『人間界外1』作者:吟鼠 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
全角2775文字
容量5550 bytes
原稿用紙約6.94枚
人間界外


 人間がいる世界を、人間界と呼ぶならば、彼らが住む世界は獣界であろう。
 それは人間界の中にある野生動物の暮らす世界だ。
 だが、それが人間の多くが勝手に創造する世界だとしたらどうだろう?
 もしかしたら、獣たちも人間並みに進化しているのかもしれない。
 文明を築き、人間以上の発展を遂げているのかもしれない。
 っと、いうのは、作者の想像だ。
 もしかしたら、そうかもしれないという創造である。
 まあ、今回はその「創造」に浸ってみてください。


 人間界で都会と呼ばれている場所にいるのは当然、人間である。
 もし、動物がいても、犬や猫、ねずみや虫といった類の動物たちであろう。人間に飼われているかは関係ない。どのみちこの街に暮らしていることには変わりないのだ。
 そして、この街に暮らす者は他にもいる。人間のあなたでも、眼を凝らせば見えるかもしれない。

「ん〜、しょっと、ないかなぁ・・・」
 店の影にあるゴミバケツから、ふさふさとした一本の尻尾が、ゆらゆらとゆれて見えた。
「あっ!あったあった」
 声と尻尾の主はバケツから勢い良く飛び出した。その際、ゴミのかけらが少し飛び散った。
「へへっ、今日は運がいいな」
 バケツから飛び出したのは一匹の野良猫だ。だが、しゃべっている点に注目していただきたい。
 猫は口にアジの開きをくわえていた。ゴミバケツの中から見つけたようだ。
「さて、早いとこ、チビタたちにところにかえるか」
 猫はすぐさま、狭い通路を通り、早足で駆けていった。あさっているところを人間に見られないようにするためだ。
 野良猫がゴミをあさり食料にしている光景を見ても、当然いい気はしないだろう。しかし、こんな場所で野良猫が生きていくにはこれしかないのである。これは別に猫に限ることではない。
 この街にだって野良犬は存在する。野良犬も同じ状況である。
 だが、猫犬の仲と言うのか(そんなものないが)やはり仲は良くない。
 当然、エサの奪い合い等もめずらしくはない。うわさをしてみれば早速。
「オイッ!そこのチビ!」
 猫の目の前に現れたのは、一匹の野良犬。雑種の犬である。牙をむけ、猫をにらんでいる。
 首輪をしているが薄汚れ、書いてある文字が見えない。首輪をしたまま飼い主に捨てられたのだろう。
「その食い物をよこせ。よこさないと酷いことするぞ!」
 犬は猫の加えているエサをよこすように要求した。多く野良たちの住むこの町。エサは駆け引き無しで手に入ること無いと言える。
「ふ〜ん、魚好きの犬ってのは珍しいな」
「うるせえ!とにかくよこせよ!」
 エサが少ないこの街、魚の干物も犬にとって貴重な食料である。
 だが、猫はあえて従わない。動揺せずに平然としていた。
「この野郎!痛い目にあいたいのか!」
「・・・犬ってのは、高いところは苦手なんだよね」
「はっ?」
「じゃあ」
 すると猫は勢いよく塀にジャンプした。
「なっ、!」
 猫は犬が上れない塀の上へ上がった。
「悪いけど、このエサは僕よりチビのやつらにやらなきゃいけないんだ。君にあげるわけにはいかないんだ」
 そう言うと猫は塀の上を器用に走って行った。
「くそっ・・・」
 犬は舌打ちをするように、その姿を見送った。遇えあて追わないのはなぜだろう。
 そのころ、猫は塀しばらく歩いた後、安全な場所に下りて、住処へと走った。
 猫の住処は廃墟になった工場倉庫である。捨て猫というと放浪しているという感じがするが、彼らは違う。
 そして、「彼ら」とはこの猫の家族である。
「みんなぁ!帰ったぞ!」
 猫は倉庫に入って大声で叫んだ。
「フレディ兄ちゃん!」
「フレディ兄ちゃんだ!」
「あっ、ごはん持ってる!いいな!いいな!」
 暗い倉庫からかわいらしい声と小さい子猫の姿が現れた。その子もまだ、小さくややおぼつかない足取りだ。
「おお、フレディ。戻ったのか」
 今の声は倉庫の荷物置き場から声がした。此処の長老の「祭(まつり)」と言う名の猫である。
「アジの開きが取れたよ」
「食べよ、食べよ!」
 小さくとも子供たちは食べ盛り。食欲は旺盛である。
「あれ、チーマはまだミルクがいいんじゃないの?」
「僕もう大人だよ!」
「僕しっぽがいいな!」
「はいはい。ちゃんと三人分するから、喧嘩しない!」
 やんちゃに騒ぐ三匹をフレディは苦笑いしながらなだめた。
「おい、待てよ。エサを食うのはチビどもだけか?」
 これはフレディの声ではない。
 倉庫の奥で金色の目が光った。その猫は近づいてきて、ようやく姿がわかった。黒猫のアスクである。もっとも、フレディは声でアスクだと分かったが。
「いくらガキだからってよ、エサをチビどもだけにやんのはどーかと思うんだが」
「何言ってんだよ。こいつらはまだ小さいんだ。ちゃんと食べないと大きくなれなんだぞ」
「俺はガキん頃から野良だ。しかも、生まれてすぐに捨てられた」
「だけど・・・!」
 フレディは言葉に困った。
「アスク、いい加減にしねえか」
 また別の声が聞こえた。やや太く低い声だ。
「口喧嘩に過去の話を持ち出すのは卑怯ってモンだぜ。ここにいる奴らはみんな捨てられたやつらばかりだ。つれえのはおめえだけじゃねえんだぜ」
 声の主は此処のナンバーツー的存在である「鋼(こう)」である。
 祭がゆっくりと立ち上がった。
「アスクよ。気持ちが分かるが、この坊主たちはわしよりも若い。その若い世代には、どうしても生きてもらわなければいけないのだよ」
「ちっ・・・」
 二人の言葉にアスクはしぶしぶあきらめた。
「アスク兄ちゃん。おなか減ってるの?」
「僕らの分けてあげるよ」
「えっ・・・?」
 アスクは子猫の言葉に驚いた。
「フレディ兄ちゃんいいよね?」
「まあ、取ってきたのは僕だけど、どう食べるかはお前らの自由だよ」
「やったぁ!一緒に食べようよ」
「お前ら・・・・」
 三匹の猫の言葉にアスクは胸が熱くなった。
 その様子をみてフレディは微笑んだ。
「何とか治まったな」
 鋼がぼそりとつぶやいた。
「アスクは悪いやつじゃないんだ。ただ口が悪いだけなんだよ」
「食欲グセもな」
「あっ、そうだね」
 鋼の付け足しにフレディは笑った。
「だけど、ちびたちが生まれて変わったなぁ」
「そうだな・・・」
 フレディの見るアスクは子猫たちとエサを堪能していた。フレディの見る限りでは、アスクは幸せそうに見えた。
2005-01-04 06:58:02公開 / 作者:吟鼠
■この作品の著作権は吟鼠さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
初めて投稿します。
猫が主人公ですが、とりあえず読んでみてください。
よかったらコメントください。
この作品に対する感想 - 昇順
初めまして。満月と申します。猫が主人公ですか、そうですねぇ。話の内容の設定は面白いと思うんですが、もうちょっとその場の描写や心情の描写をいれてみては? (未熟者の私が言うのもなんですが…)とにかく次回の更新も楽しみに待っていますので頑張ってください☆
2005-01-04 09:28:44【☆☆☆☆☆】満月
初めまして。読ませて頂きました。野良猫たちが主人公なんですね。暖かい感じがして良かったと思います。まだ、これから物語がどうなっていくのか分かりませんが、猫派の私としては猫を応援したいところです(笑) これからどうなっていくのか全く読めませんが、次回を楽しみにしております。あと「三人分」とありましたが、「三等分」であると思います。細かい指摘ですいません(^_^;ゞ 頑張って下さいね♪
2005-01-04 14:07:59【☆☆☆☆☆】冴渡
すみません。吟鼠です。
イキナリですが、実はパソコンがちょっと故障しまして保存していた話が消えてしまいました。書き直せるかどうかはわかりませんが、次の投稿は随分先になりそうです。
元々続けていく自信はあまり無いので、次から読みきりで行こうかと思うのです。
勝手ながらすいません!
もしかしたら続きは書くかもしれませんが、今のところわからない状態です。
2005-01-05 00:30:31【☆☆☆☆☆】吟鼠
計:0点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。