『Zero 【読みきり】』作者:流浪人 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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 先ほどから、雲ひとつない空を何度も見上げ、その度に僕は思う。なぜもっと上手くなれないのか。なぜチームに貢献できないのか。サッカー選手になるという僕の目標には、厚い雲が、かかっている。

「おい、ハジメ。お前明日スタメンだ、わかったな」
 それは突然の出来事だった。今まで途中交代で試合に出たことは何度かあるが、スターティングメンバーは初めてだった。
「わかりました!」
 威勢良く返事をしたまでは良かったが、帰宅してからとても不安になった。不安を打ち消すため、サッカーボールをエナメルバッグに放り込んで近くの小学校へ向かった。
 この小学校は、僕の母校であり、僕のサッカー人生のスタート地点でもある。僕がサッカーを始めたのは、小学校三年生の時だった。父親に勧められてサッカー少年団に入部してから、どんどんのめり込んでいった。僕のポジションはミッドフィルダーと呼ばれ、フィールドの中盤あたりを動き回るものだ。ミッドフィルダーの中にも攻撃的か守備的かなどで区別があり、僕は攻撃的なミッドフィルダーである。
 誰も居ないグランドを見て、今日は金曜日なのでサッカー少年団は休みだ、と気づいた。胸に熱く迫るものがあった。あの頃も、僕はスタメンではなかった。だけど他の誰にも負けないくらい必死に練習していた、と胸を張って言える。
 ゴールネットに向けてではなく、壁に向けてボールを蹴り始めた。一人で練習するときは壁に向かって蹴らなければ、ボールを取りに行く手間がかかるのだ。
 そういえば――
 そういえば高校に入ってからは、一度もここで練習してないな、と思った。中学校の時は、たまにここに練習をしに来ていた。なのに僕はいつのまにか、一人で練習するということを忘れてしまっていた。今まで一度もスタメンに選ばれたことは無く、半ば諦めていたということもある。だが、それほど強くない今の高校のチームなら、ずっと個人練習を続けていればもっと早くスタメンに選ばれたのではないか――
 ボールを蹴る強さが、だんだん強くなる。考えれば考えるほど、明日の試合では結果を出さなければ、と思ってしまう。明日の試合は、僕たちの高校生活最後の試合だ。だから監督は、三年生を優先的に使ってくれるんだと思う。でなきゃ僕がスタメンに選ばれることなど、ありえないのだ。それはわかってる。だけど――
 僕は何のために、ずっとサッカーを続けてきたんだ。叶わぬ夢を追い続け、なぜ必死に練習してきたんだ。それは全て、きっと夢は叶うと信じていたからではないのか。なのに僕はなぜ、個人練習をいつの間にかやめ、今の環境になれてしまったんだ・・・・・・
 今までの自分が、とても悔やまれた。だけどどんなに悔やんでも、過去に戻ることなんかできなかった。

「ハジメ。緊張するなよ。精一杯やってこい!」
 監督に励まされ、僕は他のスタメンと共にフィールドに足を踏み入れた。いつものフィールドじゃない。それはもちろん、これが僕の最後の試合で、これが最初で最後のスタメンだからだろう。
 だが僕は期待を裏切り、前半の四十分間、ミスを連発した。中盤の選手がミスをすれば、チーム全体が機能しない。僕のせいで、チームは0対1で、相手にリードを許して前半を終えた。
 ハーフタイムの控え室で、僕は思っていたことをぶちまけた。
「みんな、僕のせいだ。僕がミスを連発したからだ。やっぱり僕には無理なんだよ。みんなと違ってスタメンは初めてだし、とてもじゃないけどチームに貢献できるとは思えない。監督、もう満足しました。引退試合だからってわざわざスタメンに使っていただいて、ありがとうございました」
 僕の想像とは逆に、チームメイトは怒っていなかった。
「何言ってんだよ、ハジメ。頑張ろうぜ。誰だってミスはするよ」
「今まで一緒に頑張ってきたじゃないか!」
「僕は・・・・・・僕は頑張ってなんかいなかったんだ。スタメンに選ばれるために、出来る限りのことをやらなかったんだよ。個人練習もいつの間にかやめていたし、本当にスタメンになりたかったのかさえ、今じゃ不安だ。僕の名前は一(ハジメ)だけど、本当はゼロなんだ。ゼロはあっても無くても変わらない。いや、むしろマイナスって読んだほうがいいかもしれない」
 苦笑した僕を見て、監督は怒りをあらわにした。
「何言ってるんだハジメ! 俺はお前を引退試合だからって使ったわけじゃない。お前の実力を評価したんだ。お前は精一杯、自分のやれることをやればいいんだよ」
 そしてキャプテンの笠松が、僕の肩をぽんと軽くたたき、言った。
「ほら、行くぞ。ハジメが居なきゃ始まんねーだろ」
「笠松・・・・・・」
「お前の練習の熱心さは、みんな知ってる。個人練習なんかしなくたって、お前はやれることやってきたと思うぜ。さぁ、ラスト四十分、気合入れていこーや」

 試合を終えて、僕たちのゼロというスコアは変わらなかったけど、僕の中のゼロは、一へと変わった。

2004-10-28 19:06:35公開 / 作者:流浪人
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■作者からのメッセージ
うーん、何を伝えたかったんでしょうかね。汗
ほんと、自分の中でしかわからなかったようなまま終わりました・・・・・・
けどもし、何か伝わるものがあったなら、感謝感謝です!
感想・批評おまちしてます!
この作品に対する感想 - 昇順
初めまして。作品拝読させていただきました。
手厳しい意見になるかと思います。
「僕」の気持ちにあまり追いつけませんでした。情景描写だけではなく、心理描写にも力を入れたほうが良かったと思います。こういうことが起きた・僕はこう思ったという風もしくは出来事を主観を添えた一文で表すなど。一人称のメリットはそこにあると思います。
最後にやれることをやってきたと表現するのならば中盤にでも伏線が欲しいです。自己練習もしていないという「僕」と読者はシンクロしているので、それで練習量(?)を評価されてもとまどうばかりです。ともあれ、最後まで読ませる文章力はお持ちのようです。最後まで読ませてしまうって凄いことですよ。だからこそ惜しいと思って厳しい意見を述べさせていただきました。ゼロが一へと変わるプロセスが知りたかったです。
2004-10-28 19:21:18【☆☆☆☆☆】広瀬まお
読ませていただきました。大のサッカー好きなワタシとしては、読み始めてすぐにサッカーを題材にした作品だとわかり、じっくりと読ませていただきました。やはり広瀬まおさんと同様の感想になってしまうのですが、主人公の心情描写に厚みが無いため、感情移入できるまでには至りませんでした。情景描写に関しても、小学校のグラウンドでの練習シーンまでは上手く描かれているので、肝心の試合での描写がもっと欲しかったように感じます。主人公の連発したミスをもっと具体的に説明してくださっていれば、そこに臨場感が生まれて、より楽しめる作品に仕上がったのではないでしょうか。サッカー命のワタシとしては、後半戦の試合展開も読んでみたかったと思ってしまいました(笑
2004-10-28 19:48:05【☆☆☆☆☆】卍丸
どうもはじめまして、夢幻焔(むげんほむら)と申しますm(_ _)m
 さっそく読ませて頂きました。前半までは良かったのですが、中〜後半にかけて、もっと主人公の気持ちが描写されれば、読んでてもっと印象深い物になると思いました。最後のほうでは、『高校生活最後』という主人公の気持ちをもっと詳しく書かれれば、さらに良くなっていたと思います。 それではこの辺で(o_ _)ノ
2004-10-28 21:14:23【☆☆☆☆☆】夢幻焔
読ませていただきました。うーん何というか、物語として読み手を楽しませるというよりも、作文的な作品にとれてしまいました。失礼します。
2004-10-28 22:19:05【☆☆☆☆☆】メイルマン
読ませていただきました。途中までは良かったのですが、やはり試合の場面に入ってからが粗かったかもしれませんね。ああいう会話を交わすのならば、試合後でも良かったのでは、と思ってしまいました。試合が終わらないうちは、試合の展開を書いた方が良かったかもしれません。私的には、一がミスをする度にどんな気持ちに陥ったのかを書いていただきたかったです。それでも彼らの会話はちょっときれいごとに聞こえたかもしれません(汗)。次回作も頑張ってください。
2004-10-29 20:07:14【☆☆☆☆☆】エテナ
皆様感想ありがとうございました!! やはり後半にかけて書き急いでしまいました・・・・・・次からはキッチリと時間をかけて良いものを作っていきたいと思います。これからもよろしくお願いします!
2004-10-31 12:20:56【☆☆☆☆☆】流浪人
計:0点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。