『朧月』作者:時里 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約1.65枚
「弥玖、ピアノひいて」
 
 弥玖は微笑むと本棚から数冊の楽譜を抜き出した


『 朧月 』


 手元の明かりだけがぼぅ、と光っている
 静かに紡がれていく音と、滑らかに動く指先だけがこの空間で生きている物だった

 持ってきた楽譜のほとんどを弾きつくした今、それはほぼ弥玖の即興だった
 様々な曲をつなぎ合わせて、桜散る朧月夜に似合う静かな曲ができあがっていた

 窓の外を見下ろす流が何を思っているのか、弥玖にはわからない
 もうかれは自分のピアノの音など聞こえていないのかもしれない
 それでも弾き続けるのは彼に求められたからにほかならない

 昔、といっても4年前のことだけど、2人で連弾をしたことがある
 あの時は中々流が弾けるようにならなくて
 それで、彼は泣いてしまって
 僕は泣き止むまで一人、自分の旋律を練習していた
 きっと彼が隣に座ってくれる、そう信じていた

 その曲を弥玖はふと思い出し、自分の旋律に指を走らせた
 今はもう、いとも簡単に指が動く
 何度も何度も、君の泣く声を聞きながら弾き続けた曲
 つられて泣きながら何度も何度も弾いた曲

 旋律に高い音が加わる
 鍵盤から目を離して傍らを見上げると、あの時とは違う静かな涙を流す彼がいた
 彼の指はたどたどしくも鍵盤をたどり、曲を紡いでいく
 テンポは遅いが、それは確かにあの時2人で作り上げた曲だった

 顔を見合わせ微笑みあう
 彼がひとつ、音を間違えた

2005-01-01 23:36:58公開 / 作者:時里
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■作者からのメッセージ
お久しぶりです。こんな短いのいいんでしょうか・・・(笑)人名は『流』と『弥玖』のふたつで、回想シーン時の年齢は8歳です(このくらいの歳ならまだよくなくかな、と)あまり深い設定は考えずに読んでくださると嬉しいです。三人称から一人称への転換をもうちょっと自然にしたかったです。ご指摘、ご指導お願いします。
この作品に対する感想 - 昇順
始めまして、だからでしょうか。名前が読めませんでした。国語は苦手です(小説を書いているのに)。すいません。はい、考えずに読みました。こういうムードが実は大好きです。この頃、長い文章が読めない病気にかかってしまったので、長さはそんなに気になりませんでした。リズムのよさが際立ちます。最後の文章がとても好みです。
2005-01-02 00:01:39【☆☆☆☆☆】うしゃ
はじめまして。ピアノネタは好きなので、抵抗なく読めました。ただ登場人物の名前は読み方を提示していただけると有り難いっす!!
2005-01-02 14:31:02【☆☆☆☆☆】ゅぇ
初めまして!読ませて頂きました!すごい素敵な小説でした。表現がすごく綺麗で、私あんまりピアノの曲とかは分からないんですけど、綺麗そうな音が聞こえてきそうでした。言葉の使い方がすごく綺麗で、物語が全体としてスッと流れていく感じがとても好印象でした。最後の文章で、二人の関係が変わりそうな予感がして実に良かったです!これからも頑張って下さい!応援しています♪
2005-01-02 14:55:29【★★★★☆】冴渡
感想、ご指摘ありがとうございます。登場人物の名前ですが『弥玖』は『ひさき』、『流』は『ながれ』と読みます。い、今更ですかね。ポイントを入れていただいたのははじめてなのでもう嬉しくて嬉しくて小躍りしそうですっ(笑)
2005-01-02 18:40:42【☆☆☆☆☆】時里
初めまして☆満月と申します。その場の雰囲気の描写や心情の描写の書き方がとても綺麗だなぁと思いました。次回作も頑張ってください☆
2005-01-02 23:46:20【☆☆☆☆☆】満月
計:4点
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