01-10 23:38:15【☆☆☆☆☆】影舞踊
あ、そうなんですか!!!わざわざありがとうございます!!!
2005-01-11 18:33:06【☆☆☆☆☆】8
読ませていただきました。文章は好きだし、しかも主人公の自信がものすごくウケる……楽しかったです。ただ一文一文が何か長くて、少し読みにくい印象を受けました。もう少し簡潔にできるとこは簡潔にしてしまうと、さらに読みやすくなるのでは、と。ただあくまであたしの感想なので、気にしないでくださいね(笑。内容はツボです、続き楽しみにしてます♪
2005-01-20 13:17:26【☆☆☆☆☆】ゅぇ
どうも、初めまして、昼夜で御座います。拝読致しました。この主人公の自信…自分の友人の数人に見習わせたい所があります。いや、ちょっと行き過ぎだけども(笑 表現や喩えに文章力の強さを感じます。ただ、ゅぇ様も仰った簡潔さと、連載ものだそうですが、続かせ方に面白味が足りない気がします。何分、自分も未熟ですのでこんな偉そうに言えないんですけど…。続き頑張ってください。
2005-01-20 13:52:32【☆☆☆☆☆】昼夜
ゅえさん、ありがとうございます。簡潔ですか。。。。がんばってみます。笑
2005-01-21 22:30:01【☆☆☆☆☆】8
昼夜さん、ありがとうございます。続かせ方ですか。。。。うぅ〜ん。。。。笑。努力してみます。笑
2005-01-21 22:32:22【☆☆☆☆☆】8
なんか。。。。パスワードが一致しないんですけど。。。。(´く_`●)汗
2005-01-21 22:36:04【☆☆☆☆☆】8
僕個人としてはこーゆうかんじのほうが好きです。簡潔であるとこの話は「あ?」って感じの作品になってしまうのではとちょっと心配…(゜゜;)続け方なのですが、この作品の場合、あまり物語に動きが無いような感じがします。とにかく更新が早いのはいいですが、更新の「区切れ」も大事じゃないかと。例えば次につながるせりふとか(「お前だれなんだよ!」みたいな次の更新に新しい展開が感じられるような)……初心者の横やり失礼しました…(゜゜;) ところで俺もパスあわねえ〜どうなってんだ〜〜↓↓↓
2005-01-21 23:13:02【☆☆☆☆☆】貴志川
なるほど〜(´く_`●)ちょっとがんばって区切れをやってみます!!!パスがまだ合わない。。。。
2005-01-23 08:26:17【☆☆☆☆☆】8
計:0点
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