『最後の戦い』作者:Rei / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約5.56枚
時折、肌寒さを感じさせる澄みきった大気が周囲に満ちていた。
 辺りは薄暗く、厚い雲の隙間から細くそして薄く伸びている陽光は身を潜めているかのように静かにたたずんでいる。
 加持翔一はけだるい体に喝をいれ、自転車のペダルをゆっくりと踏み込んだ。
 ここ、神奈川の川崎と言えば工業が盛んで”人工都市”というイメージがあるかもしれない。
 だけどこのあたりは自然環境と共存する街というコンセプトを元に作られたらしい。
 静寂と緑あふれるこの街は住宅雑誌等にもとりあげられ近年ベッドタウンとして注目を集めている。
 普段住んでいると何の感銘もないが、友人が遊びに来た時などこんなに恵まれた環境はない。とよく言われるものだ。
 この街の静かな環境が与える物なのか、自分はもう何百何千と経験している朝という物にいまだに慣れる事ができないようだ。
 ペダルを漕いでも生温い血液が身体に送られるだけ。
 いまだに翔一の脳は眠っているかのように活動を怠っていた。
 そういえば脳は身体と数時間遅れて目覚めるらしいと誰かに聞いた事がある。
 だから試験前の夜ふかしをすると脳が眠ったままテストを受ける事になるとか。
 今度からは気をつけねば。
 昨日寝たのは確か夜中2時すぎだったか。
 好きな女優が出る深夜番組を2時まで見て、それから歯を磨き、風呂に入ったんだった。
 母親は歯磨きにうるさい。1年に34回は歯医者に連れていかれる。
 歯が悪いと老後苦労するからだとか。そんな事を心配してないでもっと有効的にお金を使って欲しいものだ。
 今日起きたのは8時。いつも通り。それから半分寝たまま朝食をたいらげ、歯を磨き、家を出たのが8時20分。
 予定時間通り。パーフェクトだ。
 翔一の通う中学は授業が九時開始。私立ならではの嬉しい特典だ。まぁ土曜日も学校があるのはかなり痛いけど。
 道の向こうから吹いてくる風が肌に心地よい。
 風が運んでくる木々の香りがつんと鼻ではじける。
 花粉症じゃなくてよかった。と思える瞬間だ。
 よし。行くか。と誰にも聞こえないくらいの声でつぶやく。いや、ほんとに声は出ていなかったかもしれない。
 翔一はギアを最大速に切り替え、サドルから腰を浮かせ、前傾姿勢になり自転車を疾駆させる。
 そして数秒の間最大速を維持し、一気に身体の力を抜き、空気の壁を満面に感じる。
 突然、急ピッチで血液を送られた身体は飛び上がり、血管は唸りをあげ、筋繊維が脈動する。脳はフル回転で起動を始めたようだ。
 これは翔一なりの目覚まし方法だ。
 急に激しく動くのはあまり身体にいいとは思えないが、一番楽でてっとり早い方法である事は自信を持って保証できる。
 いや。逆に血管がタフになっていいかもしれない。なんて。
 住宅街の外側に近づくにつれ、木々の割合はどんどん減っていき、日本の主要都市、本来の姿が露見してくる。
 所詮、流れる時代に逆行しているこの街も、本来の姿から目を背けるための偽りの皮を被っているだけ。気休めにすぎないのだ。
 コンクリートに覆われた道路を通り、商店街に入る。
 商店街の一角にはこのあたり悪ガキの集まるゲームセンターがあり、その横に地域の安全を守る交番がある。
 何とも異色な組み合わせだが、PTAや地域会のいう通り、その威圧感が効果を発揮している事は間違いなく、
 最近この辺で不良を見かける事はあまりなくなった。
 これは地域会の不良対策で、ゲームセンターと不良を除く、全ての住民から絶大の支持を受けている。
 翔一はその二つの建物の間にぽつんと申し訳なさ程度に立っている掲示板の前でブレーキをかけた。
 掲示板には地域会の企画やポスターが貼ってあり、翔一はその一枚に眼を引かれた。
 『有志ある若者求む!自衛隊に入りこの国を護ろう。』
 自衛隊募集のポスター。年齢制限はこの所どんどん下がって15歳。ちょうど自分と同じ年齢だ。
 翔一は自分に迷彩の制服を着て、脇に銃火器を持った姿を想像した。なんとも情けない姿だ。
 給料も他の公務員と比べると断然高額だし、制限はないも等しい。来るもの拒まず。といった感じだ。
 この国はまだ徴兵を行う程ではないが、かなり危険な状況になっているのだろう。
 この戦争の中心となっているアメリカや中国はほとんどの若者が軍に召集されているらしい。
 日本も憲法や法律等をどんどん改正していっているし、明日は我が身といった感じだ。
 翔一も世界が危険な状況にある事は知っているが、テレビや新聞でみてもあまり実感が湧かない。
 自爆テロやアメリカの空軍が中東にN2航空爆弾で攻撃を仕掛けたのだって自衛隊の戦死者が1200人を越えたのだって全部全部嘘みたいに感じる。
 まるでニュースという物は視聴者を楽しませるための作り話なんじゃないかなって。
 実際にはこんな事は起こっていないんじゃないか。なんて。
 でもこんな物を見ると急に背筋が凍り付いたような感覚に襲われる。
 戦争がゆっくり。しかし確実に近付いてきている事が。
 いつまでも来ると思っていた平和な毎日が急に消えてしまうんでないかという不安にかられる。
 翔一は急にその場にいるのが恐くなり急いでその場を後にした。
 

続くぅ!!!!
2004-10-31 12:38:47公開 / 作者:Rei
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■作者からのメッセージ
小説書くのは初めてです。
ここの人たちはみなさんレベルが高いので緊張しますね。
これからよろしく御願いします。
この作品に対する感想 - 昇順
はじめまして。卍丸と申します。読ませていただきました。しっかりと落ちついた文章に、無駄なくわかりやすい描写は、とても初めて書いた作品とは思えないほどですね。ワタシ自身が川崎に限りなく近い東京都に住んでいるもので、この舞台設定にはちょっとした嬉しさを感じました。恐らく連載作品だと思われますが、まだまだ序盤と言う事でストーリー自体に対するコメントは、次回以降の更新待ちですね。個人的には好印象な出だしでした。改行後の文章の書き出しは、一マス空けて頂くと更に読みやすくなりますよ。それでは、次回もぜひぜひ頑張ってください。
2004-10-31 08:45:20【☆☆☆☆☆】卍丸
拝読させていただきました。川崎……。私は行った事はありませんが、私は町田に住んでいますので、もしかしたら近いとも言えなくもないかと。
まだ序章であるので内容に対するコメントは
ただ、ところどころ首をかしげる部分(例えば、『この戦争』とはどの戦争?など)がありました。これらは次回更新時に明らかになるのでしょうか。
それではぁ!!(失礼しました)
2004-10-31 13:12:15【☆☆☆☆☆】ささら
続きを読ませていただきました。「自衛隊募集」の張り紙を見てからの主人公の心情描写ですが、ちょっと飛躍し過ぎとでも言いますか、読んでいて唐突過ぎる感が否めませんでした。展開を急がせ過ぎたとでも言いますか、もう少しじっくりと進めたほうが説得力があったように思えます。主人公の緊迫感があまり伝わってきませんでした。しかしどうやら、スケールの大きな物語に発展していきそうな予感ですね。次回の更新を期待しておりますので。
2004-10-31 14:16:25【☆☆☆☆☆】卍丸
ありがとうございます。
今回はそうですね。読みなおす事をせずに投稿してしまったんです(汗
次回更新の時参考にさせていただきます。
2004-10-31 14:44:24【☆☆☆☆☆】Rei
読ませていただきました。このすごくしっかりとした文章、私から見てみればレベルが高いと思うのですが。私が初めて小説を書いた時なんて、ほんとに人に見せられるようなものではありませんでしたので。安穏とした、何でもない暮らしを送っている主人公が自衛隊募集のポスターに目をつけるわけですが・・・さて、これからどんな展開になっていくのでしょう。続きも楽しみにお待ちしております。
2004-11-01 20:23:14【☆☆☆☆☆】エテナ
計:0点
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