『すてきなパン屋さん、冒険をする』作者:山岸と山崎 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
全角9322文字
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原稿用紙約23.31枚



   プロローグ



 おっと、悪い。いまちょっと手が離せない。詳しいことは後で話そう。

 辺りを見渡す。深い森の中、コケがのビッシリとついた木々がオレの周りを取り囲んでいる。
 そのせいで太陽の光が遮断されて、明かりになるものがほとんどない。視界が悪すぎる。
 6,7匹いる。いや、木の陰にもう1匹いる。ゴブリンが8匹か。全員を相手するのは面倒だな。
 どうしたものか・・・・・・
「イッテ! てめえ! オレのプリティーヒップに、汚らしい短剣を突き刺すんじゃねえよ!」
 オレは後ろで尻をつついているゴブリンの顔面にコブシを叩き込んだ。
プギュィ!
 豚のような悲鳴を上げて、ゴブリンが3メートルほど後ろにブッ飛んだ。
「口臭い! おまえら、口臭すぎる」
 ゴブリンの横っ面を殴ったせいで、ヨダレがベトベトついたオレの手から、悪臭が漂っている。
 こんなんじゃ、ろくに戦えたものじゃない。モンスターにも歯磨きの義務を押し付けるべきだな。

 突然! 視界が真赤に染まった。
「アヂッ! アチチ!」
 オレは火がついた上着を脱ぎ捨てた。
「オレの一張羅のコック服が黒コゲになっちまったじゃねぇかよ!」
 山火事にならないように、上着から飛び散った火の粉を足で踏んで消した。
 やべぇ。服を燃やしちまった。また母ちゃんに殴られるな。

 炎の球が飛んできた場所を見る。
 魔法を詠唱できるゴブリンは、ゴブリンメイジだけだ。奴は木の上でオレを見下していやがる。
「偉そうに・・・・・・」
 とりあえず、奴をぶん殴る。じゃないと、オレの気が治まらない。



   1.始まりは伝説のパン



 オレは200年にわたる由緒正しいパン屋『マルサパン』の一人息子だ。
 名前はパンツ・デ・マルサ・ステーキだ。皆には『パン』って呼ばせている。
 かなり変な名前だけど気にしないでくれ。
 年は19歳。嫁募集中だ。

 なぜオレがゴブリンの森に行くことになったのかというと、あの糞親父が行方不明になったことが、そもそもの原因だ。
 オレは『マルサパン』の跡を継ぐために、毎日、バカ親父から地獄よりも悲惨な修行を受けていた。
 その修行は、それはもう壮絶で、これが本当にパン作りの修行なのかと目を疑うようなものばかりだった。
 そんなとき、即死魔法を何回唱えても死なないような変態親父が、忽然といなくなった。
 オレはアホ親父が蒸発したおかげで、ウキウキ気分で朝の配達に出かけて行った。



 配達を終えて家に帰ろうとするとき、いつものように坂の上から自分の住む町を見下ろす。
 石を積み上げてできた家々が、朝日に照らされて赤紫の光沢を放っている。
 こんな朝早くに行動をしているのは、郵便屋と牛乳屋、そして、パン屋ぐらいだ。
 朝の空気を深く吸い込む。
 あれ? おかしい? パンを焼く芳ばしい香りがしない。
 レンガの煙突を探す。煙が出ていない。
 親父が消えちまったからって、サボんじゃねーよ。
 オレは空っぽの荷台を引きながら、家を目指して坂を下りていった。

 ツタが生い茂ったレンガ造りの我が家に、何やら大勢の人間がたむろしている。
 朝っぱらからこんな小汚いパン屋に大勢の客が来ているなんて、年に一度のパン祭りのようだ。
 オレは「すみませんね」「は〜い、通してください」と言って人垣を押しのけていく。
 玄関には、普段なら『パンならマルサ』と書かれてある所が、『立ち入り禁止』の看板に変わってしまっている。

 オレはいつものようにドアのノブを回そうとすると、それよりも早く勝手にドアが開きだした。
 ドアの隙間から、黒いヘルメットをかぶった男が顔を出した。
「ここは今、警察が封鎖している。一般人は入ってくるんじゃない!」
 その男の頭をよく見ると、どうやら頭にかぶっているのはヘルメットではなくて髪の毛だった。なかなかのセンスだ。
「オレはこの家の住人だ。入る権利があるだろ!」
「住人? 名前はなんて言うんだ?」
「何でお前みたいな、ヘルメット野郎に名前を言わなくちゃならないんだ? まずお前から名乗れよ!」
「何だその言葉遣いは! 国家権力をなめちゃいかんぞ!」
「ハッ! 国家権力という言葉を使えば、庶民は皆頭を下げてひれ伏すとでも思っているのか? このウスラトンカチ!」
「何だと! 私は決してウスラトンカチなどでは・・・・・・」
「パンちゃん! 何もめてるの? ほんとにいつもそうなんだから」
 母ちゃんがオレとヘルメットのバカな会話に割り込んできた。
「母ちゃん、このヘルメット野郎が中に入れてくれねーんだ」
 オレは店の中にいるはずだが、姿の見えない母親に呼びかけた。
「あいや! 奥様! 失礼いたしました。ということは、こいつが先ほど話してくれた。パンツくんでありますか?」
「パンツ言うな! ボケ!」
「コラ! パンツ! 失礼でしょ! すみませんでした。ええと、何でしたっけ? ムラタさん・・・・・・? でしたっけ?」
「いいえ、私の名前はムラタリアス・デ・プリンタベタイ・ハンバーグ巡査部長であります」
「てめーの名前なんてどうでもいいから、早くオレを中に入れろ!」



 この頭の悪そうな刑事が言うには、店に泥棒が入って家中を荒らしていったということらしい。
 母ちゃんは、ちょうどそのときは小麦粉を買いに道具屋に行っていたから、泥棒と鉢合わせにはならなかったらしい。
 店の中は確かに荒らされてはいるが、それよりも必要以上に『現場保存』というシールが張られているのが気になる。
 警察はもう引き払っているようで、ムラタ?とかいう刑事だけしかいなかった。

 オレは2階の自分の部屋に行って、自分の所持品が盗まれていないか見回した。
 めちゃくちゃにはなっていたが、特に何も盗まれてはいなかった。
 ただ、オレの大事にしていたポルノ雑誌だけには『証拠品没収』というシールが張られていた。

「何も盗まれてなかった」
 オレはムラタという名前だったと思う刑事に言った。
「それでは、やはり盗まれていたのはアレだけですか?」
「アレって何だ?」
「ええと、何でしたかな? 奥様」
「ああ、ええと、『最古の最硬による最工のためのパン』略して『サイコパン』です」
 ああ、あのパンか。ガキのとき、最高にうまいパンだと親父に騙されて喰ってみたら、乳歯が全部折れちまったやつだ。
 そのとき、フガフガしかしゃべられなくなったオレに、親父は岩をも砕く破壊のパンだと身をもって教えてくれた。
 そのときぐらいからだ。親父が信じれなくなったのは・・・・・・

 その伝説のパンが置いてあるはずの神棚を見ると、むちゃくちゃに壊されていてパンはなくなっていた。
 何のために、あんな硬いだけのパンを盗んだんだ? そもそも、なぜこの家はそんなパンを家宝にしているんだ?




   2.旅立ちはムラタくんと




「犯人は親父に違いねーよ!」
 オレはここぞとばかりに親父を犯人に仕立て上げようとした。
「そんなことないよ。お父さんなら、こんなにお店を荒らしたりしないはずだし・・・・・・」
「あいつこの間、あのパンを売っちまおうって言ってたぜ」
「ほうほう、そんなことをおっしゃっていましたか。確かお父様は行方不明・・・・・・怪しいですな」
 ムラタ刑事はオレと母ちゃんの会話をメモしながら聞いていた。
「伝説のパンを売って、その大金でオレは自由になるんだとも言っていた」
「なるほど、それでは犯人はお父様で決定ですな」
「ガハハハ! なかなか話がわかる男ではないか! ムラタくん!」
「いや〜、それほどでもありませんよ。 パンツくん!」
「パンツ言うな! アホタレ!」
「お父さんは盗みをするような人じゃ・・・・・・」
「ムラタくん! 今すぐ、バカ親父を指名手配するんだ!」
「わかりました! それでは、父上の似顔絵と本名を教えてもらえるでしょうか?」
「あのー、すみません」
「おう! オレがバッチシの似顔絵を描いてやる! 奴の名前はパンチラ・デ・マルサ・ステーキだ。ちゃんとメモっとけ!」
「はい! ちゃんとメモりました」
「あのー、すみません」
「はい? なんでしょうか? ウギャーーーー!」
 ムラタは腰を抜かして床にへたり込んだ。ムラタに声をかけたのは、うちの店でパートとして雇っているフクイさんだった。
 さっきから、ずっといたみたいだったが、全く気づかなかった。
 まあ、それもそのはずで、彼女はスタチューという種族のモンスターだ。
 スタチューという種族は、簡単にいうと動く石像。動かなかったら、ただの美しい彫刻にしか見えない。
 彼女の白い胸のところに『現場保存』のシールが張られている。
「あ、フクイさん、いたんですか?」
「はい、パンさん」
「ムラタくん、このヒトはこの店の看板娘的な存在の従業員で、フクイさんっていいます」
「看板娘なんて、恥ずかしいですよ〜」
 フクイさんは恥ずかしそうに、オレの肩をたたいた。ムラタはまだアワアワ言っている。



「それで、私に話したいこととは、なんでしょうか?」
 ようやく落ち着いて、ムラタはフクイさんの話を聞き始めた。『現場保存』のシールはまだ付いている。
「今日の朝、と言っても外はまだ真っ暗でした。そんな時間に、パンチラさんが店から出て行くのを見ました」
「パンチラさん? ああ、お父様のことですね。あなたはそれを、どこで見ていたのですか?」
「私はこんなモンスターですから、夜、ここでお店の警備をするのも仕事のうちなんです。それで・・・・・・」
「お父様が出て行ったのを見たというわけですか?」
「はい。内緒にしてくれとおっしゃっていました」
「どこに行かれたかわかりますか?」
「わたし・・・・・・いけないと思ったんです。」
「跡をつけたんですね?」
「はい・・・・・・悪気はなかったんです。」
「どこへ行ったんですか?」
「森の中に入っていきました」
「森!?」
 ここらの近くにある森は1つしかない。なんとなくいやな予感がしてきた。
「はい。ハゲテル森です。通称ゴブリンの森」



「それじゃあ、行こうかパンツくん」
 ムラタはどこから持ってきたのか、ビール樽のような円柱形で銀色の派手な甲冑を着ていた。
「は? どこに?」
「ハハハッ ご冗談を。ハゲテル森ですよ」
「何でオレが行かなきゃなんねーんだよ!」
「私は友達がいないんですよ。だから、ついて来て下さいよ」
「そうか・・・・・・そいつは可哀想だな。よし! オレもついて行こう・・・・・・とはならないだろ!」
 そのヘルメット頭の中には何が詰まってるんだ?
「パンツ、これを持って行きなさい」
 母ちゃんが奥の部屋から、新品のコック服とお弁当、そして、財布を持って来た。
「え? あ、ありがと?」
―パンツは旅人の服、大きなパン、300エンを手に入れた―
「な、何だこのナレーションは! 天の声か? 天の声なのか?」
「パンさん、がんばってくださいね」
「え? ああ、フクイさん、がんばるよ」
「これ、私たちの種族に代々伝わるモノなんです。ピンチになって、死にそうで、もう駄目ってときに使ってください」
 それは金色の鉄製で3つボタンみたいな押すところがあって、息を吹き込むような部品がついている。
「トランペット?」
「はい、そうです」
 トランペットなんて吹いたことねえよ。ピンチでいきなり吹けるモノなのか?
―パンツは不思議なトランペットを手に入れた―
「もう、ナレーションはいいよ・・・・・・」
「パンさん、絶対に死なないでくださいね」
「え? いや、フクイさん、たぶん大丈夫だと思うけど・・・・・・」
 不吉なこと言うなよ。ってか、もう完全に旅立つことになってるな。
「それでは、皆様! 私とパンツくんはハゲテル森に行ってまいります。泣かないで下さい。別れが悲しくなります」
 ムラタが勝手に仕切り始めた。誰も泣いてないぞ。
「そもそも、私の家系は騎士の出でして、幼い頃からこのような冒険をするのが夢で・・・・・・」
 このムラタの演説は30分ほど続いた。オレは暇だったから、少し遅めの朝食をとった。
 母ちゃんはウトウトしていたが、フクイさんは熱心にムラタの演説を聴いていた。
「最後に旅立つ上での3つの袋について話したいと思います。まずは、『道具袋』これがないと旅に出られません・・・・・・」
 オレは新品のコック服に着替えた。鏡を見る。うむ! なかなかのいい男だ。
「3つ目の袋は『ゲロ袋』です。気持ち悪くなったとき、道端で吐いてはいけません。自然も重要な国家遺産なのです」
「じゃあ、母ちゃん、フクイさん、行ってくるわ」
「ちょ、ちょっと、まだ8人の賢者の話が・・・・・・」
 オレはムラタを強引に玄関まで引っ張っていった。
「パンさん、ムラタさん、がんばってくださいね」
「死ぬんじゃないよー」
 オレはムラタを引きずりながら、二人に手を振った。

 ついにオレとムラタは町の北東にあるハゲテル森。通称ゴブリンの森へと歩みだした!
「いって〜くるぞと いさぎよく〜♪」
「おい、ムラタ、歌詞が間違ってるぞ。それともそれはオレへのあてつけか?」




   3.パン屋さん、ゴブリンと自殺志願者を殺そうとする




 と言う訳で、ゴブリンに囲まれているわけだ。ムラタはゴブリンが出て来たとたん、どっかへ行ってしまった。
 重たそうな甲冑を着ていたわりには、逃げ足は早いんだな。
プギィー! プギィー!
「ブヒ、ブヒ、うっせなー。豚小屋じゃないんだぜ」
 とりあえず、ゴブリンメイジらしき格好をしているのは一人しかいない。奴がリーダーだろう。
 新品のコック服を燃やしたゴブリンメイジを半殺しにする。そして・・・・・・逃げる!
「あ! あんなところにプリティーでセクシーな女ゴブリンがいる」
 ゴブリンたちはオレが指差したところをボケッと見ている。チャ〜ンス!
 オレは木の下にいたゴブリンを踏み台にして、ゴブリンメイジのいる木の枝に飛び乗る。
「ペペロンチーノカルボナーラナポリタンタラコスパ・・・・・・」
 ゴブリンメイジが聞いたこともないような言葉を唱え始めた。
「魔法が使えても知能はお子ちゃまだな」
 ゴブリンメイジの魔法詠唱が終わる前に、顔面に一発ジャブをかます。プギュ! と言って、詠唱が中断される。
 パンチの反動で、木の幹に当たって跳ね返ってきた奴の横っ面にフックをぶち込む。
 最初から少なかった数本の歯が飛び散った。
 フラフラになって木から落ちそうになった野郎のアゴにアッパーを打ち上げる。
 ゴキッ! という嫌な音が鳴った。アゴがイッちゃったみたいだ。これでしばらくは魔法は使えまい。
 ゴブリンメイジはそのまま血反吐を吐いて木の下へと落ちていった。

 木の周りで野次馬しているゴブリンの一匹を踏みつけて、オレは余裕で大地に帰還する。
 着地した後、そのまま疾風のごとく立ち去る。
 プリティーでセクシーな女ゴブリンって想像すると、きっついなー。
 走りながら、なんとなくそんなことを考えていた。



 一時間ほど走った。そして完全に迷った。上半身が裸だから、めちゃくちゃ寒し、すでに日が傾きかけてきた。
 そういえば、この森が樹海と呼ばれていることを忘れていた。
 マップとコンパスはバカムラタが持って行ってしまったから、どうすることもできない。
 太陽が完全に沈んでしまったら、マジでヤバイだろうな。
 オレは担いでいた道具袋を引っ掻き回す。火を起こす物はないのか?
 300エンと、さっき食べたお弁当の入れ物と、トランペットしかない。

 そうだ! 今はピンチになって、死にそうで、もう駄目ってときだ。
 トランペットの中から魔神が現れて、『願いを3つかなえてやろう』なら非常に理想的で、しかもファンタジーっぽい。
 金色のトランペットを持って、おもいっきり吹いてみる。プスー、という空気が通り抜けていく音だけ鳴った。
プスー、プス、プス、プスー
「なんだよこれ! プスプスしかいわねーじゃん!」
 オレはトランペットを放り投げて、草の上に寝転がった。
 木の枝に囲まれて見える空は、もうすでに赤褐色を帯びてきた。
 ああ、一筋の煙が見える。のろしみたいだな。
「何だとー!」
 オレは起き上がって、ぐちゃぐちゃにした荷物を道具袋に放り込んだ。
 上を見て煙が昇っているところを探しながら歩き出す。もしムラタだったら、ぶっ殺してやる。

 虫のように明かりを求めて進んでいく。
 オレは草を掻き分けて、少し広場のような場所に出た。そこには薪を燃やしてできたキャンプファイヤーができていた。
 オレンジ色の炎の明かりが、オレを優しく迎え入れてくれる。
 フゥ〜これで今夜は何とかなりそうだ。
 ふと、目の前にある木を見てみる。その木の枝には輪になったロープが1本垂れ下がっている。
 その傍らには切り株の上に立って、ロープの輪に今にも首を入れようとしている少女がいた。
 オレはその少女とバッチリ目が合ってしまった。驚いているようで黒縁メガネの中の目が見開いている。
 切り株の横には可愛らしい靴と封筒が置かれてあった。
 何かメンドクセーことになりそうだな。



 見つめ合って30秒ほど沈黙が続いた。だぁ〜耐えられない!
「どーも」
 考えた末、出てきた言葉がこれか? アホだ。
「あ・・・・・・どーも」
 まるで内気な二人がお見合いをしているかのようだ。どうすっかな。
 自殺するまで待っていればよかった。そうすれば、身ぐるみをはがし、衣類を手に入れることができたかもしれない。
 あわよくば、この女の持ち物から暖かい晩飯にありつけるかもしれない。
「オレはなんでもない人間なんだ。影だと思って続きをやってくれないか?」
 まだオレのことをジッと見ている。
 クソッ! この際、そのスカートから出ている細い足をヒザカックンして、自殺に見せかけてやっちまうか?
「オレがいると邪魔? じゃあ、この茂みに隠れていようか? そのほうがいいよね?」
 オレは180度回転して暗い森の中に再び入ろうとした。メンドクセーがこれが最善の処置だろう。
「パンツくん! そんなところにいたのか。探したんだよ」
 ムラタか! 最悪なタイミングだ。来るんじゃねーよ。バカ!
 ガサガサと茂みの中からムラタが出てきた。
「ほえ?」
 この状況が把握できないらしく、だらしなく口を開けて何か考えているようだった。
 少女の方はまだ首をくくろうとした状態で止まっている。
「パンツくん! 私は君を見損なったぞ! このような少女を!」
「は? 何を勘違いしているか知らないが、オレはこの女を安らかな眠りに・・・・・・」
「言い訳は、署で聞こう」
 ムラタは懐から手錠を出した。
「ふざけんな! 何の罪だ? オレは何の罪を犯した?」
「婦女暴行ですよ。上半身が裸だというのに言い逃れをしようというのですか?」
 ああ、本当だ。これならオレが少女を襲って、それが原因で自殺しようとしているという状況がピッタリ合う。
「いや、これには深い深い理由があってだな。元はと言えば全部・・・・・・」
「ママが頼んだのね!」
「そうそう、ママがね・・・・・・え? ママ?」
 オレとムラタの頭の中から『?』マークが飛び出していた。
「私の自殺を止めるようにママが警察に頼んだんでしょ!」
 無口な少女がやっとしゃべったかと思ったら、とんだ勘違いだな。
「そう。私は君を助けにきたんだ。自殺なんてバカな真似はしちゃいけない」
 お! 大きく出たねムラタくん。警察官の使命ってヤツかい?
「私が死んだって、誰も悲しんでなんかくれないもん!」
「なぁ、なぁ、死ぬんならさ。そこにある防寒用のマント、もらっちゃってもいいかな?」
「君が死んだら私が悲しんでやる!」
 よくそんな歯の浮くようなセリフがいえるもんだ。
 オレは防寒用マントにくるまって、火にあたる。うぉ〜ぬくい〜
 少女の持ち物をあさってみる。ヤカンに竹の水筒。インスタントヌードルがあるではないか。
 早速、ヤカンに水を入れてお湯を沸かし始める
「私・・・・・・学校の成績はいつも最下位でママがとても怒ってて、友達だっていないし、イジメられてるし・・・・・・」
 学校通ってるってことは魔法学校か。エリートじゃねーか。贅沢言ってんじゃねーよ。
「努力するんだ! 努力すれば勉強だって友達だってちゃんとやっていけるはずだ!」
「学校を辞めちゃえば? いまどき魔法使えないと就職できないっていう時代でもないでしょ」
「学校辞めるとママに怒られちゃう・・・・・・」
「自殺しようとすることが一番ママを怒らせて、悲しませることなんだよ」
 お涙頂戴ですなあ。オレはインスタントヌードルをすする。ちょっと塩辛いな。
「まあ、まあ、まあ、まあ、腹が減っては自殺はできぬと言うし、これでも食って少し落ち着こうや」
 オレは二人にインスタントヌードルを渡した。
「どうせ、今はムラタがいるから、首をくくろうにも助けられてしまうだろ? とりあえず、今日はあきらめな?」
「うん・・・・・・そうする」
 少女はおとなしくインスタントヌードルをすすり始めた。ムラタはオレを睨んでいたが、オレは無視していた。



   とりあえず、to be continued―



《次回予告》
 ひょんなことから仲間になった自殺願望の強い少女と、オッペケペーな警官とパン屋さんが、ついに森の奥地へと。
 はたして伝説のパン『最古の最硬による最工のためのパン』を取り戻せるのか!
 次回『パン屋さんはオタクがお好き?』 別にメンドクセーなら見てくれなくてもいいぜ。

2004-10-27 02:49:13公開 / 作者:山岸と山崎
■この作品の著作権は山岸と山崎さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
はじめまして、皆様方。私は”山岸と山崎”です。
紛らわしいですが、書いているのは一人です。
最近になって、このような掲示板を発見し、皆様の作品を拝見しました。
それで、感動して自分でも何か書いてみようと思い、即興で書いてみました。
先のプロットを何も考えずに書いているので、どれだけ長くなるかわかりません。
稚拙な文章ですが、一人でも読んでくれる人がいれば、作者はうれしいです。
それでは皆様、ごきげんよう!
この作品に対する感想 - 昇順
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