『セピアの世界 1 2 3 4』作者:春紗 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約15.15枚
―第1話 涙の階段―

『ドンッ!』
『バンッ』
『バンッ!』
銃声が立て続けに三つ響いた。

一つ目は、私が。
二つ目は、敵が撃った。

三つ目は、セナが空にむかって…。

 「ティナ!なにしてるんだ。」

セナが私の名前を呼んだ。

私の名前。
苗字はない。

それは、目の前にいる少女『セナ』も同じだった。
私達はみんなそうだった。

「なにって、敵に撃ったんだよ?」
ティナの言葉を聞いて、
セナは敵の方をとっさにみつめた。

「馬鹿、こっちに気づくでないの。」

セナの視線の先には、どうやら敵が銃を構えているようだ。

「違うよ。向うが先に気がついたんだ。」
ティナは其処でいったん言葉を切った。

「だけど、撃つのはあたしの方が早かった、それだけだよ?」

ティナは視線を敵のいる方に向けた。
19歳の少女の目にしては大人びてる。

そろそろ少女でもなくなるのだろう。
少女は大人と子供の境目にいるのだから。

「うん、分った。だったら、向う…敵の方も子供だね?」

敵も、子供。
『も』ということは、自分達も子供なのか。
今更ながらにティナは思った。

苗字さえもたない子供達。
親元を離れたのは3歳くらいのころだろう。
始めて銃を持ったのは、5歳…?

「いくつ、くらいなのかな?」

ティナは尋ねたが、セナにも分るはずがなかった。
だからセナは答える変わりに、
「さっき私が空に一発撃ったから…南の方に撃ったから…。」
呟くようにそう言った。

「だから、南に行くのかな?」

ティナは考えるように言った。

もしも、ただ銃声がしたからと言って、
ただ南に行くのであれば…。

幼い『兵士』なのだろう。

それを十九の『子供』が撃つのも、
幼い子供が『兵士』になるのも、

いつの間にか当たり前だった。

幼い兵士は南の空に消えていった。

きっと、幼い兵士達は、
『殺しに』行ったんだろう。
そこに何もない、
南の空を見つめて。

「行こうか。」

きっとティナが撃った一発目で、
誰かが死んだんだろう。

それでもそれも、当たり前。

「うん。」

哀しい世界に背を向けて、2人は歩き始めた。




 なんで戦争してるかも分らない。
 戦争が起きたきっかけも分らない。

 自分たちは何故生まれた?

 それもわからない。

 敵は、誰?

 それもわからない。

 どこの人?

 何故小さな子供を、
 私達は撃つんだろう?

 大人達は、大分死んだ。

 だからきっと、
 子供ももう生まれないで死んだ。

 だんだん、
 ゆっくり、

 確実に、減っていく命。

 なんの意味があるんだろう?

 私達もいずれ、死ぬ。
 大人達のように。

 だから、
 この世界で戦ってる。
 敵より永く、生きる為。
 自分が生きた証を少しでも残す為。

   それに、なんの意味が…。

「ティナ」

セナが呼びかける。

「ん?」

ティナが答える。

「どうした?くらい顔してた?」

「なんでもないさ。」

ティナのポニーテールが揺れる。
まっすぐな金色の髪。
まっすぐな瞳と同じ色。

「…。無理、しないで。」

まっすぐな瞳から、涙。

何故、戦うんだ。

その答えを求めて
少女は泣いた。
涙は落ちた。

「撃ったんだ、もう何回目になるんだろう?」

子供達を、撃ったんだ。

本当は、抱き締めてあげたい。
本当は、優しい自分でありたい。

「大人達が悪いんだよ、こんな世界残して死んで…。」

違うんだ。

世界は関係ないんだ。
子供を撃ったのは、私だ。

なんの意味があるんだ?

あの儚い命に、なんの?
私に、セナに、なんの?

「…ごめんな…さい。」

少女はその時。

『大人』になった。



「ごめんね…。」


―第2話 蒼い瞳の人形―

少女は名前を呼ばれた。
何度も、何度も。
けれど、苗字は知らなかった。
覚えていない。

少女は確かに存在していた。
少女は誰かの存在を知っていた。

「ママ」「パパ」「おねえちゃん。」

小さい彼女にとって、
当たり前の風景。

それがどんなに
幸せで、脆いのか、
彼女には分らなかった。

ママ、パパ?
おねえちゃん?

ある日、家に火がついた。

―ここは、どこ?

「セナ、こっちおいで!」

小さい妹を姉は守って走った。

走って、走って…。

逃げた。

パパは?ママは?

痛い質問をぶつけられ、それでも妹を憎む事はなかった。


セナ、良くお聞き?

姉は優しく妹に託した。
一つのノンフィクションを。


おねえちゃんは、
体が上手く動かないんだよ。

昔にも家に火がついたことがあった。
その時に、右手が動かなくなったんだよ。

でも、
だからおねえちゃんは、
幸せだった。

でも、おねえちゃんの友達は皆連れてかれたんだ。

それが『世界』なんだよ。
みんな『兵士』になったんだ。

だからな?
おねえちゃん、きっともうすぐいなくなっちゃうわ。

色んな人が、鉄砲振り回してんだ。
『その時』は、
おねえちゃんに構わず逃げるんだよ。いいね?

優しく抱き締められた妹は。

なぜ?

嘘でしょう?

だって昨日までは幸せだった。

そう、泣いた。

パパも、
ママも、
死んじゃったんだ。

そう、一つ強くなった。



そして、ここに存在する。

「生きてることに、意味はあるよね?」

そんな思いから、
たくさん、たくさん、
変わってきた彼女。

けれど、
たった1つ変わらないものは、あった。

蒼い瞳。

あの日の炎を全て包みこんだ、小さな瞳。

「ティナ、大丈夫だよ。
世界は、きっと変えれるよ。」

私達の手で。

セナはそう言った。


―第三話 テキ、ミカタ。―

夢を見ていた。
眠っていた。
ガタン。
音。
ガタン?
何の音だ?
夢から、覚める。
体が強張る。

敵?
味方?

銃を構える。
隣にいたセナも同じ行動をとった。

敵?
味方?

ガタン…ガタッ…。
扉が、開く。

敵?
味方?

敵だった。
「お兄ちゃん、兄ちゃん?」
少年だった。
お兄ちゃんを探していた、少年だった。
敵だった。
「だ…れ?」
少年が、ティナとセナを見つめる。
目が合う、敵同士。
誰も、撃たない。
二人が銃を下ろす。
「お兄ちゃんなら、ここにはいないよ。」
セナが短く答えた。
「おまえら、テキだなっ?おれ達のテキだなっ?アイテの人だな?」
少年が、問う。
幼い少年、5歳くらい。

「何故それを聞くの?、そのちっぽけな銃では何もできないよ。」
セナがオウム返しに聞いた。
5歳の少年の持っていた銃は、とてもとても小さい。
5歳の少年に持てる重さ、やっとの銃。

「うるさいっ、テキはコロセって、兄ちゃんに教わってるんだ。」
少年が、撃った。 2発…3発。
『ダダンッ、ダン。』
当たらない。

「ハズレ。」
ティナが言いながら銃を構えた。
「………。」
少年の瞳が震える。
きっと彼の兄が持っていたものより大きいのだろう、その銃をみつめ。

「こうやって、狙うんだよ。」

ティナは撃たない。
狙うだけ。

「撃つなら撃てよ、イノチゴイ、なんてしねぇかんなっ。」

少年は、強気。
意味を知らないことの無邪気さは罪になる。

「撃つよ。すぐにね。昨日も殺したよ?」

少女も、強気。
意味を全て知り尽くした苦痛の上。

死ぬのは、怖い。
死ぬのは、嫌だ。
怖い。

「撃ったら…あんたも死ぬんだよ。」
セナが横から言った。
「それでもいいのかい?」
少年は考えた。
「良いんだよ。そう教わったんだ。それがセイギなんだって。」
少年は、怖くて、怖くて、強がった。

「馬鹿、あんたが死ぬだけなら簡単なことさ。正義だってなんだってね。
兄さんはどうする?もうあえないけど、いい?凄く痛いけど、いい?」

やめて。
撃たないで。
そう言いたい。

兄ちゃんの、側にいたい。
やめて。
そう言いたい。

言っても
いいか。
「撃た…ない…で。」
言ってしまった。

でもきっと、撃つんだろう。
テキ、なんだもの。
子供を馬鹿にしてる、テキだもの。

「じゃあ、撃たない。」
「あんたは撃つ?私達を、兄さんに教わったように。」

聞いた、言葉。
撃たないの?
僕が頼んだからって。

「撃て…ない。」

撃てないよ。
僕じゃ、無力。

この人たちは、強いのに。
それでも子供。

大人とは、違うんだ。

「そう、じゃあ、あたし達は敵じゃない。銃を下ろしなさい。」

少女の目が優しくなった。
弾の入っていない銃を、少女は置いた。
少年は、従う。
弾の詰まった銃を、少年も置いた。

『キューンッ…』
音。
銃声。

部屋の外。

二人の少女と、一人の少年が、固まる。

どこか、遠くの銃声。
『ダダンッ。』
撃ち合い。

それで、少女か少年の仲間が、一人ずつ、減る。

「外…かな。」

少年と少女の目が合う。
大丈夫。あたしたちは敵じゃない。
少女が目で話しかける。

うん。

少年が答える。

音は続いていく。
永遠のように。

「逃げよう、戦いたくない。」
「ついてこれる?」
二人の少女は同時に言った。
「ついてくよ。」
少年は、言って笑った。
いつも兄ちゃんについていったもの、と。

少女も、笑った。
そして走り出した。
ティナが少年の手を引いて。

それを見つめる蒼い瞳の奥で、小さなセナがいた。
姉に手を引かれる自分。
ぷっ、と笑った。
こんな時に、昔を思い出すなんて。

似てる、私達に。
あの二人。

「隠れて。」

セナが前を走る二人に言った。
「確認するから。」

少年にはよく分からない単語が、少女の中で行き交った。

「パン!パン!」
少女は銃を空に向けて撃った。

「パン!」

遠くから、銃声。
空に撃ちあがった鈍く、黒い弾。
「私が行く事になったみたい。」
セナはその弾を見つめたあと、言った。
「あんた、名前は?」
セナが少年に聞く。

「ユタ。」
少年が答える。
「あたしは、セナ。じゃ、ティナとユタは待っててね。」

セナは走り出した。
「気をつけて、念のためね。」
ティナが送りだした。
「がんばれ、姉ちゃん。」
ユタの言った言葉に、セナは微笑んだ。
「頑張り、ます。」
笑って、敬礼して、ウィンクして、セナは走った。

「セナ姉ちゃん、大丈夫なの?」
あとに残った二人。
「大丈夫、あっちにいるのは私達の仲間、だから。」

この意味が、どうかユタに分らないように。

「そっか。」
少年は、嬉しそうに、哀しそうに、笑った。

「うん。」
少女も、笑った。

―第四章 凍てつく姿―

セナは走った。
走って、走って…。
遠くに見えた鈍く黒いものに近づく。
今度は方位と人数の確認。
『ダンッ』
薄暗い空に響く、銃声。
『パンッ』『パン!』
西の空に二つ。

近づく。

そこは、荒涼としていた。
人。
生きてる人。
死んだ人。

「なんだ、姉ちゃん一人かい。」
一人の男が言った。
「一人さ、あんたらは二人?」
金髪の男と、黒髪の男。
セナは睨みつけるようにして言った。
「おうさ、二人だ。」

男はセナを小馬鹿にするような視線を向けた。

「あとは私がやるよ。」

死んでる。
死んじゃった、人。
皆、この人達が消しちゃったあと。
『あと』なんてないのか。
跡形も、残らないのか。

「じゃ、俺らは帰る。」
「気を付けろよ。」

男は、去った。
セナは一人、ちっぽけな世界を見渡す。

全てを見渡す。
その瞳に刻み込む。

ねぇ。
おねえちゃん。
これ、正しいのかな?

大人も子供も、死んでる。
『二人』っていったあの人達、本当はもっといたんだろう。
撃ち合って、殺しあって。
正しくなんてないよね。
ごめんね。

一人、少年を見つけた。
生きてる。
息をしてる。

けど、死ぬ。

「…何故、撃た…ない?」
少年が苦しそうに、言った。
弾が急所を外れわき腹にあたっていた。
だから、もう助からない。
「撃たれたく、なかったよね。痛いよね。」
聞いたのか、独り言か、セナの言葉。

ふいに、「…貴方は、女神か?」
男の子が、尋ねた。
セナは首を横に振る。
「そう…。」
男の子は、苦しそうに、
「ユタを…殺さないで…。」と呟いた。
やっぱり。
少女は、思う。
ユタの『お兄さん』か…。

セナは、何も言わなかった。

殺さない。
けどいずれ、ユタも死ぬ。
私も、ティナも死ぬ。
だから、何も言わない。

息が止まった。
心臓が止まった。
少年は、動かない。
何も、言わない。

そして、静寂。

『あなたは、女神か…?』
頭の中で、その言葉が凍てつく。
少年の体も、凍てつく。

その姿はなんて脆く、切なく、苦しいんだろう。

「もう、これはいらないよね。」
少年の手から、銃を取った。
投げ捨てた。
どこか、遠くに、おもいっきり。

ゆっくり、眠りなさい。
もう、眠りなさい。

「さよなら。」

少女は呟いた。
そして、去っていった。

『あなたは、女神か…?』

凍てつく姿を刻み込み、生きていこう。
2005-01-09 14:31:55公開 / 作者:春紗
■この作品の著作権は春紗さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
こんにちは、春紗(はるしゃ)です。初投稿なので、はじめまして。
この御話は物語を書こうとして始めて書いた御話を練りなおしたものです。
まだ途中ですがこのあと世界はどうなるのかをみていてください。
昔書いた時は「世界はきっと変わるはず」と言うタイトルでした(笑)
長いので大分かえましたが多分それが趣旨なので。
この作品に対する感想 - 昇順
初めまして、Rikoris(リコリス)と申します。読ませていただきました。私のとっても好きな感じのお話で、楽しませていただきました。詩的な感じで、読みやすかったです。一言一言が、心に響き渡ってくるようでした。セナとティナがこれからどうなっていくのか、楽しみです。次回更新、楽しみにしています。では、これからもご執筆頑張って下さい!
2005-01-07 16:11:13【☆☆☆☆☆】Rikoris
はじめまして。読ませていただきました。世界観がとても好きで、感動しながら読むことができました。ただ、詩的な感じを出すのには良かったと思いますが、少々細かく改行しすぎだと小説としては読みにくくなるのではないかと……そんなふうに思った次第でございますます(−−)笑。世界はきっと変わるはず、っていう昔のタイトルがものすごく胸に響きます。次も頑張ってください。
2005-01-07 23:40:07【☆☆☆☆☆】ゅぇ
計:0点
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